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マスター:シチミ大使
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2016/10/10


みんなの思い出

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オープニング

「月が綺麗ですね」、と言えばそれは「愛しています」、と同義だといつから人は知ったのか。
 少なくとも今宵の月は満月であった。
 落ちてきそうなほどの星屑の空。ぽっかりと向こうの世界への扉のように中天に空いた月。
 この世界が一気におとぎ話の世界に入ったのだと、誰もが錯覚できそうな夜。
 酔い潰れた男が喚き散らしていた。
 往来を行く車もない、静かな宵闇の中を怒声だけが貫く。
 へたくそな酔いどれ音楽を聞くのは月と星空だけ――だと思われていた。
 その時、男の背後に何かが降り立った。
「月が綺麗ですね」
 そう言葉をかけてこられて人はどう答えるのか。
 不意打ちの言葉に、酔っ払いは応じる。
「ああ、そうだなぁ」
 答えた瞬間、その肩が引っ張り込まれた。
 無理やり向き直った男の視界に大写しになったのは、月下に嗤う道化であった。
 白塗りの顔が眼前に突き出され、言葉が紡がれる。
「月が綺麗ですね」
 銀色の瞬きがちらり、と視界の端に映った。
 悪魔の如き禍々しい鉤爪がある。
 それが横一文字に男の顔を薙ぎ払った。
 悲鳴と血飛沫が夜を染め上げる。
 道化は酔いしれたように爪の先から滴る血を飲み干し、その腕を掲げた。
「月が綺麗ですね」
 それが、男の聞いた最後の言葉であった。

「ハロウィン、という習慣がいつから持ち込まれたのかが実はよく分かっていないように、月が綺麗だと言えば、それが愛している、という言葉なのだと知られるようになったのは割と最近だと言われています」
 そのようなファンタジーめいた話とは裏腹に、プロジェクターの先にあったのは凄惨な殺人現場であった。
 次々に映し出される現場写真の中に嗤うのは白塗りのピエロである。
「道化を演じる、ということがプラスイメージになったのがいつからか分からないのも、また同じかもしれません。……前置きは置いておくとして依頼です」
 久遠ヶ原学園の事務係の職員の女性が淡々と告げる。
「このピエロが主犯だと思われます。殺人の経過とピエロの目撃情報から、この道化はディアボロだと判断しました。その脅威点は凶悪な爪」
 拡大されたのは銀色に輝く爪である。異常発達した爪が悪鬼の権化を描き出す。
「両手、両足に同じような爪を五指分。動きは素早く、撮影された姿もこのようにぶれています。定点カメラなどの情報から敵は三体。生存者から得られた情報に、相手は襲撃前に『月が綺麗ですね』と尋ねると言います。秋月に嗤う道化に、久遠ヶ原は殲滅判定を下しました。悪魔の活動領域はなく、自律型と思われます。この依頼を引き受けますか? 引き受ける場合はこちらにサインをお願いします」


プレイング

歴戦の戦姫・雫(ja1894)
中等部1年1組 女 
【心情】
「しかし、ディアボロが夏目漱石を知っているのは驚きですね」」

【行動】
囮と成る為に月明りの中、静かに月を見詰めながら敵が来るのを待つ
敵が月が綺麗ですねと語り掛けてきたら、仲間が奇襲を仕掛けやすい様にゆっくりと振り向き
「手が届かないから綺麗なんです」と返すと同時に邪毒の結界を発動させる

敵の攻撃と自分に集中させる為に語りかけには
「生憎と私、死んでも良いと返す相手はもう決めているので」
「貴方には綺麗でも、私にとっては曇って綺麗じゃないです」
等と返す

結界を発動後は闘気解放を使用
麻痺しなかった相手に兜割りやクロスグラビティを使用して動きを止める
動きの鈍った相手を仲間と連携して攻撃
更に攻撃を当て易くする為に可能であれば爪を優先して破壊する

※アドリブOK

言葉じゃ伝えきれない……・佐藤 としお(ja2489)
大学部2年7組 男 
「あー……マジこういうのって怖いなぁ……
正直こう言う不気味な依頼って苦手なんだよなぁ
でも誰かがやらないといけないからね

