イルカ漁のこと
私が人生で初めてイルカ漁のことを意識したのは、10年くらい前。
長女を妊娠したとき、母子手帳と一緒に配布された資料。
水銀含有量の関係で、妊娠中は制限するべき食材の中に『イルカ』があった。
厚生労働省の定めた基準によると、妊娠中は、イルカを食べるのは、80gを2か月に1回までに抑えるべきらしい。
っていうか
イルカなんて食べないし。
っていうのが初見の感想。
で、次に
厚生省がわざわざ基準を出すなんて、日本にはイルカを日常的に食べてる地域があるんだな。
って思った。
その基準には他にも、マグロやキンメダイとかが載ってたけど、その中でもイルカは水銀の含有率がとびぬけて高かった。
まぁ、食物連鎖の最上位近くにいるんだから、当然といえば当然。
水銀は、海底火山から常に噴出してるわけだから、水銀を含まない魚介類なんてなくて、食物連鎖の上位にいる動物にそれが濃縮される。中学校理科で習った。
でも、厚生省の資料によると、子供も大人と同等の排出能力があるので、注意するべきなのは胎児期のみらしいです。
次に私がイルカ漁に触れたのは2年前。和歌山県太地で白いアルビノのイルカが捕獲されたっていうニュース。
それと同時に、捕獲された白いイルカの母親イルカが、子供を探して、最後には深く潜っていって上がってこなくなってしまった。悲しみのために自殺したと思われるっていう、動物愛護団体の人のブログの記事を見た。
素直に、可哀想だなぁと思いました。
で、動物愛護団体の人のブログをよく読むと、太地では追い込み漁でイルカを捕り、水族館や軍事用にロシアに売っているビジネスがあると。水族館用にされなかったイルカは殺されて食用にされると。しかし日本にはイルカを食用とする伝統はなく、そんな食文化はでっち上げだと。
その主張はちょっと不自然だなと思った。
その逆で、太地には昔からイルカを食べる食文化があって、そのサイドビジネス的に水族館にイルカを売ってるって考える方が自然だと思った。
現に、母子手帳に添付される資料には、妊娠中のイルカの摂取量の注意まであるんだから、地域によっては、それぐらいなじみのある食材なのではなかろうかと。
で、興味を持ってしらべているうちに
反捕鯨映画『ザ・コーヴ』のことを知ったり
シーシェパードのことを知ったり
国内のイルカ漁反対デモのことを知ったり
昨年見たドキュメンタリー『太陽と黒潮と鯨の町』では
和歌山県太地町の人たちにとって、イルカ漁は大切な伝統であること
商業捕鯨が規制されたことで、多くの人が職を失い、町は過疎化していること
『ザ・コーヴ』公開以来、太地町には毎年、反捕鯨団体が訪れ迷惑行為をしていること
を知った。
そして国内の動物愛護団体までもが、太地町の追い込み漁を批判しているということを、同じ日本人として、とても悲しくて、情けないと思った。
捕まった白いイルカは可哀想だけれど
死んでしまったかもしれない母親イルカは可哀想だけれど
だからといって、イルカ漁を生業としている人を批判し、職をとりあげるような行為は違うと思った。
イルカショーのこと
私は子供の頃から、動物園や、動物のショーがあまり好きではなくて。
イルカショーやアシカショーも、見ているうちに、ショーをしてる動物を可哀想に思ってしまったりするので、楽しいような、可哀想なような、いつも複雑な気分。
とある水族館のイルカは、広いいけすにのびのびと暮らしていて、トレーナーさんが呼んでもこなかったり、どこにいるのかよくわかんなかったり、とても自由だった。
その水族館のトレーナーさんは
『イルカはプライドがある動物。エサにつられてショーをすることはない。気が向いたときにしかジャンプもしてくれないので、今日、ショーが見られなくても、そんな日もあるってあきらめてくださいね』
って言ってた。
またある島のイルカは、連れてこられたばかりの子どものイルカで、近くを通るジェットバイクの音に驚いてパニックを起こし、ジャンプしまくったりしてて可哀想だった。
その島にはふれあい用のイルカもいたけど、狭い水槽の中のイルカは、ガラスにぶつかって顔が傷だらけで可哀想だった。
別の水族館のイルカショーでは、可哀想なんかじゃない!!って確信できるほど、イルカが楽しそうにショーをしていた。その水族館ではイルカの繁殖に成功していて、ショーには三世代のイルカが出演していた。
水族館のイルカは可哀想なのか?
イルカショーは可哀想なのか?
