September 2005

September 19, 2005

Not to mention HIM.(フィンフェイ)


蝉がうるさい。と夏の慣用句のような言葉を不意に思うフェイタンだったがしかし、実際耳のすぐ側であの不快でほんの少し郷愁を感じさせるジリジリという音が聞こえているような気がするのだから全く仕方がない。
共寝をしたはずの男の姿は、目覚めた時には既になかった。
冷房をつけない室内、わずかに開いた窓の隙間からも風など差し込む筈はなく、彼の秀でた額には汗の粒が浮き上がり始めていた。
(   )
うっすら開けた瞼へと、少しの猶予もなく刺しこまれる金いろ。
ベッドのある暗がりから見渡す自室は飽和するほどの光に満ち溢れ、何もかもが太陽光を浴びて鬱陶しげにきらめいていた。
夏が凝縮されたようだ、と彼は思ってけれど立ち上げって冷房のスイッチをつける気力はその四肢にはない。
(のどがかわいた)
半身だけタオルケットにくるまれた彼の手足は、寝起きの所為か昨夜の行動の所為か萎えている。
暑さというよりもねばついた温さにとらわれて、黒い髪をシーツに散らばしたまま、ただ怠惰にベッドに身をゆだねているだけだった。思考すら、部屋いっぱいに広がった夏に侵されて働かない。
(   )
――ごく近しい者の筈だったのに、男の顔はどうしてか思い出せなかった。
残像や感触やベッドに残ったにおいすら、耳元で騒ぐ蝉の声に紛れてみるみると現実感を失ってゆく。
彼のひらけた唇は乾いて乾いて、その奥の咽喉は張り付くようだった。
あの琥珀色の液体、とフェイタンは思う。冷蔵庫を開ければすぐに手に入れられるはずのあの琥珀色の液体!
ただの烏龍茶を求めて喘ぐくちびる、知らず発した音は獣の唸り声のようなもので、フェイタンは少し笑いたい気分になった(或いは泣きたい気分だったかもしれない)。
あの冷えた水分さえあればこの手足も、蝉の声も、部屋で溢れかえった夏も解消されるものだとフェイタンは半ば信じ込み、だけれどそれを取りに行く気力はない。倦んだ手はもう少しだって動きたくないと主張する。……蝉の声…
(   )
彼は、どうして行ってしまったのか。
冬の夜より夏の夜の方が寂しいと言ったその口で、どうしてこんなに咽喉が乾いた状態の自分を置いて仕事に帰ってしまったのだろう。置いてゆかれる寂しさだって同等に、冬より夏の方が顕著なのに。
フェイタンはベッドサイドに置かれた本の褪せた表紙をちらりと見て、ひろがる鬱陶しげな髪を見て、それからだるい手足を意識した。てんで焼けていない肌を見る忌々しげな視線…、

そうして突如、ふつり、という音が夏に満ちた室内に響いた気がした。あんなに耳元でジリジリと騒ぎ立てていた蝉の声が消えたのだ。
振り向いた知覚がとらえたのは、部屋の隅の空虚だった。
(   )
(   )
(ああ、のどがかわいた…)
彼に、動く気力はまだない。
一週間の命を終えた蝉の亡骸が、大きな窓から刺す陽射しにうたれ、美しい琥珀色にてらてらとつやめいていた。蓋しうつくしい、琥珀色だった。

蝉の声はもうしない。
相変わらず寝転んだ姿勢のまま、夏が終る、とフェイタンはおもった。

「ただいま」
「フィンクスどこ行てたか」
「うっわお前だらけてんなぁ、ちょっと酒盗ってきただけだよ」
「フィンクスのくせに勝手に外にでるな。暑さでお前の存在を忘れかけたね。ささと烏龍茶持ってくるよ」




・:*:・・:*:・
何が書きたかったのか・・・

xxx0802 at 20:42|PermalinkComments(0)TrackBack(0)フィンフェイ 

September 15, 2005

So-Far.(ヒソフェイ)


