November 2005
November 29, 2005
RUN the risk of falling l ov e(シャルナーク)
深夜のにおいに雨音が混じったそんな日には、温かい紅茶と毛布(それはつまり"温度"ってことだ)が恋しくなって分厚い本か長い映画の普遍的でひどく平凡なラブ・ストーリーを求めたくなるのはきっと僕だけじゃないだろう、そうだろう?
出来れば障害も展開も人が死ぬこともなく惰性のようにダラダラ続く長編小説で、出来れば色の消え褪せたモノクロオムのフィルムがいい。なんてA級首の幻影旅団らしからぬ穏やかなことを思ってみたり。
血のにおい、月が満ちて黒猫がはしる。銀のスプーンが銃弾の狂気のきらめきを彷彿とさせる なんてそんな思考はだけどいかにも自分らしいと少しわらった。
携帯がなる。枕を上からおしつける。くぐもる音、悪いね今は聞きたくないんだ相棒。
とおく まるで現実じゃないところから響く右に虫の声、左にテレビの俳優の喋るこえ。
酒のけだるさと眠ったあとの倦怠感が同時に再び襲って、
人のいない室内で誰かの影を探してみたくなって、
そうしてその度その度裏切られて、苛立って、
もう一度、
君にあいたい と、か、
(空白)思ったりしてみたのはきっと一時の気の迷いである。
胸が苦しいのは(なんて古典的表現なんだでも本当にね、)夏の終わるのが寂しいってだけの一時の、迷いである。
ブラウン管が呟く「愛しています」、
笑い飛ばせない満月が明るい黒猫が鳴くスプーンがきらめいて携帯電話はそうして沈黙する。
僕は一人である僕は一人である僕はどうしようもなく一人である、
ブラウン管が囁く「いかないで」。
言うことはお決まりの安直な恋愛物語、人の演じる純愛なんて 要らないんだ本当はさ。
・:*:・*・:*:・
おぉー・・・なんだこの雑な話は。
雑多な話と雑な話はちがうので、雑多な話が書けるようになりたいです。まる。
てか王朝春宵ロマンセシリーズでサイト作りたい。幕末長州でも作りたい。ブログじゃなくてサイトを。
あ、主人公シャルナークでした。「君」はお好きな相手をどうぞ。
出来れば障害も展開も人が死ぬこともなく惰性のようにダラダラ続く長編小説で、出来れば色の消え褪せたモノクロオムのフィルムがいい。なんてA級首の幻影旅団らしからぬ穏やかなことを思ってみたり。
血のにおい、月が満ちて黒猫がはしる。銀のスプーンが銃弾の狂気のきらめきを彷彿とさせる なんてそんな思考はだけどいかにも自分らしいと少しわらった。
携帯がなる。枕を上からおしつける。くぐもる音、悪いね今は聞きたくないんだ相棒。
とおく まるで現実じゃないところから響く右に虫の声、左にテレビの俳優の喋るこえ。
酒のけだるさと眠ったあとの倦怠感が同時に再び襲って、
人のいない室内で誰かの影を探してみたくなって、
そうしてその度その度裏切られて、苛立って、
もう一度、
君にあいたい と、か、
(空白)思ったりしてみたのはきっと一時の気の迷いである。
胸が苦しいのは(なんて古典的表現なんだでも本当にね、)夏の終わるのが寂しいってだけの一時の、迷いである。
ブラウン管が呟く「愛しています」、
笑い飛ばせない満月が明るい黒猫が鳴くスプーンがきらめいて携帯電話はそうして沈黙する。
僕は一人である僕は一人である僕はどうしようもなく一人である、
ブラウン管が囁く「いかないで」。
言うことはお決まりの安直な恋愛物語、人の演じる純愛なんて 要らないんだ本当はさ。
・:*:・*・:*:・
おぉー・・・なんだこの雑な話は。
雑多な話と雑な話はちがうので、雑多な話が書けるようになりたいです。まる。
てか王朝春宵ロマンセシリーズでサイト作りたい。幕末長州でも作りたい。ブログじゃなくてサイトを。
あ、主人公シャルナークでした。「君」はお好きな相手をどうぞ。
November 22, 2005
天工開物(フィンシズ)
アンビバレンス[名詞/(英 ambivalence)]
同一対象に対して、愛と憎しみなどの相反する感情を同時に、または、交替して抱くこと。
精神分析の用語。両面価値。両面価値感情。(――大辞泉)
「あたしが、あなたを好きだなんて言ったことがあった?」
「いや? だけど、お前俺のことスキだろ?」
A級賞金首のシズク、幻影旅団のシズク、でもなく、ただのシズクに戻ってしまった一個人はそのような言葉をさらりと言って無表情をつくったのだった。
ソファに座った体勢のままそう言った彼女に、対するフィンクスは黙ってそうか、と目を床に向ける。恥じ入るでも否定するでもなく、残酷にただ同意のことばを、口にする。
「シズク」
「ウボォーもパクノダも行っちゃった。・・・団長も。フィンクスもどこかへ行く?」
「…シズク」
「うそだよ。それにどこかへ行くのはフィンクスじゃなくて、フェイタンかもしれない。或いは――あたしかもしれないし。」
そうか、とフィンクスは感情を押し殺した声でまたそんな言葉を言う。出会った時から随分と変わってしまった、完成してしまった彼の体の線とやわらかな髪と美しい目のことを、ひどく好きだとシズクがぼんやり思っていることすら構わずに。
(好きだ)
(好きです)
(……。)
