世界で熱を帯びるビール業界再編で、日本勢が獲得を狙う買収案件の“最終決戦”が続々と始まった。
アサヒグループホールディングスは英SABミラーの東欧5カ国のビール事業に買収提案する方針で、買収額は5000億円を超えるとみられる。実現すれば国内ビールメーカーで過去最大の買収額となる。
きっかけは、世界最大手であるベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)が世界2位のSABミラーを買収したことにある。両社は昨年に合意し、今年10月10日に買収を完了しているが、この統合が各国の独占禁止法に抵触しているため事業再編を余儀なくされた。
これを受け、アサヒはすでにSABミラーからイタリアの「ペローニ」などを買収済み。今回、さらに買収しようというわけだ。
ビール業界では、2000年代からABインベブを中心に大規模な買収合戦が繰り広げられ、世界で再編が進んできた。日本勢はその波に乗り遅れ、大手各社の海外比率は30%以下と低いまま。とりわけアサヒは20%程度と低く、「東欧の案件は、海外展開を進める上で残された数少ないチャンス」(アサヒ関係者)である。
● ベトナムでも争奪戦
もっとも、入札には「雪華ビール」で知られる中国最大手の華潤ビールや、欧州の投資ファンドのCVCキャピタルパートナーズ、ペルミラなどが参加する見通しで、アサヒが買収を実現できるかは不透明。アサヒは「将来を占う大事な案件」(同)のアドバイザーに、ペローニなどの買収時と同じく投資銀行のロスチャイルドを選び、年末にかけての入札に臨む予定だ。
熾烈な争奪戦はベトナムでも始まる。9月初旬、ベトナム政府は国営ビール会社で、市場シェアの約40%を握るサベコと同20%のハベコの全株式を17年度までに売却すると発表した。
ベトナムは20~25年には消費量で日本を抜くといわれるビール大国なだけに、発表に「どうしても取りたい」(大手ビールメーカー幹部)と関係者は沸き立った。日本勢ではアサヒのほかキリンホールディングスがサベコの買収に興味を示し、ABインベブやオランダのハイネケンとの争奪戦になるもようだ。
複数社でのディールに買収価格はつり上がり、売上高約1500億円(15年度)のサベコが「3000億円超えの高価格で取引される見通しで、“高値づかみ”になる可能性が高い」(投資銀行幹部)。
それでも東欧やベトナムを除くと、世界に有望な案件はほとんど残されておらず、国内市場が縮小する中で日本勢に選択肢はない。
日系ビールメーカーは、東欧、ベトナムで争奪戦に勝利し、グローバルプレーヤーの一角として名を上げられるか。買収最終決戦の結果が待たれる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 泉 秀一)
週刊ダイヤモンド編集部
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