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連載

麻でまちおこし
鳥取県智頭町の挑戦。
「八十八や」後編

貝印 × colocal
これからの「つくる」
vol.020

posted:2014.9.9  from:鳥取県智頭町  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。

伊勢谷友介さんがパーソナリティを、谷崎テトラさんが構成作家をつとめる「KAI presents EARTH RADIO」と連携して、
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。

editor profile

Tetra Tanizaki

谷崎テトラ

たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。
http://www.kanatamusic.com/tetra/

photographer

Suzu(Fresco)

スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog/

前編:【60年ぶりに麻栽培が復活 伝統的な麻づくりプロジェクト。 「八十八や」前編】はこちら

行政も支援。広がる麻の利用法。

鳥取県の東南に位置する智頭町。
2013年、移住者の上野俊彦さんが大麻の栽培免許を取得し、
株式会社を八十八やを立ち上げた。

麻の実は食品として活用できるほか、油は空気を汚さない車の燃料にもなり、
繊維は耐久性の高い紙や衣類になり、クリーンな建材や、
土に還元するバイオプラスチックの原料にもなる。
循環型社会を形成するために、麻の利用価値は極めて高い。
戦後初という大麻の栽培免許を取得できたのには
智頭町のこれまでのまちづくりがあってこそ。

鳥取県智頭町の寺谷誠一郎町長にお話を伺った。

「現在は大麻の栽培に関して国の規制法も厳しい。
しかし正式に手続きをして、しっかりやれば、すごい世界が広がってくる」

鳥取県智頭町長、寺谷誠一郎さん。行政として「麻」を産業として復活させようと考えている。

智頭町に移住してきた上野さんが、
大麻栽培免許をとりたいと寺谷町長に相談したのは2013年のこと。

「彼が智頭町にきて大麻をつくりたいという。
最初はびっくりした。
大麻ってマリファナだろ? と聞くと、厳密にはマリファナと大麻は違いますと言う。
大麻は古来から日本で使われている“麻”のことだと。
大麻は怖いけど、麻なら怖くない。
よく聞いて見ようということで、彼の話を聞いたら、
麻はいろんな用途に使えることがわかった」

まず現在の産業用の大麻には麻薬成分(THC)のない品種が使われているということ。
安全な麻を使うことで、天然素材を使った産業が起こせる。
農業、林業にも関わることで、耕作放棄地の解決策になる可能性がある。
智頭町の歴史をひも解けば、60年前までは麻の栽培が行われていた。

林業が低迷するなか、伝統的な麻産業をもう一度復活させていこうと考える上野さんを
支援していこうと寺谷町長は決意する。

「麻の認可権は知事が持っているという。だったら知事にお願いしてみようと。
町もバックアップすることにした」

前例のないことではあったが、結果的には栽培の許可証がおりた。

「誰でもできることはインパクトはない。
ハードルが高いところはいろんな世界がみえる。
その高みから見る世界は驚きの世界でした」

日本では行政として産業育成にかかわっている地域はほとんどない。
麻産業を地域としてのトップランナーを目指す。

「麻はいろんな用途に使える。
たとえば花火にも麻が使われているんです。
花火メーカーから最低500kg〜1tの麻が欲しいという問い合わせがあった。
もし1tつくるなら、20町歩必要だという」

これだけの需要があるなら、
耕作放棄している畑を活用できるチャンスにもなるはずと考えた。

智頭町で麻栽培をする上野俊彦さん。株式会社八十八やを立ち上げた。無農薬・無化学肥料。国産オーガニックヘンプの商品開発でトップブランドを目指す。

中山康直さんのヘンプカープロジェクト。

麻の栽培復活のニュースが伝わると
智頭町には麻文化普及のキーパーソンが集まりはじめた。
ヘンプカープロジェクトの中山康直さんもそのひとりだ。
現在、麻の実を絞った油=ヘンプオイルでディーゼルエンジンを動かす
「ヘンプカープロジェクト」をすすめている。
中山さんにお話を伺った。

