しかし、残念なことに李在鎔副会長の姿が見えてこない。新製品の販売中止という過去にない恥辱を味わったにもかかわらず、沈黙を守ったままだ。李健熙会長ならば「まだいい加減なことをやっているのか」と叱責し、不良品の焼却処分を指示していたかもしれない。
李在鎔副会長も強い問題意識を持っているという。硬直した官僚主義システムではサムスンの未来はないことを知っている。それでシリコンバレー文化を取り入れようというプロジェクトを指示したりもした。系列企業を中核業種中心に再編する作業も進めている。重要な戦略的決定は舞台裏で李在鎔副会長が全て下している。
それでも表には出てこない。明確なビジョンを提示したり、強い指導力を見せたりする兆しもない。ゆえに何か真剣にやっているように見えて何も変わっていない。
サムスンはシステムで動く組織だという。それは正しい。しかし、現在のシステムに欠陥が見つかった。そのため専門経営陣だけでは力不足だ。オーナーが本腰で取り組まなければ組織は変わらない。
李健熙会長が意識不明の状況がサムスンのリーダーシップを不明確にしているという指摘もある。李在鎔副会長も身の処し方に慎重であるはずだ。しかし、今は危機的状況だ。父親に対する礼儀ばかり考えていては無責任だとの批判を受けかねない。李在鎔副会長は「舞台裏の経営」を終える時を迎えている。