日本の労働生産性はなぜこんなに低いのか
だから事件の根本的な原因は長時間労働より、広告代理店という非生産的な仕事にある。これはマクロ経済的にみると、日本の労働生産性につながる。日本の労働生産性はG7(先進主要7カ国)でも最低で、あのイタリアより低い。
これは1990年代から一貫してみられる現象で、個々の日本人はまじめで長時間労働しているのに、成長率も平均以下だ。部門別にみると、自動車の生産性は世界のトップだが、サービス業はアメリカの7割ぐらいだ。
このような非効率性をもたらす最大の原因は、労働の流動性の不足だ。日本企業では指名解雇は不可能で、たとえ労働基準法が改正されて解雇が自由になっても、大企業は解雇しないだろう。それを妨げているのは規制ではなく、それを「ブラック企業」と呼ぶマスコミの評判で新卒が採用できなくなる損失だ。
こうした硬直性と非効率性を代表しているのが広告代理店だ。世界的にみると、テレビや新聞の広告はインターネットに抜かれ、グーグル(持株会社アルファベット)の時価総額は55兆円だが、電通は1.5兆円だ。
グーグルが全世界に置いたコンピュータとインターネットで電通の35倍以上の価値を創造しているのに、電通は新入社員を明け方まで残業させて資料を作っている。この状態では、社員だけでなく会社もそのうち倒れる。仕事のやり方が根本的に間違っているからだ。
これを労基法の改正で是正することはできない。労働問題は日本の組織の歪みの結果であって原因ではないので、「正社員化を促進する」と称して規制を強化しても、非正社員が増えるだけだ。
広告代理店やマスコミのような古い会社がいつまでも淘汰されず、若者に非生産的な労働を強制することに問題がある。その最大の原因は、日本の資本市場や労働市場が機能しないため、新陳代謝がきかないことだ。
東大を出た優秀な人材が起業しないで、電通のような終わった会社に就職し、所得や社会的地位は高いが人生を無駄に過ごす。それは彼女にとって不幸であるばかりでなく、社会にとっても損失だ。
問題は労働時間ではなく、会社を辞めるオプションがないことだ。「この会社はブラックだ」と思うなら辞めればいい。それを妨げているのは、高橋さんの頭にも深く焼き付けられていた日本社会の「空気」なのだ。