知育は「子供の考える力」を伸ばす関わりです。
では、何のために子供の考える力を伸ばすのかと言えば、「社会生活に適応し、その中で活躍していくための力を身につけさせる。」ためです。
そして、社会生活に適応して活躍するには、考える力だけではなく、社会の中で他人と関わって、適切な関係性を保って生活するスキル=ソーシャルスキルが欠かせません。
しかし、一般的に「知育」と呼ばれている知育法、知育玩具、知育教材だけでは、良い人間関係を築くためのスキルは身につかず、日常生活における対人関係や、専門のトレーニングを受けて身につけることになります。
この記事では、ソーシャルスキルの概要について紹介します。
ソーシャルスキルとは
ソーシャルスキルとは、社会の中で他人と関わり、適切な関係性を保って生活していくための技術・能力です。
日本では社会技能と訳されていますが、通常は、ソーシャルスキルと呼んでいます。
良好な関係性というのは、「誰とでも仲良くなること」ではなく、「立場、場所、相手との関係性などに応じて適切な関係を築くこと」です。
例えば、学校における教師やクラスメイトと適切な関係を持つための技術です。
なお、世界保健機関(WHO)は、ソーシャルスキルを「日常生活の中で起こる問題や課題に、自分で、創造的で効果のある対処ができる能力」と定義しています。
ソーシャルスキルの要素
ソーシャルスキルには、たくさんの要素がありますが、大きく①自分に関するスキル、②相手を理解するためのスキル、③相手と互いに理解しあうスキルの3つに分類することができます。
自分に関するスキル
自分に関するスキルとは、自分のことを理解し、適切な言動を判断・表現するとともに、言動の結果を振り返って次につなげるスキルです。
- 自己理解:ある物事に対して、自分がどう感じ、どう考えて、何がしたいのかを自分が理解する力
- 判断力:自分が感じたこと、考えたこと、したいことをどう表現するかを判断する力
- 表現力:判断したことを表現する力
- 内省力::自分の行動の結果を振り返り、その後の行動を修正する力
判断力には、自己理解に基づいて、情報を収集・整理して物事の全体像を把握する力や、行動に伴う結果や周囲の反応を予測する力、適切な行動やその順序を決める力が含まれています。
表現力には、言語で表現する力、非言語で表現する力、行動で表現する力があります。
内省力には、行動を分析する力、行動や言動を記憶しておく力、自分の感情やストレスを受け止める力、物事を客観的に観察する力があります。
相手を理解するためのスキル
相手を理解するためのスキルとは、相手が何を感じ、何を考え、何をしたいのかを察する(共感する)力です。
具体的なスキルは、次のとおりです。
- 観察力:相手を客観的に観察する力
- コミュニケーション能力:相手の言語的・非言語的な表現の意味を読み取る力
- 傾聴力:相手の話をさえぎらず最後まで聞く力
- 概念化と抽象化:相手の言動をまとめて理解する力
- 記憶力:相手の言動を記憶する力
- 多面性理解力:同じ状況、発言、態度でも、人によってとらえ方が違うことを理解する力
相手と互いに理解しあうスキル
相手と互いに理解しあうスキルとは、自分と相手が感じたこと、考えたこと、したいことを理解し、それらが異なるものである可能性も認識した上で、お互いが納得できる言動をするためのスキルです。
具体的なスキルは、次のとおりです。
- 自分も相手も大切にしながら自己主張する力
- 相手を理解し、共感する力
- 感情的にならず、お互いのためになることを判断する力
- ストレスを感じた時に対処する力
日常場面で身につけるソーシャルスキル
ソーシャルスキルの要素を紹介しました。
ここからは、子供が学校生活や友人関係で身につける(必要になる)ソーシャルスキルについて見ていきましょう。
学校生活で身につけるソーシャルスキル
- 教師の立場と役割を理解する力
- 学校のルールを理解する力
学校は集団生活の場です。
たくさんの子供が集団生活を送るために、校則をはじめとするルールがあり、クラスを管理・運営する「先生」という立場の大人がいます。
子供は、学校という新しい社会に飛び込み、まず、先生の立場と役割を理解し、先生の指示に従うという基本的なルールを身につけます。
そして、学校だけでなく、家庭やそのほかの社会にもルールがあることを理解し、自分の希望や欲求があっても、ルールを守って行動しようという姿勢を育てていきます。
また、何か問題が起きた時も、感情や気分に任せて行動するのではなく、先生を頼ったり、ルールに従ったりして対応する力を身につけていきます。
友人関係で身につけるソーシャルスキル
- 他人と一緒に行動するスキル
- 友人をつくるためのスキル
- 友人関係を維持するためのスキル
- 友人関係で問題が起きた時に対応するためのスキル
子供は、ルールを守って学校生活を送り、クラスメイトと共同作業を行う中で、クラスへの所属意識を持つようになり、友人に仲間意識を持つようになります。
そして、あいさつ、相手の話をきちんと聞く、相手の質問に答える、相手に自分の意見を伝える、相手の気持ちや考えを察する、たくさん話をするなど、友人関係を築くためのコミュニケーション能力を身につけていきます。
コミュニケーション能力には、場に即した表情や身振り手振り、ボディタッチなど、言葉によらないものも含まれています。
また、嘘をつかない、悩みを相談する、相談されたら助ける、約束を守るなど、友人との関係性を維持するためのスキルも身につけていきます。
さらに、友人関係を維持する中で起こる意見の対立やケンカなどを乗り越えるうちに、対人トラブルを適切に対処するためのスキルも身についていきます。
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まとめ
ソーシャルスキルの概要を紹介しました。
ソーシャルスキルは、子供が社会に適応して活躍するために欠かせないものです。
子供が日常生活を送る中で自然に身につけていくものも少なくありませんが、パパママや先生などの関わりが必要なものもたくさんあります。
また、ソーシャルスキルを身につける速度や程度は個人差が大きいものです。
特定のスキルの獲得が遅れていて、そのことが日常生活に悪影響を与えている場合には、周囲の大人がスキル獲得を援助し、必要に応じて専門機関の受診を検討しましょう。