ウボォーギンの眉間に皺をよせた表情が強固な身体に似合ず意外と繊細なこと、それからパクノダのほそい腰に手をあて呆れたような顔をするのも、シズクはひどく、好きだった。
「失くすのは、こわいね。すごくこわい」
「もうお前が失くすものなんてないだろ。俺は行かない、何処にも。フェイも、シャルも、ノブナガもマチも。・・・団長も」
「ふうん、そう」
流星街の汚泥の臭いも、くぐもった空も、狡知と奸智で満ちた空気も全部、好きだった。
シズクは言う。ねえフィンクス。もし、
「うそついたら死んでくれる?」
「……」
「…。うそだよ。」
吐息がこぼれて沈殿する。コンクリートのアジトは呼吸すら、吸収して同化することを許さない。拒絶してデジタルな幻覚の中に丸め込むだけなのだ、ただ。
つめたい灰色、砕けた硝子、吹き込んで通り過ぎるかわいた風、部屋の隅でフィンクスの爪がぎらりと光った。彼のてのひらが何かを試すように開いたり閉じたりする、手をみつめる、うつくしい目線。
(そしてあたしはもうフィンクスが守るべきうつくしい子どもじゃないの、わかるだでしょう、)
(わかるんでしょ?)
(ああ、わかるからこそフィンクスってば変わっちゃう)
フィンクスはシズクがいるゆえに、歪んでいるゆえに、純粋だ。子供の頃の誓約を、制約を、守ったままで大人になった。硝子細工のような目玉……
古びたソファから音をたてずに立ち上がる。
「変なこと言ってごめんね。そろそろ寝るよ。おやすみなさい、フィン」
「ああ…。おやすみ、シズク」
彼は何も言わないだろう。何も言えないだろう。ゆらいでいる、のだ。歪んだ純粋さが揺さぶられて、彼はシズクの前から変化しようとしていた。彼の全てはもう、シズクではない。
(バランス)
(束縛)
(自由)
(激情のアポトーシス)
(居場所)
(連続)
(フィヌス)
(過去)
(コンプレックス)
(…アイデンティティ)
指折り数える一つひとつが、フィンクスと共に目の前から消えてゆこうとしている。
この手から、零れ落ちようとしているシズクの好きな全て。シズクの嫌いなすべて。
(「フィンクスを好きだと言ったことがあった?」)
その言葉を明確に言ってしまえば、彼の手がシズクを抱こうとすれば、或いは彼がシズクの前から立ち去ってしまったら。…その瞬間に、全ては消失するだろう。シズクは喪失するだろう。フィンクスの存在を霧散させ、――フィンクスの命を絶つだろう。
そうして扉はかたく、閉ざされる。
シズクはそうっと溜めていた息を吐いて、てのひらに忍び込ませた薄いナイフを、コンクリートに落としてみせた。かつん。かつん。こつん。響く音は拒絶の音だ。シズクはゆっくりと耳をふさいで瞼を閉じる。
変わらない、どこへも行かないフィンクスを、愛していた。
・:*:・**・:*:・
とがしせんせい頼むからはやく旅団出してください、
シャウアプフ(だっけ? あのナルシストの人)がシャルに見えてくる末期症状。
でもアカズはスキ。アカズが王に心臓食われたら萌えるのに。(ぇー
同一対象に対して、愛と憎しみなどの相反する感情を同時に、または、交替して抱くこと。
精神分析の用語。両面価値。両面価値感情。(――大辞泉)
「あたしが、あなたを好きだなんて言ったことがあった?」
「いや? だけど、お前俺のことスキだろ?」
A級賞金首のシズク、幻影旅団のシズク、でもなく、ただのシズクに戻ってしまった一個人はそのような言葉をさらりと言って無表情をつくったのだった。
ソファに座った体勢のままそう言った彼女に、対するフィンクスは黙ってそうか、と目を床に向ける。恥じ入るでも否定するでもなく、残酷にただ同意のことばを、口にする。
「シズク」
「ウボォーもパクノダも行っちゃった。・・・団長も。フィンクスもどこかへ行く?」
「…シズク」
「うそだよ。それにどこかへ行くのはフィンクスじゃなくて、フェイタンかもしれない。或いは――あたしかもしれないし。」
そうか、とフィンクスは感情を押し殺した声でまたそんな言葉を言う。出会った時から随分と変わってしまった、完成してしまった彼の体の線とやわらかな髪と美しい目のことを、ひどく好きだとシズクがぼんやり思っていることすら構わずに。
(好きだ)
(好きです)
(……。)
ウボォーギンの眉間に皺をよせた表情が強固な身体に似合ず意外と繊細なこと、それからパクノダのほそい腰に手をあて呆れたような顔をするのも、シズクはひどく、好きだった。
「失くすのは、こわいね。すごくこわい」
「もうお前が失くすものなんてないだろ。俺は行かない、何処にも。フェイも、シャルも、ノブナガもマチも。・・・団長も」
「ふうん、そう」
流星街の汚泥の臭いも、くぐもった空も、狡知と奸智で満ちた空気も全部、好きだった。
シズクは言う。ねえフィンクス。もし、
「うそついたら死んでくれる?」
「……」
「…。うそだよ。」
吐息がこぼれて沈殿する。コンクリートのアジトは呼吸すら、吸収して同化することを許さない。拒絶してデジタルな幻覚の中に丸め込むだけなのだ、ただ。
つめたい灰色、砕けた硝子、吹き込んで通り過ぎるかわいた風、部屋の隅でフィンクスの爪がぎらりと光った。彼のてのひらが何かを試すように開いたり閉じたりする、手をみつめる、うつくしい目線。
(そしてあたしはもうフィンクスが守るべきうつくしい子どもじゃないの、わかるだでしょう、)
(わかるんでしょ?)