今回の目的は依頼主と同じ
個人的には仲間のサポートをすること

作戦決行前に皆で今回の作戦概要と各自の行動のすり合わせを行い、本作戦の円滑な進行を促す

○行動
囮への初手攻撃を、【回避射撃】で妨害する為に団地屋上に【クリアマインド】で伏兵。
敵に此方の伏兵場所が察知されたら、【ストーム】で敵の気が逸れている内に仲間と合流すべく移動。
敵を誘導中は攻撃を控え後方より追跡、自射程限界の距離に敵を収めつつ静かに移動。
「そんな爪で女の子をぶっちゃダメでしょ?(当たったらその後の方が怖いけど……

誘導後
戦闘が始まり次第、残った【回避】で援護。
敵の攻撃の瞬間にタイミングを合わせて足を狙って攻撃し敵機動力を削ぐ。
「ウロチョロされても迷惑なんでね

敵攻撃対象が自分に向いたら再度【ストーム】で潜行
場所を変え攻撃

状況終了後
数日間、同志を募り団地周辺のパトロールをし周囲の安全を確保
周辺住民の不安を無くす

クルックー空手・浪風 悠人(ja3452)
大学部3年11組 男 

【心情】
『(…俺昔妻に同じ告白したけど、スルーされたんだよな…)

【目的】
道化師達の撃退

【同行者】
葛城巴(jc1251)

【行動】
物陰に隠れて葛城巴さんと共に雫さんの様子を見守る
その際ボディペイントを巴さんと自分に使用して潜行を付与しておく
先に巴さんに掛け、切れそうになれば再度巴さんに使用する
視界はサードアイで確保しておく

雫さんが敵と応答をし狙われたらフォースを使用して一番雫さんに近い敵を下がらせ、雫さんに張り付く位置まで突っ込みシールドスキルでカバーリングをする
物理的な攻撃ならシールド時にロセウスを緊急活性化して受け防御を試みる
声は耐えられる限りは耐え、内心でツッコミを入れる

その後仲間の移動に合わせて雫さんを庇いながら広い場所に出て、そこでは獄炎珠の炎を両拳に纏わせ、重心を低くして拳を隠す様に構え近場の一体の視界を塞ぐ様に立ちはだかる
そこから繰り出す手とは反対の手を動かす事でフェイントを掛けつつ、下から振り上げる様にして燃える拳を打ち込む

格闘戦が避けられたり防がれたりして不利な時に敵が直線上に複数狙えた場合、回り込んで獄炎珠の炎で封砲を発動して敵のみを識別して攻撃する

最初に狙ったのが倒れたらすぐ違う個体を獄炎珠の射程に収めて炎を飛ばす

最後の一体なら獄炎珠の炎を纏った封砲で焼き殺す



惨劇阻みし破魔の鋭刃・元 海峰(ja9628)
大学部2年10組 男 
【心情】
不意打ちをしないとは珍しいディアボロだ。
「月が綺麗ですね」という問いに答えた相手のみ狙うのも。
光纏しても、月の美しさがわからん俺には答えようがない。

【行動】
団地内で戦うと住民を怖がらせる。場所を変えよう。
視界が開け、ある程度身を隠せる戦法が行えるとしたら公園だろうか。

問いに対して返答すると狙われるとか。
声を発しても狙われそうなので、皆で行動するまでは無言でいる。
それまで、合図等はハンドサインやアイコンタクトで行う。

囮は雫がやることになっている。
攻撃の前にミハイルに聖なる刻印を付与してもらうので、それまでは彼の近くにいる。
礼は合掌で。

三体(あるいは1体以上)が雫を狙い始めたら遁甲の術を使い接近し、動きを鈍らせるためすべての道化の爪を槌で割る。
「道化に爪は合わん」
一体でも動きが鈍れば、少しは戦いやすくなる。

潜行が切れたら使用し直し、火遁・火蛇の範囲内まで近づく。
「道化は炎で曲芸をするものだろう? 何かしてみろ」
道化は火を使った芸はしないのか?(突っ込まれた際の返答)
「俺の炎は曲芸ではない、西蔵忍法だ。思う存分喰らうが良い!」

道化なディアボロなのは、ハロウィンという行事が近いからだろうか。
南瓜の置物があると聞いたぞ。食えるのか?
(戦闘終了後、ハロウィンに関して皆に尋ねる)

