July 2005
July 31, 2005
口づけに紫、ノイズ。(ヒソクロ)
目に、殺されそうだと思う。
鋭利、怜悧、それはそんなただの外見的なものではなくて、混沌や哀しみや憎悪や衝動、そんなもの全てが複雑に入り混じった欲望の瞳だ。思い憧れる。嘘がいっぱいに含まれたら人間の瞳はみんなこんな風になるのだろうか。美しい紫は何かの代償なのだろうか。
「こわい目だね、君のこれは」
そう言って彼の眼球にちろりと舌をのばすと、
「俺は、ヒソカの目の方が怖いけど」などと憮然とした調子で返された。
だらしなく肌蹴られたシャツからちらちら見える、クロロの意外に華奢な骨格と薄くついた筋肉を少し眺めて、視線をやっぱり元に戻しながら一つの明確な意思をもって、思う。
ここは何処なのだろう。狂いそうな春宵にはまだ早く、殺伐とした清廉な冬の冷気もない。自分の家のくつろげる雰囲気でもなければ、完全な外界の敵意ある空気でもなかった。
世界はただ曖昧で、黒炭を溶かしたような濃密な闇の、絶対的な黒色の中で彼の目だけが北斗七星の指針のようにひかっている。
月が出ていたら奇妙なくらいクロロと合致するだろうななどと思ったがその目をじっくりと観察するためには今のままでいいのかもしれない、台詞とはてんで別方向に働く思考回路。
「僕の目、怖いかな」
「うん。でも、だからと言って別にお前が恐いわけじゃないよ。好きなわけでも、ない」
「僕は好きなのに」
「 」
ノイズ。
なんでもいいからその唇を閉じればいいと思う、その目だけを見ていたい(そしてそれは全くロマンチックな理由ではない)。吐息がかかる。水っぽい音。侵入するやわらかで官能的で長い舌。絡まって捕らえられたのは視線だと思った。
彼が何か言っている。彼のせっかくの、あえぎ交じりの熱っぽい声がノイズにかき消される。
ノイズ。紫色の瞳が近付いてきて頭がくらくらして視界はぼやけ唐突に弾けた。笑っている余裕なんてない。言葉を交わす余力もない。
混沌か哀しみか憎悪か衝動かそれとも欲か、入り混じって近付きすぎた目から何かを読み取るのはもう不可能だった。ただ薄いその色はどこからかの光をうけててらてらと、ぎらぎらと艶めいている。混在する理性。獣。叡智。始まり。終焉。――ああ、魅入られてしまった。
「ヒソカ、そのカオ変態っぽい」
「何を今更」
「うん、俺も自分で思った」
もう目前まで迫ってきた紫をしっかり見つめながら、多分自分は、その目に本当に秘められたものが何なのかを知りたいのだと思った。
うつくしい紫の、その先の何かを。
・:*:・・:*:・
ヒソカもクロロも単体で好きなのに、何故かヒソクロは好きくない。のに、書いちゃう私。
鋭利、怜悧、それはそんなただの外見的なものではなくて、混沌や哀しみや憎悪や衝動、そんなもの全てが複雑に入り混じった欲望の瞳だ。思い憧れる。嘘がいっぱいに含まれたら人間の瞳はみんなこんな風になるのだろうか。美しい紫は何かの代償なのだろうか。
「こわい目だね、君のこれは」
そう言って彼の眼球にちろりと舌をのばすと、
「俺は、ヒソカの目の方が怖いけど」などと憮然とした調子で返された。
だらしなく肌蹴られたシャツからちらちら見える、クロロの意外に華奢な骨格と薄くついた筋肉を少し眺めて、視線をやっぱり元に戻しながら一つの明確な意思をもって、思う。
ここは何処なのだろう。狂いそうな春宵にはまだ早く、殺伐とした清廉な冬の冷気もない。自分の家のくつろげる雰囲気でもなければ、完全な外界の敵意ある空気でもなかった。
世界はただ曖昧で、黒炭を溶かしたような濃密な闇の、絶対的な黒色の中で彼の目だけが北斗七星の指針のようにひかっている。
月が出ていたら奇妙なくらいクロロと合致するだろうななどと思ったがその目をじっくりと観察するためには今のままでいいのかもしれない、台詞とはてんで別方向に働く思考回路。
「僕の目、怖いかな」
「うん。でも、だからと言って別にお前が恐いわけじゃないよ。好きなわけでも、ない」
「僕は好きなのに」
「 」
ノイズ。
なんでもいいからその唇を閉じればいいと思う、その目だけを見ていたい(そしてそれは全くロマンチックな理由ではない)。吐息がかかる。水っぽい音。侵入するやわらかで官能的で長い舌。絡まって捕らえられたのは視線だと思った。
彼が何か言っている。彼のせっかくの、あえぎ交じりの熱っぽい声がノイズにかき消される。
ノイズ。紫色の瞳が近付いてきて頭がくらくらして視界はぼやけ唐突に弾けた。笑っている余裕なんてない。言葉を交わす余力もない。
混沌か哀しみか憎悪か衝動かそれとも欲か、入り混じって近付きすぎた目から何かを読み取るのはもう不可能だった。ただ薄いその色はどこからかの光をうけててらてらと、ぎらぎらと艶めいている。混在する理性。獣。叡智。始まり。終焉。――ああ、魅入られてしまった。
「ヒソカ、そのカオ変態っぽい」
「何を今更」
「うん、俺も自分で思った」
もう目前まで迫ってきた紫をしっかり見つめながら、多分自分は、その目に本当に秘められたものが何なのかを知りたいのだと思った。
うつくしい紫の、その先の何かを。
・:*:・・:*:・
ヒソカもクロロも単体で好きなのに、何故かヒソクロは好きくない。のに、書いちゃう私。
July 26, 2005
クラシカル・アイズ(フィンシズ)
ひどく乱暴なセックスの後にやってくるのは熱帯夜の気だるい睡魔で、そんな晩に夢はフィンクスの脳裏にはやってこないのだった、決して。
深くて短い眠りが覚めかけた後朝(きぬぎぬ)の夜、瞼中に溢れる捕らえきれない光の波の中で、狙撃音のような音が遠く近く響いたような気がして目を開けた。
AM 2:54 、
携帯のサブディスプレイの表示された緑の電子光が時間を告げるのを視線だけで確認する。身動きせずに暗闇の先を凝視する目は、きっと青白く光っているんだろう。
低い窓の先、生理的に潤んだにぼんやりと、赤や青や黄の卑俗なネオンが瞬いた。
汗ばんだ体はそれでも睡魔を求めて、全身は泥につかったようにダルい。
(――連絡はないな)
今はしんと静かな城に溶け込むようにただ沈黙を守っていた。
ぱぁん。
