僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。 僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
僕の部屋
真理値表
僕「命題は真か偽か判断できる。真の命題と偽の命題という$2$通りがある。でも、命題が多くなってくると、真と偽の組み合わせはどんどん増える。 それを整理するために真理値表(しんりちひょう)というものがある」
ユーリ「しんりちひょう」
僕「命題$P$は真か偽の$2$通りのどちらか。そのそれぞれに対して、命題$Q$は真か偽の$2$通りのどちらか。だから組み合わせは全部で何通り?」
ユーリ「$4$通り」
僕「そうだね。$2 \times 2 = 4$通りある。それをこんなふうにまとめたものが真理値表」
$$ \begin{array}{|cc|c|} \hline P & Q & P \text{かつ} Q \quad \\ \hline \text{偽} & \text{偽} & \text{偽} \\ \text{偽} & \text{真} & \text{偽} \\ \text{真} & \text{偽} & \text{偽} \\ \text{真} & \text{真} & \text{真} \\ \hline \end{array} $$
ユーリ「ふんふん。これ、見たことある」
僕「まあ、よく書くからね」
ユーリ「……これって、命題$P$が真で、命題$Q$が真のときに限って、$P \text{かつ} Q$が真になるっていってるんでしょ?」
僕「そうだよ」
ユーリ「これって《計算》してるみたい」
僕「そうだね! その通り。その考えで合ってるよ。真と偽という$2$つの値を使って、《かつ》という計算をしていると考えることができる。 《真かつ真》のときだけ計算結果が真になるという計算だね」
ユーリ「んー、だったら、真理値表って、こー書いてもいいね!」
$$ \begin{array}{|c|cc|} \hline \text{かつ} & \text{偽} & \text{真} \\ \hline \text{偽} & \text{偽} & \text{偽} \\ \text{真} & \text{偽} & \text{真} \\ \hline \end{array} $$
僕「いいねえ!」
ユーリ「ね! 九九の表みたい! ……あ、思い出した。ほら、リサ姉のこと」
僕「リサちゃん?」
ユーリ「あのね、双倉図書館でリサ姉からお話聞いたとき、同じ計算が出てきた!」
僕「いつのことだろう……」
ユーリ「お兄ちゃんはいなかったよ。インフルインフル。双倉図書館(ならびくらとしょかん)の《変幻ピクセル》イベント(第103回変幻ピクセル(前編)参照)」
僕「ああ、あのとき?」
ユーリ「そんときは、《ビット単位の論理積》てゆーのがあった。《かつ》と同じだよ」
僕「確かにそうだね。$0$を偽に置き換えて、$1$を真に置き換えて、$\BITAND$を《かつ》に置き換えればぴったり同じだね。 書くのがたいへんだから、偽を《$F$》と書いて、真を《$T$》と書いて、《かつ》を《$\LAND$》にするよ」
$F$は偽、$T$は真、$\LAND$は《かつ》を表す。
ユーリ「同じ計算だ」
僕「そうだね。文字の置き換え、記号の置き換えをするだけで、完全に入れ替わるってことは、同じ計算といえるよね」
ユーリ「『もしかして』」
僕「『わたしたち』」
ユーリ「『いれかわってる〜?』」
僕「時事ネタ自重!」
ユーリ「お兄ちゃんのノリツッコミ初めて見た」
僕「まじめに行こう」
ユーリ「あのね、《変幻ピクセル》イベントで、 リサ姉が機械見せてくれたの。紙をスキャンして、 色が黒いところが$1$になって、白いところが$0$になるとき、 黒と黒が重なるときだけ黒をプリントする……みたいなの。 それが論理積」
僕「なるほどね。それは計算結果を図形の色に対応させてるんだ」
ユーリ「そんな感じ」
または
ユーリ「否定と、《かつ》と、それから《または》でしょ?」
僕「そうだね。命題を扱う命題論理だと、その$3$つは大事だね。《または》の真理値表はわかる?」
ユーリ「お兄ちゃんから聞いたことある。少なくとも片方が真のときだけ、全体が真になるんでしょ?」
