★文芸編(下)
東映の元宣伝部長、福永邦昭にとって、忘れ難い作品が、宮尾登美子原作の「蔵」(1995年)と浅田次郎の「鉄道員(ぽっぽや)」(99年)だ。
東映の宮尾作品は夏目雅子の「なめたらいかんぜよ」のせりふが印象的な「鬼龍院花子の生涯」(82年)に始まり、「陽暉楼」(83年)「序の舞」(84年)など7本。その最後となる「蔵」で福永は初めて宮尾作品を担当した。
新潟の酒蔵を舞台にした家族のドラマ。宮尾文学独特の派手さはなく、配役も松方弘樹、浅野ゆう子、一色紗英などむしろ地味だった。
「テーマの酒造りを徹底的に売り込んだ。原作連載も単行本も毎日新聞だから、全面協力を取り付けた。毎日の小池唯夫社長(当時)は社内スタッフを招集、その中にはコメンテーターで知られる岸井成格(当時編集委員)もいた。宣伝も広告も異例の紙面展開をする力の入れようだった」
日本酒造組合の協力を得て横浜そごうでは、「蔵」展を開催。酒造りの過程をみせる展示会や幻の銘酒即売会は大好評で、映画も十分アピールできた。
宮尾の誕生日には、新聞社や出版社の担当編集者らが大勢集まり、福永も初めて参加した。「何か変わったことをやってとの仰せ付け。それならばと学生時代に熱中したトロンボーンで『スターダスト』を吹き、2コーラス目は歌を添えたら、これが大ウケ。おかげで宮尾さんから特別賞と秘蔵のお酒もいただいた」
「鉄道員」は高倉健の19年ぶりの東映復帰作。撮影初日、スタッフ全員で高倉を出迎えた。「健さんがスタッフ一人ひとりと握手。私のことを覚えていてくれたのか『よろしく頼みます』と力強く手を握ってくれた」