東京電力福島第一原発の事故から5年7カ月。福島の震災関連自殺は一向に減る気配を見せない。汚染されたふるさとの姿を自分に投影する被災者もおり、過酷な状況におかれた福島で、心の問題とどう向き合っていけばいいのか。福島県立医科大学で「災害こころの医学講座」教授を務める前田正治さんに聞いた。
■根拠ない偏見におびえる県民 苦悩を理解して
――震災から5年半がたちました。原発事故被災者の心の健康はどんな状態ですか。
「ゆっくりとした回復を示すデータと同時に、深刻な事態を示すような相反するデータもあり、二極化の様相を示しています。県内で避難指示が出た市町村に住んでいた21万人の健康調査を毎年行っていますが、うつ病の可能性がある人の割合は、2012年から4年間で14・6%から7・8%に下がりました。全国平均は約3%ですからまだまだ高いですが、減る傾向にはあります。ただ、岩手、宮城では急減した震災関連自殺は、福島では依然として多く、累計で80人を超えました。アルコール摂取に問題を抱える男性も2割前後で横ばいが続いています」
――原発事故は、心の健康にどう影響しているのでしょう。
「放射線への不安が広く深い負の影響を与えています。一つは、直接的な恐怖体験からくるストレス障害です。特に原発のそばに住み、何の準備もなく緊急避難を迫られた人々は、また恐ろしい事故が起きるのではないかと慢性的な不安が消えない。21万人調査では、事故後1年で22%、最近でも8%の人が心的外傷後ストレス障害(PTSD)のリスクが高いと判断されました。米同時多発テロの救急隊員の事故後3カ月のそれが約20%ですから、いかに高いか分かります」
「より深刻なのは、放射線被曝(ひばく)の遺伝的な影響を心配する被災者が、減ったとはいえ今なお4割近くいることです。原爆被爆者は遺伝的影響があるのではないかという根拠のないスティグマ(偏見)を非常に恐れ苦しみました。福島の方々も同様の偏見を恐れ、それが『結婚できないのではないか』『妊娠していいのだろうか』という不安に変わっています。実際、県外に避難している被災者の中には自分の出身を隠す方もいます」
「当初は感じていなくても、外部の人が偏見を持っていると分かると、それを自分に投影して、自信をなくしたり、落ち込んだりします」
「県外の方に十分考えてほしい…
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