October 2005

October 29, 2005

REMAIN FROM(ヒソマチ)

「お前を是正する」


予告、若しくはただ形式だけの通告のように無表情に言われたことばにはマチは赤いくちびるでただ笑ってみせただけだった。紅など塗っていないというのにいつも血を喰らったように赤々しい唇のその色を、その放逐を、すでにけばけばしいほどの色を持っているヒソカはひどく憎んで、そうしてまた愛してもいた。
「やれるもんなら」
憎憎しいフェイクを崩そうとしないマチの唇からはやはり栓のない笑いが零れ落ちている。彼の笑いといったら凝縮されていて、まるで唇少しゆがめるだけで、音がするくらいにも思えるのだ。
正体不明の熱量と、秘めようともしないで全面的に押し出された狂気の色にマチは危うく酔いそうになる。違う、こんなことがしたいんじゃないのに。
(私はヒソカが死んでしまえばいいのにと思う)
(団長が死んだらいやだから)
だがしかし、とマチは思う。つい先の瞬間に是正すると口走った色のないくちびるからはどうしても次の言葉が紡ぎ出せない、表情は少し引き攣れている、マチの赤い唇、恐怖にも似たわななく痙攣。…


是正し是認し是にかなわせたその先に、
ヒソカから思い通りに放逐さを奔放さを純粋な狂気を是正したその先に、果たして自分の望む彼の像は結ばれるのだろうか。それとも全ては霧散して闇の夢に溶け消えるのか、

分からないが、ただ、自分がヒソカでなく団長を、好いているのは本当だった。
なのに、
眠りにも似た彼の狂気の中に、そうしてマチは、少し酔いはじめていた。


・:*・:*:・
web拍手でリクエストいただいたヒソマチ。
これヒソマチか?

xxx0802 at 21:29|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

October 15, 2005

ひめごと(ヒソクロ)



側に寄ると香るにおいがある。


クロロは僕に背を向け何かを書いているいつもの冷淡な顔つきでただたゆみなく。
たっぷりと墨汁を含んだ筆が紙に触れそこからさらさらと零れ落ちる文字、微弱に熱を含んだ太陽が畳を焦がす音とよわい色彩をした着物の袖が時折座卓に触れてさらりと鳴る、その音だけが室内に響いている。沈黙。静寂ではない沈黙。
「クロロ、」
「何だ」
「それ、書いてるの、なに?」
「…」
それきりまた畳を焦がす音だけが響く。じりじりじりじり。適当に伸ばされた長い髪が無造作に降りている。項(うなじ)の白さが目に焼きつく。しろい。白は嫌いだ。
「クロロ」
「うるさい。邪魔するな」
…まるで色素の薄さを誇っているかのような項は、金箔を含んだような薄い陽光に照らされながらすうっと伸びて華奢な顎に繋がっている。その上に鎮座する薄い唇。低くもなく高くもない鼻梁。くっきりと二重の形がついた黒目がちの目。平均的にパーフェクトだ。
その中でも特にうつくしいその項に鼻を近付けると、彼のにおいがすることを自分は存分に知っていた、それは、
「人が折角来てやってるっていうのにそんな態度はだろ、キミ」
「呼んだ覚えはないな」
「ふん、」
積み上がったトランプタワーを一度崩した。
胡坐をかいた着物の袂から覗く自身の腿もまたそれなりに白かったが、彼のように血管を浮き出させるような青白さではなかった。
(――生っ白い男。)
ぴんと張った背筋の、その骨格の透ける服の下では多分、簡単に背骨や肋骨なんぞが何かのレリーフのように浮き出ているのだろう、躍動する血管は容易に見えて噛み付いて血を啜るにはさぞかし便利だろう。

骨ばったからだを抱くのはきっと楽しくなく彼の仕草は一々しなやかに生真面目で、何処までも冷淡と毅然としているのに、どうしてだろう、彼はそこらの女より余程色気をもっているように思える。
「終わったぞ」
かたんと音を立てて筆を硯に戻し、伸びた姿勢のまま正しい角度で髪だけを揺らす。
伸びをするのにぴんと長く伸びた指を掴んでみるとクロロは怪訝そうにこちらを睨んできた。理知的な黒い目がみつめるのは野生的な三白眼。笑える。
「ヒソカ、ちょっと構ってもらえなかったからって拗ねるな」
「そんなんじゃねェよ」
「じゃあ何、」
果たして正解は"何だ"か"何してる"か。
言い切れなかった言葉は淀みか澱になってクロロの体内に留まって、上っ面だけの膚の白さをやがて侵食すればいいと片手間に思う。
僕は相変わらず畳のこげる音を聞きながらにやにや笑って正座した彼を見下している、肌蹴た項がしろく目に焦げ付く、純白純白純白。笑止。そんな色は嫌いだ。
跪くような格好で足を片方一歩前に出すとコートの裾が揺れた。そして僕は青白い男が曝け出した首元に顔を埋める。嗅覚を研ぎ澄ます。「!」、眉間と視線と半開きになった口が発語する理解し難いといった言葉(にならない言葉)。
沈黙。静寂ではない沈黙。そんな顔しても遅い、僕はもう癒されてる。
生っ白い男、彼の色気の元は多分、これだ