$$ \begin{array}{|cc|c|} \hline P & Q & P \text{または} Q \quad \\ \hline \text{偽} & \text{偽} & \text{偽} \\ \text{偽} & \text{真} & \text{真} \\ \text{真} & \text{偽} & \text{真} \\ \text{真} & \text{真} & \text{真} \\ \hline \end{array} $$
僕「そうだね」
ユーリ「ビット単位の論理和ってゆーのもあったよ!」
僕「それに合わせて、$F$と$T$で書いてみようか。《または》は$\LOR$にして」
ユーリ「こっちも、《$\BITOR$》と《$\LOR$》は同じ計算なんだね!」
僕「そうだね。同じ計算をやってるように見えるね」
ユーリ「あれ? もしかして……」
僕「もう時事ネタはいいよ」
ユーリ「違うの! そーじゃなくて、思いついたの!」
僕「何を?」
ユーリ「同じなの! 《かつ》と《または》って同じ計算じゃん!」
僕「?」
ユーリ「置き換えちゃう。$F$と$T$を置き換えて、$\LAND$と$\LOR$を置き換えるの!」
僕「書いてみようよ」
$$ \begin{array}{ccc} F & \RELATED & T \\ \LAND & \RELATED & \LOR \\ \end{array} $$
真理値表の置き換え
ユーリ「ね? ね? でしょでしょ? $F$と$T$を交換して、$\LAND$と$\LOR$を交換しても、真理値表は正しいじゃん?」
僕「まったくその通り! すごいな!」
ユーリ「ねー、これって大発見?」
僕「そうだね! ユーリのこの発見は、《ド・モルガンの法則》の言い換えになっているよ」
ユーリ「なにそれ」
僕「ド・モルガンの法則っていうのは、論理の法則の一つだよ。 真偽を交換することと、論理和と論理積を交換することの関係を表してる」
ユーリ「へー」
僕「ド・モルガンの法則はいろんな書き方ができるけど、たとえばこんなふうに書ける。$\LNOT P$というのは$P$の否定のこと」
命題$P$と命題$Q$の真偽に関わらず、 $$ P \LAND Q $$ と $$ \LNOT((\LNOT P) \LOR (\LNOT Q)) $$ の真偽はつねに一致する。
このことを $$ P \LAND Q \equiv \LNOT((\LNOT P) \LOR (\LNOT Q)) $$ と書く。
$\equiv$は《論理同値》を表す。
ユーリ「へ?」
僕「何が『へ?』なの? ユーリが発見したことと同じになってるよ」
ユーリ「お兄ちゃん得意の数式が出てきたけど、これってユーリが言ったことと同じなの?」
僕「同じだよ。ユーリは$F$と$T$を交換して、$\LAND$と$\LOR$を交換しても、正しい真理値表ができるっていってたわけだろう?」
ユーリ「まーね」
僕「$F$と$T$を交換するということは、真偽を交換するわけだから、否定$\LNOT$を使えばいいよね。 $P$があったら$\LNOT P$にして、 $Q$があったら$\LNOT Q$にする。 最後に全体の式もまとめて否定$\LNOT$する」
ユーリ「そっか……」
僕「そういうつもりでもう一度式を読んでごらんよ」
ユーリ「じー」
$$ P \LAND Q \equiv \LNOT((\LNOT P) \LOR (\LNOT Q)) $$僕「ね?」
ユーリ「なーるほど! わかった。ほんとだ。左辺の$P$を$\LNOT P$で置き換えて、$Q$を$\LNOT Q$で置き換えて、 $\LAND$を$\LOR$で置き換えて、全体に$\LNOT$付けたのが右辺になってる」
僕「そうそう。それで正しく式を読んでいるよ。左辺$P \LAND Q$の真理値表と、 右辺$\LNOT((\LNOT P) \LOR (\LNOT Q))$の真理値表を比べてみれば、 そうすると、この$2$つの真理値表が一致することがわかるよ」
ユーリ「……両方とも、$F F F T$?」
僕「そうだね。ということは、$P,Q$の真偽に関わらず、この$2$つの式の真偽は一致するといえる。 $P \LAND Q$が$T$のとき、 $\LNOT((\LNOT P) \LOR (\LNOT Q))$も$T$になるし、 片方が$F$なら、他方も$F$」
ユーリ「……」
僕「ド・モルガンの法則はもう一つあるよ。もう一度$\LAND$と$\LOR$を置き換えたものだね。 まとめて書いておこうか」
$$ \begin{align*} P \LAND Q &\equiv \LNOT((\LNOT P) \LOR (\LNOT Q)) \\ P \LOR Q &\equiv \LNOT((\LNOT P) \LAND (\LNOT Q)) \\ \end{align*} $$