夢から覚めても響いたままの遠い破裂音は、どうやら自分には関係のない世界で鳴っているらしい。
すさまじいくらいに湿気のある夜だった。
一度起きてしまったものを再び眠る気にもなれず、目を開けたまま安っぽいベッドの上に横たわっていたら、唐突にぎしりとベッドが鳴って生ぬるい体温がこちらの方へ移動したのを感じた。背に伸びた彼女の熱い手が、そのまま背筋を上へ辿って横向きに寝転んだ自分の髪に触れる。
「…フィンクス、起きた? どしたの?」
「なんか、爆音が聞こえて」
「うそぉ、なんにも聞こえなかった・・・奇襲?」
「いや、夢ん中だったっぽい」
「あ、そう」
自分のふざけた返事に怒りもせず、シズクは眠そうに目をこすりながら身体をおこした。
低い窓が映すのは鉄塔と電線とネオンと、壊れた建物の残骸。
この廃墟で(勝手に)寝泊まりするようになってから三ヶ月、隣にシズクが眠るようになってからは未だ、一週間程しか経っていない。
暑いな、と誰かに答えを求めるわけでもなくそう言って、フィンクスは素足のままかたい床に降り立つ。ぱぱぱぱぱ、何処か遠くで響く破裂音などには構いもしないで、床に散乱した雑誌類を避けてむきだしの配水管がある部屋の隅へと向かい、無造作に頭から水をかぶった。
唯一の光源はデジタル時計の青い光だけで、それも大して視界を助けはしない。
きちんと視野を確保する明かりなんてこの部屋ともつかぬ部屋にはなく、ただ勢いよく滴り落ちる水音とずきずきと痛む腰の鈍い音のみが、暗い部屋での感覚を支配していた。
額にふつりと浮かんできた汗を手でぬぐっていると、暗中から人影のシルエットのみになったシズクが声を投げかけて来た。
「フィン」まるで、とりとめもなく。「眠れないの?」
「目が覚めちまった」
「寝苦しい?」
「いや?」
「ならいいんだけど」
音も影も、静寂をまもる。ベッドから上目遣いに見上げる低い窓からは、切り取られた同じ光景しか映らずまるで変化がない。ぱぁん。何処の誰が争っているのか。
−−−争うのか? 曖昧に思う。こんな平和な熱帯夜に。
「…そろそろ寝るよ」
一つ間をおいて空白の時間、溜息を吐いて目の上で両腕を交差させる。瞼にかかる程良い重みが心地良い。
目を開けていても真暗な視界は同じなのに、目を閉じると全てが覚束なくて、目の裏にはいくつもの小さな光が瞬いた。電子光のようなデジタル。収束して霧散する、幾度も幾度も、その繰り返し。
「何も、なかったよ」
シズクとのセックスはフィンクスにとってはとても大切なのに、シズクに優しくすればするほど、互いに、傷つけあっては舐め合うようなスタンスになってしまう。
水音はもう聞こえないが、熱さはいつまで経っても消えやしない。
「フィンクス」
もう一度人が側に立つ気配がして、黒一色の視界の中耳元で淡いフレグランスの香がした。
また、ちかちかと依然目蓋の奥に散らばる小さな光の中でスパークが散った、色とりどりの赤、金、ピンク、鮮やかな紫。脳裏の隅に、何故だか分からないが団長の微笑が浮かんだ。スパーク。全く、彼女はいつも上にいて、パーフェクトに冷徹で美しい。
不意に、シズクは闇だと思った。自分に近いけれど濃淡は違う、全てをやさしく抱き込むような、闇。
「フィン」
返事をしない自分に業を煮やしたのか、けれどおだやかな声がもう一度名前を呼んで、二人分の体重を支えるには安すぎるベッドのスプリングが低い声で鳴いた。
背に温度が襲って、首元に他人の髪と頭が埋められる感触。彼女はいつも無表情だけれど無感情というわけではなく、目が覚めた後にだけ我儘でやさしくなる。
熱帯夜に熱い吐息が自分の体の表面をかすめることにはもう慣れてしまっていて、くすぐったさに思わず身をよじると決まってシズクはわらうのだった。ぱぁん。彼はまるで、闇だ。
「夜明けはまだ?」
「もう少しだな」
「寝た方が良いんじゃない」
「お前もな」
自分の声が優しげなものになるのが厭わしくて、潤んだ湿気の中で目を瞑った。
瞼の先にはやっぱり何か弾ける光が見えたが、優しげに笑うシズクの声が被さった瞬間、それは目の前にヴェールをおとしたように曖昧なものになってしまう。
光が見たかった。鮮烈で強烈で鋭い光に、傷を、抉られたかった(と自分は知らず思っていた)。たとえば団長。あの鮮烈な美しさに刺されてしまいたい。
シズクが寄り添うような距離を保ちつつ寝返りをうつ。
狭い、と文句を言ってやろうかと思ったが背にあたる生ぬるい息がなんとなく心地よかったので止めた。
暑苦しい夜だった。遠くで空砲のような音が響いていた。は低い窓の先で熱気が潤みゆらゆら揺れていた。
瞼のうしろの鈍い光、自分を傷つける甘美な光は彼女がいると遠ざかってしまう、きっと。
そして多分自分は のだと思ってもう一度目を、閉じる。
隣にはどうしようもないくらいの温度と質量がある。
彼女の存在はひどく硬質で彼女は闇なのだ。思いが告げにくい、くちづけは甘くない、抱き締めても愛おしげにならない、無機的なセックス。
しかしそれが優しさそのものであることを自分は知っていた。シズクは求めているものをいつもくれた。巧妙に、フィンクスの中の自虐心を満たして隠して錯覚させた。
シズクといるとき、自分は傷つかなかった。
それは多分、出会った時分から。
「シズク」
彼女は眠っただろうか。
ぱりぱりに乾いた唇が発す、ひどく舌足らずな発音で、ふぃんくす、なに?と一言。
スパーク。瞳の奥に火花が散って外に響くのは破裂音。
優しくやさしい闇の中で、やわらかに湿気に潤んだ驚くくらい静かな廃墟の中で、そうしてほんの微かに呟く。
「救われたのかもしれない」
ぱァん。
一層大きな音がして何かが弾け、反射的に低い窓に目をやった自分はそれが花火の音なのだということを知った。
距離があるのか瞬く光はひどく矮小だったが、それでいい、と思って唇の端を吊り上げる。意味も分からず何かを壊さぬようにごく、そっと。
起きているはずのシズクからの返事はなく、そうして多分それが、返事そのものだった。
硬質で鈍く光っている心地よい闇、そして彼は自分の隣に存在していた。
疑うすべもないくらい、近くに。
・:*:・*・:*:・
フィンクスがなんかキモイ・・・!!
