PCゲームで5.1chサラウンドを楽しむときは、S/PDIFとHDMIのどちらを使うべきか(完結編)

Dolby Digitalロゴ

 このブログでは、過去に何度も「PCゲームでマルチチャンネルサラウンドを楽しむのは難しい」という記事を掲載している。簡単に整理すれば「光デジタル出力ではそのまま5.1chを出力できず、HDMIでは音声のみを送れない」ということに起因している問題だ。詳しくは、以下の記事などを参照してほしい。

 最初の記事を書いたのはなんと2012年で4年も前なのだが、はっきり言ってしまうと、実は現在でも事態はほとんど改善していない。相変わらず光デジタル出力では、2ch以上の未圧縮音声(リニアPCM)は送れないし、HDMIでは音声のみを送信することはできないからだ。実はあの記事を書いた当時は、何年か経てばHDMI周りの状態が良くなるのではと期待していたのだが、実際はそんなことはなかったし、残念としかいいようがない。 HDMIで音声だけ送れるようにするのがそんなに難しいのか、ちょっとNVIDIAやATIに聞いてみたいところだ

 まあ残念な現実はとりあえず置いておくとして、実は自分自身のPCサラウンド環境は、ここ1年ほど“あるハード”を買うことによって安定している。進まない現状を受け入れることにして、現状の問題を一定のレベルで解決できる「ベスト」ではない「ベター」な決断をしたつもりだ。結論から書いてしまうと、満点とは言いがたいが、それなりに満足している。

 というわけで今回は、今まで書いてきた「PCゲームにおける、マルチチャンネルサラウンド問題」の補足と、今現在自分がどのようなサウンド環境にしているのかをまとめてみたい。似たような悩みを持っている人がいたら、参考にしてほしい。

HDMIのトラブルのほとんどは「EDID」にある

 HDMI経由で映像と音声を送り、AVアンプに接続してサラウンド環境を楽しもうとすると起こる問題が「接続が不安定になる」ことだ。ビデオ出力がマルチディスプレイ扱いになり、動作クロックが下がらなくなったり、3D出力にパフォーマンス上の問題が出たり、HDCPが効かなくなることは百歩譲ったとしても、Windowsがサウンドデバイスを見失ったり、2ch出力しかできなくなったりするといったことには耐えられなかった。とにかく「PCとAVアンプをHDMIケーブルで繋ぐ」と、不具合が発生しやすい。

 この原因となっているのが、「Extended Display Identification Data」略して「EDID」といわれる仕組みだ。これは簡単に言えば「HDMIで接続した機器同士が通信し、対応するフォーマットなどを互いに送り合う仕組み」で、これがあるからこそディスプレイをなどを繋いだときに、自動で適切な解像度に変更してくれるらしい。

 このEDID、シンプルに機器同士を1対1で繋いだり、連動して電源が切れるハード同士で使うなら問題が起こることは少ない。だが、PCのように「接続した機器同士の電源が、不定期かつ頻繁にON/OFFされる」とか「解像度やフォーマットはユーザーが選択し、任意のタイミングで変わる」といったもので使用すると、どうもまともに動いてくれなくなるようだ。恐らく、このような環境で使うことをあまり想定していないのだろう。

 以下のブログ記事では、自分もまさに体験した「PCとAVアンプを接続したときの不安定さ」がまとまっている。

  • サウンドのみの出力ができない (映像出力が必ずセットになる)
  • AVアンプの電源を切ると映像出力が切れ、更にサウンドデバイスを見失う
  • 機種(AVアンプ/グラフィックカード)にもよるが、AVアンプの電源を切るとディスプレイ自体も見失う (デュアルモニタにしていたらシングルモニタ環境になる)

1番目はどうしようもないです。
クローンモードにするなり、2枚目として使うなりしましょう。ただしクローンモードにするとHDCPが使えなくなります。

2番目以降は結構切実です。
DVIで接続しているモニタは電源を切っても認識されっぱなしですが、HDMIだとそうもいきません(たぶん)。 ディスプレイ自体を見失うのでDirectXなゲームをしていたりすると、だいたい落ちます。

また、サウンドデバイスがどこかにいくので、音も行方不明になります。もう一度AVアンプの電源を入れてもだいたい戻ってきません。

更に悪いことに、これはAVアンプのメーカーにも寄りますが、出力先のディスプレイの電源のON/OFFだけでも上記現象が起ることがあります(SONY製は少なくともそうなってます)。

