あなたが「アル添」を嫌いになったのは、なぜですか??
あなたが「アル添」を嫌いになったのは、なぜですか??

2016.10.13

あなたが「アル添」を嫌いになったのは、なぜですか??

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まいど!ゆーきです。

アルコールを添加した日本酒、すなわち「アル添酒(あるてんしゅ)」という言葉をご存知でしょうか。

はじめて聞いた人は少しびっくりしたかもしれません。そうです、酒を造るのにアルコールを添加するんです、日本酒は。

「日本酒とは米と水で造るものだ!純米酒しか認めん!」

「安いパック酒を飲んで悪酔いした。だからアル添は飲まない。」

「そもそも醸造用アルコールって何??添加物は無い方がいいよね。」

好みですから、否定はしません。

でも、純米酒かアル添酒か、というだけで日本酒を好き嫌いしてしまうのは、

「結婚するならアジアの人がいい、ヨーロッパの人はなんか嫌。」

というくらい、ざっくりしています。純米酒もアル添酒も、千差万別、十人十色なのです。

というわけで、今回はアル添酒について熱く語っていきたいと思います。

 

そもそも、「アル添」ってなんだ??

アル添酒ラベル

アル添とは、主に穀物や糖蜜などから精製したエチルアルコールを上槽直前のもろみに添加すること、です。要は焼酎を入れるんです。

「醸造用アルコール」として仕入れるものは、ほぼ純粋なエチルアルコールです。使用するときはアルコール度数を30%くらいまで下げてから添加します。

わざわざ難しい言い方をしましたが、エチルアルコールとは私たちが飲んでいるお酒のアルコール成分そのものです。よく、工業用アルコールと誤解して体によくないんじゃないか、と敬遠する人がいますが、全く問題ありません。まさにただの焼酎なのです。

アル添の歴史は意外と古く、江戸時代にさかのぼります。当時は腐敗の防止のために粕取り焼酎を投入していたようですが、それに気付いた職人は天才だと思います。たぶん、放っておいても腐らない焼酎をみてひらめいたのでしょうか、きっと変人扱いされたに違いありません。

今では火入れの技術も確立されていますし、酒が腐ることはほぼ無いので、そういった意味合いでアル添をする必要は全くありません。では、なぜアル添酒は造られ続けているのでしょうか??

 

「アル添」が日本酒のかさ増し??冗談じゃない

三増酒

「三増酒(さんぞうしゅ)」という言葉をご存知でしょうか。これも略語で、正しくは「三倍増醸清酒」ですね。

三増酒とは、深刻な米不足に陥った第二次世界大戦後の時代に盛んに造られた、いわば「日本酒もどき」です。まずはふつうに米と米こうじでもろみを仕込み、アル添する。そこに糖類(ぶどう糖、水あめ)、酸味料(乳酸、コハク酸など)、グルタミン酸ソーダなどを添加して味を調えると、約3倍に増量された三増酒のできあがりです。米がないから酒蔵がケチっただけでもないようで、あまり精米しない米で造った純米酒も販売されていたようです。しかし雑味がくどかったり、米価の高騰によって酒の値段が高かったりというわけで、消費者が選んだのが三増酒だったのです。

話がそれましたが、この三増酒と現在のアル添酒は、まったく別物です。なぜなら、法律が変わっているからです。

日本酒に添加できる醸造用アルコールの量は、酒税法で定められています。

本醸造酒、吟醸酒、大吟醸酒などを「特定名称酒」なんて言ったりしますが、これらに添加する醸造用アルコールは、使用する白米の重量の10%以下でなければなりません。普通酒でさえも、50%以下です。醸造用アルコールを含め、三増酒で使われていたような糖類、酸味料などの副原料の合計重量がそれを超えると、もはや「清酒」として認められません。

つまり、今この時代に三増酒を造ることは不可能なのです。

それから、アルコール添加がコスト削減のためではないか、と言われることも少なくありません。しかし、当然ながら自社で精製しない限り醸造アルコールそのものも買っているものですし、高濃度のアルコールを取り扱うための「危険物取扱者」免許と設備、醸造アルコールを貯蔵するタンクなど必要なものもあります。普通酒に目一杯入れたところで、量は倍になってもパシャパシャでうまくないし、結局他の酒とブレンドして売るしかない。そもそも菊の司では20%も添加しません。今どき50%も副原料を使う酒を造りますか。大手メーカーならまだしも、小規模な地酒蔵がかさ増しのために醸造アルコールを使う意味はほとんどないのです。

 

「アル添」だって酒造りの一部だ!

あなたが「アル添」を嫌いになったのは、なぜですか??

「じゃあなんでアル添するの??やっぱ純米酒でいいじゃん」

そんな声が聞こえてきそうですね。でも、ちゃんと目的があってアル添をしているのです。

最初こそ腐敗防止のために添加していた醸造アルコールですが、その後さまざまな効果が認められ、現在の酒造りに受け継がれています。中でも注目したいのが香味への影響でしょう。

たとえば吟醸香と呼ばれるフルーティな香りを引き出すのに、アルコール添加のタイミングと量はかなりシビアです。酵母の動きや発酵の活性に関係してくるのですが、特に鑑評会に出品するような、一升瓶で10,000円を超えるようなレベルの大吟醸酒は、鑑評会の結果や売上にそのまんまつながるため、杜氏を中心に議論し、慎重に行われています。それほど、アル添による酒質への影響は大きいのです。

味の方を見てみると、やはりすっきりとした、いわゆる辛口方向のお酒になります。アルコール分30%の醸造アルコールは日本酒度でいうと+50くらいなので、量にもよりますがもろみに加えるといっきに+5~6くらい日本酒度が進みます。ただし、アル添酒が全部辛いかといえばそうでもなくて、含まれているエキス分の割合でだいぶ幅があります。日本酒度や味わいの甘辛については、以前の記事「極論、日本酒は全て「甘口」なんです。」を見てみてくださいね。

いろいろな考え方がありますが、アル添に関しては、それぞれの酒蔵に門外不出のノウハウがあるはずです。

個人的には、旅先の赤チョウチンで飲む普通酒にまさる地酒は無いと思っています。お高い大吟醸は大体どれを飲んでもそこそこうまいんです。でも、普通酒というのは本当にバリエーション豊かで、昔からの生活に根付いたお酒ですから、その土地の食文化や気性をよく表しているんですよね。だから、アル添酒を抜きにして地酒は語れません。

 

いかがでしたか??

まだまだ語り足りない気もしますが、ぜひ今度会った時にでも議論しましょう。

あと、造り手としては純米酒のことも同じくらい愛しています。

どんな蔵人もきっと同じように、愛情を込めてお酒を醸しているはずですから、飲まず嫌いしないで、いろんなお酒にチャレンジしてみてくださいね。

では。

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平井佑樹 HIRAI YUKI

岩手県最古の酒蔵、菊の司酒造16代目蔵元(予定)。
地元盛岡で生まれ育ち、明治大学を卒業後ブーメランで蔵入り。
日本酒「菊の司」「七福神」の他にオリジナル「平井六右衛門」を醸してます。
1991年10月12日生まれ。たまの休日は少年野球とデジイチさんぽ。
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