シャルでやれば良かったなぁと思いつつ、でもあたしフィンシズだしなぁ、とか。
最初クロマチのつもりで書いてました。
深くて短い眠りが覚めかけた後朝(きぬぎぬ)の夜、瞼中に溢れる捕らえきれない光の波の中で、狙撃音のような音が遠く近く響いたような気がして目を開けた。
AM 2:54 、
携帯のサブディスプレイの表示された緑の電子光が時間を告げるのを視線だけで確認する。身動きせずに暗闇の先を凝視する目は、きっと青白く光っているんだろう。
低い窓の先、生理的に潤んだにぼんやりと、赤や青や黄の卑俗なネオンが瞬いた。
汗ばんだ体はそれでも睡魔を求めて、全身は泥につかったようにダルい。
(――連絡はないな)
今はしんと静かな城に溶け込むようにただ沈黙を守っていた。
ぱぁん。
夢から覚めても響いたままの遠い破裂音は、どうやら自分には関係のない世界で鳴っているらしい。
すさまじいくらいに湿気のある夜だった。
一度起きてしまったものを再び眠る気にもなれず、目を開けたまま安っぽいベッドの上に横たわっていたら、唐突にぎしりとベッドが鳴って生ぬるい体温がこちらの方へ移動したのを感じた。背に伸びた彼女の熱い手が、そのまま背筋を上へ辿って横向きに寝転んだ自分の髪に触れる。
「…フィンクス、起きた? どしたの?」
「なんか、爆音が聞こえて」
「うそぉ、なんにも聞こえなかった・・・奇襲?」
「いや、夢ん中だったっぽい」
「あ、そう」
自分のふざけた返事に怒りもせず、シズクは眠そうに目をこすりながら身体をおこした。
低い窓が映すのは鉄塔と電線とネオンと、壊れた建物の残骸。
この廃墟で(勝手に)寝泊まりするようになってから三ヶ月、隣にシズクが眠るようになってからは未だ、一週間程しか経っていない。
暑いな、と誰かに答えを求めるわけでもなくそう言って、フィンクスは素足のままかたい床に降り立つ。ぱぱぱぱぱ、何処か遠くで響く破裂音などには構いもしないで、床に散乱した雑誌類を避けてむきだしの配水管がある部屋の隅へと向かい、無造作に頭から水をかぶった。
唯一の光源はデジタル時計の青い光だけで、それも大して視界を助けはしない。
きちんと視野を確保する明かりなんてこの部屋ともつかぬ部屋にはなく、ただ勢いよく滴り落ちる水音とずきずきと痛む腰の鈍い音のみが、暗い部屋での感覚を支配していた。
額にふつりと浮かんできた汗を手でぬぐっていると、暗中から人影のシルエットのみになったシズクが声を投げかけて来た。
「フィン」まるで、とりとめもなく。「眠れないの?」
「目が覚めちまった」
「寝苦しい?」
「いや?」
「ならいいんだけど」
音も影も、静寂をまもる。ベッドから上目遣いに見上げる低い窓からは、切り取られた同じ光景しか映らずまるで変化がない。ぱぁん。何処の誰が争っているのか。
−−−争うのか? 曖昧に思う。こんな平和な熱帯夜に。
「…そろそろ寝るよ」
一つ間をおいて空白の時間、溜息を吐いて目の上で両腕を交差させる。瞼にかかる程良い重みが心地良い。
目を開けていても真暗な視界は同じなのに、目を閉じると全てが覚束なくて、目の裏にはいくつもの小さな光が瞬いた。電子光のようなデジタル。収束して霧散する、幾度も幾度も、その繰り返し。
「何も、なかったよ」
シズクとのセックスはフィンクスにとってはとても大切なのに、シズクに優しくすればするほど、互いに、傷つけあっては舐め合うようなスタンスになってしまう。
水音はもう聞こえないが、熱さはいつまで経っても消えやしない。
「フィンクス」
もう一度人が側に立つ気配がして、黒一色の視界の中耳元で淡いフレグランスの香がした。
また、ちかちかと依然目蓋の奥に散らばる小さな光の中でスパークが散った、色とりどりの赤、金、ピンク、鮮やかな紫。脳裏の隅に、何故だか分からないが団長の微笑が浮かんだ。スパーク。全く、彼女はいつも上にいて、パーフェクトに冷徹で美しい。
不意に、シズクは闇だと思った。自分に近いけれど濃淡は違う、全てをやさしく抱き込むような、闇。
「フィン」
返事をしない自分に業を煮やしたのか、けれどおだやかな声がもう一度名前を呼んで、二人分の体重を支えるには安すぎるベッドのスプリングが低い声で鳴いた。
背に温度が襲って、首元に他人の髪と頭が埋められる感触。彼女はいつも無表情だけれど無感情というわけではなく、目が覚めた後にだけ我儘でやさしくなる。
熱帯夜に熱い吐息が自分の体の表面をかすめることにはもう慣れてしまっていて、くすぐったさに思わず身をよじると決まってシズクはわらうのだった。ぱぁん。彼はまるで、闇だ。
「夜明けはまだ?」
「もう少しだな」
「寝た方が良いんじゃない」
「お前もな」
自分の声が優しげなものになるのが厭わしくて、潤んだ湿気の中で目を瞑った。
瞼の先にはやっぱり何か弾ける光が見えたが、優しげに笑うシズクの声が被さった瞬間、それは目の前にヴェールをおとしたように曖昧なものになってしまう。
光が見たかった。鮮烈で強烈で鋭い光に、傷を、抉られたかった(と自分は知らず思っていた)。たとえば団長。あの鮮烈な美しさに刺されてしまいたい。
シズクが寄り添うような距離を保ちつつ寝返りをうつ。
狭い、と文句を言ってやろうかと思ったが背にあたる生ぬるい息がなんとなく心地よかったので止めた。
暑苦しい夜だった。遠くで空砲のような音が響いていた。は低い窓の先で熱気が潤みゆらゆら揺れていた。
瞼のうしろの鈍い光、自分を傷つける甘美な光は彼女がいると遠ざかってしまう、きっと。
そして多分自分は のだと思ってもう一度目を、閉じる。
隣にはどうしようもないくらいの温度と質量がある。
彼女の存在はひどく硬質で彼女は闇なのだ。思いが告げにくい、くちづけは甘くない、抱き締めても愛おしげにならない、無機的なセックス。
しかしそれが優しさそのものであることを自分は知っていた。シズクは求めているものをいつもくれた。巧妙に、フィンクスの中の自虐心を満たして隠して錯覚させた。
シズクといるとき、自分は傷つかなかった。
それは多分、出会った時分から。
「シズク」
彼女は眠っただろうか。
ぱりぱりに乾いた唇が発す、ひどく舌足らずな発音で、ふぃんくす、なに?と一言。
スパーク。瞳の奥に火花が散って外に響くのは破裂音。
優しくやさしい闇の中で、やわらかに湿気に潤んだ驚くくらい静かな廃墟の中で、そうしてほんの微かに呟く。
「救われたのかもしれない」
ぱァん。
一層大きな音がして何かが弾け、反射的に低い窓に目をやった自分はそれが花火の音なのだということを知った。
距離があるのか瞬く光はひどく矮小だったが、それでいい、と思って唇の端を吊り上げる。意味も分からず何かを壊さぬようにごく、そっと。
起きているはずのシズクからの返事はなく、そうして多分それが、返事そのものだった。
硬質で鈍く光っている心地よい闇、そして彼は自分の隣に存在していた。
疑うすべもないくらい、近くに。
・:*:・*・:*:・
フィンクスがなんかキモイ・・・!!
シャルでやれば良かったなぁと思いつつ、でもあたしフィンシズだしなぁ、とか。
最初クロマチのつもりで書いてました。
July 24, 2005
春絢爛/シャルナーク+フィンクス
音楽のように風が鳴る。
生温いそれはもう冷気の一欠片も含んではおらず、佇む彼等の頬を優しく擽った。
硬質な遮断物を持たない、絶え間なく光降る緑の庭。
つい数分前までは元華族の一族が住む豪邸の、数ある庭のうちの一つだったここは、今は誰の物でもない。
血にまみれた手の指先だけをちろりと舐め、苦いような酸っぱいような感じにシャルは顔をしかめる。
この庭の数分前までの持ち主は、「そういう予定だったので」殺した。
何の罪もない人間であったが。
それにしても、居心地の良い庭だ。長閑な庭に鳥のさえずり。ベーシックなようでいて、いざ聞けば新鮮味を感じるほどに安らぐ音だ。
――良い場所ではあるが。
口元を隠して小さく欠伸をする突然の訪問者を見て、シャルは諦観の念を交えつつ思うのであった。
「終わったか?」
「うん、フィンクスこそ終わったの?」
「あぁ。今日は終わった奴から勝手に解散していいってさ」
フィンクスはそう言って、手持ち無沙汰に空を仰いだ。蒼穹にひろがるスカイ・ブルー。気抜けするくらいに平和な色。
