2016-10-14
■[音楽]ぼくが思うボブ・ディランのすごいところ

仕事を終えた21時半頃になる。スマホの画面を見たら父からメールが届いていることが通知されていた。件名は「ボブ・ディラン」だった。
滅多にどころか、片手で数えるくらいしかメールをしたことがない父である。急遽誰かに頼まれて「CD貸してくれ」とでも言われたのかと本文を開いたら「ノーベル文学賞受賞」と書かれていた。ぼくはそこでボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞したことを知った。
翌朝、ニュース番組はトップでこの話題を取り上げた。なんといってもミュージシャン初の快挙である。しかし『風に吹かれて』の歌詞が紹介されてばかりで、受賞した理由である「アメリカの音楽において新しい詩の表現を創造した」をしっかり説明している番組は皆無だった。もちろん受賞自体にピンときてない方も多いはずだ。
そこで、今回ぼくなりにボブ・ディランがすごいなと思うところをツラツラ書いていこうと思う。最初に断っておくが、ぼくはボブ・ディランのアルバムを全部聴きこんだわけでもなく、詩集を買って隅から隅まで読んだわけでも、もちろん歌詞カードを読みこんだわけでもない。もっといえば、頭のなかで鳴らせるくらい覚えてる曲もかなり少ない。故に好事家の方からお叱りを受けたり、間違ってると指摘されるかもしれないが、あまり知らない人でも「すごいな」と思える部分を都市伝説的に話そうくらいの程度なので、そのあたりはご了承いただきたい。
どのくらいすごい人なのかについて語る前にある曲の歌詞を紹介しようと思う。いまひとつボブ・ディランの何がすごいかわかってなかったぼくが衝撃を受けたのがこれで、きっかけは『時代は変る』というアルバムをツタヤでレンタルし、それについていた歌詞の翻訳を読んだことだ。ぼくの世代に例えるとそれこそBUMP OF CHICKENの『天体観測』とか『K』の歌詞を読んだ以上のインパクトというか、こういう歌詞が世の中にない状態で出会ったらどうだっただろうとか、そういうことである。黒人のメイドが白人に酔った勢いで撲殺されるも、その白人は裁判で軽い罪になったというすさまじい物語が繰り広げられ、その軽い刑だったという部分がオチであり、繰り返される「今は泣くときじゃない」というフレーズが変化することで状況を説明する。それはまるでオー・ヘンリーの短編小説を読んだかのようなインパクトがある。
ボブ・ディラン訳詩
ちなみにこちらのサイトでは『スペイン革のブーツ』という曲の翻訳もあるが、この曲は「遠くへ行ってしまった彼女を待つ彼氏が“いっそ帰らず、もう君のなかに僕という存在がなくなるのならスペイン革のブーツを送ってくれないか”」といった手紙を出すという内容で、男と女のそれぞれの目線の歌詞が交互にやってくるという構造で描かれていく。もうピンと来た人もいるかもしれないが、そう、あの名曲『木綿のハンカチーフ』の元ネタである。
・フレーズがいちいちキャッチー
ボブ・ディランの歌詞は基本的に哲学的なものが多く、まったくわからんちんなものもあるが、それでもワンフレーズがバシっと決まる確立が高く、それだけでゾクっとする。有名どころをあげると「答えは風に吹かれている」「時代は変わる」「あの頃のぼくより今のほうが若いさ」「今は泣くときじゃない」「どんな気がする?転がる石になるってことは」「フォーエヴァー・ヤング(いつまでも若いままで)」などなど。ぼくらの世代で例えるなら「ナンバーワンにならなくてもいい もともと特別なオンリーワン」みたいなのが連発されるみたいな感じだ。特に吉田拓郎は顕著で「転がる石になれ」というフレーズを作ったり「フォーエヴァー・ヤング」という曲があったりする。
・めちゃくちゃ韻を踏む
ボブ・ディランの歌詞が難解な理由のひとつでとにかく韻を踏んで踏んで踏みまくる。音の響きで選んでいる節もあり、散文的なその詞は翻訳しても意味不明になるに決まっている。もしかしたらブルースをはじめとしたルーツロックにそういう曲があるのかもしれないが、ここまでわかりやすく最初から最後まで踏んでいる人は彼以降でいえばヒップホップになるだろう。特に『サブタレニアン・ホームシック・ブルース』という曲は矢継ぎ早に言葉が連発され、ずーっと韻を踏んでいる。歌詞を読むよりも音を聴くとそのすごさがわかるだろう。ぼくらの世代でいうとヒップホップ以外ではサザンやミスチル、B'zがそのあたりになるかと。
『サブタレニアン・ホームシック・ブルース』
PVのようなものが作られているが、踏んでいる部分をわざわざ紙に書き、一枚一枚それを見せていく姿がかわいい。
・「?」が連発される歌詞
これは『風に吹かれて』のことで、この曲は「友よ、答えは風に吹かれている」というフレーズで評価されがちだが、実はすべてのフレーズの最後に「?」がついていて、ある種、聴き手に問いかけているという構図で、たしか音楽の歌詞でこれをしたのがボブ・ディランが最初だった……というようなエピソードをどこかで見聞きした気がするが、忘れた。ブルースでそういうことをした人がいたかもしれないが、当時のヒット曲にこうしたものはないことは確かである。それはそのまんま「どんな気がする?」とサビで叫ぶ『ライク・ア・ローリングストーン』に続き、そしてそのフレーズに影響を受けて、なんとか日本語にできないかと思案した中村一義が「どう?」という風に意訳し、『犬と猫』で歌ったことにつながっていくのである。
・「馬が二頭近づいてくる」というフレーズが「革命を予感させる」という意味になる奥行きと引用と含蓄っぷり
これはNHKで井上陽水と山田五郎が解説していて、マジか!と唸ったのだが、代表曲である『見張塔からずっと』の最後のフレーズ。泥棒とペテン師が格差社会から抜け出せるんじゃないか?ということについて議論しており、そのあとで見張塔から王子が世間を見下ろしているという描写がでてきて、最後に馬が二頭やってくるという構成で、表面だけすくい取るとまったく意味不明なのだが、これは「見張塔からロバに乗った男が見えたときにバビロンが陥落したことを知る」という聖書からの引用であり、バビロンというのは基本的に悪の権力や支配者の象徴として使われることから、「革命が起こる予感」について歌っていることがわかる。もちろんここにいきつくためには外側の知識がないとダメなのだが、逆にいえば、それらが頭に入っていると非常にかっこよろしい言い回しで革命を声に出しているわけで、故に「革命を起こそうぜー!」と歌うよりも響いてくる。ちなみにこの曲はジミヘンもカバーしており、そのカバーバージョンが映画『ウォッチメン』で使われているのだが、それがオジマン・ディアスの見張り塔に向かうシーンでかかるため、全部の意味を分かってるうえで観ると死ぬほど鳥肌が立つ。
『見張塔からずっと』訳詩
ほかにもルーツロックをザ・バンドと一緒に紐解いたり、二枚組アルバムをはじめて成功させたり、歌詞だけじゃなく音楽的にも相当なことをやっているのだが割愛(というか、ぼくなんかよりも死ぬほど詳しい人がいるのでおこがましい)。歌手なのに何がノーベル文学賞だよと思ってる人もいると思うが「アメリカの音楽において新しい詩の表現を創造した」という部分において、これだけのことをやっているんだということが少しでも伝わればこれ幸いである。
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