今日の社説
新幹線延伸 敦賀以西の首相答弁は重い
安倍晋三首相が参院予算委員会の答弁で、北陸新幹線の延伸に言及した。新幹線の役割と効果の大きさを取り上げた上で「敦賀-大阪のルートを決定し、財源の確保を行うことで整備計画路線の確実な整備にめどを立てる」と述べたのは注目できる。
北陸新幹線の敦賀-大阪を明示して、ルート決定と財源確保に取り組むとの方針を示した首相の答弁は重い。首相は金沢-敦賀を着実に整備する考えも示している。その言葉通りに大阪までの全線開業を早く実現してもらいたい。
参院予算委で新幹線の建設促進を求めた西田昌司氏は、基本計画から前進していない山陰や中国、四国などの路線も含めて整備する必要があると指摘した。その財源として公共事業費を大幅に増やすことも求めた。安倍首相は凍結状態の計画については明確な答弁を避ける一方で、着工済みの北陸や北海道、九州の各新幹線の整備は確実に進める姿勢を示している。
全国に新幹線網を構築するのは構想としては理想的であるが、実現は簡単でない。まずは採算性に優れた路線を優先して整備する方が現実的である。財源についても、限られた公共事業費は着工した路線を早く仕上げるために使う方が大きな投資効果を期待できる。
山陰や四国では新幹線を求める声が大きくなってきたが、今は着工対象を増やすことを考えるより、北陸新幹線の全線開業を急ぐ方が適切と言える。そうした観点からも安倍首相が国会で敦賀以西の確実な整備に触れた意味は大きい。
首相が新幹線の建設に積極的な今はチャンスである。金利は日銀の金融政策によって、かつてないほど下がっており、国債に加えて、財政投融資の財源を調達する財投債も極めて有利な条件で発行できる。北陸にとって千載一遇の好機を逃さないためにも、敦賀以西のルートを早く確定させたい。
ルートをめぐっては、選定を担う与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチームの所属議員が決まった。衆院の解散・総選挙が近いとの観測も出たが、来年度から敦賀以西で具体的な調査に着手できるように、選定作業を着実に前進させてほしい。
中国ガス田開発 戦略的互恵関係の試金石
中国が東シナ海の日中中間線付近で開発を進めるガス田のうち、新たに2基の掘削施設で生産活動をうかがわせる炎が確認された。中断しているガス田共同開発の交渉再開に向けて日中当局の協議が行われているさなかであり、日本政府が中国の一方的な開発継続に抗議したのは当然である。掘削施設の1基に船舶を察知する小型レーダーが設置されたことも看過できない。
安倍晋三首相と習近平国家主席は9月の首脳会談で、日中防衛当局間の「海空連絡メカニズム」の早期運用開始と、ガス田共同開発の交渉再開の協議を加速することで一致した。これを受けて「高級事務レベル海洋協議」が進められているが、先行きは予断を許さない。ガス田共同開発で合意したの2008年のことで、その原点に返り実行に移せるかどうかは、安倍首相のめざす「戦略的互恵関係」構築の試金石と言える。
東シナ海の日中中間線付近に建造された中国のガス田施設は16基あり、そのうち余剰ガスの燃焼とみられる炎が確認されたのは、今回の2基を加え計12基となった。施設はいずれも中間線の中国側海域にあり、単独のガス田開発と施設上のレーダー設置について、中国側は「中国の管轄海域」として正当化しているが、この海域は排他的経済水域(EEZ)の境界をめぐって日中が対立する「係争海域」であり、中国側の主張は一方的で正当性に欠ける。
共同開発の協議は、10年の中国漁船衝突事件で中断した。中国側は「日本側が交渉再開の雰囲気をつくるべき」と、対話の環境整備を求めてきたが、それは責任の転嫁と言わざるを得ない。
一方、小型レーダーは北側の掘削施設に、監視カメラとともに設置されている。防衛省によると、航空機の接近を探知する対空レーダーとは異なり、船舶などを探知するため巡視船に設置されるタイプのレーダーという。中国は東シナ海上空に設定した防空識別圏を本格的に運用するため、今後、ガス田施設に軍事目的の対空レーダーを設置する可能性もあり、監視を怠ってはならない。