「いま伊豆大島に住んでいるんですが、
昨年、伊豆大島は土砂崩れで被災したんです。
そのとき災害に強い社会というのは自然とつながった社会と考えたんです。
実家が静岡県の浜岡原発の近くに生まれたこともあり、
エネルギー問題は人ごとでないと考えた。
私は30年前に麻に着眼し、戦後初めて静岡県で麻の栽培免許を取得しました」

ヘンプカーを走らせる狙いは何だろうか。

「ヘンプオイルは軽油に比べて、酸性雨の原因となる硫黄酸化物を出さず、
呼吸器障害の原因となる黒煙が3分の1以下と環境に優しい燃料です。
石油、石炭、天然ガス、原子力等の
枯渇性地下資源エネルギーに代わる再生可能なエネルギーとして、
また一般的にほどんど知られていない
この植物の多様性と可能性についてアピールしています。
車以外にも、農機具、発電機、漁船、建設機械。
これ全部、麻のオイルで動くんです。
そして環境の面でも素晴らしい。
2億年かけてつくられて自分の車に入ってくる地下資源と、
たった200日で生育する麻の油では雲泥の差があるんです」と中山さん。

燃料にするには国産の麻の実は少なく、
このヘンプカープロジェクトを始めるとき、中国から麻の実を2トン輸入した。
それを絞りながら車を動かしているという。

「麻の実を絞り、その上澄みを燃料として使うんですが、
沈殿物、油かすという副産物が出る。
それを販売させてもらいながら、事業体としてこのヘンプカーを動かしている。
それによってここまで来る燃料代はペイできています。
僕たちも燃料は“消費”か“浪費”だと思っていました。
地下資源を使う限り“消費”ですが、
このヘンプカーは完全に事業化していて、投資になっています」

国産の麻から油がとれるようになると、
畑がエネルギーと食を生み出す場所となる。

「ガソリンスタンドにお金を払うのではなくて、
植物油は植物の種ですから生産者に燃料代をお返しすることができるんですね」

ヘンプカープロジェクトをささえるスタッフには東北のメンバーもいる。
東北の復興のためにも被災地に麻畑を広げていくことも
アイデアとして出てきているという。

ヘンプカープロジェクト、中山康直さん 。10キロの麻の実から約2リットルのオイルを搾ることができき、不純物を取り除くと燃料として利用できる。排気ガスは環境と人体に優しく嫌な匂いもない。プロジェクト開催期間中は、各訪問地で実際に油を搾って走る様子を公開している。

麻の実は食べることができる燃料。

実際に麻から絞ったオイルを見せていただいた。

「燃費も軽油よりよくなるし、馬力もいい。エンジンにとってもクリーン。
非常に合理的だと思います。
そして麻の実ですから、私たちは燃料を食べることができる。
絞ったオイルを舐めることもできますが、沈殿物のバターがものすごく美味しい。
そして元気になる」

麻の実には大豆に匹敵する必須アミノ酸が豊富。
健康食材としても注目されている。

「地元の畑で採れた麻の実で車が走り、その副産物を道の駅で売る。
お土産もの屋に出荷する。あらたな地域の特産物となる。
過疎の村における耕作放棄地の活用であり、新たな雇用を生むことができます」

中山さんは麻の油の利用を核にしたまちづくりをイメージしている。
そのすべてが地域の資源を使ったものとして地域の活性化につながる。

「実際におじいちゃん、おばあちゃんにも畑でとれた麻の実で車が動くことを見てもらう。
見て、食べて、知ってもらうことで、爆発的に注目されると思うんです」

麻の実を絞ったヘンプオイル。10キログラムの麻の実から約2リットルのオイルを搾ることができる。1回濾して不純物を取り除くと燃料として利用できる。

寺谷町長に麻をとりまく状況を聞いてみた。

「智頭町では地域の行政が加わったということに注目される意味があるのかもしれません。
いま日本では国として規制しているから。
大麻の事業化の旗ふりは地域の行政でやるしかない。
智頭町としては、これを事業化していく後押しをしていきたい。
事業とするにはお金がいるが、幸い地域の銀行も応援してくれている」

