浮かれる日本 冷静なシリコンバレー
メルカリの約84億円の大型資金調達など、日本のスタートアップに関する資金調達の話題を多く耳にするようになり、こうした話題のたびに世間が祝福ムードになっている。
しかし、日本よりさらに資金調達の活発なシリコンバレー、サンフランシスコ界隈では資金調達を祝わないのをご存知だろうか。彼らは資金調達に関しては目標達成の一つの手段に過ぎないとして冷静に捉えているである。このようなシリコンバレーと日本の認識の違いをお伝えしていく。
資金調達はゴールではない
近年日本でも、スタートアップの資金調達に関するニュースが飛び交っている。なかには巨額の資金を獲得するベンチャーもあり、こうした企業に対してわれわれ日本人はつい「めでたいこと」いう感覚を持ってしまいがちだ。「◯◯社が◯億の資金調達に成功」や「達成」といった言葉で語られるのも、なにかそれだけで目的を達成したような気分の表れだといえよう。
資金調達の規模や件数が大きいシリコンバレーやサンフランシスコでは、VCからの資金調達に対して第三者が「おめでとう」という習慣はほとんどない。なぜなら資金調達はゴールではなく、一つのプロセスに過ぎないと共通認識を持っているからだ。もちろん資金が集められたことでプロジェクトが開始でき、当面の運用コストが賄えるのはファウンダーにとってよいことだ。しかし、「どこから調達したか」や「どういった条件が課せられているか」などの重要な側面があることを忘れてはならない。
巨額の資金調達が意味することは、より多くの責任とリスクを背負ったことに他ならない。「スタートアップには資金調達が不可欠」と考える人も多いが、できることなら自己資金のみで起業するのが望ましいし、自己資金率が高いほどリスクや責任も減少する。資金調達により、投資家の知恵が借りられる一方、意見を聞き入れるコストが発生することも忘れてはならない。それに最大限の利益を得ることを目的とした投資家の要望が、必ずしもサービスの改善つながるとは限らない。また、秀逸なアイデアと運営能力を持ったスタートアップが、投資家の利益の増大のために、実現性のあるイグジットの選択肢を捨てざるを得なくなった結果、成功を逃してしまう例は多々ある。
VCのメリット・デメリット
以上のようにVCからの資金調達は事業の成長を加速させることもあるが、減速させることもある。そのため、起業家、及び起業家を志している人はVCの特徴を知っておくべきだ。ここではVCから出資を受けることのメリット・デメリットを確認しておく。
メリット
・VCからの経営ナレッジの共有
VCの持つ起業に関するノウハウや、サービス改善に関する意見、人的ネットワークをリソースとして活用できることはVCの最大の強みだ。
・社会的な信用力の向上
一流VCからの出資を受けるにはそれなりの基準を満たす必要があり、出資を受けたことで将来有望なベンチャーだという証明になり、PR効果がある。
デメリット
・出資者側の意見の反映
出資金の割合だけ外部者の意見を聞き入れなければならないことを意識しておく必要がある。サービスに関する意見はもちろん、会社の規模に関しても身の丈以上のものを目標としなければならない可能性が出てくる。
・資金回収に走られるリスク
VCにとっては出資した資金を回収することも優先事項としてある。細々と行えばビジネスとして継続していける場合も、IPOの可能性が薄くなった時点で企業に買い取られ、コントロールを失ってしまう可能性がある。
・間接経費の増加
早期のIPOを迫られるため、その準備にリソースを割かなければならず、本来行うべきサービスの改善がおろそかになる可能性がある。また、出資を受けた資金の額が大きいほど、大型イグジットを目指す必然性が出てくるため制限も大きくなる。
意識の改革を
VCから資金調達にはこうした両側面が存在することを知っておくことは起業家にとって肝要だ。資金調達のメリット・デメリットを知っていれば、資金調達ができてもそれが「ゴール」という認識はなくなるだろう。先程述べたようにシリコンバレーの起業家たちは資金調達を一つのプロセスと認識している。まだまだ日本では資金調達=成功、達成という認識が強いが、事業を成功させたいと願うなら、VCからの資金調達を一つのフェーズと捉え、より一層、事業に専念していくことが必要だ。その他にもシリコンバレーと日本の意識の違いとして意思決定にかけるスピードが100倍速いと言わてれる。「スピード感覚」、「資金調達を目的化しないこと」など日本には更なる意識の改革が求められる。