PCとAVアンプをHDMIで接続するときの問題点を解決しよう - chaotic valkyrie

 この問題を解決するためには、EDIDを一定の値に固定し、かつ接続機器の電源ON/OFFに関係なく信号を出力し続けるために「EDIDエミュレータ」というものが必要になる。要するにPCに「この機器はマルチチャンネル出力が可能で、かつ(PCの電源を切らない限り)ずっと使用可能ですよ」と認識させるための装置だ。例えば、2016年10月に入手可能な機器としては、以下のようなものがある。

B00HX3DK18

 とはいえこの手のEDIDエミュレータ、上記の機種に限らず結構値段が張る。数千円から一万円強とそこそこの値段で、もちろんニッチ商品なので大手メーカー製だったりはしない。「HDMI接続の不具合」を解決するためだけに出す価格としては、正直高いのではないかと思う。
 もちろん現在進行形で徐々に普及しつつある4K対応品なら、もっと高価格。これをスパッと買える人は、そんなに多くないんじゃなかろうか。

HDMIでの問題を避けるために、S/PDIFを使うことに決めた

 そろそろ「自分はどうしたのか?」という本題に入ると、結論としては「HDMIの使用をスッパリ諦めて、光デジタル出力でゲーム音声を出力するために、USB接続のサウンドブラスターを買った」。順を追って理由を挙げると、以下のようになる。

  • HDMIはそのまま使うと解決できないトラブルが多く、そのために(上記の)EDIDエミュレータを買うのは高すぎると判断した
  • また、光デジタル出力(S/PDIF)なら、(以前の記事でも書いたが)映像と音声が完全に分離できるので、色々と都合が良い
  • S/PDIFでマルチチャンネルサラウンドを出力するには、「Dolby Digital Live」か「DTS Connect」機能が搭載されたマザーボードかサウンドデバイスを買う必要があるが、そのようなマザーボードは選択肢が狭く価格も高い。さらにマザーボードに内蔵された機能は取り外せないので、PC環境を変える場合、また同じ機能があるマザーボードを探さなければならない。つまり、外部デバイスに頼った方が後々も安心
  • 現状、Dolby DigitalやDTSで出力できるサウンドデバイスは、サウンドブラスターが最有力であり、他の選択肢はほとんどない。サウンドブラスターにはPCI-Eに差すカードタイプとUSBタイプがあるが、USBタイプなら環境を選ばずどのPCでも使える

 色々と考えた結果、以上のような結論に達したので、「USBタイプのサウンドブラスターでゲーム音声をDolby Digitalに変換し、光デジタル端子からAVアンプに繋ぐ」という方法を選ぶことにした。実際に購入したハードは、クリエイティブの「Sound Blaster Omni Surround 5.1」だ。

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 サウンドデバイスとしては高級どころか安価な方に入り、実際の作りも少し安っぽいが、「ゲームの音声を5.1chでアンプに送る」という一番重要な機能に関しては、一切のトラブルなく果たしてくれている。音声自体は、デジタルデータをAVアンプにストリーミングしているだけなので、もちろん音質にも一切の不満はない。

サウンドブラスターのDolby Digital Live設定画面
Dolby Digital Liveの設定は「シネマティック」タブからおこなう。具体的には、「エンコーダ」の項目で「DOLBY」ロゴを選ぶだけだ。なお、下の「SPDIFからのオーディオ出力を許可する」は、通常はONにする必要はなく、使うと場合によってはゲームが正常に動かなくなる

 ただ、アナログ出力(ヘッドホン出力など)に関しては聞いたところあまりいい印象を受けなかったので、マザーボードのオンボードサウンドと併用して使用中だ。PC内でのデバイスの切り替えは、以前このブログで紹介した「App=Device」というソフトを使っている。

 実はこのOmni Surround 5.1を買う前は、DTS Connect機能が搭載されていたマザーボードを使っていた。その感想は冒頭でリンクした記事で書いているのだが、その中で挙げた「全ての音声が5.1chに変換される」という問題が、このハードでは起こらない。Dolby Digital LiveをONにしても、ドライバでエフェクトさえかけなければ、例えば音楽のような2chのソースは2chのまま再生される。これは事前に予想できなかった(調べようがなかった)嬉しい誤算で、これだけでも買った価値はあったように思う。恐らく、ドライバ側で適切な処理がされているのだろう。

DTS CONNECTをONにすると、ソースのチャンネル数に関係なく、全てが5.1chに変換されてしまう。あくまでゲームの音声が5.1chで聞きたいだけなので、例えば動画や音楽は5.1chにする必要がない(したくない)のだが、「普段はOFFにしておいて、ゲームのときだけにDTS CONNECTを自動でONにする」などということはできない。