(ああ、わかるからこそフィンクスってば変わっちゃう)
フィンクスはシズクがいるゆえに、歪んでいるゆえに、純粋だ。子供の頃の誓約を、制約を、守ったままで大人になった。硝子細工のような目玉……
古びたソファから音をたてずに立ち上がる。
「変なこと言ってごめんね。そろそろ寝るよ。おやすみなさい、フィン」
「ああ…。おやすみ、シズク」
彼は何も言わないだろう。何も言えないだろう。ゆらいでいる、のだ。歪んだ純粋さが揺さぶられて、彼はシズクの前から変化しようとしていた。彼の全てはもう、シズクではない。
(バランス)
(束縛)
(自由)
(激情のアポトーシス)
(居場所)
(連続)
(フィヌス)
(過去)
(コンプレックス)
(…アイデンティティ)
指折り数える一つひとつが、フィンクスと共に目の前から消えてゆこうとしている。
この手から、零れ落ちようとしているシズクの好きな全て。シズクの嫌いなすべて。
(「フィンクスを好きだと言ったことがあった?」)
その言葉を明確に言ってしまえば、彼の手がシズクを抱こうとすれば、或いは彼がシズクの前から立ち去ってしまったら。…その瞬間に、全ては消失するだろう。シズクは喪失するだろう。フィンクスの存在を霧散させ、――フィンクスの命を絶つだろう。
そうして扉はかたく、閉ざされる。
シズクはそうっと溜めていた息を吐いて、てのひらに忍び込ませた薄いナイフを、コンクリートに落としてみせた。かつん。かつん。こつん。響く音は拒絶の音だ。シズクはゆっくりと耳をふさいで瞼を閉じる。
変わらない、どこへも行かないフィンクスを、愛していた。
・:*:・**・:*:・
とがしせんせい頼むからはやく旅団出してください、
シャウアプフ(だっけ? あのナルシストの人)がシャルに見えてくる末期症状。
でもアカズはスキ。アカズが王に心臓食われたら萌えるのに。(ぇー
November 10, 2005
MAKE up FOR trick2(フィンフェイ/パラレル注意!)
とろけそうなラズベリー・パイを前にした魔女は、そうして淡々と、世界の終わりを見たような絶望的な顔で眉間に皺をのせてみせたのだった。
「ラズベリー・パイなんてこの世から消え去ればいいと思わないか?」
「さてね」
「これはワタシに対する挑戦か? シャル」
「さァ?」
月が白みはじめたので魔女とシャルと俺とは遅い晩餐を始めるべく、広々としたダイニングルームに集まったところだった。
シャルは魔女にそう問われても相変わらず酷薄そうな微笑を唇にはりつけたまま、血液の入った銀色のゴブレットをかくも優雅に傾けてみせるだけで、俺は少しだけ心配になっておろおろとする。
シャルの返答に魔女は溜息を吐いて、隣に置いた自身の帽子を一撫でしてからほうれん草のキッシュをナイフで切り分け始めた。「ラズベリーじゃなくて桃とカスタードのパイだったらよかったのに」ぶつぶつ言う薄いくちびるの奥にキッシュのかたまりが吸い込まれてゆく。俺はまた少し、おろおろとした。
――それに気づいたのか、一杯目の血液を飲み終えたらしいシャルは白いハンカチーフで口をぬぐってから、喉の奥を鳴らしてしずかに笑う。
「フェイタン」
「ん」
「言っておくケドそのパイを作ったのは俺じゃなくて、フィンクスだよ」
「狼が?」
魔女の目が俺のほうへ向く。眉間に皺を寄せたまま魔女はぶさいくな顔をして、それからとりなすように、随分な間をあけてにっこりと笑った。暗黒めいている。
「覚えておくねフィンクス。魔女の統率者たるワタシはラズベリー・パイを食べない。何故ならラズベリーが死ぬほど嫌いだからだ」