(なんだかなー)
何とはなしにそう思う。
「フィンクス、ここ似てないか」
「何に?」
「流星街」
「はぁ?」
頓狂な声を上げ、いぶかしげにシャルを見る。あの殺伐とした街とこんな麗らかな庭園と、どう結びつくというのだろう。
「どこが似てんだよ」
「えぇと、分かんないけど・・・あぁ、うん、そうか。落ち着く感じかな」
「落ち着く?」
「流星街って、やっぱ生まれ故郷なんだな、うん。そっかぁ、だからか」
ひとりで納得してんな、とフィンクスが毒づくと、 切なさをにおわせる無表情から悪戯な笑顔へと、シャルはさりげなく表情を変えてみせる。
投げやりな諦めを示すように、フィンクスは仰々しい吐息をひとつ吐いてみせた。
「流星街は寂寞だけど、それでも俺たちの身体にはなじみきってるんだ。
治安は最悪だし、生きていくには最悪の環境かもしれないけど。でも、俺たちにとっては居心地のいい庭園と同じなんだ」
だからここは落ち着くんだと何気ないようにそう言って、目を細めて微笑うシャル。
芯が入ったような直線的な金髪が、触れればやわらかそうだと思わせるように、しなやかなうねりを描いて風に攫われた。
本当に眠ってしまいそうになって、シャルは、眠気に抗わずそっと目を閉じた。
「フィンクス、覚えてる?」
自身すら睡魔を誘うような中性的で穏やかな声。それに女性染みた高音が混じっていたのはもう既に過去のことだ。
目蓋に隠された瞳も今や穏やか。獰猛さを孕んだ光は既に、静かにたゆたう水面下へと沈んでしまった。
覚えてる?と彼は繰り返す、たゆみなく、優しげに。
「
「ねえ。――たまには、思い出話も良いとは思わないかい」
「…あぁ」
風景を曖昧に見つめたフィンクスの目は、方向を変えてシャルを捉える。
さらりと、日に透けて白いシャルの肌を覆う服が微かに衣擦れの音をたてた。
すぐに掴めそうでつかめない、ひらりと手の内をすりぬけてゆくもの。
…結局のところ、良いように弄ばれているだけかもしれない。それでも良い。シャルは思う。
(対等で、適度に気を抜いて喋れる相手)
(…貴重なのかもしれない。旅団員以外にはきっといない)
真剣に瞳を交わすことに疲れたならば。
世を達観することに疲れたならば、。
それでも、良い。俺の目は未だ危険分子を含みながら、愛しいものを見つめる甘やかな視線も手に入れたのだから。
シャルはそう解する。
美しい、春に近しい怠惰な昼下がり。
錯綜する暖かな陽光、芽吹く前の植物の眩しい緑は、昔語りには少し切ないと彼は思う。
昔日と今。長い時間で培ったものたち。どちらも顔つきは少し大人びたけれど。
終わらない二人の声、昔語りは、空気と同調するようにひどく静かだ。
旋律のような風の鳴き声に混じって、自分を呼ぶ誰かの声が遠く聞こえた。
生温いそれはもう冷気の一欠片も含んではおらず、佇む彼等の頬を優しく擽った。
硬質な遮断物を持たない、絶え間なく光降る緑の庭。
つい数分前までは元華族の一族が住む豪邸の、数ある庭のうちの一つだったここは、今は誰の物でもない。
血にまみれた手の指先だけをちろりと舐め、苦いような酸っぱいような感じにシャルは顔をしかめる。
この庭の数分前までの持ち主は、「そういう予定だったので」殺した。
何の罪もない人間であったが。
それにしても、居心地の良い庭だ。長閑な庭に鳥のさえずり。ベーシックなようでいて、いざ聞けば新鮮味を感じるほどに安らぐ音だ。
――良い場所ではあるが。
口元を隠して小さく欠伸をする突然の訪問者を見て、シャルは諦観の念を交えつつ思うのであった。
「終わったか?」
「うん、フィンクスこそ終わったの?」
「あぁ。今日は終わった奴から勝手に解散していいってさ」
フィンクスはそう言って、手持ち無沙汰に空を仰いだ。蒼穹にひろがるスカイ・ブルー。気抜けするくらいに平和な色。
(なんだかなー)
何とはなしにそう思う。
「フィンクス、ここ似てないか」
「何に?」
「流星街」
「はぁ?」
頓狂な声を上げ、いぶかしげにシャルを見る。あの殺伐とした街とこんな麗らかな庭園と、どう結びつくというのだろう。
「どこが似てんだよ」
「えぇと、分かんないけど・・・あぁ、うん、そうか。落ち着く感じかな」
「落ち着く?」
「流星街って、やっぱ生まれ故郷なんだな、うん。そっかぁ、だからか」
ひとりで納得してんな、とフィンクスが毒づくと、 切なさをにおわせる無表情から悪戯な笑顔へと、シャルはさりげなく表情を変えてみせる。
投げやりな諦めを示すように、フィンクスは仰々しい吐息をひとつ吐いてみせた。
「流星街は寂寞だけど、それでも俺たちの身体にはなじみきってるんだ。
治安は最悪だし、生きていくには最悪の環境かもしれないけど。でも、俺たちにとっては居心地のいい庭園と同じなんだ」
だからここは落ち着くんだと何気ないようにそう言って、目を細めて微笑うシャル。
芯が入ったような直線的な金髪が、触れればやわらかそうだと思わせるように、しなやかなうねりを描いて風に攫われた。
本当に眠ってしまいそうになって、シャルは、眠気に抗わずそっと目を閉じた。
「フィンクス、覚えてる?」
自身すら睡魔を誘うような中性的で穏やかな声。それに女性染みた高音が混じっていたのはもう既に過去のことだ。
目蓋に隠された瞳も今や穏やか。獰猛さを孕んだ光は既に、静かにたゆたう水面下へと沈んでしまった。
覚えてる?と彼は繰り返す、たゆみなく、優しげに。
「
「ねえ。――たまには、思い出話も良いとは思わないかい」
「…あぁ」
風景を曖昧に見つめたフィンクスの目は、方向を変えてシャルを捉える。
さらりと、日に透けて白いシャルの肌を覆う服が微かに衣擦れの音をたてた。
すぐに掴めそうでつかめない、ひらりと手の内をすりぬけてゆくもの。
…結局のところ、良いように弄ばれているだけかもしれない。それでも良い。シャルは思う。
(対等で、適度に気を抜いて喋れる相手)
(…貴重なのかもしれない。旅団員以外にはきっといない)
真剣に瞳を交わすことに疲れたならば。
世を達観することに疲れたならば、。
それでも、良い。俺の目は未だ危険分子を含みながら、愛しいものを見つめる甘やかな視線も手に入れたのだから。
シャルはそう解する。
美しい、春に近しい怠惰な昼下がり。
錯綜する暖かな陽光、芽吹く前の植物の眩しい緑は、昔語りには少し切ないと彼は思う。
昔日と今。長い時間で培ったものたち。どちらも顔つきは少し大人びたけれど。
終わらない二人の声、昔語りは、空気と同調するようにひどく静かだ。
旋律のような風の鳴き声に混じって、自分を呼ぶ誰かの声が遠く聞こえた。
July 22, 2005
聖夜キャロル(フィンシズ)
室内は、酷くささいなもので埋められている。
適温の部屋のその分厚い窓ガラスの向こうからは、それでも冴えた冷気が感じられた。冬の夜空は凍てつき澄んでいてとても奇麗だ。シズクはクリスマス特価で買ってきたらしいシャンパンを自ら自分のグラスについだ。二杯目。ビンの口が華奢な足を持つグラスに軽く触れ無機質な音が鳴る。
イヴも終わろうとしたその夜に、やけに苛立った顔をして(フィンクスには少なくともそう見えた)シズクが言った――曰く、
「クリスマスだなんて、新約聖書さえちゃんと読んだことなんてない無宗教者が行うべきイベントじゃないよ。誰かと過ごさないとならない日だなんて一体誰がそう決めたのかな」
「…そう悪いもんでもねぇだろ」
一方的な熱弁を聞き流していると仕舞いにはジョウイだのシンノウだのという聞き慣れない単語まで飛び出し、放っておけば江戸時代の開国についてまで遡って論じだしそうな彼女にそう言ってみれば「これだからエジプーシャはだめ」といつもの淡々とした毒舌まで飛び出してしまう。
「エジプトの閉鎖的地形は外敵の侵入を防ぐことに役立ったけれど、バビロンがナイル川を踏破したあとは入られ放題だったっていうじゃない。エジプーシャって変なところで爪が甘いわ。その辺りは攘夷派に通じてる」
「もうお前自分でも何言ってるんだか分かんないだろ。大体、ジョーイって何だよ」
「ジョーイじゃないよ、攘夷」
これは大分酒が入っているなと思いつつ、一応フィンクスは訂正する。シズクは酔うと少しだけ饒舌になって、かなり理屈っぽくなる。
