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ボブ・ディラン氏 歌に宿った高い文学性

 ノーベル文学賞の歴史上、一つの事件と言えるだろう。米国のシンガー・ソングライター、ボブ・ディラン氏にノーベル文学賞が授与されることが決まった。

     歌手の受賞は初めてであり、世界中で歓喜と当惑を持って受け止められている。選考の経緯は50年たたないと公表されないが、文学の概念が拡大したと捉えることもできる。

     スウェーデン・アカデミーは授賞理由を、「米国の歌の伝統において新たな詩的表現を創造した」と説明した。西欧では概して詩人の評価が高く、第1回文学賞もフランスの詩人に与えられた経緯がある。

     その先例にならえば、ディラン氏の受賞は原点回帰とも受け取れる。アカデミーは、古代ギリシャの詩人のホメロスらを引き合いに「彼らは人々に聞かれることや演奏されることを前提に詩を書いた。ディラン氏も同じやり方だ」と称賛した。

     ディラン氏は、1960年代初頭に公民権運動やベトナム戦争の時代を背景に、若者から熱狂的な支持を得た。ディランの名は、英ウェールズ出身の詩人、ディラン・トーマスに傾倒し、自ら思いついたという。

     「何回砲弾が飛び交えば/永遠に禁止されるのだろう」。代表曲「風に吹かれて」は、反戦歌として受容されながら、安直に答えを出さずに問い続ける大切さを訴えている。

     メッセージ性の強い「プロテストソング(抵抗の歌)」の旗手として有名にはなったが、その歌詞はさまざまな解釈が可能で、深みと広がりがある。当初は、問いかけが曖昧という声もあったほどだった。

     欧米ばかりでなく日本のミュージシャンにも強い影響を与えてきた。

     「ボブ・ディランがいたから今日があるような気もする。多くのことがそこから始まったと思うのだ」。70年代にヒットを飛ばした吉田拓郎(よしだたくろう)氏の言葉がそれを雄弁に物語る。

     聖書などあらゆる言葉を歌詞に生かし、新たな文学性を切り開いてきたディラン氏は、正に「口語で表現する偉大な詩人」(アカデミー)という評価に値する。

     今回の受賞からは欧州に偏ってきた選考の変化もうかがえる。米国には前評判の高い文豪らが控え、2013年はカナダの作家が受賞した。

     「理想主義的傾向を持つ最も優れた作品を書いた人」というノーベル賞創設者、アルフレッド・ノーベルの遺言に、アカデミーが新たな解釈を加えたとも言えるのではないか。

     多くの問題を抱えながら、社会を改革しようと人々が苦闘した時代にディラン氏はデビューした。それから54年の長きにわたり新しい創造を続ける姿は、現代人にも強い改革のメッセージを投げかけている。

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