「…そうか」
「でも豪華な食事とかぼちゃの冷製スープは死ぬほど好きよ。とても美味しい、ありがとう」
シャルがまた少し笑う。俺はチキンを切りかける体勢のまま、そうかよ、と呟いた。
魔女はもう一度にっこり笑ってから、再びキッシュの大きなかたまりを口に入れて嚥下する行為に熱中しはじめる。
――魔女の食事する光景は、とても美しい、と俺は思う。
カケイはいつも血液やワインをほんの僅か口に含むだけで、まるで固形のものを食おうとしないので。
「しかし君は相変わらず食べないね」
相変わらずキッシュを食べながら、思っていたことと同じようなことを魔女が言う。
古めかしく、長いテーブルの上座についてまっすぐな姿勢で俺たちを眺めていたシャルは、心外だ、とばかりに酷薄そうな溜息を吐いた。
「食わないんじゃなく食えないんだ、仕方あるまい」
「面白味のない人生だね。食事できないなんて」
「ああ、…いや、そうでもない」
そう言ったシャルが俺の方を向いたので、俺の尻尾は少し毛羽立つ。耳を通る血液の音がよく聞こえる。シャルの腕についた真珠のカフスがひかって見えた。
魔女はよく動く目で俺たちを順に見てから肩をすくめ、今度はバニラ・アイスクリームと食後のエスプレッソに取り掛かり始めた。(シャル曰く、"フェイタンはグルメな魔女" なのだそうだ。魔女の横には空になった大量の皿がうず高く積み上げられていたが、但し肉類ののった皿は見事に丸ごと選り分けられて残っていた。)
古めかしい暖炉に火の粉がはぜていた。背の高い椅子の影が火に煽られて伸縮する。
繊細な彫刻が施された燭台のわずかな明るさに照らされる魔女の横顔は端正でひどく美しかったが、俺はそれよりも、上座から冷酷なまなざしで二人を見つめる、シャルの冷たい顔立ちの方が数倍きれいに見えると思っていた。
低く響く声も、命令調の口調も。
それはまるで彼の真珠のカフスのように、美しくひかって見えるのだ。
俺は客である魔女のことを短期間でとても好きになっていたが、どうしてだろう、シャルと話す魔女は、少し嫌いだった。
「さてと。それでは食事が出来ないシャルのために一肌脱ぐね」
ふと、黄金色の毛で覆われた耳がじりじりした。シャルは唐突に真面目な顔になって、「フィンクスはもう寝たら」などと言う。魔女が微笑んで指を鳴らした。パチン!
するとテーブルの上にあった食器類は一瞬のうちに片付いて、皿もゴブレットも手付かずのラズベリー・パイも、全て消え去って、しまった。
二人は音をたてずに椅子を立つ。
シャルが先に立って、部屋を出る。「おやすみ」「よい夜を、フィンクス」耳がじりじりした。不安だと思う。二人はこれから、シャルの部屋へ行くらしい。
(シャルは魔女の血を飲むのだろうか)
ぼんやりと、そんなことを思う。
「早く寝ろよ。また明日」
シャルが最後にそう言って、そうして扉は閉められる。
酷薄なシャル。美しい魔女。連鎖し破壊する、世界。
(魔女、)
空が白みはじめていた。この古めかしい豪華な城にも、朝がくるのだ。
俺は眠らなければならなかった。どうしてか胸の辺りが苦しくなったので、なんとしても早く眠らなければならなかった。そうすればまた夜がくる。シャルは ――シャルは、いつもの顔でおはようと俺に声をかけるだろう。
(肉を食わない魔女の血は、一体どんな味がするのだろう)
シャルの鋭く尖った牙はどんな風に魔女の素肌をすべって、どんな場所にやさしい傷をつけるのだろう。
髪を避けた白いうなじに、細すぎる腰に、ブーツを脱がせた小さな足に、血の臭いの身体に?
