HOME > オートサウンドレビュー > 【Auto Sound Webレビュー】Gracenote、世界最強のビッグデータサービス企業
2016年10月15日/Auto Sound Web編集部・長谷川 圭
来る10月18日と19日の両日、東京・恵比寿において「TU-Automotive Japan 2016」が開催される。これはコネクティビティ、IoT、人工知能といった先進技術を通じて新たなビジネスのための情報交換をする場である。先に開催されたCEATECでも同様のテーマを掲げて多くの企業が技術展示をしていたのは記憶に新しいところだが、本イベントは一般ユーザー向けに開発された技術というよりも、それらを生み出すための基幹技術を有する企業が、企業間の連携をすることでより身近なサービスの実現を模索するものだ。今年開催される「TU-Automotive Japan 2016」にグローバルに展開しているメタデータカンパニー「Gracenote(グレースノート)」が参加するという。同社の技術がどのような進化をともない、われわれの音楽生活を充実させてくれるのかは改めてご紹介したいが、ここではGracenoteのいまを振り返ってみたい。
Gracenoteは米国企業であり、世界最大のグローバルデータベースを保有している。エンターテインメント(テレビ番組、映画、スポーツ、音楽)に関する詳細情報は、単なるデータベースではなく様々なプラットフォームで活用できるように提供されており、同社の技術をそれとは知らずに使っている音楽ファンも多いことだろう。日本市場においては、音楽分野におけるメタデータの活用が多く、楽曲のタイトルやアーティスト名のほかジャンルの属性などの情報表示といった面で採用されている。
たとえば、BDプレーヤーやPC、家を出ればカーオーディオといった再生機器でディスクやファイル再生をする際に、自動的にタイトルが表示されるが、これはほぼ同社のデータベースが利用されている。CDやデジタル音楽ファイルには、文字情報としての曲名やアーティスト名などの情報は含まれていない(CD TEXTは別)が、Gracenoteのデータベースは音楽ファイルとのヒモ付けがなされ、再生しようとする音楽ファイルのタイトルなどの表示を実現している。タイトル表示機能をもつプレーヤーをお持ちの方は、ぜひ確認して欲しいが、製品のどこか、あるいは取扱説明書の中にgracenoteのロゴが記載されているはずである。
同社の技術が導入されている実績をいくつか紹介しよう。ジャンル別にまとめると以下のようになる。
■自動車関連
◆車両純正搭載されているインフォテイメントシステムでは、メルセデス・ベンツEクラスでの採用を確認することができた。CDをローディングした際に、画面右下にGracenoteのロゴが表示され、確かに同社のテクノロジーが採用されていることがわかる。CD認識技術によって、曲名、アーティスト名などの楽曲メタデータ表示、アルバムジャケット画像表示、ワンタッチ操作でコレクション内のプレイリスト作成、発音・読みデータ/アーティストのニックネーム読みデータの提供にもとづく音声認識によるハンズフリーでの楽曲検索、といった操作が車内で可能になる。
◆市販製品ではAVナビ各社が採用しており、アルパイン、イクリプス、カロッツェリア、クラリオン、ダイヤトーンサウンドナビ、パナソニックと主要ブランドが名を連ねる。数年前からCD認識技術に関しては標準機能のひとつになっており、Gracenoteが提供するテクノロジーがスタンダードとなっている。
■ホームエンターテインメント関連
BDプレーヤーやNAS等を販売する家電メーカーに楽曲メタデータを提供している。このためディスクタイトルなどを認識して表示してくれる。ソニーやパナソニックのBDプレーヤー、テクニクスのミュージックサーバー、アイオーデータのNASやCDドライブなどで確認できた。
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■音楽配信関連
先ごろ日本でのサービスが開始されたSpotifyをはじめ、Apple Music、Pandora、Amazon、Googleなどが提供する世界を代表する音楽サービスで、Gracenoteの楽曲認識やデータが活用されている。日本ではAWAなどに楽曲メタデータを提供している。