溢るるバックミュージック/蝉の声、朴訥とした抑揚で滴り落ちる感情、むらさきの宵空、青々とした山脈におちる雲の影の(メディアに侵された)反リアリティ……、
そんなものが一くくりにして無造作に放り出されたような夏の、雑路の片隅でフェイタンはヒソカと出会って、そうしてわずかな間もなく唐突に舌打ちをくらったのだった。
「なんだ、フェイタンじゃないか」
「・・・」
「待ちなって、つれないなぁ」
ヒソカは目を細めて笑い、まぶたの裏の目の力を誇示するのでフェイタンは少し苛苛する、垣間見えた蛇の紫のそのあざとい色。
フェイタンは彼の横をすり抜けようとして歩みだすが夏でも長い袖に覆われた二の腕をつよい力で引っ張られたのでそれをパシリ、と冷酷な平手で払ってみせた。ヒソカが少し驚いたような顔をするのを横目で見やる。(フェイクだ)――触られた部位が生ぬるい。人のまとわりつくような体温よりは外の刺すような熱の方がまだマシだと、フェイタンは夏の間、常々思っている。
「つれないなあ、相変わらず」
「次ワタシに触れたら今度は刺すよ」
「ひっかくって意味? 猫ちゃんみたいだねぇ君」
「・・・・・・」
「それにしてもさ、ぐだんぐだんじゃないの、君」
「夏は苦手よ」
「それはそれは」
世の定石だよね、なよっちいコは夏に弱い、とヒソカはわざとフェイタンの神経を逆なでするために言い放ち、まあちょっと付き合えよ、と嫌な顔をするフェイタンの腕を再び掴んだのだった。




ところでどうせ連れて行かれるのは裏酒場か何処かだろうというフェイタンの予想に反して、ヒソカが入っていったのはスターバックスのオープンテラスであったので彼は逆にうんざりする、この暑い真夏日にあの燦燦と陽を浴びた白いオープンテラス!静かな喧騒にみちた薄暗い、現代人が好みそうな(軽薄な)モダンを気取った店内のソファにはまだ随分空きがあるというのに、ヒソカは心なし嬉々とした足取りで外の席へと向かってゆく。空調が発す小さな機械音が、ひやりとした空気が名残惜しげに耳に届いて、フェイタンはとうとうコーヒーをトレーに乗せて歩くヒソカを呼び止めた。
「席、ここでいいね」
「中で飲むなんて来た意味ないだろ?」
「外にいる方が来た意味ないよ」
「いいからいいから」
……、
………、
黒色のラインの入ったスニーカーが自動ドアの線を越してアスファルトを踏み潰す。
(オープンテラスの白さはいっそ嫌味だ)
結局外にあるかたい椅子に腰掛けたフェイタンがそう思って、ふとヒソカの腕に結わえられた腕時計の柄に目を向けた。蜘蛛柄。…嫌味だ。
ごつごつとした骨が露出する手首の、すぐ横に食い込むように嵌められたその時計はどうやら本革を使っているらしく、見つめているとてらてらと艶かしく光った。
二枚重ねの薄いタンクトップから伸びたうつくしい腕(いくらヒソカが嫌味でもそれは認めざるを得なかった、フェイタンは自分の偏った感性においてはひどく公正だ)(そうしてフェイタンはあの腕になら、少しくらいキスしてやってもいいかなと思っている)にその腕時計はとても似合い、フェイタンの視線に気づいたヒソカはしかし、ただ唇の端をシニカルに上げてコーヒーに砂糖を入れかき混ぜはじめるだけだった。嫌味だ。
「暑い」
「君もなかなか煩いね、奢ってあげたんだからこれくらい我慢してほしいな」
「…・・・そもそもなんでお前ここにいるか」
「そういう質問は会った最初に言うべきだよね。ボケてるのは夏のせいかな?」
「そうでもないよ」
「・・・」
「なに笑てるか」
ヒソカと会話を交わしながらもフェイタンはぼんやりと、白色のパラソルから刺し込み続ける光のことを気にし続けていた。
フェイタンはごくまずそうにコーヒーを啜る。普段の傾向からブラックでも頼むのかと思いきや、彼の頼んだものはキャラメルフレーバーのコーヒーで、ヒソカはほんの少しだけそれを微笑ましく思った。(夏の間は糖分を控えると決めているのでヒソカが頼んだのはノーマルのコーヒーフラペチーノだった、無論シロップなんかは入れない)
ヒソカの腕では相変わらず、蜘蛛の時計の毒のある美しさがてらてらとひかっている。もはや耳に馴染んだ蝉の叫び声、あの音に何かを投影しようだなんてとんだお門違いだ。
彼らはただ鳴いているのであって、別に魂の叫びでも、夏の象徴でも何でもない筈なのに。