畳の青臭い香りの中で一際、強い血のイメージが鼻を掠めた。
目をつむると清廉さを装った彼だって黒く染まった。
(いくら洗っても僕にはわかる、…) そうしてやっぱり彼は不気味な猫みたいに笑う。何故って、

クロロの項はいつだって、血のにおいがしている。


・:*:・・:*:・
とちゅうでわけわかんなくなった。

xxx0802 at 20:32|PermalinkComments(1)TrackBack(0)ヒソクロ 

October 08, 2005

舌の剣は命を絶つ(フェイタン+マチ)

たとえどこまでも実用性を追求した無機質中の無機質、憎しみも混乱も恐怖も憧憬も慟哭も醜さも美しさをも込めた白刃であろうともそんなものですら本当は人間の尊厳を失わせることは出来るはずがなかった。人が落下する先の小さなポイント、大ぶりの花が敷き詰められている≪落下点≫
周囲はひたすらに黒い闇で白色の花を以て飾りつくされている。内から響く賞賛の声と尊厳の声と共に。そしてそこではうつくしいなんて平易なことばはまるで意味をなさない−−−なすことがない、
純然たるまでに真意も意味も意義も伝えたい言葉もなくまるでとりとめもなく堕落する文字で連ねるtext、理由と真実は違うがその内のひとつは簡単で、ただ白紙が白いのが許せないだけなのだ。
埋め尽くせ!手に取るのは手入れを怠り毛羽立った古い筆で、その毛一本に触れたてのひらが少し墨で汚れたけぶる灰色を暫しみつめる。その瞬間に響く無音・閃く無音。遠くの方では違う国の音楽が鳴っている。空なんて見えない、音楽のラインだけが耳に残る白だけが網膜に焼きつくそうしてそんな日に、
匂いなんてない筈の桜のにおいが恐ろしいくらいに香るその意味を、その色を、一体おまえは正しく理解出来るのか落下点を見たことがあるのか
それで一体何が欲しいと言えるのか ???

理解していないフェイタンがわらい理解しているマチが沈黙を守った



頭の中で繊細なカーブを描く刃がきらめいて、庭で鳥の羽音がした。
空白を埋めるため俺はまたいそがしく剣を動かし始める
―――いとおしい春の日に



・:*:・・:*:・
Web拍手でわけわかんない話が読みたいと言ってもらったので
わけのわからない話を書いたらやりすぎた。

xxx0802 at 21:06|PermalinkComments(0)TrackBack(0)他コンビ 

October 02, 2005

trivial(ヒソフェイ)

名を、失うのだと思う。彼が呼ぶこの名もいずれ、どこかおぼろげで春の日差しに溶かされたような闇の靄の中に、投じられて消え去ってしまうのだと。
そこはひどく暖かく、二度と記憶の上には上らない、やさしい墓場だ。

フェイタンが彼の名を呼ぶことは稀だったが、それはいつも、誰の名を呼ぶときにも共通した微かな怒気が孕まれている。悪意ではない尖った感情。ヒソカはそのトーンで、彼のくちびるから自分の名が呼ばれるのを好んだ。…それはある種の信頼であり、自虐だ。
団長や信頼する仲間から呼ばれた名、女の喉に爪を刺すと聞けるかすれ声、それらは彼が今の自分の名を呼ぶとき、暖かい闇の中から同調して融合して囁きかけてくる、どうしてかそんな気がしている。
「フェイタン、君じゃなきゃ駄目なんだよ。マチでも団長でも駄目なんだ」
ヒソカという名の奇術師は、呟いて、フェイタンを見た。闇を射抜く鷹のような目をした彼は、その黒髪を風に攫わせたまま、腕組みをしてヒソカの次の言葉を待っている。
ヒソカはぼんやりと、彼の華奢な細身と、内にしこまれた際限のない強さとのアンバランスさはひどくうつくしい、と思う。呼吸する。彼の中に内包された、純粋で微かな怒りについて思う。
クロロ。マチ。パクノダ。ウボォーギン。優しい彼らがは脱退後もずっと自分を覚えていてくれるだろうけれど、多分それだけでは、きっと正しくないのだ。
だからこそ、フェイタンを選ぶ。自分と世界を憎んでいるフェイタンを、ヒソカは選ぶ。

「僕の名前を覚えてて。君だけは、ずっと」

――フェイタンが、吐き捨てるような息を吐いた。うんざりしたように。
そのくちびるがあのトーンで自分の名前を呼ぶのを、ヒソカはもうずっと、待っていた。
(もうすぐだ)
"団員四番"という存在は春霞にまぎれて消え去ってゆく。もうすぐだ。


xxx0802 at 00:50|PermalinkComments(0)TrackBack(0)ヒソフェイ