考えてる中で出会った文章。
中学校の国語の教科書に掲載されているらしい『ガイアの知性』
http://www.ric.hi-ho.ne.jp/birdbanding/gaia/1128.shtml
水族館のイルカについて言及している。
彼らは捕らわれの身となった自分の状況を、はっきリ認識している、という、そして、その状況を自ら受け人れると決意した時、初めて、自分とコミュニケーションしようとしている人間、さしあたっては調教師を喜ばせるために、そしてその状況の下で自分自身も、精いっぱい生きることを楽しむために、「芸」と呼ばれることを始めるのだ。水族館でオルカが見せてくれる「芸」のほとんどは、実は人間がオルカに強制的に教えこんだものではない。オルカのほうが、人間が求めていることを正確に理解し、自分のもっている高度な能力を、か弱い人間(調教師)のレベルに合わせて制御し、調整をしながら使っているからこそ可能になる「芸」なのだ。
人間が彼らに何かを教えようとすると、彼らの理解能力は驚くべき速さだそうだけれども、同時に、彼らもまた人間に何かを教えようとする、というのだ。
フロリダの若い学者が、一頭の雌イルカに名前をつけ、それを発音させようと試みた。イルカと人間では声帯が大きく異なるので、なかなかうまくいかなかった。それでも、少しうまくいったときには、その学者は頭を上下にうんうんと振った。二人(一人と一頭か)の間ではそのしぐさが、互いに了解した、という合図だった。何度も繰リ返しているうちに、学者は、そのイルカが自分の名前とは別の、イルカ語のある音節を同時に繰リ返し発音するのに気がついた。しかしそれが何を意味するのかはわからなかった。そしてある時、はたと気づいた。「彼女はわたしにイルカ語の名前をつけ、それをわたしに発音せよ、と言っているのではないか。」そう思った彼は、必死でその発音を試みた。自分でも少しうまくいったかな、と思った時、なんとその雌イルカは、うんうんと頭を振リ、とてもうれしそうにプールじゅうをはしゃぎまわったというのだ。
鯨や象が高度な「知性」をもっていることは、たぶんまちがいない事実だ。
しかし、その「知性」は、科学技術を進歩させてきた人間の「知性」とは大きく違うものだ。人間の「知性」は、自分たちだけの安全と便利さのために自然をコントロールし、意のままに支配しようとする、いわば「攻撃的な知性」だ。この「攻撃的な知性」をあまリにも進歩させてきた結果として人間は環境破壊を起こし、地球全体の生命を危機に陥れている。これに対して、鯨や象のもつ「知性」は、いわば「受容的な知性」とでも呼べるものだ。彼らは、自然をコントロールしようなどとはいっさい思わず、そのかわリ、この自然のもつ無限に多様で複雑な営みを、できるだけ繊細に理解し、それに適応して生きるために、その高度な「知性」を使っている。
捕まえられて水族館に連れてこられたイルカは確かに『可哀想』。
だけど彼らは、その『受容的な知性』で、自分の運命を受け入れて、その中で精いっぱい生を謳歌してるんじゃないか。
そんなイルカを可哀想だ解放しろ!!と騒ぎ立てるイルカショー反対デモは、本当に、イルカのためになっているんだろうか?
これは、水族館のイルカトレーナーさんの書いた記事
水族館の外で反対活動している愛護団体よりもずっと、トレーナーさんたちの方が、とらえられたイルカを幸せにしている。
なんで太地だけ?
実は、イルカ漁は日本を含めた世界中で行われていて、太地で捕獲されるイルカは、その1割程度なんだそう。
それなのになぜ、太地が反捕鯨団体の標的にされちゃってるのかというと、『追い込み漁』をしているから。
太地以外のイルカ漁はすべて、外洋に出て、モリで突く方法で漁をしているため、その漁の様子が目立たない。
それに比べて、湾内にイルカを追い込み、その場で解体する太地の追い込み漁は、『イルカを殺す』という事実は同じでも、見た目のショッキングさが違う。
実は数年前、国際的な目を気にした政府が、湾内で解体するのではなく、食肉加工場をつくって、そこに運び入れて解体することを提案したそうだ。
しかし太地の人たちにとって、イルカ漁は伝統で、その解体を湾内ですることも、誇り高い仕事だったため、それを断ったんだそう。
政府から打診があったとき、食肉加工場をつくっていれば、またちょっと、違ったのかもしれないなって思いました。
私自身は、屠殺の光景が当たり前のものとして受け入れられてる太地の人たちの心は素晴らしいと思うし、屠殺が隠された現代に生きる私たちが忘れてしまいがちな、命をいただくことの意味を実感できる、湾内での屠殺もまた、価値のある伝統だと思います。
だけど、国際社会で先進国として受け入れられるには、難しいのかもしれない・・・とも思う。
あとは、シーシェパードやグリンピースなどの海外の動物愛護団体にとって、太地でイルカ漁を反対する活動は、寄付金集めのパフォーマンス、団体を運営していく上でのビジネススタイルにもなってるんだそう。
以前たけちゃん(id:take-chan)さんがくれたコメント