「ねぇ、フェイ」
「…」
「"フェイタン"」
「何か用か」
「興味ないけど暇だから聞いてあげるんだけどね、なんで"夏が嫌い"なの?」
「焼けるから」
「馬鹿じゃないの♪」

どうやら本当に暇らしいヒソカの声を適当に聞き流し、パラソルから降る見えない光の筋を親の敵のように睨み付けながら、フェイタンはどの日焼けどめを買おうか真剣に思考をめぐらせていた。SPFは50?65?

溢るるバックミュージック/蝉の声、朴訥とした抑揚で滴り落ちる感情、むらさきの宵空、青々とした山脈におちる雲の影の(メディアに侵された)反リアリティ……、それから夏を凝縮したような紫いろのフェイタンの目。
腐食しかけの夏は相変わらず、そこかしこに無造作に、放り投げられてただ放置されていた。蝉が鳴く。フェイタンのコーヒーの上に乗ったクリームの塊が、無残にスプーンで潰されてぐにゃりと崩れる。そうしてフェイタンは優雅に立ち上がって少し微笑んでみせてから、白色のオープンテラスにヒソカを残して、冷房の効いた店内へと移動して行ったのだった。


・:*:・・:*:・
これ最初シズクとレオリオで書いた。
「どんな二人だよ!」と自分ツッコミが入ったのでヒソフェイに変更。
フェイタン大好きです。

9/15
ちょっと修正しまひた。

xxx0802 at 19:48|PermalinkComments(0)TrackBack(0)ヒソフェイ 

On behalf of.(セルヒナ/アイシールド21)

暴走する言葉の夜に必要なのは家から100メートル先にあるコンビニのあの光だ。

散乱した部屋の中から家の鍵を見つけることはとうとう出来ず、居間で寝ているケルベロスを玄関まで転がして番犬に置いてゆこうとしたが予想外に重かったため早々に諦める。
ケルベロスはでかい目をうすく開けて寝惚けた顔でこちらを見やったがすぐに興味なさそうにまたごろりと腹を向いて寝始めた、犬の鼻先で扉を閉めてそっと鍵をかけた筈が予想外に音がひびいて少し驚く、

暴走する言葉の夜に必要なのは家から100メートル先にあるコンビニのあの光だ。
人気のいなくなった店内に間抜けな音と一緒に入ると「いらっしゃいませ」けだるげな店員の声が俺を追う。ヒル魔はもっと気だるげな気分になってゆるいBGMを軽く聞き流しながら店の隅っこに重ねてあった原色の黄色いカゴを手に取った、概ね好調だ。
コンビニの床は今日も奇麗に磨き上げられていて、用途の違うものが雑然と並べられた狭い空間の中を俺は彷徨う。雑誌と日用品の棚を行きすぎ製菓コーナーを見つけて立ち止まる。ここで必要なのは購買欲であって言葉じゃない、暴走する必要もない。
てらてらと光る真っ白い床と同じ色をした蛍光灯の中を進んで行くと黄色いカゴの中はみるみる物で溢れた。原色で描かれたチープなデザイン、誇示するのはうまいとか産地とか甘いとかまあ、そういう分かりやすい謳い文句だ。カゴの半分が埋まったところでつやつやに磨かれた飲み物専用の巨大な冷蔵庫と向かい合い派手な色をしたペットボトルを手にとる、がこん、と空いた空間に新しいペットボトルが転がり落ちてきて同じものをもう一個とって、ヒル魔はようやく身体の中からため息が抜けていくのを感じた。
−−−−(空虚だ)とか思う感傷をあいにく俺は持ち合わせていない。ガコン。

それで黄色いカゴの中がほぼ埋まったことに満足した彼はそのまま菓子でいっぱいに詰まったそれを店員の前に押し出す、揃いの制服を着て皆同じような顔をした店員はちらりと俺の顔を見てから何事もなかったようにバーコードを読み取っていった。
てらてらと光る真っ白い床と同じ色をした蛍光灯の中で赤い光が瞬いては瞬く。
俺は少し目をつぶってまた開く。自分のものになりつつある原色のサワーはただ原色に存在を誇示している。赤い光が所有印のようにまた光って店員がだるそうに合計価格を告げた、金を出して釣りを受け取る。−−−さあこれで原色の安酒は白く四角い店から開放され見事俺のものになったってわけだ。
安っぽいビニール袋が発するがさがさという間抜けな音に見送られながら店を出る。店に入ってから出るまでのおおよそ10分間に言葉は全く必要なかった、光が遠ざかる、ああ素晴らしきコンビニ文化。

