Mac綺麗ですよね。外観から内面まで洗練されている気がしますよね。(私はWindows派なんですが)
特にフォント面では、
- OS Xでプロフェッショナルの現場でも使用されるヒラギノフォント(大日本スクリーン製造)を6書体搭載
- UI用には混植用かな書体*1の「AquaKana」を使用
- Mavericksでは游ゴシック・游明朝(字游工房)を2ウェイトずつ追加
- 最新バージョン(2016年5月現在)のOS X El Capitanでは游明朝の混植用かな書体である「游明朝体+36ポかな」(字游工房)、藤田重信氏を中心に制作された「筑紫A/B丸ゴシック」(フォントワークス)、教科書体である「クレー」(フォントワークス)を追加し、更にこれまで3ウェイトだったヒラギノ角ゴシックが10ウェイトを拡張
するなど、日本語環境に対しても積極的な取り組みが見て取れます。
ただ、これはMacのお話。世界で約90%のシェアを占めるWindowsの日本語環境への対応はMacとは比べ物にならないくらい遅れています。
Windowsと和文
先日、家電量販店でChromeOS搭載PCを触った際のレンダリングの綺麗さに思わず感動してしました。オープンソースでここまでの洗練されたUIを作り上げるGoogleは流石です。それに比べてWindowsの汚・レンダリングきたら――。他OSなんかとは比べ物になりません。もう比べたら失礼です。
昨年の12月、Windows10のNovember Updateで「デスクトップ」の高さが揃わない問題が改善された(=和文フォントのレンダリングが改善された)として話題になりました。ClearType *2という技術が搭載されてからその方面に関してはほぼ音沙汰なしだったWindowsにとっては大きな進歩と言えそうです。とはいえどもまだ追いつけ追い越せの状態です。
Windowsのレンダリング環境を改善するためのソフトも開発されてはいますが、使い勝手が悪く(私の主観ですが)あまりお勧めは出来ません。
長ったらしい前置きになってしましたが、今回は日本語環境にめっぽう弱いWindowsでの和文フォントではどれ選ぶべきなのかを総合的に検証していきます。
Windowsに搭載されている和文書体は10ファミリー(10種類の書体)24書体
フォント名 | ウェイト | 計 |
---|---|---|
MSゴシック | 標準 | 1書体 |
MS Pゴシック | 標準 | 1書体 |
MS明朝 | 標準 | 1書体 |
MS P明朝 | 標準 | 1書体 |
MS UI Gothic | 標準 | 1書体 |
メイリオ | 標準、ボールド、イタリック、イタリックボールド | 4書体 |
Meiryo UI | 標準、ボールド、イタリック、イタリックボールド | 4書体 |
游ゴシック | Light、Regular、Medium、Bold | 4書体 |
游明朝 | Light、Regular、SemiBold | 3書体 |
Yu Gothic UI | Light、Regular、Medium、SemiBold、Bold | 4書体 |
それではそれぞれのフォントを解説していきます。最後の方になると適当になっていくのも見どころです。
MSゴシック
Windows 3.1 *3から搭載され、2012年まで日々改良されてきた歴史あるフォント。(残りの4割はMS明朝。)正式なフォント名は「MSゴシック」。("MS"は全角)
デザイン
他に類を見ないデザインのダサさが特徴。元となった字母はリョービ*4のゴシック-Bという写植*5時代から存在する書体なのですが、それをリコーが ダサく手を加えたため微妙なデザインへと Windows上で見やすい様にリメイクしたためすっきりとしたデザインへと変貌を遂げました。
ゴシック体で唯一ビットマップフォントを埋め込んでいる貴重なフォント。Windowsにはベストマッチ?
