遅ればせながら自己紹介をしておくと、以前にこんな記事を書かせていただいた者です。
今回の記事のコンセプトとしては、休載に悲観していてもしょうがないので、愛読者の皆様も案外気付いてないんじゃないかな? という点について書かせていただきたいと思います。
まずは前提の確認から。
登場キャラクターである「ジン」「カイト」「コルト」という名前、また奥さんである武内直子先生の宝石趣味を鑑みると、ジンカイトというトルコ石が「転生」を意味し、カイトの運命を示唆していた、というのは有名な話ですね。
……が、重要なのはそんな言葉遊びではありません。これは、1話時点で、冨樫先生が蟻編ラストまでを想定して描かれていた証左ということです。
執筆:亮祐 編集:米村智水 グラフィック:bpm
キメラアントのような作家
評論家の宇野常寛さんは、冨樫先生を「キメラアントのような作家だ」と評しました。念能力が『ジョジョの奇妙な冒険』のスタンド能力そのまんまだったり、グリードアイランド編がMMORPG的世界観だったり、自民党から民主党へ政権交代した後に選挙編を描かれたり、劇画風・少女漫画風・筆での作画と、場面によって絵柄が変わりまくったり、例を挙げるとキリがありませんが、要は面白いと思ったものを見境なくジャンジャン取り入れていく作家ということです。……そして、1話から蟻編ラストまでを想定したとき、『HUNTER×HUNTER』には、決定的に下地にしているであろう作品が存在します。
それは、ジャンプ史上最大の代表作と目される『ドラゴンボール』です。
『ドラゴンボール』との数ある類似点
……同じ雑誌だし少年漫画なんだから、そりゃ類似点はあるだろ、と思われる方が多いかもしれませんが、実際に見ていただくのが早いと思われます。まずは冒頭の、田舎で暮らす少年が旅に出るというモチーフ。
『HUNTER×HUNTER』1巻34ページより
『DRAGON BALL』1巻35ページより
『HUNTER×HUNTER』5巻177ページより
『DRAGON BALL』3巻89ページより
食えば食うほど強くなるというラスボスの存在。
『HUNTER×HUNTER』21巻88ページより
メルエムの見た目は、どことなくセルに似ていますね『DRAGON BALL』31巻165ページより
『DRAGON BALL』40巻178ページより
『HUNTER×HUNTER』29巻99ページより
『DRAGON BALL』27巻65ページより
『HUNTER×HUNTER』30巻190ページより
『DRAGON BALL』36巻7ページより
『HUNTER×HUNTER』31巻22ページより
『DRAGON BALL』2巻121ページより
『HUNTER×HUNTER』30巻125ページより
『DRAGON BALL』42巻225ページより
論理的に描ききることで、非論理の先を描く
これらの類似点を偶然や深読み、といった言葉で片付けるのは容易いですが、ここからもう一段階掘り下げて考えてみたいと思います。『HUNTER×HUNTER』は、『ドラゴンボール』世界における非論理性を徹底的に排除した世界である、と。
無粋なのであえて指摘しませんが、『ドラゴンボール』には矛盾や後付けがアホほど多いです。
それらを、『HUNTER×HUNTER』は完全にクリアしています。
例えば、主人公の覚醒の理由。
『HUNTER×HUNTER』31巻56ページより
『HUNTER×HUNTER』31巻42ページより
『HUNTER×HUNTER』31巻43ページより
一番顕著なのは、やはり蟻の王・メルエムでしょう。
「NGLとキメラアント」という、最強の生物が生まれるための環境からして徹底していますが、彼と魔人ブウを対比したときに、重要な違いを見出すことができます。
「魔人ブウは自らのエゴと分裂したが、エルメムはそれを受け入れた」ということです。
『DRAGON BALL』40巻171ページより
メルエムは、蟻(魔人ブウのような人間以外)じゃなくて、最後は人間だったんですよ。こっちに揺れたんです。エゴを乗り越えて、コムギと人間として生きようとしたんです。毒で死んでしまったことも含めて、人間なんです。
それらを踏まえて、皆様に再読していただきたいシーンがあります。
『HUNTER×HUNTER』30巻52ページより
『HUNTER×HUNTER』30巻53ページより
この日のために生まれた、とまで言ったコムギが「………」と返答しかねてるのが何故か、分かりますか?
コムギは、王の手を握るこの瞬間まで、王のことを人間だと思っていたんですよ。
コムギもまた、乗り越えたんです。
王とのこれまでのやりとり、キルアとのやりとり…。この「………」の間に、彼女の脳裏には様々なことがよぎったはずです。
コムギの目が見えていれば、おそらく王は人間にはならなかったでしょう。この出会いは、それくらい奇跡だったんです。
そしてこの盲目の少女との出会いも、やはり『ドラゴンボール』とリンクします。
『DRAGON BALL』40巻81ページより
メルエムとコムギの物語は異類婚姻譚であり、論理を追求することは、冨樫義博先生にとって、論理を超えた神話的・人類文化学的な世界を描くことの最低条件だったのかなぁという気がします。
蟻編のあとじゃないと、論理を超越したアルカの存在なんて許されないわけです。
……話が脱線しそうなのでシンプルにまとめると、「人を見た目で判断するな」を物語に理想的に転化させると、こんな物語になるのでしょうね。
境なんて、あってないようなもの 『HUNTER×HUNTER』23巻116ページより
いかがだったでしょうか?
最後に、一応書いておきます。
上に載せたコムギと王のシーンは、あくまで可能性の一つです。王が「“このまま”手を握って“いて”くれるか?」 と問いかけているところから、既に握った状態であの会話はなされており、王が死ぬという現実を受け入れるための「……」という間合いだった…と読み解くのが自然です。
その場合ですと、コムギが「わかりますた こうですね?」と言っているのは手を握りなおしただけ、「コムギ…いるか?」と何回も問いかけたのは、手は握られているけどコムギがここにいるか分からないというほど不安だった、このまま一緒にいてくれるかどうか不安だった、もしくは、もはやほとんど耳と声にしか意識がいっていなかった…ということなのでしょう。
ですので繰り返しますが、「こういう可能性もあるんじゃないかなぁ」という一つの解釈としてお読み下さい。
信者の深読みと妄想、だなんて言葉で片付けられたら悲しいですが、休載中の楽しみの一助となれたなら、僕としてはこれ以上の喜びはありません。
それでは、読んでいただき、ありがとうございました。
亮祐 // りょうすけ
1988年生まれ。関西在住。漫画、映画、小説等に傾倒…していたが、最近はスプラトゥーンにハマり過ぎてプレイ時間は余裕の1000時間超え。趣味で作曲も嗜む。プロフ画は、人生初の女装である
Twitter:https://twitter.com/c0ra1_reef
BLOG:http://groll.hatenablog.com/
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連載再開はよ〜><
Jimba Koji
天才..か..!