ロシアのプロパガンダ(政治宣伝)の先頭に立つ存在とも言えるニュースキャスターのドミトリー・キセリョフ氏は、日曜(9日)夜の自身の看板報道番組で厳しい警告を突きつけた。ロシアが支援するシリア政権軍に対する米軍の空爆は、第3次世界大戦の引き金になるかもしれない。「ロシアに対する凶暴な行動」は「核(兵器)の次元」をもたらしうると、キセリョフ氏は宣言した。
キセリョフ氏の終末論的な警告は、これが初めてではない。ロシアがクリミアを編入する前の2014年3月にも、ロシアは今も米国を「放射能の灰」にしてしまえる唯一の国だと視聴者に思い起こさせている。
■冷戦後最も高まる緊張
だが今回の発言は、ウクライナ危機はおろか冷戦時代の最悪期のような水準にまでロシアが米国との緊張を高めた週の終わりというタイミングだった。シリアがウクライナと同様の発火点となり、大きな衝突に発展する危険はおそらくシリアのほうが大きいということを浮き彫りにした発言だ。
緊迫化の発端は3日、米国がシリア停戦に関するロシアとの協力を停止したことだ。その前の時点でロシアのプーチン大統領はすでに、米国との間で2000年以降に結んだ兵器級余剰プルトニウム処分の合意を停止する考えを示していた。
その後、プーチン氏は米国に最後通告を突きつけた。合意を更新したいのなら、米国は欧州における北大西洋条約機構(NATO)の戦力を2000年の水準まで削減し、2億3000万ドルの横領事件に関与したロシア政府高官を制裁対象に指定した12年のマグニツキー法を撤回しなければならない。また、ウクライナ情勢関連の制裁も解除し、ロシアが被った損失を補償しなければならない──。
ロシア政府は、その後数日でさらに2つの核関連合意も停止した。そして6日、ロシア国防省は地対空ミサイルシステム「S300」をシリアに配備したことを認め、「ロシアの人員を脅かす」いかなる米国の航空機も撃墜する構えを示した。
翌7日、ロシア政府は核弾頭搭載可能な弾道ミサイル「イスカンデルM」をバルト海沿岸のロシアの飛び地カリーニングラードへ移送した。ポーランド全土と旧ソ連のバルト諸国を射程に入れる態勢だ。軍事演習のための一時的移送という名目だったが、西側が必ず気づくように、ミサイル1基を輸送船の甲板上に置いて米国の偵察衛星から見えるようにしたとロシアの国防担当報道官は述べた。
これに対し米国は、シリア第二の都市アレッポに対するロシア軍の空爆を戦争犯罪として調査するよう要求。また、ロシア政府は米大統領選を混乱させるためにサイバー攻撃を仕掛けていると公然と非難した。