自動ドアを潜り抜けたら一つ目の包みを安っぽい音と共につまみ変わりに買った金平糖を口に放り込む。(金平糖がグレープフルーツのサワーに合うことを意外とみんな知らない)それからどこへ行くともなく歩く。
砂糖でできたそれはすぐさま溶けてしまうから彼はすぐに次の包みを開かねばならなかった。開けながら食う。歩く。また開ける。無心のエンドレス・リピート。
そんなことを繰り返し食べたものと残っているもので袋の中がぐちゃぐちゃになりはじめた時、目の前の道の先にはまた違うコンビニの光が見えた。
その白い清潔な狭い店内を見つめながら八つ目の菓子の袋を開けた時、彼は多分、セナに会った。



自分のまわりを駆けめぐる空気がじくじくと慢性的にたゆたって、自分構成の要素が不足して、まず犠牲になるのはまっすぐに伸びた十本の爪だった。気持ち悪い、と思う。
日々成長を続けるたんぱく質の塊は蛍光灯の光を反射しててらてらと艶めいており、至極勝手に体の面積を増やし続けている。気持ち悪い、そう思った時には、気付くとその自由奔放に伸びた白っぽい爪を無意識に歯で噛み切っている。我ながら幼稚な癖だとは思うが中毒のようなものなのだから仕方がない。

そしてその気狂いの夜に安っぽいビニール袋を提げた爪先もやはり短かった。
先のコンビニにはなかった品種の金平糖を新たに無造作に掴んだその傷んだ指先に、けだるげな夜と曖昧な思考に、そうしてひどくきっちりした声が闇を裂いて(なんて陳腐で見合った表現なのだろう)届いた。
「ヒル魔さん?」
(あーあ)
爪の甘皮をはぐみたいな声に、運がわるい、と思う。
この甘ったるい夜に、その適当なところがひとつもないような容貌と声はてんでそぐわない。
駄菓子をつまんだ指を停止させたままでゆっくり振り向くと、そこにはやっぱりセナが、目をちょっと開いて立っていた。もっとも声の調子を聞いた瞬間から彼だということはわかっていたが。
「あぁ・・・ファッキンチビ」
俺とコンビニしかなかった筈の夜の最中にセナは立っていて、二番目に近いコンビニの明かりは奴の後ろで煌々と灯っている。
手を伸ばせば届くのはコンビニよりセナの方で、ビニール袋が間の抜けた音でまたがさりと鳴った。
甘いものが食べたいと思う。セナはとりとめもなく言う、
「…苛ついてます?」
「   」
「あ、いや、急にごめんなさいっ!」
言葉、が。
体の奥から喉元に這い上がって、逆流しそうになるのを留める。つめを噛みたくなる。
菓子の原色のパッケージが半透明な袋ごしにちらりと見えたがどうしても、セナの前でそれを食う気にはなれなかった。唾がたまって咽喉が猫のようにごろんと鳴った。
「別に」
やばい、と思う。看破されている。暴走する。普段は呆けているくせに、セナは時折、とんでもなく鋭い。
曖昧な夜を引き裂くようにして彼の目が黒く光っていた。やわらかく誘うように艶めいたそれに見つめられて、俺は今の生活を全部捨てて白夜叉と呼ばれていた頃に戻ってしまいたくなる。言葉が暴走する夜、それを思う。
「ヒル魔さん」
ひるまさん、とセナが奇麗な発音で彼の名を呼んだ。袋を握っていた手に力が入りすぎて少し震えている。唐突にじゃない、今日は、今日だけは駄目だ。だから誰とも喋りたくなかった。
「…なんでわかんだ?」
「え?」
「俺、がイラついてるとかなんとか」
「いや・・・なんとなくですけど、僕のことファッキンチビって呼ばなかったから」
「それで、なんで俺がイラついてることになるんだよ?」
コンビニが、光っていた。セナの存在感は闇にとけたように稀薄だったが、目だけが過去に呑まれそうになる彼を咎めるようにただ鋭い。
セナは何か考えるようにして、それから何事かを言おうとして躊躇っては止める。
菓子でいっぱいになった袋を見やって眉をしかめ、それから俺の短いつめを見て、多分焦燥とかそんなもので必死になっている俺の形相をもう一度見つめてから彼はもう一度夜を裂いた。「何を苛ついているのかは分かんないけど」そう言う。
「僕には必要ないですよね?」
「…」
「必要ないですよね?」
ゆっくり区切りながら、諭すようにセナが言う。ヒル魔はなんとか小さく首肯することに成功してああ、と声を漏らすと、彼がよわく微笑んだのがわかった。まろくなんてない、毅然としたいつものあのやりかたで。
肩を小さく叩かれスニーカーが蹈鞴を踏む音がした。ようよう一歩下がった彼に俺の甘い自意識は漸く回復し始めた。
…それでいい、と思う。セナに頼ってはいけない。彼といると自分の中のどろどろした深いモノが拡散して無くなってしまって、そして暴走は止められなくなり、甘い夜と曖昧な思考はたちまち霧散してしまうだろう。


