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歌詞に込めた反戦 ロック、文学に昇華

ボブ・ディランさんのファンが集まるバー「ポルカドッツ」でノーベル文学賞の受賞決定を喜ぶ人たち=東京都豊島区で2016年10月13日午後10時16分、猪飼健史撮影
ボブ・ディランさん=2004年5月5日撮影、ロイター

 ノーベル文学賞に決まったのは、米国のシンガー・ソングライター、ボブ・ディランさんだった。作家ではなく、歌詞を通じて反戦を訴えた音楽家の受賞に、国内のファンや音楽関係者から驚きと喜びの声が上がった。【山口知、奥山はるな、金寿英】

 「長年のファンとしてはうれしい。それまでなかった文学的な詞を書いたことが評価されたのだろう」。ディランさんのファンが集まる東京都豊島区のバー「ポルカドッツ」のオーナーの男性は信じられない様子だった。店内では客同士が乾杯する姿もみられた。

 渋谷区のタワーレコード渋谷店では受賞決定を受け、急きょ特設コーナーも設けた。同店チーフの長崎耕平さん(32)は「ミュージシャンの歌詞が文学として認められてうれしい。多くの人に聴いてもらいたい」。

 2014年4月、札幌市であったディランさんのコンサートを聴いた同市の団体職員、森内壮夫(たけお)さん(46)は「ロックが文学として認められたことは快挙」と喜んだ。

 反戦や反権力といったメッセージに打たれたファンは多い。さいたまNPOセンター理事の東一邦さん(67)=さいたま市=は大学生だった1960年代、ベトナム戦争に反対する市民運動に参加し、街角でディランさんの歌を歌っていた。受賞について「彼の音楽はプロテストソング(抵抗の歌)と呼ばれたが、素直な気持ちを歌にしていたからこそ、日本にもその音楽が届いた。喜んでいる人が世界中にいるはずだ」と感慨深げだった。

 ディランさんを題材に詠んだ作品がある歌人で、愛知淑徳大学学長の島田修三さん(66)は「戦争やテロに満ちた今の時代に、反戦を歌ったディランの再評価につながれば」と語った。

米国内に驚き「素晴らしい」

 【ニューヨーク國枝すみれ】ボブ・ディランさんへのノーベル文学賞授与が発表されたことは、出身国の米国でも大きな反響を呼んでいる。米国人が文学賞に選ばれたのは1993年のトニ・モリスンさん以来だ。

 ニューヨーク・タイムズ紙は、ディランさんの作品はこれまで文学賞が贈られてきた小説や詩、短編などの範ちゅうには入らず、受賞発表は「驚きだ」と指摘。日本の村上春樹さんら他の作家の前評判が高かったと解説した。

 ディランさんが生まれた中西部ミネソタ州ダルースのラジオ局KUMDで、25年間ディランさんの音楽を流してきた番組の司会者はフェイスブックに「最も素晴らしいニュースを聞いた」と喜びのメッセージを掲載した。

音楽形態覆した

 さだまさしさん(シンガー・ソングライター)の話 まさに「元祖シンガーソング・ライター」。それまでの「専門家が作る音楽」という音楽形態を根底から覆した。あの人がいなかったら、僕らの歌を聴いてくれる人はいなかったかもしれない。ベトナム戦争、公民権運動で揺れる当時のアメリカの社会ならではの文化背景が生み出した、とも言える。歌詞は、比喩の天才だな、と思う。直接的にものを言っているようで、実は別のところで本質を語る。まさに「詩人」という姿ですね。でも、本人はそこをよくわかっていない、ってところが、さらにすごくて、僕は好きだな。

飛び抜けた存在

 柴田元幸・東大名誉教授(米文学)の話 ボブ・ディランさんはそれまでのポピュラーソングが素朴な詩であったのに対し、歌詞に現代詩と同じ複雑な象徴性、隠喩性を導入したという意味で飛び抜けた存在だ。曲を抜いて、詩として読むに値する作品を書いた人としては、いまだにディランを超える存在はいないのではないか。受賞は米文学にとってめでたいことだし、ここ数年は手堅い授賞が続いていたので、今回はノーベル賞を見直した感じがする。

日本に影響力

 音楽評論家・富澤一誠さんの話 ボブ・ディランさんのすごさは、それまで愛だ恋だと歌っていた音楽に対して、戦争反対など従来歌にならないと思われていたテーマを自分の言葉で、自分の曲で、肉声で歌い、しかもヒットさせたということ。日本のミュージシャンに大きな影響を与えた2大洋楽はビートルズとディラン。ディランがいなければ、吉田拓郎さんはじめ日本のシンガー・ソングライターは育たなかったと思うほどの影響力を持っている。

代表曲の歌詞

・「風に吹かれて」1963年

どれほど銃弾が放たれたら/戦いをやめるのか/その答えは風に吹かれている

・「時代は変る」1964年

今の敗者が/後に勝者になる/時代は変わる

・「ライク・ア・ローリング・ストーン」1965年

どんな気分なんだい/どんな気分なんだい/家をなくして/誰にも知られることなく/転がる石みたいだっていうのは

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