ユーリ「……」
僕「ユーリは黙っている」
ユーリ「……ねーお兄ちゃん。さっきの$P$とか$Q$って命題だよね?」
僕「そうだね。値が真か偽かどちらかに決まる。$T$か$F$かどちらかになるのが命題だから」
ユーリ「$P \LAND Q$とか$P \LOR Q$も命題だよね?」
僕「そうだね。そして$\LNOT P$も命題……って、ねえ、ユーリは何を考えているんだろう」
ユーリ「だったら、さっきの《ド・モルガンの法則》も命題だよね!!」
$$ P \LAND Q \equiv \LNOT((\LNOT P) \LOR (\LNOT Q)) $$僕「そうだね! それを考えていたのか。その通りだよ、ユーリ」
ユーリ「だったら、ねえ、$\equiv$の真理値表も書けるでしょ? ね?」
僕「書けるねえ!」
$$ \begin{array}{|cc|c|} \hline P & Q & P \equiv Q \\ \hline F & F & T \\ F & T & F \\ T & F & F \\ T & T & T \\ \hline \end{array} $$
ユーリ「両辺が$F$のとき。両辺が$T$のとき。そのときだけが$T$になる! そーゆー真理値表! 満足ぅ!」
僕「確かに、それが論理同値の意味だね。やるなあ、ユーリ……って、そうか、これ、排他的論理和の否定だね。リサちゃんがビット単位の計算でやってた(第102回 冒険ビット(後編)参照)」
$$ \begin{align*} 0 \oplus 0 &= 0 && \text{一致($0$)} \\ 0 \oplus 1 &= 1 && \text{不一致($1$)} \\ 1 \oplus 0 &= 1 && \text{不一致($1$)} \\ 1 \oplus 1 &= 0 && \text{一致($0$)} \\ \end{align*} $$
ユーリ「どゆこと?」
僕「ほら、論理同値の$\equiv$は《左辺と右辺の真偽が等しいときだけ真になる》っていう計算だろう?」
ユーリ「そだね」
僕「そしてビット単位の排他的論理和は《$0$と$1$が不一致のときだけ$1$になる》というんだから、$\equiv$の否定になるよね」
ユーリ「そかそか。両辺の真偽が不一致のときに真になる!」
$$ \begin{array}{|cc|c|} \hline P & Q & \LNOT(P \equiv Q) \\ \hline F & F & F \\ F & T & T \\ T & F & T \\ T & T & F \\ \hline \end{array} $$
演算子は何種類?
ユーリ「論理の計算ってたくさんあるんだね」
僕「そうだね。《かつ》の論理積、《または》の論理和、《〜でない》の否定、《等しい》の論理同値……そうだ! こういう命題代数の演算子は全部で何種類あると思う? $P$と$Q$という$2$つの命題から真偽値が定まる演算子」
ユーリ「え? 無数にあるんじゃないの?」
僕「……どうしてそう思ったんだろう」
ユーリ「だって、いくらでも複雑な式って作れるじゃん? $P \LAND Q$とか、$P \LAND (Q \LOR P)$とか、$(\LNOT P) \LAND ((\LNOT Q) \LAND P)$とか……」
僕「ああ、確かにそうなんだけど、その中には論理同値なものも含まれているよね。 式をいくら複雑に書いたとしても、$P$と$Q$の真偽に応じて、 まったく同じ結果になるとしたら、それは同じものと見なすとして」
ユーリ「そっか……えーと? てことは、真理値表が何種類あるかってこと?」
僕「そうだね。その通り。ただし、$P$と$Q$の$2$つだけが出てくるものだよ。$P,Q,R$みたいに命題$3$つは出てこない。演算子を仮に$\circ$で表すと、こういう形ってことだね」
$$ \begin{array}{|cc|c|} \hline P & Q & P \circ Q \\ \hline F & F & \text{?} \\ F & T & \text{?} \\ T & F & \text{?} \\ T & T & \text{?} \\ \hline \end{array} $$
ユーリ「ははーん。わかったわかった。この真理値表の$\text{?}$のところに$F$か$T$かが入るんでしょ?」
僕「そうだね」