魔女が消したはずのラズベリー・パイのにおいがする。
白みはじめた満月に向かって、俺は犬のように、ちいさく吼えた。
「ラズベリー・パイなんてこの世から消え去ればいいと思わないか?」
「さてね」
「これはワタシに対する挑戦か? シャル」
「さァ?」
月が白みはじめたので魔女とシャルと俺とは遅い晩餐を始めるべく、広々としたダイニングルームに集まったところだった。
シャルは魔女にそう問われても相変わらず酷薄そうな微笑を唇にはりつけたまま、血液の入った銀色のゴブレットをかくも優雅に傾けてみせるだけで、俺は少しだけ心配になっておろおろとする。
シャルの返答に魔女は溜息を吐いて、隣に置いた自身の帽子を一撫でしてからほうれん草のキッシュをナイフで切り分け始めた。「ラズベリーじゃなくて桃とカスタードのパイだったらよかったのに」ぶつぶつ言う薄いくちびるの奥にキッシュのかたまりが吸い込まれてゆく。俺はまた少し、おろおろとした。
――それに気づいたのか、一杯目の血液を飲み終えたらしいシャルは白いハンカチーフで口をぬぐってから、喉の奥を鳴らしてしずかに笑う。
「フェイタン」
「ん」
「言っておくケドそのパイを作ったのは俺じゃなくて、フィンクスだよ」
「狼が?」
魔女の目が俺のほうへ向く。眉間に皺を寄せたまま魔女はぶさいくな顔をして、それからとりなすように、随分な間をあけてにっこりと笑った。暗黒めいている。
「覚えておくねフィンクス。魔女の統率者たるワタシはラズベリー・パイを食べない。何故ならラズベリーが死ぬほど嫌いだからだ」
「…そうか」
「でも豪華な食事とかぼちゃの冷製スープは死ぬほど好きよ。とても美味しい、ありがとう」
シャルがまた少し笑う。俺はチキンを切りかける体勢のまま、そうかよ、と呟いた。
魔女はもう一度にっこり笑ってから、再びキッシュの大きなかたまりを口に入れて嚥下する行為に熱中しはじめる。
――魔女の食事する光景は、とても美しい、と俺は思う。
カケイはいつも血液やワインをほんの僅か口に含むだけで、まるで固形のものを食おうとしないので。
「しかし君は相変わらず食べないね」
相変わらずキッシュを食べながら、思っていたことと同じようなことを魔女が言う。
古めかしく、長いテーブルの上座についてまっすぐな姿勢で俺たちを眺めていたシャルは、心外だ、とばかりに酷薄そうな溜息を吐いた。
「食わないんじゃなく食えないんだ、仕方あるまい」
「面白味のない人生だね。食事できないなんて」
「ああ、…いや、そうでもない」
そう言ったシャルが俺の方を向いたので、俺の尻尾は少し毛羽立つ。耳を通る血液の音がよく聞こえる。シャルの腕についた真珠のカフスがひかって見えた。
魔女はよく動く目で俺たちを順に見てから肩をすくめ、今度はバニラ・アイスクリームと食後のエスプレッソに取り掛かり始めた。(シャル曰く、"フェイタンはグルメな魔女" なのだそうだ。魔女の横には空になった大量の皿がうず高く積み上げられていたが、但し肉類ののった皿は見事に丸ごと選り分けられて残っていた。)
古めかしい暖炉に火の粉がはぜていた。背の高い椅子の影が火に煽られて伸縮する。
繊細な彫刻が施された燭台のわずかな明るさに照らされる魔女の横顔は端正でひどく美しかったが、俺はそれよりも、上座から冷酷なまなざしで二人を見つめる、シャルの冷たい顔立ちの方が数倍きれいに見えると思っていた。
低く響く声も、命令調の口調も。
それはまるで彼の真珠のカフスのように、美しくひかって見えるのだ。
俺は客である魔女のことを短期間でとても好きになっていたが、どうしてだろう、シャルと話す魔女は、少し嫌いだった。
「さてと。それでは食事が出来ないシャルのために一肌脱ぐね」
ふと、黄金色の毛で覆われた耳がじりじりした。シャルは唐突に真面目な顔になって、「フィンクスはもう寝たら」などと言う。魔女が微笑んで指を鳴らした。パチン!
するとテーブルの上にあった食器類は一瞬のうちに片付いて、皿もゴブレットも手付かずのラズベリー・パイも、全て消え去って、しまった。
二人は音をたてずに椅子を立つ。
シャルが先に立って、部屋を出る。「おやすみ」「よい夜を、フィンクス」耳がじりじりした。不安だと思う。二人はこれから、シャルの部屋へ行くらしい。
(シャルは魔女の血を飲むのだろうか)
ぼんやりと、そんなことを思う。
「早く寝ろよ。また明日」
シャルが最後にそう言って、そうして扉は閉められる。
酷薄なシャル。美しい魔女。連鎖し破壊する、世界。
(魔女、)
空が白みはじめていた。この古めかしい豪華な城にも、朝がくるのだ。
俺は眠らなければならなかった。どうしてか胸の辺りが苦しくなったので、なんとしても早く眠らなければならなかった。そうすればまた夜がくる。シャルは ――シャルは、いつもの顔でおはようと俺に声をかけるだろう。
(肉を食わない魔女の血は、一体どんな味がするのだろう)
シャルの鋭く尖った牙はどんな風に魔女の素肌をすべって、どんな場所にやさしい傷をつけるのだろう。
髪を避けた白いうなじに、細すぎる腰に、ブーツを脱がせた小さな足に、血の臭いの身体に?
魔女が消したはずのラズベリー・パイのにおいがする。
白みはじめた満月に向かって、俺は犬のように、ちいさく吼えた。
読書好きに50の質問
01 あなたの年齢と性別は?支障のない範囲でお答えください。
トリカ。17です。
02 好きな作家をかたっぱしから挙げてみてください。
村松剛 三島由紀夫 梨木香歩 小川洋子 町田康
島本理生 JKローリング 古川薫 谷崎潤一郎
アレックス・シアラー 有栖川有栖
03 苦手なジャンルは何ですか。
江國香織(もうジャンルっすよ)
小川洋子も島本理生も川上弘美も大好きなのに、なんでだろう...気取ってるから?(失礼な
04 あなたの蔵書はどのくらいありますか。
学校の図書室で借りるので手持ちはちょっとです。
30冊くらい? 漫画とCDはすげぇあるけど。
05 あなたに万が一のことがあったら、それらの本はどうするつもりですか。
欲しい人連絡ください。
06 本の収納について、工夫していることはありますか。
普通に本棚に。
07 あなたの本棚の特徴を教えてください。
ビビアンウエストウッドのステッカーが色あせてます。
08 コレクションしている(していた)作家がいたら教えてください。
司馬遼は集めてました。
史実うんぬんはさておき、純粋に小説として面白い。
歴史書としては駄目なんでしょうけど、歴史小説としてなら最高峰ではないかと。
09 手放して後悔している本はありますか。
特には。
10 ネットオークションで本を買ったことはありますか。
ありません。
11 何がなんでも欲しい1冊!いくらまでなら出せますか。
2万くらいかなぁ...バイト代一ヶ月分。
12 好きな書店はありますか。そのどんなところが好きかも教えてください。
買えればどこでもいいです。
13 書店のレジ横のしおりやPR誌、もらいますか。
もらっちまいます。貧乏性なので。
14 書店でついやってしまう癖はありますか。
バイトの時給を確かめる。
でも書店って大抵18からなんですよね...
