よく「日本の医療は世界一」と言われます。一方で、「3時間待ちの3分診療」といった患者さんからの不満も耳にします。日本の医療は国際的にどのような水準なのか。日本医師会総合政策研究機構(http://www.jmari.med.or.jp/)が9月に公表した報告書をもとに、具体的な数字で確認してみたいと思います。
なお、当該報告書にも留意事項として記載されていますが、国によって保健医療制度が異なることなどから、すべての国が同じ手法で推計できているわけではなく、今回紹介する数字の比較は、あくまで目安であり、諸外国との傾向の違いを見ているにすぎないという点をご理解ください。
■医療関連データの国際比較 -OECD Health Statistics 2016-[2016年9月16日]
・概要(http://www.jmari.med.or.jp/research/research/wr_604.html)
・詳細(http://www.jmari.med.or.jp/download/WP370.pdf)
これは、OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)が提供する方法で各国が推計した医療に関連するデータの国際比較です。報告書には、「対 GDP 保健医療支出」「1人当たり保健医療支出」「高齢化率」「医師数」「病床数」「受診回数」「MRI・CTの台数」「平均寿命」「乳児死亡率」「喫煙率」「自殺者数」などのデータが国際比較されています。
「人口100万人当たりのMRI・CTの台数は2位に大差をつけて一番多い」
「平均寿命は女性が第1位、男性が第4位」
「出生1,000人当たりの乳幼児死亡率は2番目に低い」
など「日本の医療は世界一」の名に恥じないような興味深いデータが並んでいます。
ですが、多くの患者さんが感じている医療への不満として、「3時間待ちの3分診療」とも言われます。その理由に関連しそうな「医師数」「病床数」「受診回数」についてみてみます。
まずは「人口1,000人当たり医師数」です。
2014年の時点で人口1000人当たり医師は2.4人となっていて、米国の水準に近づいてきているものの、OECD加盟国の中では、まだ人口当たりの医師数が少ないことがわかります。
次に「人口1,000人当たり病院病床数」「1人当たり受診回数」をみてみます。
結果は、OECD加盟国の中で、病院病床数が第1位、受診回数が第2位となっています。このことから、医師1人当たりの入院担当患者(=病院病床数)と外来患者数(=受診回数)の数を推計してみます。
日本の医師は米国の医師に比べて、入院患者で5倍、外来患者で3.5倍の数を診療していると予測されます。もしかすると、これが「3時間待ちの3分診療」と言われる原因かもしれません。
今回紹介した報告書の「おわりに」には以下のような記載があります。
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日本の受診回数の多さも問題視される。しかし、日本では受診1 回当たり単価が低いため、外来医療費はそれほど高くない。その分、入院医療の比重が重いということでもあるが、外来医療は効率的に提供されており、不安なときにはすぐに受診し、その結果、健康を維持できているのではないだろうか。
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医療制度は、各国で限られた公的資源をどのように国民が享受していくかを考えた上で設計されています。残念ながら公的資源は無限にはありませんので、万人に対して理想的な医療制度を実現するのは不可能です。
「待ち時間は長いけども、いつでも受診できる医療」の対案は、「待ち時間は短いけども、なかなか受診できない医療(例えば、診察料が高額、医療機関が少ない、法的に受診回数が制限されるなど)」なのかもしれません。
いま一度、皆さん自身で、どのような医療を受けたいのか考えてみてはいかがでしょうか。
<アピタル:これって効きますか?・その他>
大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄附講座 准教授/早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 客員准教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大医学部)卒。主な研究テーマは腫瘍免疫学、がん免疫療法。補完代替医療や健康食品にも詳しく、厚労省『「統合医療」情報発信サイト』の作成に取り組む。
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