麻に関する議題は、平成26年4月1日に農林水産委員会でも取り上げられた。
民主党の鷲尾英一郎議員が農水省と厚労省に質問した。

「繊維型は産業用大麻としてさまざまな使われ方があります。
家の建材として。強度があり湿度を調整するので内装材に非常に良い。
断熱材に使用すれば解体した後は土に返る。
麻の実はミネラルのバランスが良く、カナダでは広く食用として用いられている。
メルセデスベンツ社では自動車の吸音断熱材として、
ポルシェやルノーではプラスチックに代わるものとして
ドアノブやダッシュボードに組み込まれている。
日本では伝統的に神社のしめ縄として使われていたが、
これが黄金の国、ジパングの由来になったという説もある。
バイオマス燃料としても、トウモロコシやテンサイよりも麻を使ったほうが量が採れる。
さらに麻は、硝酸態窒素の元になる窒素を土の中から吸収する。
TPPの問題がある中で、農水省としては有望な商品作物が何かということを
調査研究をしていかなければならないと思います」
第186回国会 農林水産委員会 第5号(平成26年4月1日)より)

これは産業用大麻が注目されて世界各国の大麻の規制が変わってきているなかで、
日本では1948年に大麻を規制する法律がつくられてから全く変わっていないことに対する
農水省と厚労省の考え方を問いかけるものだった。

寺谷町長は語る。
「政治家がいま本気になって麻に取り組まなければならない。
耕作放棄地の問題もたくさんある」

智頭町の山菜料理を食べることができる「みたき園」。智頭町の自然を生かしたランドスケープが楽しめる。町長自らデザインした人工の滝のスケールに圧倒。

まち全体を森の博物館に。

「必ず田舎に風が吹く。そう信じてきた。」
と寺谷町長。

「智頭町は93%が山なんです。山や森を捨てたら意味がない。
昔は木材が高く売れたので鳥取県でも裕福なまちでした。
しかし外材が入ってきたて林業は衰退した。
50年育てた木が大根一本と同じ値段。これではやってられない。
なんとかしなればならない」

山や森に新たな価値を与えたい。
まち全体を「森の博物館」にしたい、と考えた。

「お金がなければ知恵を出せ、知恵がないなら借りてくればいい。
町民の知恵を借りようと『百人委員会』というのをつくった。
林業、農業、教育、さまざまな領域でヒアリングして
良いアイデアには予算をつけようということになりました」

智頭町では地域の魅力を住民自ら見つけ出し、さまざまな取り組みを行っている。
住民主体で始めた「森のようちえん」や「森林セラピー」などは、
今後の日本や日本人に必要なものを提示する取り組みであると感じているという。

こどもを山の中で自由に遊ばせる「森のようちえん」。
子どもたちが山に入ることによって山林が教育のフィールドに代わった。
川で遊び、森で学ぶ幼稚園だ。
NHKが取材して、英語版は世界130か国で6回放映された。
世界各国から智頭町に取材に来るようになった。

科学的に森の効用を数値化した「森林セラピー」は、
東京,大阪など都市圏の企業から注目され、保養のために活用されている。
また都市住民との交流や移住定住の促進をはかるために
「疎開保険」や「民泊事業」も進めている。
麻づくりをはじめた上野さんも智頭町の移住政策にひかれ、
ここで子育てをしたいと移り住んだ。

「おかえりなさい。智頭町へ」

智頭町が発行した冊子に寺谷町長はそんな文章を寄せている。
いまの時代は、
「本当の豊かさとは何か? 幸せな人生とは? と皆が立ち止まって考えはじめた」時代。
田舎でしかできないことがある。

「そして麻なんです」

寺谷町長は強く、これからの「つくる」を言葉にした。
9月20日には伝統的な麻の桶蒸法を公開する智頭麻まつりが開催される予定だ。

Information

map

株式会社八十八や

http://www.8108ya.co.jp/

智頭町ホームページ
http://www1.town.chizu.tottori.jp/

智頭麻まつり 9月20日(土)開催
http://chidukarakimashita.jimdo.com/

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