また、等幅フォント*6であるため半角英数字も等幅。非常にこれまたダサいデザインなのですが、いろいろと使い道はあります。(後述)
なぜ、この書体が普及しているのか
Windows8.1からは遊書体という高品質フォントが使用できるようになったのですが、それまでインストールして直ぐに(OfficeやIllustratorなどをインストールせずに)使用できるフォントといえば本当に限られたものでした。中でも真面目で野暮ったくない粋なゴシック体といえばもうこのフォントしか存在しなかった訳で。みんな好き好んで使ってたわけじゃないんだなぁ。
MS明朝
MSゴシックと同時に搭載されたフォント。その為、仕様はMSゴシックとほぼ共通と言っていいです。こちらも正式なフォント名は「MS明朝」("MS"は全角)。
MSゴシックと比べて非常に使い道が少なく(個人的に)、ビットマップフォントなんか目も当てられないという 非常に残念な 書体。もはや互換性のために残されている感じ。(例えばMS書体で組まれた文章やMS書体を想定したアプリを、勝手にメイリオや遊書体に変更するとデザインが崩れたり字体が変わる可能性がある)
メリット
XP標準で使用できる唯一の明朝体。
MS Pゴシック/MS P明朝
MSゴシック/明朝のプロポーショナルフォント版。先ほど同様「MS」「P」は全角、MSとPの間のスペースは半角です。
参考サイト
本明朝についてのお話が載っています。
http://www.jagat.or.jp/past_archives/story/8871.html
プロポーショナルフォントって?
活版印刷の時代から日本語はベタ組で組まれることを想定されていたのですが(活字では物理的に不可能)、1960年頃に詰め組みと呼ばれる組み方が登場しました。例えば仮名の場合、「お」の文字は横に長く、「う」の文字は縦に長いため、それを均等に組むと(ベタ組み)どこかバラバラとした印象を与えてしまいます。詰め組みの場合は"この空いた空間"を詰めて視覚的に調整していきます。
それらを踏襲し、TrueTypeでも詰め組みを実現するべく登場したのがプロポーショナルフォント。要はそれぞれ文字に合わせた幅を持つフォントのことです。
最近ではペアカーニングなどといったOpenTypeを使った新しい技術も出てきてまた新たな発展を遂げそうです。(要出典)
話が逸れました。MS P書体の話に戻します。
タイトルにはPがつく方を
本文をプロポーショナルフォントで組むと苦しく見えます。本文はやはりベタ組で組むのがベストです。「じゃぁプロポーショナルフォントを使う機会なんて無いじゃないか!」とお思いの方、安心して下さい。見出しが有りますよ!!
――タイトルや見出しこそ美しく詰めるべきです。強調したいところにプロポーショナルフォント"を使いましょう。
参考リンク
こちらにMS書体についての詳しい話が載っています。https://industry.ricoh.com/font/knowledge/fontknowledge01.html
MS UI Gothic
タイトル通りのUI用フォントです。タイトル通り元となった書体はMSゴシック。
"限られた領域に出来るだけ多く文字を表示する"為に開発されたというこのフォント。こちらのサイトでは、日本語版では領域に文字が入りきらなくなるのを防ぐためではないか、と推測されています。
そんなわけで仮名部分は2/3にまで圧縮した大変コンパクトな書体なのですが、これがまたひどい。そもそもコンデンス書体*8で高評価な声はあまり聞きませんが、それにしても酷いと思いませんか?
メイリオ
Windows Vistaと共に搭載されたフォント。開発元のマイクロソフトは勿論使用、大手家具販売店のIKEAではFuturaを廃止し、Verdanaに変更した際に日本語フォントもヒラギノからメイリオに変更されたという好まれっぷり。
デザイン
和文部分
ゴシック体の中でも懐*9を広げた〝モダンゴシック体〟に位置しており、これまで搭載されたフォントとは一線を画しています。日本語グリフの製作は河野英一氏とC&Gが担当しており、河野氏が展開するTYPE C4ファミリーとも非常に似たデザインです。
欧文
一方の欧文部分はこれまたマイクロソフトが開発し、1996年に世に登場したVerdanaという書体を組み込んでいます。2016年現在、従属欧文*10でなく欧文書体を組み込んでいる書体は小塚ゴシック(Adobe)のとメイリオ以外にはほぼ見かけませんが*11、ミスマッチというわけでも無く、あの野暮ったい和文とうまい具合に調和が取れています。
参考サイト
「メイリオ」開発者である河野英一氏の展開するTYPE C4サイト内に解説ページがあります。
http://www.type-c4.com/concept/meiryo.html
ClearTypeに適したフォント