205号室の営業部長・ミハイル・エッカート(jb0544)
大学部4年9組 男 
「月が綺麗ですね」と尋ねてくるならば、そこは美女に言われたいじゃないか
なんでピエロなんだ
これ作った悪魔はセンス無いぜ
いやいや、浮気しないぞ!?
ま、どっちにしても始末するだけだ

ところでこいつら、月の無い夜でも出てくるのか?
俺はいつでも構わんぞ
掃除するなら早目のほうがいいだろう

・準備
周辺に一般人がいないことを確認
車の往来にも気を配り、万が一見つけたら近づかないように知らせる

・行動
誘い出す場所は開けた公園が望ましい
なるべく周囲の施設には傷つけない

囮を目視できる程度、15mほど離れ、遮蔽物の裏に待機、海峰の近くとする
自らに光迷彩を付与
ただし光纏色は限りなく透明とし、暗闇で光らぬように気をつける

敵影発見時、海峰と俺に聖なる刻印を付与
戦闘開始時、囮役に近づき爆炎発動、囮を中心として周囲の敵を巻き込む
ターゲットは敵のみ、味方を傷つけない
内心(ピエロの注目の的か、囮楽しそうだなー)とか思っている
爆炎の回数が尽きたらフレイムシュート使用、敵の爪を狙う
敵の注意を囮から逸らせないよう、戦闘は一言も言葉を発さないようにする
終了後は、ほっとしたように一言
「月が綺麗で涼しい夜には芋焼酎お湯割り飲みたいぜ。ただしピエロは無しな」

・終了後
団地の自治会長に連絡
「久遠ヶ原の撃退士だ。掃除は終わったぞ」
連絡が行き渡るには時間が掛かるだろうから、集会所に張り紙でもしておくか

クラッカーマイスター・葛城 巴(jc1251)
大学部2年5組 女 
天気のいい夜に撃退

全体)雫を囮に討伐

個人)
浪風に潜行付与して貰い、敵に気付かれないよう雫から極力離れないように付いていく
暗視鏡使用し視界確保
念のため黒い服着用
審判の鎖:雫が尋ねられたら、即座に尋ねてきた道化に対し使用、他2体にも順次使用
戦闘時:極力、開けた場所に移動/近接攻撃する仲間の傍に居る。
雫の後衛に付き、攻撃が途切れないようタイミングを見計らい攻撃。
武器:捕縛と行動制限を優先で使用。攻撃力重視のタイミングでは銃やルーンに持替
回復:生命力半減時、ダメージ大の者を優先で使用/BSにはクリアランス
スキル残0の枠にはライトヒール入替
優先度:生命回復>BS回復>攻撃

最大優先事項)団地に入ったら戦闘終了まで、声を出さず行動
喋りにくくするため飴を舐める
声を上げて敵に気付かれてしまったら「好きなら、直球じゃなきゃ相手には響きませんよ?(挑発

戦闘終了後)哀しみを知らない者に、ピエロは演れないんですよ




リプレイ本文


 ――道化は寂しく踊るもの。
 そう言った美的観念があったわけではないが、雫(ja1894)の第一声は、「信じられない」だった。
「何ていうんですか、こういう文豪の感覚をディアボロが持っているって言うのが。いいんだか悪いんだか……」
 返答に困ったのは元 海峰(ja9628)であった。顎に手を添えて考え込む。
「俺にはそういう感覚って言うのが分からなくってな。すまないが同調し切れない。無論、ディアボロが詩的なことを言うか言わないで言えば、それは否であろう」
「ですよね。私、こんなことにそういうロマンチックな言葉って遣われたくないです」
「浪漫、か。生憎のところ、俺には分からん感覚でもある。月が綺麗だと何で好意を示すことになるんだ? 体感的に月光を感じられないのもあるが」
「あっ、すいません。私、何も考えずに……」
 迂闊だった、と判じた雫に海峰は頭を振る。
「別にいい。あまり気を遣われても仕方のないことだしな。戦闘に支障がなければそれでいいと思っている」
「そう、ですか」
 雫は困惑しつつも今回の囮役となることに一抹の不安を覚えてもいた。
「月が綺麗ですね、に答えを返すのも、どこか憚られるんですけれどね」
「それは、その言葉に返答する相手がいる、ということなのか? ……あ、いや無粋ならば謝るが」
 雫は海峰に微笑みつつ、唇に指を当てた。
「秘密、です」