PCゲームをDTS CONNECTで5.1chプレイしたときのトラブル : Web Memo.SE

SBX PRO STUDIO設定画面
サウンドブラスターの設定画面にある「SBX PRO STUDIO」は、音声を調節したり、エフェクトをかけたりする機能。Dolby Digital Live使って2chのソースを(5.1chにせず)2chのまま再生したいなら、この機能を切る必要がある

 もう1つ感じたメリットは、すでに上でも少し触れているが、「今後のPC自作やアップグレードが、サウンド機能で制限されない」ことだ。
 探してもらえばわかると思うが、実はDolby Digital LiveやDTS Connectに対応したマザーボードは非常に少ない。基本的にはドライバの有無だけが問題なのだが、需要としてはニッチで、しかも下位モデルと差別化できる機能でもあるので、価格が高い一部のゲーミングマザーボードぐらいにしか搭載されていない。

 こうなると、例えば「マザーボードに出す金額は節約して、残りはビデオカードに回したい」といったことができなくなってしまう。自由度の高さこそが自作PCのメリットなのだから、そこはスポイルしたくないわけだ。

USBとPCI-Express、どっちのサウンドブラスターを選ぶべきか

 上の方の箇条書きでは、自分で「サウンドブラスターにはPCI-Eに差すカードタイプとUSBタイプがあるが、USBタイプなら環境を選ばずどのPCでも使える(から選んだ)」と書いているが、実はこれは微妙に間違っていたりする。というのも、自分のゲーミングPCはMini-ITXで組んでいて、すでに1個しかないPCI-Eスロットにはビデオカードが取り付けられているので、最初からサウンドカードを差す場所がなかった。つまり、消去法でUSBタイプを選んだ、ということになる。

 機能面でいえば、PCI-Expressタイプのサウンドブラスターの方が、基本的には高性能だ。エンコード機能に限っても、Dolby Digital Live以外にもDTS Connectに対応しているし、どうせ変換するならスペック的にはDTS Connectの方が高音質なハズだ。
 スロットに余裕がある、普通のATXマザーボードを使っているなら、PCI-Eタイプでも全然問題ないだろう。実際問題として、ミドルクラスの「Sound Blaster Z」なら価格差はほとんどない。

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 ただ自分としては、USBタイプを選んだことを特に後悔はしていない。一部で言われている音の遅延も特に感じないし、仮にSLIやCrossFireXを利用するようなことになっても、外部接続のUSBなら邪魔になることはないからだ。その気になればノートPCでも使えるわけで、環境を選ばないメリットがあるのは間違いない。

 最終的にはその人の選択次第だと思うが、スペック重視でスロットの余裕があるならPCI-Eタイプ、スペックよりも機動性や手軽さを選ぶならUSBタイプ、ということになるかもしれない。

いずれはHDMIで接続したいが、現在はまだS/PDIFで十分

 かなり長くなったが、そろそろまとめに入ろう。

 自分が光デジタル出力でサラウンド音声を出力することに決めたのは、端的に「HDMIでの接続が不安定かつ不便で、それが今現在も解決されていない」だからだ。理由はすでに書いたので繰り返さないが、挙動が全体的に不安定すぎて、安心して使用し続けることができなかった。
 そしてその解決のためにお金を使うぐらいなら、それをサウンドデバイスに回した方がいい、と考えたのがサウンドブラスターを買った理由だ。その選択は、これを書いている現在も間違っていないと思っている。

 とはいえ、光デジタル出力に弱点がないわけではない。エンコードのフォーマット的に5.1chまでしか対応していないので、今後ゲームのサラウンドで7.1chなどが主流になれば、その環境で使うにはスペックが足りない。まあ、物理的にスピーカーを置く場所があるのかとか、そもそもそんな時代が来るのかに関しては、ちょっと何とも言えないのが現状だが。

7.1chスピーカーの設置例
7.1chのスピーカーの配置例。一部の映画などでは、Dolby Atmosなど使って、さらに数が多い11個以上のスピーカーを使うフォーマットすら出てきている。「7.1スピーカー配置 | ドルビースピーカー配置ガイド」より引用

 もちろん人によっては、HDMIの接続で安定して使用できている環境もあるだろう。だが、少なくとも自分の環境では追加投資なしに安定させることはできなかったし、実感としては「音声だけが出力できるHDMI」が用意できない限りは無理ではないかと感じている。ゲームはPCを使う理由の1つに過ぎないので、それでトラブルが多発してしまっては意味がないのだ。

 AVアンプでPCゲームをマルチチャンネル5.1ch音声で楽しみたいなら、「まずHDMI接続を試してみて、上手くいかないならS/PDIFを使うために、サウンドデバイスに投資しよう」というのが、自分自身がたどり着いた答えだ。実際にどれぐらい人が困っているかはわからないが、この記事が参考になれば幸いだ。