いくら暴走していても、たとえ死んでも、助けてとかそういう言葉だけは言えなかった。
また明日、と言い置いたセナの後ろ姿がゆらゆらと遠ざかってゆく。やっぱり看破されていると思う、100メートル先でコンビニが光っている。
これからもう一度コンビニに入って無言で黄色いカゴをいっぱいにして帰ってやろうと思った。その場所で言葉は必要なかった。暴走する心配もない。
甘いにおいがするビニール袋を短くなったつめで握り締めて、家への道を、甘ったるい夜を掻き分けて進む。彼の姿はもう見えない。菓子を手にとる。「ひるまさん」 セナの声で自分の名前を思い出す。

暴走する言葉の夜に必要なのは、家から100メートル先にあるコンビニのあの光だ。

・:*:・・:*:・
ケルベロスって確かヒル魔んちに住んでない。


xxx0802 at 19:41|PermalinkComments(0)TrackBack(0)他ジャンル 

September 10, 2005

For wamt of...(フィンフェイ)


アルコールがまわってきたので世界が逆さまに見えた、
もしもまだ生きていて、それで俺のこんな姿を見たら、パクはまた怒るのだろう、そして仕様がないなんて刺々しく言いながらも家に連れ帰って毛布のひとつでもかけてくれるに違いない。ウボォは多分、豪快に笑いながら俺をつまみに残りの酒でも飲むのだろう。
嗚呼、それは美しい思い出なんてもんでは全くない。−−−フェイタンなら、愉快とばかりの無表情で寝転がってる俺を足蹴にでもして、


雪が降ってきて道理で寒いなと思った。一人だからじゃない、一人はとても、良い。
けれど離れれば離れるほど遠くへ行った奴らの顔が浮かんできて俺はまた畜生と思った。意味も分からず思った。アルコールがまわっている。くらくらする。気分が 良い 。
「っはははは!」
呂律が回らないので何か言いたくとも乾いた笑いしか出てこない、すれ違った誰かがゴミでも見るような目で俺を見た。湿った口内は満たされている筈なのに無性に喉が渇いて粘膜が張り付いている感覚がした。

アルコールがまわってきたので世界が逆さまに見えた、
フェイタンの顔がまた浮かんできて、会いたいなどと思った自分に腹がたって憂さ晴らしに鎖野郎でもころしたいと思った。こんなことフェイタンに言ったらヤツはあの奇麗な顔でいつものように狂っていると吐き捨てるだろうか。それが見たい。ああ、また。
壊れた機械みたいに同じところを繰り返している。繰り返し続けるとやがて壊れるんだろうか、俺も。
道端に落ちていた石を蹴ってつまづいて人気のない砂利道に倒れこんで少しわらってわらって毒づいた。雪が降っていた。

ひどく、喉が渇いている。




・:*:・・:*:・
お酒飲むと支離滅裂になっていい思い出とか悪い思い出とかごっちゃになって遡ってきてワケわかんなくなるよなぁと思いながら未成年のわたしが書きました。

xxx0802 at 14:04|PermalinkComments(0)TrackBack(0)フィンフェイ 

September 04, 2005

白黒色ギシンアンキ(クロマチ)