「俺、昔妻に同じこと言ったんですよ。その時は無反応だったなぁ」
 浪風 悠人(ja3452)のため息に佐藤 としお(ja2489)は言葉を彷徨わせた。
「そりゃ……何ていうかご愁傷様だねぇ。これって結構、勇気いる言葉だと思うんだが」
 としおが団地の地図を見やりつつ位置取りを確認する。
「要るんですよ、実際。で、勇気出して言ってみたらキョトンだった時の感じ、分かりますかね……」
 としおは強く頷いた。
「男ならば誰しも言ってみたいが、ハズした時の感覚が怖い言葉ランキングの上位でもあるよね。怖いって言えば、僕は今回みたいなホラー系も実は怖い。囮役はよくやるよとまで思ってしまうなぁ……」
「としおさん、そういうの駄目でしたっけ?」
「ハロウィンって最近は浮かれ調子だけれど、元々は怖がりをさらなる怖がりに昇華するためだけのものみたいだったからねぇ。その洗礼を受けた、ってところかな。でも今は撃退士。誰かがやらないといけないのなら、そうするさ」
「囮への初撃は任せます。俺も位置取り、よく考えなきゃな」
 気を取り直した悠人の声音にとしおは指を鳴らす。
「声を出しちゃ駄目なんだっけ? なかなかに気を遣う秋月になりそうだ」

 ミハイル・エッカート(jb0544)はナンセンスだ、と嘆いた。
「月が綺麗ですね、と来たからには、そこは美女に言われたいじゃないか。何でピエロなんだ? これを作った悪魔はセンスないぜ? 美女型にしてくれるのなら、俺もやり甲斐があったもんだ」
 新聞に目を通しながら放った文句に葛城 巴(jc1251)は嘆息を漏らした。
「浮気性なんですか?」
「いやいや、浮気はしないぞ? ただな、こういうことは女に言われたいってのは男の願望みたいなものなんだよ」
 取り繕うミハイルに巴は言い返した。
「……男が四人もいて、それで誰も囮になりたがらないとか」
「……耳に痛いな。でもまぁ、道化にゃ美少女が似合うってのは間違いない。届かぬ恋に涙する道化ってところか」
「そこまでロマンチストなディアボロではなさそうですけれど……。そういえば十八世紀には扇子の動かし方一つで思いを伝える方法があったようです。直球が投げらない男たちはいつだってそういう婉曲表現を使い込んできたんですね」
「……さらに耳に痛いな。今回は月が綺麗だって言うディアボロに対して結構、言いたいことがあるようだな」
 巴は身を翻しつつ、手にしたクラッカーを雅に掲げる。
「月見と言えば団子ですが……ああ、これは食べられないんでしたっけ?」
「何だそれ、クラッカー? そういうグッズを持ち歩いているのか? いつ使うんだ、それ」
「それこそ、ジョークの時にですよ。今回みたいな、冗談めいた時には特に」
「違いない。冗談以外でこんな言葉をシラフで吐ける奴がいたとしたら、そいつの度胸に乾杯するか、あるいは笑いの種だ。俺は今回のピエロたちに、冗談以外を求めちゃいないからな」

