とにかく美味しいお魚を食べさせてくれるお店が築地にあるという。
はっきり言えばまったく驚くに値しない言葉である。インドで美味しいカレーが食べられると言っているようなものだ。面白くもない。だがしかしとにかくそのお店は行くと幸せになれるのだという。
豊洲の移転問題やら何やらでもうすぐお店を閉めてしまうとか、予約が埋まりまくっているのでとにかく次の機会が最後のチャンスであろう、という集いにありがたいことにお誘いしてもらえたので「あ〜〜〜〜〜〜お仕事の締め切り前なんだけどな〜〜〜〜〜〜めちゃめちゃ忙しいタイミングなんだけどな〜〜〜〜〜〜でも築地までそんなに遠くないし最後のチャンスだし集まるのも20時近くと遅めだし行ってみるか!!!!」
と軽い気持ちで参加の表明を出したのです。
そのあとで「じゃあ予算は1万5000円だから用意しといてね!」と言われて激しい後悔に苛まされたわけですが。
1万5000円ってお前 お前
お金だぞ
ふだんの飲み会予算の基準が3000円で、4000円だと少し予算オーバーしてしまったかな、と思い、6000円払うことになると贅沢したな〜〜って気分になる生き方をしてきたこの人生に対して1回の食事に1万5000円はちょっと法外じゃないのかい!?
と申し訳ないながらも軽い気持ちでOKしてしまったことをひとしきり後悔し、貧乏くさくも1万5000円あったらあのオモチャが買えたな、同人誌も刷れたな……などと貧乏くさい計算をしてしまう始末でした。
ですが1万5000円を払った先にワンダーランドは確かにあったのです。
戦いの舞台はここ、築地山はら。
「え、ここにお店があるの? ってところにあるんだよ」とは聞いていたんですがなんといいますか、ファイナルファンタジー2のジェイドの洞窟の滝の裏の魔法屋みたいなところにあります。気づかねーよ。入っちゃいけないところ感半端ないもん!!!
飲み物が持ち込み自由というのも変わったところで、参加者のみなさん思い思いの酒を持ち寄ってきていまして、僕も一応持ってきたのですが保管の仕方がアホだったのか「変に甘い」「みりんと化している」と言われほとんど飲んでもらえませんでした。いっぱい悲しい。
突き出しとしてシラスに柚子胡椒とかをつけたものがでてきたのですが普通にうまいうまい。
そしてここからが地獄の九所封じの始まりだったのです。
続いてお刺身が出てきたのですが
これです。
アーーー
すごいこれ
なんだ?
マグロの赤身が異常なまでに赤いのがわかりますか?
まるで牛肉みたいでしょう? 召し上がってみてください。動物の肉みたいな味するですよ。
動物の肉みたいなマグロの赤身食べたことありますか? 俺はある。
そして鯛に……鯛に皮が付いている!
知ってるぞ、知ってるぞお前!!!
た、鯛の……鯛の松皮造りだ!!! 初めてみた!!!
思わず田舎もん丸出しで「お、オラ皮のついた鯛のお刺身食べるの初めてダァ」と口走ってしまいました。歯ごたえがあって皮が香ばしくてうまい。
あとヒラメの活き締めはうまく、ホタテはデカすぎるうえに味がしすぎてカンパチは知ってる味が最強になって出てきて、トロに至っては柔らかいのは当たり前なんですがなんかクルミみたいな味がするですよね。わかりますか? 魚は美味しすぎると木の実の味がするんですよ。
ファルコン・ランチ
で、このお刺身の時点で「最高か?」ってなってて特に求めるものはなかったんですがなんとこのあと鍋が出るという。
鍋ね。でも所詮は鍋でしょう?
しかも出てくるのはあんこう鍋なんだとか。
あんこう鍋!
知ってる。知ってる。ミーハーオタクだから知ってる。大洗いったとき食べたわうまかった。
だからあんこう鍋って知ってるんだよね。美味しいんだろうけどさ。びっくりしないよ。
と思ってたら
なんかダライアスみたいなのが登場。
わかりますか? 鯛ですよこれ。鯛が入ってる。一匹。焼いて。
この段階で小学生の時にはじめて浦安鉄筋家族を読んだ時くらい大爆笑してしまって完全に発狂しました。
なのでつい、前もってあんこう鍋だと聞かされているのに「これ! 食べていいんですか?」と聞くわけです。するとお店のおっかさんが
「出汁でございます」
と言うわけですよ。
出汁でごさいます。
出汁ってあれか。出てくるやつか、味が。
この段階で参加者全員が完全に頭が悪くなり「はぁー!出汁!」とおうむ返ししかできない機械となりました。
さらに聞くと前もってマグロ節と昆布で出汁を取っていると言う。
で
ここにアジのつみれが入るんです。意味がわからない。
マグロ+昆布+鯛+アジですよ。食べたことありますか?