15 書店のレジで、「カバーお掛けしますか」と聞かれるとき、どう答えますか。
「おねがいします」
16 本を買うときに心がけていることはありますか。
特には。
あんまり買わないので...
17 あなたが書店を開くとしたら、販売促進のために何をしますか。
えー...なんだろ...
18 本に挟まれている「読者ハガキ」を出したことがありますか。
いいえ。
19 乱丁・落丁本に出会ったことがありますか。ある方はその本をどうしましたか。
ないです。出会いたい!
20 この本を手に入れるために苦労した!という体験があったら教えてください。
村松剛先生の本は...なかなか...。古本屋何件もまわりました。
菊池寛賞とってるのになんで廃刊なんですかーー!!
21 自分も本を出してみたいと思いますか。
出しました。
22 この人に本を出して欲しい、と思う有名人は?その人にどんな本を出して欲しいですか。
桂小五郎とアベラールの自伝が読みたい。
23 本の匂いについてどう思いますか。
ふつう。
24 すでに亡くなっている作家を1人だけ生き返らせて新作を書いてもらえるとしたら、誰にしますか。
三島由紀夫!!!!!
25 書評は気にする方ですか。
人より自分がどう感じるかを大事にしたいです。
26 文学賞受賞作はチェックする方ですか。
しません。
27 刊行後、作品を書きかえる作家(例:高村薫、井伏鱒二)について、読者としてどう思いますか。
気づかないです多分。
28 語り合ってみたい作家は誰ですか。
有栖川有栖。
まずはなんでそんなペンネームにしちゃったのか聞きたい。
29 読んだ本の著者に手紙やメールを出したことはありますか。
いいえ。
30 読書記録をつけたことがありますか。
ブログが読書記録の変わりです。
31 今、多くの学校で行われている(らしい)「朝の10分間読書」(授業の前に10分間、読書の時間を設ける)についてどう思いますか。
重宝してます。
32 「読書感想文」の宿題は好きでしたか。
死ぬほど嫌いです。
学校に提出するような文は書けないよ。
33 本を読んでいて、声を出して笑う方ですか。
爆笑します。映画とかもそうです。
34 読んだ本について話し合う人はいますか。
いません。みんなもっと本読もうよ!
35 よく読む雑誌を教えてください。
non-noとROADSHOWとOK!ですかね。
文芸雑誌は読みません。
36 あなたの本棚の中に、人目に触れないように隠している本はありますか。
ナイショです。
37 病院や食堂・美容院などにある本を借りた、またはもらったことはありますか。
ないです。
38 本を拾ったことはありますか。
キリスト教の勧誘パンフを...(本か?
39 人に本をプレゼントした、あるいはされたエピソードがあったら教えてください。
中学の時、読書しない彼氏がいきなり本をくれてびびったことがあった。
綿矢りさの蹴りたい背中でした。どうせなら蛇にピアスが良かったなぁなんて思いながら、今日までまだ読んでません。
40 文庫についてるマークを集めて景品をもらったことはありますか。
いいえ。
41 たとえば電車の中などで人が読んでる本を、覗いたことがありますか。
チャリ通学です。
42 あなたの現在の読書傾向について教えてください。
斜め45度。
43 十年前と今と、読書傾向はどう変わっていますか。
10年前、小学一年生です。かいけつゾロリとか読んでました。
44 年をとったら読みたいと思っている作家・作品はありますか。
村松剛の醒めた炎は一生読み続けます。
45 自分の子供に読んで聞かせたいと思う本はありますか。
100万回生きた猫。
あと家畜人ヤプー(笑
46 あなたの生まれ育った環境に本はありましたか。
あんまり。
47 今思えばあそこで読書の楽しみを知ったんだなあ、という経験があったら教えてください。
自分が小説書きたいと思ってから読書を始めたので、きっかけはそれですかね。
48 全然本を読まない人生を歩んできたとしたら、今のあなたはどんな人間になってたと思いますか。
下手な小説を書く旅団好きから、ただの旅団好きに変ってましたね。
49 読書量と人間の質は比例すると思いますか。
無関係でしょう。
50 本があなたから奪ったものは何ですか。本があなたに与えてくれたものは何ですか。
奪われたのももらったものも時間。
こちらからいただきました。
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/2561/50q.htm