 月光が降り注ぐ中、道化たちは一斉に行動を始めた。
 道行く人影は明らかに減っている。それでも全くないわけではない。今宵もその毒牙にかかるであろう標的は発見できた。
 道化が一体、その背後に歩み寄る。
「月が綺麗ですね」
 銀色の髪を秋風になびかせた少女は儚げな声で答えた。
「手が届かないから、綺麗なんですよ」
 ゆっくりと振り向いたその横顔に爪が突き刺さりかける。その時、地面を触媒として何かが発生した。
 禍々しく紫色に発光する結界が道化と少女――雫の間の空間を埋め尽くす。
 罠だと分かった時には既に身体の自由は奪われていた。
「月が、綺麗ですね」
「生憎と私、死んでもいいと言い返す相手はもう決まっているので」
 払われた銀の爪が空中で弾丸に遮られ、その狙いが僅かに逸れた。
 射程の先でとしおが、ふぅと息をつく。
「そんな爪で女の子をぶっちゃダメでしょ? 今回のディアボロ、告白のセンス云々よりもまず、女の子のエスコートの仕方から知らないらしい」
 控えていた二体の道化がとしおに向かって追撃し掛ける。
 ケタケタと嗤いながら道化がとしおへと駆け抜けた。
「うわっ……だからマジにムリなんだよ、こういうの。でもま」
 瞬間、銀色の盾がその移動先を遮った。
 悠人の操るシールドが道化の動きを阻害する。
「――今宵の月を楽しむのは、僕だけじゃないみたいなんでね」
 悠人がその言葉に唇に指を当てた。
(充分にキザですよ。としおさん)と唇だけで言ってみせる。
 雫と鍔迫り合いを繰り広げる道化へと割って入ったのは巴であった。
 常に雫に接近しており気配を殺していたのだ。
 無言のまま、巴は敵の爪を鉄くずで弾き返す。
 その攻撃網に迷いはない。
「月が……綺麗ですね!」
 渾身の爪による薙ぎ払いを防いだのは海峰であった。
「無粋な……道化に爪は似合わん」
 防御に用いた巨大な槌をそのまま翻し、攻撃へと転じさせる。
 爪が軋み次の瞬間叩き折られた。
 痛覚を刺激され、道化がもがき苦しむ。
 その姿を射線に捉えた影があった。
 ――悪趣味ピエロが。
 そう胸中に紡いだのはミハイルである。
 火炎が銃口より発射され、直後に隼の形状を模したアウルの塊となる。
 受け止めた道化の爪があまりの灼熱に融解した。
 月を仰ぎ見た道化の視界に入ったのは月下に舞う火炎の蛇であった。
「道化は炎で曲芸をするものだろう? 何かしてみろ」
 舞い踊る炎が道化型ともつれ合い、その喉から叫びが迸った。
「何だ、月が綺麗だと、そう言うだけの代物ではないのか。踊れぬ道化に、価値はなし。燃え尽きろ」
 悠人が印を切り、長大な数珠から炎を発するのと、ミハイルの銃撃の灼熱がその道化を嬲ったのは同時であった。
 ケタケタと嗤いながら崩壊し始める道化へと、海峰がその首元を締め上げる。
「俺の炎は曲芸ではない。西蔵忍法だ。思う存分、喰らうが良い!」
 海峰の背筋から炎の蛇が浮かび上がり、道化へと食いかかった。
 牙がその肉体へと食い込み、道化を瞬時に炭化させる。
 一体撃破の報は口笛で成された。
 としおが了承の口笛を返し、囮として戦う雫と巴に肉迫しようとした道化へと射撃を見舞う。
「女性二人に道化二人ってのは、大分、タチが悪い」
 一体の道化が瞬時に接近してくるのを、としおの狙撃が狙い澄ました。
 確実に頭部を撃ち抜いたはずの銃弾は、道化がその牙で受け止めていた。
「嘘だろ、おい……。今時の道化はそれくらいできないと売れないのかな」
 道化が銃弾を噛み砕き、声にしようとする。
「月が、綺麗――」
「でもま、銃弾は一発じゃない。こういうやり口でいかせてもらう」
 直後、浴びせかけられたのは暴風のような銃撃であった。牙で捉えきれない道化が仰け反る。
「さすがに効いたか……?」
 しかし道化は倒れなかった。足の爪を地面に食い込ませ、無理やり身体を直立させる。
 ゆらり、と起き上がったその頭部は穴だらけであった。
「うひゃー、大変だね。道化を演じるのも。でもその厚化粧、もう解けているよ」
 道化が再び動き出す途端、その足元に銃撃が成される。
 振り返った先の道化の襟元を引き寄せたのはミハイルであった。
(化粧のバケた道化の行き着く先は、悲劇って決まってんだよ)
 耳元で聞こえる潜めた声で言いやり、その首筋へと銃口を沿わせた。
 直後、爆炎が道化の頭部を打ち砕く。
 口笛二回で、二体目撃破の報が成された。
「月が、綺麗ですね!」
 爪の連撃をいなし、巴と雫が背中合わせに道化一体を相手取る。
「余裕がなくなってきましたね。告白って言うのは余裕がないと成立しないんじゃないんですか?」
 爪を大剣で弾き返し、雫の返す刀が道化の片腕を切り裂いた。
 悶絶する道化へと巴の振りかぶった鉄くずが放たれる。
「月が……月が……」
 苦悶に歪んだ声に巴が舌を出した。
 その舌先には飴玉がある。
 見入った相手の懐へと雫が剣先を突き刺した。
「別の月が見えたみたいですね」
 道化が刀身を引き裂こうともがく。雫はそのまま押し切ろうと丹田に力を込めた。
 吹き飛んだ道化が電柱に激しく衝突する。
 背筋を打ち据えた道化がよろよろと危うい足取りでよろけた。
 恐らくは肉体の根幹が麻痺しているのだろう。
「月が、綺麗で……」
「貴方にとっては綺麗でも、私にとっては曇って綺麗じゃないです」
 解放された闘気が銀閃となって剣に宿る。
 そのまま打ち下ろされた一閃を道化が爪で受け止めようとした。その爪も根こそぎ叩き折られてしまう。
 激痛に身悶えする道化を背面から射程に捉えたのは悠人であった。
「ハズした時怖いから言わないほうがいいですよ、ってのは、余計なお世話か」
 業火を纏った数珠による打ち払いが道化を焼き尽くす。
 断末魔を上げながら道化が今にも炭化しそうになる手を、夜空へと伸ばした。
「月が……月が、綺麗ですね……」
 その一言を最後に道化が内側から焼き尽くされ、完全に倒れ伏す。
 目標の沈黙を全員が確かめてから、ミハイルがふぅと息をついた。
「月が綺麗で涼しい夜には芋焼酎お湯割り飲みたいぜ。ただし、ピエロはなしな」
 燃え尽きた道化を見据えて巴が言い放つ。
「悲しみを知らないものに、ピエロは演れないんですよ」