俺はあるけどな。
そしてつみれって美味しいねとポワポワしてたらあんこう鍋の本番が来てしまうのです。意味がわからない。完全に地獄の反対です。幸せだなー幸せだなーと思ってたらまだ次の幸福が山盛りで目の前にあるんですよ。食べても食べても終わらないんですよ。なんなんだこれは?
お前らが見たことない光景を見せてやるぞ
こうやってみるとすでにただの鍋なんですがレベルが異常で、白菜は甘味か?ってくらい 甘く、シイタケは実質肉。
春菊を食べると満腹感が減っていき、また食欲が湧いてくる!とまたグルメ漫画から借りて来たようなセリフを口走ってしまいます。でも本当なんです……信じてください。
白滝がまた美味すぎて啜りながら「これ!ツユが美味しいのもあるけど実質ラーメンですよ!ラーメン!」って言ってたら「ラーメンではないよね。」と言われてしまいました。ラーメンではない。
食っても食ってもおかわりが入るしツユを無限に飲んでしまうのですが少しツユが減るとお父さんがやって来てドボドボと出汁を足していくのです。売ってくれ、その出汁を。
当然アンコウもうまく、食べると若返ってく。
薬味としてなんか赤いものがあり、爽やかに辛く何につけてもうまい。辛子ではないようなのですが聞きそびれました。
ファミコン版美味しんぼでおなじみのアレです!!!!!!!!!!!!!!!
舌の上で潰すと……なんか口の中がフワァ!なって……そこを日本酒で追っかける! これは夢!
ここであらかたアンコウ類を食べ終わり、ついにこれまで出汁としてひたすらに溶けていた鯛を食べる許可がおり全員が発狂します。
ここで完全に奇跡が起きるのですがこれまで出汁としてアンコウ鍋に味をお与えになっていた鯛様がこれまでの鍋の中の味をすべて吸収してるいろんな味がする繊維質となっており優勝候補に。
アンコウの切れっ端がうまく、赤い薬味をつけて永遠となります。
ところでお気づきになってるかどうかわからないんですがこのアンコウ鍋、味噌も入ってねーしポン酢もつけないんですね。完全に出汁だけなんですが誰かが言い出すまで完全につけるという発想が湧かなかったくらい美味く、別に食通ぶってるわけではなくてマジで最高に美味しい味がするので味がするものをつける必要がない。
鯛の部位破壊ボーナスをほぼ取り終わったころ、終末のラッパが鳴り響きます。「雑炊」だと。
ここに来てすべての伏線が収束します。
マグロ節
昆布
焼いた鯛
アジのつみれ
アンコウ
その他野菜ども
すべての味が渾然一体となって雑炊が産まれました。
ここに来て鍋をつついていた全員で出した答えが「海」でした。
「俺たちは海を食べている。」
興奮の絶頂に至った隣の吉田くんは「俺は海賊王になった」と言っていました。悪魔の実か?
そしてここに至ってこの味はただ単に食材を煮込んだだけでは得られない、俺たちがこれまでの楽しい料理を通して食べて来た味が集まったからこの味になったんだ、これはこの店のお父さんだけでは作れないんだ。この雑炊は俺たちが育てたんだという真実に気づき、私たちは落涙するのです。
当然の完飲。
本当の美食というのはこれだったんだ、俺たちはいままで、カレーライスみたいなものしか美味しいと思ってなかった。でも、これがあったんだ。
完全に新しい扉が開いてしまいました。
そして僕は感動を抑えきれないとともに深い悲しみに包まれたのです。だってこんなに美味しいアンコウ鍋は、これから先の人生で2度と食べれないでしょうから……。
そして3時間散々飲み食いしたのにも関わらず、帰り道でお腹が苦しくなく、まったく怠くなく、今すぐ布団に横になりたい!という気持ちが1ミリも湧かないことに驚きました。何なんだ、美食よ。
また、店のお父さんがすごいんですね。料理の合間合間にこの料理がどんな料理か、これまでこの店にどんな歴史があったかを話してくれるんですがバクバク美味しいものを食べてる途中なのにまったく邪魔に感じず、むしろ話が面白いのでどんどん聞かせてくれ!と思えるのです。
そして食ってる間なんか鍋がグツグツ言って鯛から味が出ててなんか、なんかすごいの。
本当に素晴らしい料理というのはただただ美味しいだけではなくエンターテインメントだと感じました。
思わず店を出るときにお父さんにご馳走様でした、とともにすごく楽しかったです!と言ってしまった。本当に凄いぞ。
うまいもん食ったなーというだけでなく、無限に発見があったエモすぎる食事でした。結局料金は1万2000円だったのですが、言われた時に安く感じすぎて「え、いいの!?」と思ってしまいました。最初に後悔してたのはなんだったんだ。
とにかくやべえ、すげえ飯食ったマジでパねえ。
貴重な体験でした。お誘いいただいてありがとうございました。