ユーリ「だったらカンタン! 一つの$\text{?}$には$F,T$の$2$通りあるんだから、$$ 2 \times 2 \times 2 \times 2 = 2^4 = 16 $$ で、$16$通りの真理値表が作れる!」
僕「はい、正解です!」
ユーリ「えー、でも、ほんとに$16$通りもあるの? $8$種類くらいかと思ってた」
僕「真理値表を書けば納得するよ」
ユーリ「$15$通りしかないじゃん……って、$0$から始まってるから$16$種類ってことか」
僕「そうだね。$\circ_0$から$\circ_{15}$まで、演算子に番号を付けてみたんだけど」
ユーリ「ご苦労」
僕「偉そうだな。ところで、この中ですでに出てきたものもあるよね。$\circ_{6}$と$\circ_{8}$と$\circ_{9}$と$\circ_{14}$」
ユーリ「ふんふん……あれ? 全部$F$とか全部$T$というのもある」
僕「そりゃそうだね。すべてのパターンを作ったわけだから。$P$のままとか、$Q$のままというのもあるよ」
ユーリ「そっか。残りは$6$個だね」
僕「たとえば、$P \circ_{1} Q$はどんな計算だろう」
ユーリ「$P$と$Q$の両方が$F$のときだけ、$F$になる計算……そっか、$P \LOR Q$は両方が$F$のときだけ、$T$になるから、その否定? $\LNOT(P \LOR Q)$じゃない?」
僕「うん、そうだね」
$$ P \circ_{1} Q \equiv \LNOT(P \LOR Q) $$
ユーリ「$P \circ_{2} Q$は、$P$が$F$で、$Q$が$T$のときだけ$T$になる」
僕「$P$を否定しておいて、$\LAND$を計算すればいいんだから、$(\LNOT P) \LAND Q$ということだね」
$$ P \circ_{2} Q \equiv (\LNOT P) \LAND Q $$
ユーリ「あったまいー! あっ、次の$P \circ_{4} Q$も同じようにできるよ。$Q$を否定しておいて、$\LAND$の計算」
$$ P \circ_{4} Q \equiv P \LAND (\LNOT Q) $$
僕「そうだね。そして$P \circ_{11} Q$は、$P \circ_{4} Q$を否定すればいいから、$\LNOT(P \LAND (\LNOT Q))$になるね」
$$ \begin{align*} P \circ_{4} Q & \equiv \LNOT(P \circ_{4} Q) \\ & \equiv \LNOT(P \LAND (\LNOT Q)) \\ \end{align*} $$
ユーリ「うわ、ややこしい!」
僕「そこで、ド・モルガンの法則を使おう!」
ユーリ「お?」
僕「$\LNOT(P \LAND (\LNOT Q))$は、ド・モルガンの法則を使えば、$(\LNOT P) \LOR (\LNOT(\LNOT Q))$になるよね」
ユーリ「余計ややこしいよーな……」
僕「うん、でも$\LNOT(\LNOT Q)$って$Q$と論理同値だから、簡単にできる。否定の否定はなくせるから」
$$ \begin{align*} P \circ_{4} Q & \equiv \LNOT(P \circ_{4} Q) \\ & \equiv \LNOT(P \LAND (\LNOT Q)) \\ & \equiv (\LNOT P) \LOR (\LNOT(\LNOT Q))) && \text{ド・モルガン$\HIRANO$法則} \\ & \equiv (\LNOT P) \LOR Q && \text{否定$\HIRANO$否定をなくした} \\ \end{align*} $$
僕「だから、$$ P \circ _{11} Q \equiv (\LNOT P) \LOR Q $$ ということになる」
ユーリ「あ、意外にすっきり?」
僕「うん、$(\LNOT P) \LOR Q$というのは、《$P$でないか、または、$Q$》だね。これはよく$P \to Q$と書いて《$P$ならば$Q$》と呼ぶよ」
命題$ (\LNOT P) \LOR Q$のことを、 $$ P \to Q $$ と書き、《$P$ならば$Q$》と呼ぶ。
ユーリ「ならば?」
僕「そうだね」
- $P$が$F$だったら、$Q$が$F$でも$T$でも、$P \to Q$は問答無用で$T$とする。
- $P$と$Q$の両方が$T$だったら、$P \to Q$は$T$とする。
- $P$が$T$で、$Q$が$F$のときに限り、$P \to Q$は$F$になる。