 ミハイルが自治体に連絡し、事態は収束を見た。
 としおが一週間程度のパトロールを提案し、久遠ヶ原と自治体がそれを飲んだ形だ。
「しかし、月見ねぇ。どうせなら一杯やりたいもんだ」
 くいっと手をひねったミハイルに悠人が提言する。
「じゃあ月見酒でもどうですか? それかどこかで食事会でも」
 それに真っ先に乗ったのはとしおだった。
「おっ、いいねぇ。なんならラーメンが食えるところがいい」
 海峰がミハイルへと合掌して今次作戦の成功を感謝する。
「謝謝、ミハイル。道化なディアボロだったのは、ハロウィンという行事が近いからなのだろうか。俺にはあまり縁がなくってな。南瓜の置物は食えるのか?」
「いや、あれは食うもんじゃなくってな。っていうかある種、食い物を集める、って点なら間違っちゃいないんだが……。何なら付き合うか? 海峰も月見酒」
「俺は飲めんからな。飯ならば行こう」
「ラーメン! ラーメンにしよう!」
「としおさんってば……。よし、ラーメンも食える飲みの席に行こう。葛城さんと雫さんは?」
「私は、もう少しこの場所で。月を見ていたいです」
 今回の功労者の声に巴も応じていた。
「私も月を。今宵の月は一段と……」
 仰ぎ見た巴の視界の先には雲間から覗いた満月があった。
「――ええ、月が綺麗ですね」


依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:成功面白かった!:4人
MVP一覧
 歴戦の戦姫・雫(ja1894)
 言葉じゃ伝えきれない……・佐藤 としお(ja2489)
重体一覧
 −

歴戦の戦姫・
雫(ja1894)

中等部1年1組 女 鬼道忍軍
言葉じゃ伝えきれない……・
佐藤 としお(ja2489)

大学部2年7組 男 インフィルトレイター
クルックー空手・
浪風 悠人(ja3452)

大学部3年11組 男 ルインズブレイド
惨劇阻みし破魔の鋭刃・
元 海峰(ja9628)

大学部2年10組 男 鬼道忍軍
205号室の営業部長・
ミハイル・エッカート(jb0544)

大学部4年9組 男 インフィルトレイター
クラッカーマイスター・
葛城 巴(jc1251)

大学部2年5組 女 アストラルヴァンガード


依頼相談掲示板

相談卓
葛城 巴(jc1251)|大学部2年5組|女|アス
最終発言日時:2016年10月09日 18:32
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2016年10月06日 01:43


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