広島東洋カープがセ・リーグ優勝を決めて一夜明けた9月11日。広島県を地盤とするもみじ銀行の頭取、小田宏史(55)は日曜日にもかかわらず、午前8時から記者会見を開いた。
「感謝の気持ちを込め、喜んで4億円をお支払いしたい」。チーム成績に応じて上乗せ金利が決まる定期預金「カープV預金」で初めて優勝金利(0.2%)を適用。その負担金が約4億円だった。業務純益が約98億円(2016年3月期)の同行にとって軽い金額ではないが、広島大学付属高校時代にカープの入団テストを受けたほどの熱狂的なファンの小田は満面に笑みを浮かべて宣言した。
V預金を始めたのは1995年の旧広島総合銀行時代。カープ私設応援団所属の行員が発案した。頭取の森本弘道が球団オーナーの松田耕平(いずれも当時)に直談判。「選手にプレッシャーがかかる」と最初は断られたが、何度も通い詰めて了解を取り付けた。初年度300億円だった預金残高は今年、過去最高の1981億円に達した。
カープと地元経済界の結び付きは他球団と比較にならないほど濃密だ。例えば球場建設。57年に完成した旧広島市民球場は翌年のスタンド増設分も含めた総工費約2億6000万円の9割以上を経済界が負担した。09年完成のマツダスタジアムでも800を超える企業・団体が07年9月から1年半で計16億6500万円を拠出した。
「寄付の当初目標は11億円。それでも本当に集まるだろうかと心配だった」。広島商工会議所副会頭の立場で04年11月から「新球場建設専任担当」を務めた中国電力相談役の福田督(74)は振り返る。バブル崩壊後の「失われた15年」が流行語になった景気低迷期。不安を募らせた同商議所会頭(広島銀行会長、いずれも当時)の宇田誠が県内13商議所会頭を集め、「万一目標額に達しない場合はご支援を」と要請する一幕もあった。
しかし、それも杞憂(きゆう)だった。商議所会員に「カープは広島の宝だから」と寄付の意義を説明すると、「こんなに負け続けて宝なんて言えるのか」と食ってかかられることもあったが、それでも寄付する際には大盤振る舞いする。かわいさ余っての発言はあるものの、みんな心底カープを愛している。新球場開設から8年目。福田は「一時は消滅説も出ていた市民球団が新しい器で活力を発揮できたことが何よりうれしい」と感慨深げに語る。(敬称略)