トリカ。17です。
02 好きな作家をかたっぱしから挙げてみてください。
村松剛 三島由紀夫 梨木香歩 小川洋子 町田康
島本理生 JKローリング 古川薫 谷崎潤一郎
アレックス・シアラー 有栖川有栖
03 苦手なジャンルは何ですか。
江國香織(もうジャンルっすよ)
小川洋子も島本理生も川上弘美も大好きなのに、なんでだろう...気取ってるから?(失礼な
04 あなたの蔵書はどのくらいありますか。
学校の図書室で借りるので手持ちはちょっとです。
30冊くらい? 漫画とCDはすげぇあるけど。
05 あなたに万が一のことがあったら、それらの本はどうするつもりですか。
欲しい人連絡ください。
06 本の収納について、工夫していることはありますか。
普通に本棚に。
07 あなたの本棚の特徴を教えてください。
ビビアンウエストウッドのステッカーが色あせてます。
08 コレクションしている(していた)作家がいたら教えてください。
司馬遼は集めてました。
史実うんぬんはさておき、純粋に小説として面白い。
歴史書としては駄目なんでしょうけど、歴史小説としてなら最高峰ではないかと。
09 手放して後悔している本はありますか。
特には。
10 ネットオークションで本を買ったことはありますか。
ありません。
11 何がなんでも欲しい1冊!いくらまでなら出せますか。
2万くらいかなぁ...バイト代一ヶ月分。
12 好きな書店はありますか。そのどんなところが好きかも教えてください。
買えればどこでもいいです。
13 書店のレジ横のしおりやPR誌、もらいますか。
もらっちまいます。貧乏性なので。
14 書店でついやってしまう癖はありますか。
バイトの時給を確かめる。
でも書店って大抵18からなんですよね...
15 書店のレジで、「カバーお掛けしますか」と聞かれるとき、どう答えますか。
「おねがいします」
16 本を買うときに心がけていることはありますか。
特には。
あんまり買わないので...
17 あなたが書店を開くとしたら、販売促進のために何をしますか。
えー...なんだろ...
18 本に挟まれている「読者ハガキ」を出したことがありますか。
いいえ。
19 乱丁・落丁本に出会ったことがありますか。ある方はその本をどうしましたか。
ないです。出会いたい!
20 この本を手に入れるために苦労した!という体験があったら教えてください。
村松剛先生の本は...なかなか...。古本屋何件もまわりました。
菊池寛賞とってるのになんで廃刊なんですかーー!!
21 自分も本を出してみたいと思いますか。
出しました。
22 この人に本を出して欲しい、と思う有名人は?その人にどんな本を出して欲しいですか。
桂小五郎とアベラールの自伝が読みたい。
23 本の匂いについてどう思いますか。
ふつう。
24 すでに亡くなっている作家を1人だけ生き返らせて新作を書いてもらえるとしたら、誰にしますか。
三島由紀夫!!!!!
25 書評は気にする方ですか。
人より自分がどう感じるかを大事にしたいです。
26 文学賞受賞作はチェックする方ですか。
しません。
27 刊行後、作品を書きかえる作家(例:高村薫、井伏鱒二)について、読者としてどう思いますか。
気づかないです多分。
28 語り合ってみたい作家は誰ですか。
有栖川有栖。
まずはなんでそんなペンネームにしちゃったのか聞きたい。
29 読んだ本の著者に手紙やメールを出したことはありますか。
いいえ。
30 読書記録をつけたことがありますか。
ブログが読書記録の変わりです。
31 今、多くの学校で行われている(らしい)「朝の10分間読書」(授業の前に10分間、読書の時間を設ける)についてどう思いますか。
重宝してます。
32 「読書感想文」の宿題は好きでしたか。
死ぬほど嫌いです。
学校に提出するような文は書けないよ。
33 本を読んでいて、声を出して笑う方ですか。
爆笑します。映画とかもそうです。
34 読んだ本について話し合う人はいますか。
いません。みんなもっと本読もうよ!
35 よく読む雑誌を教えてください。
non-noとROADSHOWとOK!ですかね。
文芸雑誌は読みません。
36 あなたの本棚の中に、人目に触れないように隠している本はありますか。
ナイショです。
37 病院や食堂・美容院などにある本を借りた、またはもらったことはありますか。
ないです。
38 本を拾ったことはありますか。
キリスト教の勧誘パンフを...(本か?