モノクロームの女の影を振り切ろうとクロロを連れ出したはいいがひどい曇天と豪雨だったのであたしは早速苛苛する、白黒の世界はモノクロームの女の得意場所。これでは振り切れない。
何故連れ出されたかもわかっていない筈のクロロはやはり何もわかっていない顔をして、早く雨宿りを、とか何とかほざいている。(この唐変木) レトロな罵倒を胸の中で呟いてみたら女の影も少し薄まったような気がしたので漸くあたしは少し安堵して、のろのろとした動作でクロロをマンションの中へ入れてやることにした。

モノクロームの女の影をあたしが意識し出したのはちょうど一週間前のことだった。
彼女はうつくしく、清廉で、さして頭はよくないが聡明で大人だった。
もしもクロロが彼女の姿を目にしたらきっと瞬く間にあの女の姿をした何かに夢中になり、すぐにあたしのことなんて忘れてしまったに違いない。だからあたしは彼女を憎んでいた。この感情はそんな、生易しい嫉妬などでは決してない。これは呪詛だ。呪いなのだ。

そこまで考えたところで、家を出る前死ぬほど入念に掃除した淡い若葉色の絨毯を自分の服からおちた水滴が汚したのであたしはまた少しいらつき始める。若しかしたら彼女もこちらに呪いをかけているのかもしれない。全く、そうに違いない。
染みはどす黒い色を以て絨毯にじわじわと不正確な円を描き出していたし、髪は雨に濡れたままで気持ち悪かった。クロロが我が物顔で部屋の敷居を跨いで話しかける。
「それで、話とは何だ? わざわざお前の家に呼ぶくらいだ、重大な話なのだろう?」
だって、と思って上目遣いに睨む。別にかわいらしさを演出したい訳ではなく、家へ入るなり足を高く組んでソファに腰掛けた自分と手持ち無沙汰に立っている彼の位置関係では必然的にそうなるというだけの話だ。
「いいじゃないの別に。重大じゃなかったら、呼んじゃ駄目っていう決まりでもあるの?」
(だって)
(あの女と一緒じゃあ出来ないだろう、何も)
突然横に座られても苛つくが立っていられるのも癇に障る。先ほどからあたしの頭ではまともな思考と語彙が作動していない。
苦々しげに椅子を勧め、座りかけた彼と入れ代わりに立ち上がって部屋の大きな窓のカーテンを乱暴に閉めると、ざあざあと煩かった雨の音も少し弱まったような気がして詰めていた息を漸く吐く。「マチ」「なに、」彼の台詞を聞き流しながら、ついでだから照明も全て点けてしまえと思う。パチン。照明は大仰に人工的な明るさを作り出しリビングから影を連れ去ってしまった。クロロが眩しそうに目を顰める。
中途半端に翳る薄暗いような明るさが嫌いだから、この家にはコンビニ並に強力な照明器具がいくつもあった。
赤い皮のシンプルなソファが、光をうけててらてらと輝いている。
灯しつくされた世界はどこか絵空事のようで、そこで交わされる何もかもがリアルを失っているというのに、モノクロームの女の影だけが凄まじい存在感を持って空中の斜め上辺りを漂っていた。
彼女はいつもそこかしこにいるのだ。そうしてあたしと、彼を見ている。賢そうなやわらかな目で、あたしたちの関係が破綻するのを待っている。
マチ? クロロがまた、あたしの名を呼ぶ。
「だから何」
「何をイラついているのか、いい加減話したらどうなんだ?」
――部屋は。部屋は、目も眩むような明るさで満たされていた。時折小さなキッチンの換気扇が回る音と電気がうなる声が響いて、あたしの中ではモノクロームの女が更に実体を持って立ち上がる。部屋に影はない。彼女は普遍的な濃い茶色の、少し癖のあるふわふわした髪を持ち、軽い素材のスカートを履いてほそい足をこれ見よがしに露出していた。
足を支えるミュールは華奢なデザインだが、地面に接触しているのは歩きにくそうな細いヒールではなく、なだらかなカーヴを持ったウエッジソールだ。靴の一部である細く赤いリボンが引き締まった白い足首にきつく巻きつけられていた。