グラスを手持ち無沙汰に回してみせるシズクは、大分酒が回っているはずだがそんな様子は全く見えない。いつもの顔色で、無表情に、ほら、またシャンパンを口にする。どれほど酒を飲んでも酔いが彼女の顔に表れることはない。(しかしそれは酔わないこととは違うので、こちらが気を付けてやらないとたまに何の前触れもなくぶっ倒れる)
全く、可愛らしい−−−余計な意味合いはない。ただ単純に、見たままを感じてフィンクスはそう思う。
「しっくり来ない、"クリスマス"って。語感も何もかも」
そうだな、とフィンクスが言うと、シズクは「ホントに」とうなずいて目をふせた。適温とささやかなもので満たされた室内は更にやさしげな沈黙でいっぱいになった。
クリスマスらしいものは断じて口にしたくないという意地か(どうやら特価という点においてシャンパンの誘惑には勝てなかったらしい)、先ほど二人でゆっくり平らげた黒塗りの寿司の器、それは今やローテーブルの端に追いやられていた。
シズクは何事かを考え、何か口にしようとしては躊躇し、空気中に触れさせることばを慎重に選んでいるようだった。いつもの無神経(言葉が悪いかもしれないが、フィンクスはほかに当てはまる言葉を知らない)まるで、妙な言葉を吐けば(銅のように)酸化してしまうのだと思い込んでいるかのように。フィンクスと彼の間に交わされる会話というもの、それは元より言語という形態をとっていなかった。
共にいる時間との比率で考えると何かを喋っている時間というのは圧倒的に少なく、しかし常に二人の間に漂う空気は希有で絶妙で親密で、そして、ひどく優しかった。沈黙は沈黙ではなかった。なり得なかった。その感じ全部を含めてはじめてシズクといる、という言葉が成り立つのだ。
注いだまま放られっぱなしだった薄い褐色の液体から、気泡がぱちぱちと霧散してゆく音が聞こえる。
「それでも多分、私はこの日を完璧に嫌ってはいないんだ」
彼女は、自分に言い聞かせるようにそう言う。
フィンクスは黙って、気のきいた相槌ひとつ打たずシズクの次のことばをじっと待っている。食われる前の草食動物みたいにじりじりと。
「だっていつもより電飾を余計に使った街は嫌いじゃないし」
上手くまとまらないね、そこで苦笑してシズクはシャンパンに口をつける。気泡が弾ける。優美な角度で傾けられた美しいグラス、彼女の唇は湿ってもすぐに渇いてしまって艶めかしさの欠片もそこにはない。
「でも、やっぱり、キレイ」
だけれど彼は、窓の外から見える眺望−−−あちこちで散らばるネオン−−−を見つめながら、そう言って微笑ったのだった。
眼下の街中にひろがるクリスマスカラーのネオンが、発せられたその言葉と共に蝶の羽音くらいの繊細さで盲いた目の奥の方を撫でた。
シズクは呟いて瞼を閉じる。記憶の中で煌めく極彩色。
(たとえばメリークリスマス、子供たちが歌う聖歌とか、)
(いとしい人と過ごす目新しい習慣だとか)
「俺は、嫌いでもねーけどさ」
…応えるようにひそやかに吐き出されたシズクの言葉は、甘く凍えるネオンに溶けていくのだと思った。
部屋の隅に沈澱していたやさしげな沈黙は、夜の重みに溶け、やがて消える。
・:*:・:*:・
私フィンシズなんです。いえ、世間様はフィンパクだってことは知ってるんですが・・・!!
需要があるのか不明ですけどとにかくフィンシズです。
22巻のフィンクスの服着たシズクにやられました。
でもシズク書くの難しいよ!!
・・・フィンクスのことフィンって呼ぶシズクが書きたかっただけです。
適温の部屋のその分厚い窓ガラスの向こうからは、それでも冴えた冷気が感じられた。冬の夜空は凍てつき澄んでいてとても奇麗だ。シズクはクリスマス特価で買ってきたらしいシャンパンを自ら自分のグラスについだ。二杯目。ビンの口が華奢な足を持つグラスに軽く触れ無機質な音が鳴る。
イヴも終わろうとしたその夜に、やけに苛立った顔をして(フィンクスには少なくともそう見えた)シズクが言った――曰く、
「クリスマスだなんて、新約聖書さえちゃんと読んだことなんてない無宗教者が行うべきイベントじゃないよ。誰かと過ごさないとならない日だなんて一体誰がそう決めたのかな」
「…そう悪いもんでもねぇだろ」
一方的な熱弁を聞き流していると仕舞いにはジョウイだのシンノウだのという聞き慣れない単語まで飛び出し、放っておけば江戸時代の開国についてまで遡って論じだしそうな彼女にそう言ってみれば「これだからエジプーシャはだめ」といつもの淡々とした毒舌まで飛び出してしまう。
「エジプトの閉鎖的地形は外敵の侵入を防ぐことに役立ったけれど、バビロンがナイル川を踏破したあとは入られ放題だったっていうじゃない。エジプーシャって変なところで爪が甘いわ。その辺りは攘夷派に通じてる」
「もうお前自分でも何言ってるんだか分かんないだろ。大体、ジョーイって何だよ」
「ジョーイじゃないよ、攘夷」
これは大分酒が入っているなと思いつつ、一応フィンクスは訂正する。シズクは酔うと少しだけ饒舌になって、かなり理屈っぽくなる。
グラスを手持ち無沙汰に回してみせるシズクは、大分酒が回っているはずだがそんな様子は全く見えない。いつもの顔色で、無表情に、ほら、またシャンパンを口にする。どれほど酒を飲んでも酔いが彼女の顔に表れることはない。(しかしそれは酔わないこととは違うので、こちらが気を付けてやらないとたまに何の前触れもなくぶっ倒れる)
全く、可愛らしい−−−余計な意味合いはない。ただ単純に、見たままを感じてフィンクスはそう思う。
「しっくり来ない、"クリスマス"って。語感も何もかも」
そうだな、とフィンクスが言うと、シズクは「ホントに」とうなずいて目をふせた。適温とささやかなもので満たされた室内は更にやさしげな沈黙でいっぱいになった。
クリスマスらしいものは断じて口にしたくないという意地か(どうやら特価という点においてシャンパンの誘惑には勝てなかったらしい)、先ほど二人でゆっくり平らげた黒塗りの寿司の器、それは今やローテーブルの端に追いやられていた。
シズクは何事かを考え、何か口にしようとしては躊躇し、空気中に触れさせることばを慎重に選んでいるようだった。いつもの無神経(言葉が悪いかもしれないが、フィンクスはほかに当てはまる言葉を知らない)まるで、妙な言葉を吐けば(銅のように)酸化してしまうのだと思い込んでいるかのように。フィンクスと彼の間に交わされる会話というもの、それは元より言語という形態をとっていなかった。
共にいる時間との比率で考えると何かを喋っている時間というのは圧倒的に少なく、しかし常に二人の間に漂う空気は希有で絶妙で親密で、そして、ひどく優しかった。沈黙は沈黙ではなかった。なり得なかった。その感じ全部を含めてはじめてシズクといる、という言葉が成り立つのだ。
注いだまま放られっぱなしだった薄い褐色の液体から、気泡がぱちぱちと霧散してゆく音が聞こえる。
「それでも多分、私はこの日を完璧に嫌ってはいないんだ」
彼女は、自分に言い聞かせるようにそう言う。
フィンクスは黙って、気のきいた相槌ひとつ打たずシズクの次のことばをじっと待っている。食われる前の草食動物みたいにじりじりと。
「だっていつもより電飾を余計に使った街は嫌いじゃないし」
上手くまとまらないね、そこで苦笑してシズクはシャンパンに口をつける。気泡が弾ける。優美な角度で傾けられた美しいグラス、彼女の唇は湿ってもすぐに渇いてしまって艶めかしさの欠片もそこにはない。
「でも、やっぱり、キレイ」
だけれど彼は、窓の外から見える眺望−−−あちこちで散らばるネオン−−−を見つめながら、そう言って微笑ったのだった。
眼下の街中にひろがるクリスマスカラーのネオンが、発せられたその言葉と共に蝶の羽音くらいの繊細さで盲いた目の奥の方を撫でた。
シズクは呟いて瞼を閉じる。記憶の中で煌めく極彩色。
(たとえばメリークリスマス、子供たちが歌う聖歌とか、)
(いとしい人と過ごす目新しい習慣だとか)
「俺は、嫌いでもねーけどさ」
…応えるようにひそやかに吐き出されたシズクの言葉は、甘く凍えるネオンに溶けていくのだと思った。
部屋の隅に沈澱していたやさしげな沈黙は、夜の重みに溶け、やがて消える。
・:*:・:*:・
私フィンシズなんです。いえ、世間様はフィンパクだってことは知ってるんですが・・・!!