ユーリ「それって、《$P$ならば$Q$》なの? なんだか変なの」
僕「どこが変?」
ユーリ「$P$が偽で、$Q$が真のとき、《$P$ならば$Q$》って真になるの?」
僕「そうだね。命題論理ではそういうふうに決めているね」
ユーリ「あのね、$P$が偽で、それなのに、$Q$が真だったら、$P \to Q$は偽になるよーな気がしたの。何となく」
僕「うん、そこは気になるところだよね。でも、そうすると、ユーリがいう《ならばモドキ》は、こういう真理値表になるよね」
ユーリ「そだね……あり? これって$P \equiv Q$じゃん。$P$と$Q$が同じときだけ$T$だから」
僕「そうだね。ユーリがさっきいってた、《$P$ならばモドキ$Q$》は《$P \equiv Q$》という論理同値になっちゃう」
ユーリ「そっか……それは、それで違うよーな」
僕「最後に残った$P \circ_{13} Q$は$\LNOT(P \circ_{2} Q)$だから、$$ P \circ_{13} Q \equiv \LNOT((\LNOT P) \LAND Q) $$ になるね。ド・モルガンの法則を使えば、 $$ P \circ_{13} Q \equiv P \LOR (\LNOT Q) $$ と書くこともできる。これで全種類できたね。まとめて書いてみようか」
ユーリ「うーん……」
僕「ごちゃごちゃしちゃったかな」
ユーリ「んにゃ。あのね、この表の中の《パターン》を見てたの」
僕「《パターン》というと?」
ユーリ「あのね、$T$が$1$個だけ出てくる《パターン》は$4$個あるの」
僕「うんうん、そうだね」
ユーリ「でね、$T$が$1$個ってゆーのは、$P \LAND Q$の仲間じゃん?」
僕「なるほどなるほど。そうだね。$x \LAND y$の形をしていて、$x$と$y$に$P$と$Q$をそのまま入れるか、$\LNOT$つけて入れるかの違い」
ユーリ「そー! それそれ! だから、こんなふーに$\LAND$でまとめられる!」
僕「なるほどね」
ユーリ「そんでね、同じよーにして、今度は$F$が$1$個ってゆーのは、$P \LOR Q$の仲間!」
僕「確かに。さっきとそっくりだ」
ユーリ「あと、$F$と$T$が$2$個ずつってゆーのは$P \equiv Q$の仲間と、$P,Q$単独の仲間なのであった!」
僕「おもしろいなあ。$16$のパターンを$T$の個数で分類できるっていうわけだね」
ユーリ「あと$T$が$0$個のやつと、$T$が$4$個のもあるけどね」
ならば、再び
僕「真理値表を眺めているのはおもしろいなあ」
ユーリ「……」
僕「また何か見つけた?」
ユーリ「お兄ちゃん! $P \to Q$って、$(\LNOT P) \LOR Q$だよね?」
僕「そうだね」
ユーリ「だったら、$P \LOR (\LNOT Q)$は$P \gets Q$になる?」
僕「ああ、そうだね。そうなるよ。$P \gets Q$は$Q \to P$と論理同値だと定義すれば」
ユーリ「えーと、それじゃ、もしかして、$(P \to Q) \LAND (P \gets Q)$って、$P \equiv Q$になる?」
僕「……!!」
ユーリ「ねー、そうなるよね?」
僕「……なるよ、ユーリ! 真理値表書けば証明できる」
ユーリ「やっぱり」
僕「どうしてそう思ったんだろう」
ユーリ「なんとなく。あのね。《$P$ならば$Q$》でしかも《$Q$ならば$P$》だったら、$P$と$Q$は同じじゃね? って思ったの」
僕「……」
ユーリ「ほら、さっきユーリが《$P$ならばモドキ$Q$》を考えたとき、$P$が偽で$Q$が真のときに全体を偽にしたから、《$P \equiv Q$》になっちゃったじゃん? あのとき、 ユーリは《$P \to Q$》を考えてるつもりで、《$(P \to Q) \LAND (P \gets Q)$》を考えてたんだね! やっとわかった」
僕「……!」
ユーリ「どしたの? 『お兄ちゃん、変やよ』」
僕「いや……そういうふうに、論理同値と《ならば》を関連づけて考えたことなかったからなんだけど。うまく言葉にできない感動がやってきてるんだ、いま。それに、 $$ P \equiv Q $$ という命題は、 $$ P \leftrightarrow Q $$ と書くこともあるし、 $$ P \leftrightarrows Q $$ と書くこともあるんだよ! 確かに$(P \to Q) \LAND (P \gets Q)$だね!」
ユーリ「にゃるほど!」
対偶
僕「ところで、これだけ真理値表を調べてくると、《逆は必ずしも真ならず》という言葉の意味を命題論理で考えることができる」
