(写真=Thinkstock)
Mistletoe(ミスルトウ)とは
2013年に立ち上がり、今年活動を本格化させたMistletoe(ミスルトウ)。
「宿り木」から名付けられたこの会社は、孫正義氏の弟で、「ガンホー」取締役の孫泰蔵氏が指揮するベンチャーキャピタルだ。医療や教育、住まい、農業などのテーマに沿って新興企業に出資し、専門家と一緒に支援する。
コンセプトは「共同創業」
新進の起業家を出資という形で支援するベンチャーキャピタル(VC)は数多く存在する。だが、ミスルトウはそれらのVCが取り組んでいるような、「起業家支援プログラム」とは異なる。ビジネスの核となるアイディアや技術を持った創業希望者との「共同創業」という形をとっている。
ただし共同創業といっても、その実態は複雑でひと言では説明しにくい。技術やアイディアは各自持ち込みの上、チームで行う。一定の評価を付けて、製品開発や資金調達、ビジネス開発も一緒になってこなすという。この手法はアメリカの事例を参考しており、「A company that creates new companies.(新たな会社を生み出す会社)」という考えを元にしている。起業家のために港区内に約1300平方メートルのオフィスを構え、泰蔵氏はこの場所で共に一研究開発している。
これまで約40社の新興企業に対して約100億円を投資してきた。資金は全て泰蔵氏が提供。回収までの期間を通常のVCより長めの10から15年に設定している。
泰蔵氏はミスルトウの努めとして、様々なスタートアップ同士が集まる場を作り、一社で起こすよりも大きな影響を世界に与え、未来をより良くしていこうとしている。ベンチャーの数が飛躍的に増え、その分野も多岐にわたるようになってきた現代に即した支援の仕方といえるだろう。
「Think Big」が投資基準
泰蔵氏は社会起業家育成プログラムを主宰し、そこに応募してきた大学院生の「世界中の水問題を解決する」プロジェクトに対し、「デカいことを考えていたから」と投資を決めた。「人類に貢献する」という視点の大きい考え方をする彼らを高く評価したためだ。
起業家にピッタリの言葉に 「Think Big」という言葉がある。「大きなことを考える」という意味のほか「広い視野で考える」という意味もある。泰蔵氏もこの言葉をたびたび口にしているが、彼がThink Bigを体現した人物として挙げているのが、スペインの建築家アントニ・ガウディだ。ガウディといえばバルセロナのサグラダ・ファミリア教会を生涯かけて設計・建築に取り組んだことで有名だが、泰蔵氏はこの姿勢こそがThink Bigの極みだという。
サグラダ・ファミリアは着工から133年経った今もまだ建築途上だ。ガウディ自身も亡くなって90年が経っている。それもそのはずで当時完成までに300年はかかると言われていた。ガウディは自分の死んだ後も含めて100年、200年先のことまで想定して建築構想を描いていたことになる。この壮大な構想こそThink Bigだと泰蔵氏は力説。そして「その志を受け継ぐ人たちが建築を継続しているのも、とても夢のある話」だと語っている。
10年先でも想像するのが難しい世の中で将来「社会に衝撃を与える」ベンチャーを探り、支援する。広さだけでなく長期的な視野を持っていなければできない泰蔵氏の取り組みもまた、ガウディに通じるところがあると言えそうだ。
志とは何か
このように壮大な事業を推し進める泰蔵氏だが、ミスルトウ設立前の2012年には「志とは何か」分からず「自分は一体何をすべき人間なのか」という問いに対し、2年間考えあぐねていたと語っていた。
学生時代にはYahoo! Japanの設立に携わり、その後50社にも及ぶベンチャー関連の事業にも携わった末に辿り着いた「起業家を育成し、自らのノウハウを伝えることができる」ベンチャー投資という仕事。そして目指す先は「シリコンバレーをしのぐ規模のベンチャー生態系を2030年までに東アジアに作る」ことだ。
それは、このまま死んでしまったら自分抱えるノウハウはどこにも活かされないこと、日本としても著名な起業家の経験が活きていないことを問題視し、「他人の役に立って死ぬにはどうしたらいいのか」を、泰蔵氏なりに考えた結論だという。
・「好きに生きろ」「人に倣うな」
・「志とは、社会性を帯びた己の夢である。」
「志とは何か」を見つけ出した彼は今、こう語っている。