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[FT]中国を後退させる習氏の任期延長(社説)

2016/10/13 16:01
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 中国では何千年にもわたって、指導者は「天命」に従って国を統治してきた。「天命」の考えでは、クーデターや農民一揆、天災などは、目に見えない大きな力によって国を治める皇帝の権力が剥奪されたという、宇宙からの警告だった。このロジックに基づけば、皇帝は宇宙が権力を奪わない限り、その座に居座ってもよかった。

北京のショップで売られている毛沢東と習国家主席の飾り物=ロイター

北京のショップで売られている毛沢東と習国家主席の飾り物=ロイター

 名目上は無神論である共産・中国で、習近平国家主席が指導者の年齢と任期の期限をないがしろにしてしまうのではないかとの懸念が高まっている。支配政党である共産党はここ何十年も、その制度整備に向け懸命に取り組んできた。1990年代以降、中国の集団指導体制が慎重に導入してきた暗黙の了解の下では、習氏は2022年に国家主席や党総書記、そして軍事委員会主席を含む全ての役職から退くことになっている。習氏はその時点で、通常の引退年齢である68歳を過ぎており、胡錦濤前主席や江沢民元主席の2人の党書記前任者と同様に5年2期の任期を満了することになる。

 習氏が権力の座にしがみつけば、確立された手続きよりも個人的な権力が勝る体制に、中国が逆戻りしているという明確なサインを送ることになるだろう。また、この影響は気づかないうちに広がり、恐らく中国国内外の政治や経済の分野で感じとれるようになっていくだろう。

■権力にしがみつけば前例をつくることに

 官僚の地位がピラミッド型に組み立てられた体制は危険をはらんでいる。頂点にいる者は、ピラミッドの下に広がる720万人の党員から敬意を一手に集める。従って、確立された規範を総書記が無視するような事態が起これば、省や市の首長だけでなく村長にさえ、同様の行動をとってもいいと思わせてしまうかもしれない。これは、習氏が取り組む汚職との戦いに悪影響を及ぼす可能性がある。同氏による取り締まりは、何千人もの悪徳官僚を捕らえるなど効果をあげてきたが、汚職の根本的な原因が1党支配の中で独立した監視体制を欠いていることにあるとは認識できていない。

 従って、習氏が地位にしがみつこうとする行為は、中国が不安定ながらも「人治」から「法治」へ移行しようとしてきた道を逆行することを意味しよう。政治局を引退するという合意された規範の破棄は、毛沢東時代を思い起こさせる。独裁者の毛沢東は1976年に82歳で亡くなったが、かつて米国人とのインタビューで自分は「天や法」を超えて生きると語っていた。後任で果敢な経済改革の主導者、鄧小平は、89年の天安門事件でデモ隊の大量殺りくを指示したとき、84歳の独裁者に変貌していた。

 また、目先でも予期しない政治的影響を及ぼす可能性がある。もし習氏が引退を拒否したら、常務委員会7人のうち2017年の党大会で退く予定の委員の中から居座ろうと画策する者が出る可能性もある。なかでも、汚職撲滅運動を主導する王岐山氏は最も可能性が高い。

 中国の投資と貿易の提携先にとっても問題は致命的だ。法の支配や適正な手続き、そして独立した監視体制の順守は、ワシントン・コンセンサス(米政府や国際通貨基金=IMF=、世界銀行など先進国主導の国際機関による新興国への政策勧告)の基盤であるが、この分野におけるもろさが、中国のグローバルシステムへの統合を妨げている。

 欧州連合(EU)が提起した反ダンピング(不当廉売)関税の適用は、引き続き中国を主な標的としている。一方で、米国が疑うサイバー攻撃やサイバー上のスパイ活動、知的財産の侵害などは2国間摩擦を引き起こすおなじみの問題の源だ。また、南シナ海と東シナ海における領有権を巡る戦略的な緊張も、法順守とは相いれない姿勢が見られる。

 世界は、習氏がこれまでの引退の慣例を順守することを期待しているはずだ。それを破ることは、中国にとってのみならず、相互につながり合う世界にとっても危険な前例となるだろう。

(2016年10月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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