グリーンピーススタイルの動物愛護活動は、慈善活動で名声を上げて節税したい大富豪の寄付金先として適格である為、大富豪が居る限り儲かるビジネスモデルとなっています。
なるほどなぁと思いました。
これって、たとえば日本の動物愛護団体が、中国の犬肉祭りとかに遠征して反対活動をすればきっと、犬好きな人からいっぱい募金してもらえるっていうのと同じなのかな。
まぁ中国は怖いから遠征できないだろうけど。
そういう意味では、おとなしい日本は遠征先として適してるって判断されてるのかもしれないですね。
ちなみに太地の追い込み漁で生け捕りにされたイルカは、とてもよく人に懐いて飼育しやすいっていうのも、国内外の水族館から需要がある理由なんだそう。野生のイルカと信頼関係を築くファーストコンタクトとしての技術は、太地が世界一なんだって。太地は本当に、イルカ・クジラと共にある町なんだなぁと思う。
イルカ漁イルカショー反対デモ活動のこと
私は、狭くてぎゅうぎゅうのところで不自然に太らせた家畜を食べるより、野生動物を狩って食べる方が、ずっと自然に優しいと思う。鯨やイルカ肉ってジビエだよね。
イルカショーはもしかしたら可哀想かもしれないし、私はあんまし見にいかないけど、それでもイルカの生体販売で生計をたてている人がいて、イルカショーが廃止されることで職を失い路頭に迷う人がいるなら、やみくもに反対はできない。
ということで
無責任にイルカ漁やイルカショーに反対して、人の生業を奪ってもかまわないという考えの活動家さんが嫌い。
これは、この間京都であったらしいイルカ漁イルカショー反対デモの記事なんだけど
この中で、活動家さんがコールしてる
イルカ猟がなくなれば、
猟師は失業し、仕事がなくなるという意見があります。
イルカ猟がなくなれば、イルカ猟はできなくなりますが、
その他の漁で生計を立てることが可能であると聞きます。
イルカ猟には定められた猟期があり、9月~2月までは→イルカ追い込み猟をし
それ以外のシーズンを見てみると、イルカ猟の猟師は、
貝・海藻・曳き(ひき)縄釣りでカツオ漁やマグロの稚魚や棒受け網で漁をし、生計を立てているとのことです。
猟禁止期間があるので、その間はイルカ猟のみで生計を立てているわけではなく
他の漁にも従事し生計を立てているので、イルカ猟が出来なくなっても猟師は生計を立ていけると考えます
『聞きます』
『考えます』
ほんとかよ。
すごい他人事で無責任。
太地町のドキュメンタリーフィルムを見る限り、とてもそうは思えない。
ドキュメンタリー『太陽と黒潮と鯨の町』 を見た~映画『ザ・コーヴ』の裏側~ - 感想文
『イルカを救うこと>人の生活』
こういう考え方が、この人たちの一番嫌いなところ。
イルカ猟は、日本の恥です!
国際的に非難が高まっている「イルカの追い込み猟」です。
そう考えても、イルカ猟は、日本の恥です!
こうやって人の人権踏みにじるのもほんと嫌い。
私からすれば、人が大切にしている伝統を、活動資金集めが目的の海外動物愛護団体のパフォーマンスに便乗して、同じ日本人が、恥だ残酷だと罵っている行為の方が、ずっと恥ずかしい。
イルカやクジラを可哀想だと思う気持ちは理解できる。
私もイルカショーがいまいち得意じゃないから。
でもだからって、その価値観を人に押し付けたり
人の仕事を邪魔したり
その仕事に従事してる人を罵倒したり傷つけたりするのはどうかと思う。
20年前に放送された『ビーチボーイズ』っていうドラマのスペシャルで、ショー用につかまえられたイルカを、竹野内豊と反町隆史と広末涼子が、夜中にこっそり施設に忍び込んで、海にかえして、やったー!!成功!!イルカ助けた!!ってシーンがあって、すごい違和感感じたのを、今でも覚えてる。
これ、やっていいの?
施設の人、めちゃくちゃ困るんじゃね?
業務妨害じゃないの?
私は当時学生だったけど、いくら動物が可哀想だからって
『動物>人』
になっちゃ、ダメなんじゃないかと思った。
まとめ
太地の追い込み漁を可哀想だと思うかと聞かれれば『可哀想だと思う』。
イルカショーのイルカを可哀想だと思うかと聞かれれば『可哀想かもしれない』。
でも目に見えないだけで、自分で手を下してないだけで、私だって牛や羊や豚や鶏を閉じ込めて殺して食べてるし、牛乳は母牛から子牛を無理矢理引き離した産物だし、学校の飼育小屋ではウサギを飼ってるし、使ってる化粧品や、抗菌の文房具は動物実験で安全が確認されたものだし、紙やガソリンや家具の原料は、熱帯雨林からオラウータンを追い出して切り出した木材だし、追い込み漁や、イルカショー以上に、私の生活は、動物の可哀想の上に成り立ってる。
それを忘れて、棚にあげて、イルカ可哀想クジラ可哀想って騒ぎ立てて人を責めるのは、浅はかな行為だと思う。
というのが、私の考えです。
イルカ漁や捕鯨文化を守りたいとまでは思わないけれど
理不尽に攻撃されている現地の人たちを気の毒に思っているし
無責任な捕鯨やイルカ漁に対する反対運動は軽蔑します。
ところでこの記事6000字超えてるけど、誰が読むんだろう?
ま、いっか。
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