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Chikirinの日記 RSSフィード

2016-10-17 知事の経歴一覧に見る昭和の構造

新潟県の知事選で共産党推薦「原発再稼働 大反対!」の候補者、米山隆一さんが当選されました。

この方、福島の原発事故の翌年である 2012年には「原子力賛成!」「30年たったら技術は良くなる。ドラえもんも鉄腕アトムも原子力だ。もう30年かけて世界で一番安全な原子力をつくろう」と強調されたんですけど

今回、彼を推薦した共産党の機関誌、赤旗が「支離滅裂!」と断じながらそう報じてます。


主張が 180度違うので、最初は同姓同名の他人かと思ったけど、ご本人のブログでも当時は「すべての原発は再稼働すべし」と書かれてるので、やっぱ本人みたいです。

なお、上記の発言は維新の候補者だった頃のものですが、この方、その前には自民党の公認候補でもあったので、基本は原発 OK なのでしょう。


さて、新知事、米山さんは医者で弁護士でハーバードの博士号という“てんこもり”な経歴の方なんですが、それを見て他の知事さんの経歴が知りたくなったので調べてみました。

それが下記の表。(間違いがあったらツイッターでご指摘ください)


網掛けをしてるのは、女性知事、5期以上の長期在職、中央官庁出身者。

女性知事って小池知事を含めても 3名しかいなくて、「一億ぜんぜん総活躍できてない」感じ。

年齢は、60代の方は多いですが、70歳以上だとそこまで多くありませんでした。


でも、経歴は驚くほど偏ってます。ざっと下表をご覧くださいな。

<知事の経歴一覧>

都道府県名知事名生年回数経歴
網掛け=女性知事70歳以上5期以上中央官庁出身
北海道高橋はるみ昭和29年4通産(経産)官僚
青森県三村申吾昭和31年4編集者 町長 国会議員
岩手県達増拓也昭和39年3外務官僚
宮城県村井嘉浩昭和35年3自衛隊 県議会議員
秋田県佐竹敬久昭和22年2県庁職員 市長
山形県吉村美栄子昭和26年2リクルート 教育相談員
福島県内堀雅雄昭和39年1自治(総務)官僚
茨城県橋本昌昭和20年6自治(総務)官僚
栃木県福田富一昭和28年3県庁 県議会議員
群馬県大澤正明昭和21年3町議 県議会議員
埼玉県上田清司昭和23年4国会議員
千葉県森田健作昭和24年2俳優
東京都小池百合子昭和27年1キャスター、国会議員
神奈川県黒岩祐治昭和29年2キャスター
新潟県米山隆一昭和42年1医師・弁護士
富山県石井隆一昭和20年3自治(総務)官僚
石川県谷本正憲昭和20年6自治(総務)官僚
福井県西川一誠昭和20年4自治(総務)官僚
山梨県後藤斎昭和32年1農林水産官僚
長野県阿部守一昭和35年2自治(総務)官僚
岐阜県古田肇昭和22年3通産(経産)官僚
静岡県川勝平太昭和23年2研究者 経済
愛知県大村秀章昭和35年2農林水産官僚 国会議員
三重県鈴木英敬昭和49年2通産(経産)官僚
滋賀県三日月大造昭和46年1JR(労組) 国会議員
京都府山田啓二昭和29年4自治(総務)官僚
大阪府松井一郎昭和39年2電気会社 府議会議員
兵庫県井戸敏三昭和20年4自治(総務)官僚
奈良県荒井正吾昭和20年3運輸(国土交通)官僚
和歌山県仁坂吉伸昭和25年3通産(経産)官僚
鳥取県平井伸治昭和36年3自治(総務)官僚
島根県溝口善兵衛昭和21年3大蔵(財務)官僚
岡山県伊原木隆太昭和41年1天満屋社長(創業家)
広島県湯粼英彦昭和40年2通産(経産)官僚
山口県村岡嗣政昭和47年1自治(総務)官僚
徳島県飯泉嘉門昭和35年4自治(総務)官僚
香川県浜田恵造昭和27年2大蔵(財務)官僚
愛媛県中村時広昭和35年2三菱商事 県議会議員
高知県尾粼正直昭和42年3大蔵(財務)官僚
福岡県小川洋昭和24年2通産(経産)官僚
佐賀県山口祥義昭和40年1自治(総務)官僚
長崎県中村法道昭和25年12県庁職員
熊本県蒲島郁夫昭和22年3研究者 農業
大分県広瀬勝貞昭和17年4通産(経産)官僚
宮崎県河野俊嗣昭和39年2自治(総務)官僚
鹿児島県三反薗訓昭和33年1テレビ記者
沖縄県翁長雄志昭和25年1市議会議員 市長