需要があるのか不明ですけどとにかくフィンシズです。
22巻のフィンクスの服着たシズクにやられました。
でもシズク書くの難しいよ!!
・・・フィンクスのことフィンって呼ぶシズクが書きたかっただけです。
July 21, 2005
暫時の主従(団長+マチ)
人通りの無い道に刻まれた深夜の境界線午前0時。
コンクリートの道が自身の再現のなさを誇示し、錆びた鉄筋と一々鼻を刺激するような潮の匂いがそれを助長する。
拒むような夜は滔滔と。
土煙をあげ戦うクロロを見つめ、マチは思う。何故彼だけが完璧なのだろうかと。
自分は幻影旅団の一員だ。強い。とても強い。
しかし、強いことと欠落していないことは違う。
自分はもちろん、シズクもパクもノブナガもフィンクスもシャルも、一人一人名前を挙げるのが煩わしいくらい、自分の周りには欠落した人間がたくさんいた。
それは互いに補うことが出来ない。何故? 団員は皆、一様に、全く同じ箇所が欠乏しているのだ。
何かが決定的に欠けてしまっていて(それは大抵過去に起因していた)装わなければ完璧になれないことも、クロロは装っていないのに完璧なこともマチには分かっていた。クロロは完璧だった。
傷ついたまま完結して、事実以上のことを過去に挟むことも、過去を塗りかえることもしない。ただ、ずっと傷ついている。だから傷つき続けている。
ヒソカのバンジーガムが、一瞬の隙にクロロのスキルハンターを捕らえた。
無駄なことだ、とマチは浅はかな奇術師にため息をつく。
ガムが巻き付いたスキルハンターをクロロは一度消し、再び出した。
ヒソカはバンジーガムでスキルハンターと一緒に彼の右手をも封じてしまいたかったのだろうが−−−
「団長はそんなヘマしない」
「ははっ、やっぱり団長は強ぇな」
隣でノブナガがのんきな感想を述べる。
マチもノブナガも、団長が勝つことを信じて疑わない。
クロロの白い顔が暗闇に浮かぶ。
闇に潜む双眸は獲物を狩るときのように野性味を帯びる。隠し持った刃の鋭さ。ほら、貴方とてこういう所は、とマチは思う。
クロロの目はマチの全てを絡げる。
マチの全てを錆びさせ、荒廃。
マチは思う。自分もこのまま錆びて、褪せて、消えゆくだろうかと。
それも面白いではないか。
微塵も 些細も 完膚無きまでに朽ちるのだ。クロロの手によって。
真実欲しいものは等しく手に入らない。
勝負が決まろうとしていた。
主を違える同色の髪が同時に、重い風にただ一度靡いた。
轟音が殺戮の終わるを告げる。
思考のように明けない宵闇。射さない光は暗闇の奥深く。
どちらが勝ったのだろうか、マチは目をこらす。
・:*:・・:*:・
中途UP。。。
書きかけです。「絶え間なく」とちょっとだけリンク。
コンクリートの道が自身の再現のなさを誇示し、錆びた鉄筋と一々鼻を刺激するような潮の匂いがそれを助長する。
拒むような夜は滔滔と。
土煙をあげ戦うクロロを見つめ、マチは思う。何故彼だけが完璧なのだろうかと。
自分は幻影旅団の一員だ。強い。とても強い。
しかし、強いことと欠落していないことは違う。
自分はもちろん、シズクもパクもノブナガもフィンクスもシャルも、一人一人名前を挙げるのが煩わしいくらい、自分の周りには欠落した人間がたくさんいた。
それは互いに補うことが出来ない。何故? 団員は皆、一様に、全く同じ箇所が欠乏しているのだ。
何かが決定的に欠けてしまっていて(それは大抵過去に起因していた)装わなければ完璧になれないことも、クロロは装っていないのに完璧なこともマチには分かっていた。クロロは完璧だった。
傷ついたまま完結して、事実以上のことを過去に挟むことも、過去を塗りかえることもしない。ただ、ずっと傷ついている。だから傷つき続けている。
ヒソカのバンジーガムが、一瞬の隙にクロロのスキルハンターを捕らえた。
無駄なことだ、とマチは浅はかな奇術師にため息をつく。
ガムが巻き付いたスキルハンターをクロロは一度消し、再び出した。
ヒソカはバンジーガムでスキルハンターと一緒に彼の右手をも封じてしまいたかったのだろうが−−−
「団長はそんなヘマしない」
「ははっ、やっぱり団長は強ぇな」
隣でノブナガがのんきな感想を述べる。
マチもノブナガも、団長が勝つことを信じて疑わない。
クロロの白い顔が暗闇に浮かぶ。
闇に潜む双眸は獲物を狩るときのように野性味を帯びる。隠し持った刃の鋭さ。ほら、貴方とてこういう所は、とマチは思う。
クロロの目はマチの全てを絡げる。
マチの全てを錆びさせ、荒廃。
マチは思う。自分もこのまま錆びて、褪せて、消えゆくだろうかと。
それも面白いではないか。
微塵も 些細も 完膚無きまでに朽ちるのだ。クロロの手によって。
真実欲しいものは等しく手に入らない。
勝負が決まろうとしていた。
主を違える同色の髪が同時に、重い風にただ一度靡いた。
轟音が殺戮の終わるを告げる。
思考のように明けない宵闇。射さない光は暗闇の奥深く。
どちらが勝ったのだろうか、マチは目をこらす。
・:*:・・:*:・
中途UP。。。
書きかけです。「絶え間なく」とちょっとだけリンク。
絶え間なく。3(フェイタン)
降る冷気、生温さの交じり始めたそれに嫌悪をおぼえた。
四角い部屋に月光はあおく冷徹に浸透するそして彼は天空を顧みる。
淀んだ思考はいつまでもまとまらない。
机の上には、メジャーが置いてあった。
「とても鋭い刃物に似た何か」にも似た、無感情に銀色に光るベッドの上に四肢を投げ出したフェイタンは、冴え冴えと冷たく光る月に目を細めた。
それは、月を愛でると言うよりはむしろ軽侮するための、人を虐げるような視線。
睫は長く白磁の肌、フェイタンは確かに中性的で麗美ではあったが、性格の方はけして穏やかではなかった。
「男性」「女性」「人間」どれにもカテゴライズされない、あえて何かに当てはめようとするなら―――悪魔。
いや、「化身」というべきか。彼の存在そのものが、悪魔よりはるかに狡猾でもっとどろどろしたもののメタファーだった。
深夜3時の高層マンション、玄関の鍵は誘うように開いていた。時折に響く車の排気音が耳朶に煩い。
振り返って上空に臨む今宵の月は、鋭くも、完全な円形でもない。
机の上には、メジャーが置いてあった。
何気なくメジャーに手を伸ばす。ベッドのスプリングが軋んで音をたてた。
メジャーは黒光りする金属で出来ていて、ずっしりと重かった。尖ったつめさきで握りしめた計数機が、俄かにぎりりと音を発した。
無意識のうちに、彼はメジャーを強く握りしめていた。
何故メジャーがここにあるのか、とフェイタンは自問した。
自分は何を量る気なのだ?