■全世界展開
〇Google検索結果のナレッジカードで表示されるTV番組情報の提供(海外のみ)
〇アップルiTunesへCD認識技術、ファイル認識技術を提供
具体的な製品名まで挙げると、膨大な数になることは想像に難くないだろう。アップルiTunesに導入されている所だけを見ても、iPhoneやiPadおよびiPodでも同様であるため、いかに多くの人がGracenoteの技術の恩恵を享受しているかがわかるはずだ。
グローバル視点ではあるが、Gracenoteの“数”に関するデータがあるので、ご紹介すると、
◎Gracenoteデータベースがひと月で処理するクエリ数は「1兆」
(ちなみにナスダックだと2,590億クエリ、ウェザーチャンネルだと7,800億クエリ)
◎7,500万台の車両にGracenote技術搭載済み(市場出荷台数のおよそ20%)
◎600万タイトルの映画・テレビ情報、65ヶ国30言語でのテレビ番組表情報の提供
◎Gracenoteの音楽データ技術は10億個のモバイルデバイスに搭載
◎楽曲2億曲を網羅。データにはジャンル、年代、地域、テンポ、ムードなどの属性情報を一曲ごとに付与。
◎4,500あまりのプロスポーツリーグや国際試合の情報を17言語で提供。
こうして挙げ連ねると、Gracenoteのシェアが圧倒的なのがよくわかる。
話は変わるが、年齢40代の方には記憶があろうかと思うが、CDプレーヤーやMDプレーヤーといった製品では、CDのタイトルや曲名を自分で入力して機器のディスプレイに表示させる機能があった。しかし、この機能は1文字1文字の入力に大変な手間をともなった。当時はタッチパネルディスプレイなどなかったうえ、キーボードによる入力もなかったため、入力したい文字を呼び出して(1文字ずつ送っていく)選択、1単語を作るのに多くのキー操作が必要だった。さらに基本はアルファベットと数字で、のちに日本語(カナ)対応をしたものも登場するが、キャラクター数がアルファベットの倍以上と多いため、入力にかかる手間は倍増した。初期のiPodでもこのタイトル入力機能があったことから、曲名を視認できる音楽再生は大事な機能だったことがわかる。これがいまや当たり前に表示されるというのは、ごく自然な進化だったといえよう。
Gracenoteが提供する技術は、タイトルだけではない。音楽ジャンルといった情報のほか、音楽のテンポなどかなり詳細な情報を持っており、これを元にしたレコメンド機能も提供している。たとえば、ある女性ヴォーカルの曲を聴いていたとする、似たようなイメージの曲を聴いてみたいと思った時、レコメンド機能を使うと、これまで聞いたことが無かったアーティストの曲を提案してくれるというもので、新たな音楽と出会う機会がもたらされるというものだ。アップルiTunesではGenius機能として装備されている。音楽配信サービスでも、おすすめの曲が提案されるが、こういった機能にもGracenoteのテクノロジーが利用されているのだ。
少し未来のことにも触れてみたいが、すでに技術発表あるいは海外で導入されているものもある。以前にもご紹介したが、メタデータによる楽曲の自動アレンジをするGracenote Dynamic EQや、BMW7シリーズにおけるラジオ認識技術MusicID-Radioといったものだ。Gracenote Dynamic EQは下記リンクでご確認いただきたいが、ラジオ認識技術MusicID-Radioなどはなかなかに興味深いものだ。ビッグデータとかメタデータというと、完全にデジタル世界のお話なのだが、このMusicID-Radioはアナログメディアであるラジオ放送の番組で流れている曲を認識して、曲名やカバーアートの表示をしてくれるというものなのだ。
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さらに先の話となると、可能性の話題になるが、クルマに乗り込んだ複数人が持つスマートホンに収録されている楽曲データをサーチして、そのメンバーにおけるマジョリティを解析、おすすめの楽曲を再生したりさらにはストリーミングサービスから楽曲を提案したりといったこともできるようになるらしい。想像するとなんとも便利で愉快な世界ではないだろうか。そんな未来を実現させる技術を有するGracenote、今後の動きから目が離せない。