ユーリ「逆は……?」
僕「……必ずしも真ならず。さっき出てきた、$$ P \to Q $$ という形の命題と、 $$ P \gets Q $$ という形の命題があるよね」
ユーリ「うん」
僕「命題$P \to Q$の逆っていうのは、$P \gets Q$の命題のこと。反対に$P \gets Q$の逆は$P \to Q$」
命題$P \to Q$の逆は、命題$P \gets Q$である。
命題$P \gets Q$の逆は、命題$P \to Q$である。
ユーリ「矢印の向きを逆にしているから?」
僕「そうだね。それでね、《逆は必ずしも真ならず》っていうのは、 命題論理風にいえば、 $P \to Q$が$T$のときでも、$P \gets Q$が$T$になるとは限らない……となる」
ユーリ「ふーん……って、それ、あたりまえじゃない? だって、真理値表比較すればわかるもん」
僕「そうだね」
ユーリ「だよね」
僕「それから、数学でよく出てくるのは《もとの命題と対偶は論理同値》というものだね」
ユーリ「たいぐー」
僕「命題$P \to Q$の対偶っていうのは、$(\LNOT P) \gets (\LNOT Q)$という命題のこと」
命題$P \to Q$の対偶は、命題$(\LNOT P) \gets (\LNOT Q)$である。
命題$P \gets Q$の対偶は、命題$(\LNOT P) \to (\LNOT Q)$である。
ユーリ「むむ?」
僕「矢印を逆にしただけなのが《逆》で、《対偶》はさらに$P$と$Q$をそれぞれ否定しているんだよ」
ユーリ「それが同じになるの?」
僕「すぐはわからないと思うけど……」
ユーリ「真理値表でわかる?」
僕「そうだね」
ユーリ「えーと……」
僕「……」
ユーリ「そっか、そーなるね」
僕「いま、どういう経路で納得したんだろう」
ユーリ「んーとね、$P \to Q$って、$T \to F$のときだけ$F$になるでしょ。だから、そこを見てたの。それがちょうど$(\LNOT P) \gets (\LNOT Q)$が$F \gets T$になるところと合ってる」
僕「めざといなあ……式変形でもできるはずだよ」
$$ \begin{align*} P \to Q &\equiv (\LNOT P) \LOR Q && \text{$\to$ $\HIRANO$定義から} \\ &\equiv Q \LOR (\LNOT P) && \text{$x \LOR y \equiv y \LOR x$だから} \\ &\equiv (\LNOT(\LNOT Q)) \LOR (\LNOT P) && \text{$Q \equiv \LNOT(\LNOT Q)$だから} \\ &\equiv (\LNOT Q) \to (\LNOT P) && \text{$\to$ $\HIRANO$定義から} \\ &\equiv (\LNOT P) \gets (\LNOT Q) && \text{$x \to y \equiv y \gets x$だから} \\ \end{align*} $$ユーリ「へー……ほんとだ。$Q$を$(\LNOT(\LNOT Q))$に直すところ、おもしろーい」
実際は?
僕「ややこしいけれど、なかなかおもしろいなあ」
ユーリ「対偶って、数学でよく使うの?」
僕「そうだね。何かを証明しようとして、直接証明するのが難しいとき、対偶を証明してしまえばいいから。《$P$ならば$Q$》という形のものを証明する代わりに、 《$Q$でないならば$P$でない》という対偶の方を証明するってことだね」
ユーリ「かえってややこしーじゃん」
僕「そうだね。《$P$でないならば$Q$でない》という命題を証明する代わりに、《$Q$ならば$P$》を証明する。これなら簡単になっているよね」
ユーリ「そっか」
僕「たとえば、こんなの。《実数$x$が$1$より大きくないならば、実数$x$は$3$より大きくない》は正しい?」
ユーリ「えーと? 正しい……?」
僕「正しいね。直接考えてもいいけれど、対偶を考えるとすっきりわかる。 だって《実数$x$が$3$より大きいならば、実数$x$は$1$より大きい》を考えればいいから」 $3$より大きいなら、$1$より大きいというのはすぐわかる」
ユーリ「ふんふん……ん? ダウト!」
僕「なぜダウト?」
ユーリ「ねえ、お兄ちゃん。《実数$x$が$3$より大きい》っていうのは、命題なの?」
僕「ああ、それはね……」
(第172回終わり。第173回へ続く)