すべてを、計りたかったわけじゃない。
サイドテーブル、ベッド、窓ガラス。
語らない家具の陰の中に紛れ込んだ自身の影の上に、近づく足音がひそやかに反響した。
足音は誰の物でもない。自分一人しかいない部屋で響くこの音が幻聴であることくらいは気づいている。
血管が浮かび上がるくらいにきつく、きつく握ったメジャー。意図はやがて掌から零れる。何を量りたくて自分は殺すのだろう。何を量ろうとして流星街を出たのだろう。
覆う影、月影はつめたく冴え冴えと――
月を眺める彼の目の漆黒は闇よりも深い。一刹那、フェイタンは自分の首に手をかててみた。
「――ぞっと、しないよ」
唇の端をつり上げ、彼は微笑した。
血を求める自分の指先は甘く熱を誘導させては止むことがない。
自分を傷つけて愉しむ趣味はない。
「ワタシが傷つけたいのは、他人ね」
動じず変わらない微笑はうっとりと。
声のみが冷たく耳を侵して、反面甘ったるいほど糖蜜色の不完全な天体は、優美に冷酷に部屋に陰影を送り込む。
かわらない、微笑。
首元にあてた筈の手は、奇妙なくらいに不確かだった。
・:*:・・:*:・
月をテーマに旅団一人一人の話を書くことに今決めました(笑)
というわけでフェイタン。単発のつもりで書いてたら全開の団長+シズクとリンクさせたくなったので強引に月の話に。
これも一発書きなのでそのうち修正します。
July 20, 2005
蜘蛛という組織について考えてみる。
旅団とカルトの温度差を読んで(22巻の話)、ゾルディックと流星街と何が違うんだろうと考えてみた。
すっごい箇条書き&思いつき文章なので注意↓↓
プラトンじゃないけど、蜘蛛の人たちって「気が付いたら自分は在った」って感じなんだろうなぁ。
自覚して生まれてくる人はいないし、「気が付いたら生きてた」ってのは誰もが抱く感情だと思うけど、でも社会の中で育つに連れて「自分は生きてる」ってことを理解すると思うし、アイデンティティも生まれる。はず。
でも、流星街という特殊な環境で育った彼らは、閉ざされて育ったからそういうことを知らなくて、自分が生きているということにクエスチョンマークがついている状態なのでは、と。
彼らは「気が付いたら生きていて、そのまま何となく生き続けている」って感じ。
フィンクスとかシャルとか、生への執着薄そうだもん。
この辺はゾルディックとは対照的ですね。(「勝ち目のない敵とは戦うな」)
人間に価値をつけないっていうのかな。あ、うん、コレいい。
「人間に価値をつけない」
流星街って周りゴミだらけじゃないですか。産声をあげたばかりの赤ちゃんと1000万ドルの札束の価値が同じ街じゃないですか。そのクズみたいな廃棄物を住人は受け入れてるわけだから、つまり、流星街にとって「ゴミ」は存在しないんだと思う。
ゴミは彼らの糧っぽいし。ゴミをゴミと認識しない。極論になるかもしれないけど、旅団って自分とゴミと同視してるような感じもする。
だから、自分も含めて「人間」というものに価値をおかない。(=平気で殺せる)
価値を感じるのは、財宝。(彼らは多くの人間が価値を見出しているものを欲する。彼ら自身のものさしでは、物の価値は分からないから)
ゾルディックとかはこういうところ徹底してるんでしょうけどね。
倒錯してしまわないように、自分が生きていて殺す側にいることを、ちゃんと認識させる教育をしてる。
旅団は違うんですよね。閉ざされて育ったから。
詭弁だなぁ、なんかコレ。
すっごい箇条書き&思いつき文章なので注意↓↓
プラトンじゃないけど、蜘蛛の人たちって「気が付いたら自分は在った」って感じなんだろうなぁ。
自覚して生まれてくる人はいないし、「気が付いたら生きてた」ってのは誰もが抱く感情だと思うけど、でも社会の中で育つに連れて「自分は生きてる」ってことを理解すると思うし、アイデンティティも生まれる。はず。
でも、流星街という特殊な環境で育った彼らは、閉ざされて育ったからそういうことを知らなくて、自分が生きているということにクエスチョンマークがついている状態なのでは、と。
彼らは「気が付いたら生きていて、そのまま何となく生き続けている」って感じ。
フィンクスとかシャルとか、生への執着薄そうだもん。
この辺はゾルディックとは対照的ですね。(「勝ち目のない敵とは戦うな」)
人間に価値をつけないっていうのかな。あ、うん、コレいい。
「人間に価値をつけない」
流星街って周りゴミだらけじゃないですか。産声をあげたばかりの赤ちゃんと1000万ドルの札束の価値が同じ街じゃないですか。そのクズみたいな廃棄物を住人は受け入れてるわけだから、つまり、流星街にとって「ゴミ」は存在しないんだと思う。
ゴミは彼らの糧っぽいし。ゴミをゴミと認識しない。極論になるかもしれないけど、旅団って自分とゴミと同視してるような感じもする。
だから、自分も含めて「人間」というものに価値をおかない。(=平気で殺せる)
価値を感じるのは、財宝。(彼らは多くの人間が価値を見出しているものを欲する。彼ら自身のものさしでは、物の価値は分からないから)
ゾルディックとかはこういうところ徹底してるんでしょうけどね。
倒錯してしまわないように、自分が生きていて殺す側にいることを、ちゃんと認識させる教育をしてる。
旅団は違うんですよね。閉ざされて育ったから。
詭弁だなぁ、なんかコレ。
絶え間なく。2(シズク+クロロ)
「欠けている月は、だめですか」
かすれた声で、ぽつりと、落とすように、シズクは訊ねた。
同時に、どこか遠くで轟音が聞こえた。ウボォーやノブナガ、フィンクス辺りが、岩を殴ってどれだけへこませられるか勝負でもしているのだろう。
がすん、がすん、がすん、
あれほど苛烈な彼らの拳が岩にひびをいり岩盤をへこませ粉々に破壊しつくしていく音は、距離があるせいで大人しいものに聞こえる。
「だめだ」
クロロが言った。
「そうですか」
シズクは特に反論もせずうなずく。
途切れ途切れに聞こえてくる音たちは、勝利の声か悲鳴か、屋敷が崩れる音とも解せなかった。
今宵の月は彼女らの運命を嘲笑うように美しく、糖蜜色の妖しさを存分に含んで、騒がしい地上へと煌々と影をおとす。
満月は美しい。
「団長は、完璧です」
月を見上げ、欠けない月を見上げ、シズクは言う。相変わらず情動のない目に金色の光りを無機質に映り、無理に瞳に感情を持たせようとして失敗していた。
「団長は完璧なのに、完全じゃない。
団長はいつだって正しいんです。求めるまでもなく、あなたは完璧です。
でも、そうありながら、完全じゃない。
完璧でありながら、完全ではない。
満月でありながら、欠落している」
クロロは口を挟まない。
「だから、団長は流動し続けて、たゆたって、だから、手が届かないんです。
私は欠乏している。私の欠乏はそのまま疾患になる。
団長の欠乏は、団長を完全にしているんです。
だから手が届かない」
開け放した窓から風が吹き込み、円かな月の佇む上空へと短かな髪が攫われた。
「だから、貴方はは、とても脆い」
「俺は強いよ」
「だからこそ、脆いんです」
開け放した窓から風が吹き込み、円かな月の佇む上空へと短かな髪が攫われた。
仲間達が戯れに奏でる破壊音は、いつの間にか止んでいた。
すでに湿ってかすかな熱を含んだ風を感じながら、シズクは今までとそしてこれからを思った。