蝶々結びのリボンが揺れる。薄桃色のグロスで丁寧に飾ったくちびるが静かにひらいて、女は彼を巧妙に誘惑する。誘惑という言葉もそぐわないほど、彼女の行為は上品で清楚だ。
騙されてはいけない、それは何もかもが細くまろみを帯びた女の体が、きちんとアイロンをかけたシャツとスカートで覆われている所為だ、とあたしは思うが口出しすることは出来ない。
頭の中だけで決着はつく、極彩色のモノクロームの女、クロロがあたしを呼んでいるが本当は彼の心にいるのは彼女なのだ。自分には持ちようもない女性的なラインとくるんと巻いた上向きの睫。量が少ないのがかわいらしい。あたしは彼女を呪っている、あたしは、
「マチ」
今日三回目になる、実体を持つ、彼の声が白い部屋に響いた。
「え、あ、…何」
「何か怒っているのなら言ったらどうだ、と言っている」
そうして彼は珍しくカルシウムが足りていないような顔をして、照明をたっぷり浴びたソファから立ち上がる。カーテンにクロロの影がうつってあ、と思う。狭いリビングで自分と彼との距離はみるみる縮まり、モノクロームの女が不適にわらった。彼女は虎視眈々と破綻を狙っている。まるで野性動物が獲物を狙うように、じりじりと待っている。
思考する暇も与えずクロロがあたしの目の前に立った。大した身長差はないが今の彼はちゃんと威圧感を備えているから、いつもより少し身長が高くみえる。
「最近構ってやれなかったことは、謝る。悪かったな」
「…うるさいよ」
彼女がぎくりとして身を竦める。あたしは心の中だけでにやりと笑う。
何もわかってないような顔をして、クロロはちゃんと、分かっていたのだ。
(あたしの勝ちだね)
苛苛は、その瞬間と共に霧散した。
これ見よがしに抱きついてみれば手馴れた彼の腕が腰にまわったのであたしはまた勝利を確信する。調子にのって顔を近づければ額にキスをおとされて、一旦離れた薄い唇が耳元に移る。彼の色気交じりの吐息がかかりくすぐったくて身を捩れば、片手で頬を固定され、彼のもう片方の手は鈴を結びつけた髪をなぞってから首のラインを執拗に辿る。短く揃えられた爪を持つ親指が顎を掠めて下へ下へと落ちてゆく。全てはひどく甘やかな空気の中で行われた。照明があつい。窓の外では相変わらず盛大な雨音がしたが、甘美すぎて息もつけない応酬に、彼女のことを考える余裕は終ぞなかった。
(――だって)
(モノクロームの女の前でやらなきゃ意味ないでしょ)
部屋は完璧に光で満ち溢れていた。赤い皮のソファが誘うように艶めいている。
一旦彼の手から逃れ今度は確信的にクロロを見上げれば、ソファに倒されそうになったのでなんとか手をつっぱねて息をつく。そうして問う。モノクロームの女。
(モノクロームの女の影をあたしが意識し出したのは、ちょうど一週間前のことだった。)
「クロロ」
「何だ?」
「先週の土曜日、何してた」
「? フィンクスと飲んでた」
そう。そうしてあたしはにっこり笑う。やっぱりね。



不安になった時だけ、頭の中に現れて幻のクロロを誘惑する女がいる。彼女はその時ごとに顔も髪型も香水も違っていて、あたしはそれを便宜上モノクロームの女と呼んでいた。最初に現れた実体のない彼女が、まるでモノクロフィルムの映画のように白黒だったからだ。
頭の中に住む彼女の影は今はもうごく淡く、今にも消えそうだ。
本当は君なんていないんだ、と笑うとモノクロームの彼女は素早く唇だけを動かして何か言い返した。そうして頭の中で弾けて消える。彼女のいた空間には、嗅いだことのない香水のにおいが漂っている。今日も自分の勝ちだ。

さよならモノクロームの女。
そして勝利者のあたしは、赤い皮のソファの上でそっと、彼のキスを待った。



・:*:・・:*:・
なんかクロマチ書こうとするとマチがこんなんばっかになる・・・
体育祭でリレーの順番待ちながらふと思いついた話(なんだそりゃ)


xxx0802 at 19:59|PermalinkComments(0)TrackBack(0)クロマチ