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魔法少女は殺し合う運命 映画「マジカルガール」

映画

白血病で余命わずかな少女アリシアは日本のアニメ「魔法少女ユキコ」の大ファン。彼女の願いはコスチュームを着て踊ること。娘の願いを叶えるため、失業中の父ルイスは、高額なコスチュームを手に入れることを決意。この彼の行動が心に闇を抱えるバルバラと、彼女との過去を持つ引退した教師ダミアンを巻き込んでいく。決して出会うはずのなかった彼らの運命は、交錯し予想もしない悲劇的な結末へつ加速していく。

名作というか怪作。
かなり面白いが誰にでも薦められるというものでもない気がする。



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授業中、メモを回しているところを見つかるバルバラ
教師ダミアンはバルバラにメモを読ませる。
メモにはダミアンの容姿をバカにした文面。
ダミアンはメモを渡すよう言うがバルバラの手からメモは忽然と消えている。
魔法のように。

場面は切り替わり、髪を短く切った少女が長山洋子のデビュー曲「春はSA-RA SA-RA」に合わせ鏡の前で踊っている
白血病の少女アリシア
彼女の夢は、魔法少女の衣装を着ること。
失業中の父親アリシアの夢を叶えようと金策に走るが……。


長山洋子のデビュー曲がまるでファントム・オブ・ザ・パラダイスの狂宴のように鳴り響く。
日本のアニメの影響はたしかに強いが、そればかりを期待していくとかなり違和感があるかもしれない。
デヴィッド・リンチ的な不条理さやグロテスクさが好きな人にはかなりのオススメ。

以下、ネタバレありで。

魔法少女は殺し合う

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日本のアニメから多くの影響を受けたという今作。
多くの部分が明らかにされずいわゆる「観るひとの想像におまかせします」というぶん投げ方式のためにさまざまな独自解釈が生まれる余地を産み、その想像で補われたさまざまなマジカルガールが存在するというのはかなり面白い。

アリシアが憧れる魔法少女
背景で流れる「おねがい!サミアどん」のエンディングも歌っていた長山洋子のデビュー曲は旧来的なスタジオぴえろ魔法少女イメージ*1にも思える。

魔法少女になりたかったアリシアだがマジカルステッキが足りない。
そこで父親はステッキを手に入れるために再び脅迫に走るがダミアンの手により銃殺される。
アリシア魔法少女に憧れるが、魔法少女にはなれなかった。
衣装はあってもステッキが足りない。


バルバラという存在は魔法少女に憧れたアリシアに対し、成長した魔女の姿。
額のトカゲ形の傷も(黒蜥蜴がイメージソースだそうだが)魔女の刻印をイメージさせる。


この物語で一番理解が難しいのはバルバラの行動か。
なにせ自分の身がどうなっても不実は秘密のままにしておきたい。
だから館へ行って「トカゲの部屋」に入る。
そして苦痛を負い(究極的にフェティッシュな部屋)ダミアンの部屋の前に倒れる。

バルバラ的にアリシア父娘を殺害する意志はなく、すべてはダミアンの独断専行で行ったということになる。
最初からダミアンによる協力を頼るのであれば「トカゲの部屋」に入る必要はない。
あの時点でバルバラは金を払うつもりだったと考えられる。
しかしダミアンを頼り嘘の話を聞かせ、ダミアンは銃を片手に後をつけ、父娘を殺害する。

2+2はいつも4なのだ。どんなことがあろうとも

娘を殺害していないのでは?という話もあるけれど、等価交換な世界で望めばそれだけのものが返ってくる。
バルバラは館で部屋に入ることで対価を支払い、大金を得た。
アリシア魔法少女の衣装を望み、しかしダミアンと拳銃と言うかたちで返ってきた。
当のダミアンは、既に刑務所に入り妻を失いマイナスからのスタート。
冒頭で自らの容姿を侮辱されたメモをバルバラに隠されるが、あのメモによって失われたダミアンの一部は、パズルのピースのひとつでもあるんだろう。

そして最後、ダミアンはバルバラに携帯を渡さずに消してみせる。
2+2はいつも4。
失われたメモの代わりに携帯が消える。

どんな解釈でも一応出来るし、もっとベタな納得の仕方も出来る。
二人の魔女がお互いの使い魔(父親、ダミアン)を使い殺し合ったと見ることも出来る。
単に元生徒相手に呆けた老教師が弱みを握るために脅迫の証拠を隠したと見ることも出来る。

こういう多元解釈的なところがカルトな人気になるんだろう。

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*1:クリィーミーマミやマジカルエミのようにバトルではなく少女から大人への憧れの暗喩としての