毎日を生き抜くためだけに必死だった流星街、そこから抜け出したくて旅団に加わったはずなのに。
自分が空に返した月が長めながら、生き延びねばと思うだけの気持ちは湧いてこなかった。
・:*:・・:*:・
一発書きです。
シズクの性格難しいよ、書けないよ。
なんか支離滅裂だ。そのうち書き直します。
かすれた声で、ぽつりと、落とすように、シズクは訊ねた。
同時に、どこか遠くで轟音が聞こえた。ウボォーやノブナガ、フィンクス辺りが、岩を殴ってどれだけへこませられるか勝負でもしているのだろう。
がすん、がすん、がすん、
あれほど苛烈な彼らの拳が岩にひびをいり岩盤をへこませ粉々に破壊しつくしていく音は、距離があるせいで大人しいものに聞こえる。
「だめだ」
クロロが言った。
「そうですか」
シズクは特に反論もせずうなずく。
途切れ途切れに聞こえてくる音たちは、勝利の声か悲鳴か、屋敷が崩れる音とも解せなかった。
今宵の月は彼女らの運命を嘲笑うように美しく、糖蜜色の妖しさを存分に含んで、騒がしい地上へと煌々と影をおとす。
満月は美しい。
「団長は、完璧です」
月を見上げ、欠けない月を見上げ、シズクは言う。相変わらず情動のない目に金色の光りを無機質に映り、無理に瞳に感情を持たせようとして失敗していた。
「団長は完璧なのに、完全じゃない。
団長はいつだって正しいんです。求めるまでもなく、あなたは完璧です。
でも、そうありながら、完全じゃない。
完璧でありながら、完全ではない。
満月でありながら、欠落している」
クロロは口を挟まない。
「だから、団長は流動し続けて、たゆたって、だから、手が届かないんです。
私は欠乏している。私の欠乏はそのまま疾患になる。
団長の欠乏は、団長を完全にしているんです。
だから手が届かない」
開け放した窓から風が吹き込み、円かな月の佇む上空へと短かな髪が攫われた。
「だから、貴方はは、とても脆い」
「俺は強いよ」
「だからこそ、脆いんです」
開け放した窓から風が吹き込み、円かな月の佇む上空へと短かな髪が攫われた。
仲間達が戯れに奏でる破壊音は、いつの間にか止んでいた。
すでに湿ってかすかな熱を含んだ風を感じながら、シズクは今までとそしてこれからを思った。
毎日を生き抜くためだけに必死だった流星街、そこから抜け出したくて旅団に加わったはずなのに。
自分が空に返した月が長めながら、生き延びねばと思うだけの気持ちは湧いてこなかった。
・:*:・・:*:・
一発書きです。
シズクの性格難しいよ、書けないよ。
なんか支離滅裂だ。そのうち書き直します。
July 19, 2005
絶え間なく。
窓際に一つ置かれたコップは、広い空に浮かぶ戸弱な月をうつしだした。
シズクは水に映った小さな月を、組んだ腕にあごをのせて眺めていた。
チェリーのように真っ赤なコップに入った水はゆらゆらゆらゆらと不安定にたゆたい、常に揺れている。水は、永遠に流動する。水の中の月も、流動する
それはシズクにとって、どちらかといえば好ましいものだった。
固定されることを、彼女はなにより恐れるから。
不意に戸の開く音が響き、静謐だった時間を壊した。
入ってきた人間の足音、彼がベッドに座った拍子にスプリングが軋む音、
耳のピアスを外してナイトテーブルに転がす音、信じられないほど複雑なブーツを脱ぐ音を聞きながら
シズクは月から目を離さない。
目を離さないまま、尋ねる。
「クロロ、どこ行ってたの?」
「風にあたってきただけだ。シズクこそ、さっきから何してるんだ?」
何を見ているのかではなく、何をしているのかと尋ねるのが彼らしいと思いながら、シズクは答える。
「月を、飼うんです」
「月を?」
「コップの中で」
勘の良い彼は、シズクの言葉の意味をすぐに解した。
「いいな、それ」
そう言って笑った。
つられてかすかに笑いながら、ようやくシズクは月から目を離した。
「今夜は満月ですね」
「だな。ちょっと前まで三日月だったのに」
「クロロは、三日月嫌いですよね」
「だって、わざわざ欠ける意味がないだろ。大人しく円いまま存立してればいいのに、何故自ら欠落しようとするんだか分かんないな」
そう思うのはあなたが強いからです、と出かかった言葉を飲み込んだ。
シズクはその時、唐突に、
広い空にぽつんと佇む月と、
窓辺にぽつんと置いてあるコップと、
自分と、
何が違うのだろうと考えた。
同じ部屋の中にはクロロがいるのに、
どうして一人きりのように思えるのだろうと
どうして月とコップと同列に感じるのだろうと、
何故だろうと、考えた。
「クロロ」
今は呼ぶことの無くなった、彼の本当の名前を呼んだ。
「なんだよ、急に」
クロロは笑う。
やっぱり、遠い。
窓を開けて、コップをそっとかたむけた。
瞬きする間に、水は流れ出てしまう。
するりと月は逃げていった。
・:*:・・:*:・
団シズではありません。団長+シズクです。
たまたま部屋割りが一緒なのです。旅団は部屋割りをジャンケンで決めてるといい。
しかも続きます。
シズクは水に映った小さな月を、組んだ腕にあごをのせて眺めていた。
チェリーのように真っ赤なコップに入った水はゆらゆらゆらゆらと不安定にたゆたい、常に揺れている。水は、永遠に流動する。水の中の月も、流動する
それはシズクにとって、どちらかといえば好ましいものだった。
固定されることを、彼女はなにより恐れるから。
不意に戸の開く音が響き、静謐だった時間を壊した。
入ってきた人間の足音、彼がベッドに座った拍子にスプリングが軋む音、
耳のピアスを外してナイトテーブルに転がす音、信じられないほど複雑なブーツを脱ぐ音を聞きながら
シズクは月から目を離さない。
目を離さないまま、尋ねる。
「クロロ、どこ行ってたの?」
「風にあたってきただけだ。シズクこそ、さっきから何してるんだ?」
何を見ているのかではなく、何をしているのかと尋ねるのが彼らしいと思いながら、シズクは答える。
「月を、飼うんです」
「月を?」
「コップの中で」
勘の良い彼は、シズクの言葉の意味をすぐに解した。
「いいな、それ」
そう言って笑った。
つられてかすかに笑いながら、ようやくシズクは月から目を離した。
「今夜は満月ですね」
「だな。ちょっと前まで三日月だったのに」
「クロロは、三日月嫌いですよね」
「だって、わざわざ欠ける意味がないだろ。大人しく円いまま存立してればいいのに、何故自ら欠落しようとするんだか分かんないな」
そう思うのはあなたが強いからです、と出かかった言葉を飲み込んだ。
シズクはその時、唐突に、
広い空にぽつんと佇む月と、
窓辺にぽつんと置いてあるコップと、
自分と、
何が違うのだろうと考えた。
同じ部屋の中にはクロロがいるのに、
どうして一人きりのように思えるのだろうと
どうして月とコップと同列に感じるのだろうと、
何故だろうと、考えた。
「クロロ」
今は呼ぶことの無くなった、彼の本当の名前を呼んだ。
「なんだよ、急に」
クロロは笑う。
やっぱり、遠い。
窓を開けて、コップをそっとかたむけた。
瞬きする間に、水は流れ出てしまう。
するりと月は逃げていった。
・:*:・・:*:・
団シズではありません。団長+シズクです。
たまたま部屋割りが一緒なのです。旅団は部屋割りをジャンケンで決めてるといい。
しかも続きます。