39 人に本をプレゼントした、あるいはされたエピソードがあったら教えてください。
中学の時、読書しない彼氏がいきなり本をくれてびびったことがあった。
綿矢りさの蹴りたい背中でした。どうせなら蛇にピアスが良かったなぁなんて思いながら、今日までまだ読んでません。
40 文庫についてるマークを集めて景品をもらったことはありますか。
いいえ。
41 たとえば電車の中などで人が読んでる本を、覗いたことがありますか。
チャリ通学です。
42 あなたの現在の読書傾向について教えてください。
斜め45度。
43 十年前と今と、読書傾向はどう変わっていますか。
10年前、小学一年生です。かいけつゾロリとか読んでました。
44 年をとったら読みたいと思っている作家・作品はありますか。
村松剛の醒めた炎は一生読み続けます。
45 自分の子供に読んで聞かせたいと思う本はありますか。
100万回生きた猫。
あと家畜人ヤプー(笑
46 あなたの生まれ育った環境に本はありましたか。
あんまり。
47 今思えばあそこで読書の楽しみを知ったんだなあ、という経験があったら教えてください。
自分が小説書きたいと思ってから読書を始めたので、きっかけはそれですかね。
48 全然本を読まない人生を歩んできたとしたら、今のあなたはどんな人間になってたと思いますか。
下手な小説を書く旅団好きから、ただの旅団好きに変ってましたね。
49 読書量と人間の質は比例すると思いますか。
無関係でしょう。
50 本があなたから奪ったものは何ですか。本があなたに与えてくれたものは何ですか。
奪われたのももらったものも時間。
こちらからいただきました。
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/2561/50q.htm
November 05, 2005
MAKE up FOR trick(フィンフェイ/パラレル注意!)
屋敷に魔女が来た。
魔女といってもその性別も正体も不明な生き物はフィンクスが想像していたようなブロンドの巻毛や、冷徹な青い目や、西洋染みたビスクドールの肌を持っておらず、けれどそれは正しく「魔女」であることを全身をもって主張していた。
けたたましい音ひとつもたてずごくひっそりと、猫のように窓から入ってきたらしい魔女は、自己存在の象徴のような箒からふわりと降りて片手に持ちなおす。
そうして彼女(或いは彼なのかもしれなかったがその生き物は"魔女"という呼び名以外にふさわしいものを持たないようだった)は長いドレープのついたロングスカートの埃を慎重に掃ってから、ブーツの踵を高いオクターブで鳴らして巨大な玄関ホールに入ってきたのだった。
先のひどく尖ったピンヒールの切っ先がフィンクスのほうを向く。彼の耳が敏感に毛羽立つ。魔女の第一声はひどく静かだったが、しかし美しく気高い、通る音で大理石に反響したので、警戒心をあらわにしていたフィンクスは何だか少し拍子抜けしてしまった。抱いていた魔女像と随分ちがう。
「フィンクス」
「いい夜ね、シャル」
「着くのは明日かと思っていた」
「今日だよ。来るのならば今日しかない。」
フィンクスとシャルナークの住む古城の新しい客の、魔女は、フェイタンという名らしかった。
言葉自体は彼らのもつ牙のように鋭いのに、真っ黒の眼光や、象牙肌の色や、薄く色づいた頬は正反対にやわらかい。
フィンクスは一度見たことのある西洋の魔女のブロンドの巻き毛より、今目の前にいる魔女の黒くて長い飾り気のない髪の方が好ましいように思えた。質素でそれでいて、理想的だ。
「フェイタン」
シャルナークがもう一度魔女の名を呼んで、フィンクスの方に振り返る。
「紹介する。手紙で書いただろう、フィンクスだ」
自分の金いろの尻尾が敏感に逆立っているのを、彼らは知っているのだろうか、とフィンクスはぼんやりと思う。尖った耳は絶えず、魔女の気配や敵愾心をうかがっていた。
「ふうん、狼ね。ヴァンパイアのお友達じゃないんだね」
「ああ」
タキシードの腕にとめたそろいのカフスにちろりと目をやって、魔女は端正に、もう一度ふうん、と息を流した。その黒目ばかりが大きい漆黒。結わないで流された、ローブと同じ色をした緑の黒髪。――それはまるで、闇だ。
「ほんとにいい夜ね。狼、ワタシは挨拶が嫌いだから握手をしないことを不快に思わないで欲しいよ」
「ああ…。」
「おびえなくても狼とシャルナークの生活をワタシはこわさない。それに牙を隠さないでもいいね」
シャルナークをシャルナークと呼ぶように、俺のことも名前で呼んで欲しい、とフィンクスは思う。狼、なんて便宜的な名前。
フェイタンから警戒心はまるで感じられない。彼の孤独な牙は今宵もうつくしく月光を反射していて、それで漸くフィンクスも、自分の牙を隠すことをやめた。
魔女は理性のひとみでゆっくりわらう。それでいいよ、仲良くやろう。東洋の、うつくしい魔女の手から唐突に静かに箒が消える。玄関ホールはつめたい月光に満ちみちて、モノの分も人の分も、影はひとつもなかった。
「楽しい滞在期間になりそうね。狼、…フィンクスか。フィンクス、あとでブーツを脱ぐのを手伝ってほしいよ」
鋭いピンヒールの切っ先は、今はフィンクスの警戒心を増徴させずに魔女の足下で大人しくうずくまっている。シャルナークがいつものやり方で冷酷な微笑を見せて、そうしてフィンクスは、魔女の寝室の支度を整えるため、広い城の奥へと駆けていったのだった。
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な ん だ こ の 話。
そしてハロウィンから何日たったと思ってるんだ。
日本のハロウィンは浮れてるうえに何もしないじゃないかと留学生がぶつくさ言うのを電話で聞きながら書きました。