めっちゃ中央官庁出身者が多いでしょ。

なんと半分以上です。


これには合理的な理由があります。日本の地方の県にとって最も大事なのは

・中央官庁から補助金をもらってくる

・中央官庁に頼んで高速道路や空港や新幹線の駅を県内に作ってもらう

・中央官庁に頼んで米や乳製品の自由な輸入を阻止してもらう

ことだからです。


元官僚なら補助金や予算獲得の方法もわかってるし、同期や先輩や後輩が各省庁で働いてるから、誰に頼めばいいかも完璧に把握できてる。

だから地方の知事には元官僚がメチャ多いんです。

特に総務省、昔の自治省は、知事や副知事を輩出するための官庁だったので、他省庁を圧倒してます。


次に多いのは、市長や市&県議会議員、国会議員、もしくは県庁職員など。

県知事になる人の大半は、最初から行政や政治に興味を持ってる人だってことですね。あとは、学者が 2名。


数少ない民間企業経験者の中で多いのは、キャスターなどテレビに出てた人。これは選挙の性格上、名前や顔が売れてないと(組織が完全バックアップする官僚以外は)当選できないからでしょう。

普通の民間企業出身者はかなり少なく、リクルート、三菱商事、それに地元のデパートの創業家出身で社長だった人とか。

こういう人を知事にするということは、元官僚を知事にして霞ヶ関から予算をもらってくるのではなく、民間企業を活性化して地域再生ををやろうという意識がすこしだけ芽生えてきたエリアなのかもしれません。


さて、ここからが今日の本題です。(← ここからかいっ!)、

ここのところ、知事の選ばれ方が変わってきてるんです。

ひとことで言えば、都市部でも地方でも自民党候補が知事選に勝てなくなってる。


まず東京や大阪などの都市部では、いわゆる「改革派知事」が圧倒的に強くなってきた。

橋下氏であれ小池氏であれ、既得権益にしがみつく昭和勢力と戦う姿勢を示すと、有権者から熱烈な支持が得られます。


自民党はこの都市部有権者の意識にまったく鈍感で、小池百合子氏の対抗馬として元中央官僚の増田寛也氏を候補者に立てたりする。だから勝てない。

「そういう人はね、地方でしか当選できない候補者なんですよ」って誰かが教えてあげないと。


加えてさらに深刻なのは、最近は地方でも自民党候補が負けるケースが増えてるってことです。

なんでかわかります?


自民党系の候補者は基本的には原発推進だし(少なくとも強硬な反対はできないし)、基地だってノーとは言えないからです。

だってそれが自民党の基本方針だもん。


先日、福井県の高速増殖炉もんじゅを廃止するかもと中央が言い出したら、自治省出身の福井県知事が「勝手に廃止を決めるな」と怒ってました。

原発があるからこそ得られる様々な補助金や関連雇用が無くなることを怖れたのでしょう。

でも今回の新潟県知事選を見る限り、原発で生きてると言えるほどの福井県の知事でさえ、もし「原発反対派」が野党統一候補として立候補したら、自民党は負けるかもしれないと思えてきます。


これまで地方の有権者は、地方と農業を守ってくれる自民党が大好きでした。だから自民党公認で、中央官庁に大きなパイプを持つ「元官僚」を知事に選んできたんです。

でも原発と基地に関しては、それらを覆すに足る忌避感が地方の有権者の中にあります。

(数年後にはこれに憲法改正も加わるはず)


今回の新潟県知事選で負けた候補なんて、元建設(国土交通省)官僚なんですよ。

元建設官僚が新潟の県知事選で勝てないなんて!!

田中角栄さんも草葉の陰で驚愕されていることでしょう。


この動きは、非常におもしろいです。

だって、もし地方と自民党の蜜月時代が終わったら、誰が得するかわかります?


中央と対峙する知事が多くなると、中央から地方に流れるお金が減るんです。

だって「原発再稼働は絶対ダメです。で、ええっと・・・高速道路、延長してもらえます?」って頼みにいけないでしょ。

「原発再稼働はありえませんよ。ところで、補助金増額の件ですけど」って陳情できる?


そうなってくると・・・

今まで地方に回してたお金の出し手である東京、めっちゃ得するやん!


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そんじゃーね−


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