先程ちょこっとだけ触れた、ClearTypeというMSの技術を存分に活かしているこのフォント。流石はMS純正フォント。詳しくは良く解らないのですが、膨大な数のヒンディングデータが盛り込まれているため、微妙な曲線でも小さいポイントで表示した際には横1pxに直線上で並ぶのだとか。この技術で大分レンダリングは改善されたのですが、Macの綺麗さには勝てないのが現状です。
ただ、MS純正のソフトであるOffice 2013を使用した際には、ClearTypeを使用せずにレンダリングされていたりと、(C#で表すと TextRenderingHint = TextRenderingHint.AntiAlias; みたいな感じ)先行き不安な感じもします。
ボールドウェイトと擬似ボールド
フォントの概念の一つにウェイト(和訳:太さ)というものがあります。ファミリーと呼ばれる書体の種類の中にLight、Regular、DemiBold、Bold、Heavyなどが存在するイメージです。
メイリオや後述する游ゴシックなどには複数の(2つ以上の)ウェイトが存在するため、WordやPowerPointの[B]ボタンを使用すると自動で太いウェイトに切り替えてくれます。
しかし、前述のMSゴシックやMS Pゴシック、MS UIゴシックなどには1つのウェイトしか用意されていないため、[B]ボタンを押された際には機械的に1pxずらした擬似ボールドと呼ばれる状態で表示します。太いウェイトでは文字が潰れないようにそれぞれ処理がされているのですが、本文用ウェイトではそこにただ縁取るだけであるため、文字が潰れる可能性があります。50%の確率で潰れます。その為、本来はMSゴシックなどで太字を指定するべきではありません。そこで登場するのが、2つウェイトが存在する「メイリオ」なわけです。
Meiryo UI
2009年、Windows7の登場時に一緒に公開されたのがMSお得意のUI書体。MS UI Gothicに続いて2書体目となります。Windows8ではMeiryo UIが全面的に採用されるも、不満を持つユーザーが続質し、Meiryo UIも大っ嫌い!というソフトまで登場するという事態に。劣化させる前の 基となったフォントはそこそこ信頼を得ているメイリオなのですが、(MS UI Gothicが不評であったにも関わらず)再び横幅2/3に縮めるという傲慢さがその怒りを買いました。
游ゴシック体
Windowsが日本に上陸して既に26年。ついにプロフェッショナルなフォントが搭載されました。やったぜWindows!!。
開発を字游工房が手がけており、そのやさしいデザインが特徴的です。
字游工房
当時、日本最大手写植メーカーであった写研から独立した鈴木 勉
手掛けた書体も多く、字游工房から発売されている游書体の他、ヒラギノファミリーや、DF麗雅宋の仮名デザインなども担当されたようです。
創設者の一人である故・鈴木勉氏の功績を綴った書籍の『鈴木勉の本』も出版されており、一部抜粋したものはこちらのサイトで読むことが出来ます。
デザイン
ゴシック体は主に2つの種類に分けることが出来ます。一つはゴナ(写研)→ 新ゴ(モリサワ)→ ロダン(FW)→ AXIS(TypeProject)と来ているモダンゴシック。もう一つは石井太ゴシック(写研)や筑紫ゴシック(FW)などといったオールド系のゴシック体です。
モダンゴシックは可読性が良く、サインシステム*13や最近のニュースのテロップなどに多用される傾向があります。最近流行りのUD書体などもモダンに位置します。
というわけで(?)この游ゴシック、オールドな方に位置すると考えてよろしいんじゃないんでしょうか?(理由)懐が狭いから。
さらに、エレメントの角が丸く加工されているのもポイントです。全体的にやさしげな雰囲気が「こぶりなゴシック」(大日本スクリーン製造)とも共通点を持っています。
参考までにニューステロップに使用されている(いた)書体を挙げておきます。
NHK | 太丸ゴDB101(モリサワ)→ ニューセザンヌ(FW)→ ニューロダン(FW) |
---|---|
日テレ | ウインクス(ニイス)、ヒラギノ角ゴシック(大日本スクリーン製造) |
テレ朝 | 新ゴ(モリサワ)→ ヒラギノAD仮名(大日本スクリーン製造) |
TBS | ゴナ(写研)→ 新ゴ(モリサワ)→ ニューロダン(FW) |
フジ | JTCウイン(ニイス)→ UD新ゴNT(モリサワ) |
こちらのサイトも参考になります。
游明朝
正直使ったことがあまりないのでそこまで分からないのですが、とりあえずMS明朝より何倍も綺麗だということは保証します。
メリット
使用用途
時代小説が組めるような明朝体を目指して開発されたとのことです。みんな!時代小説を書いて組もう!
本当はもっと語りつくせる部分がある書体なのですが、無知なもので游明朝体について深く掘ることが出来ませんでした。申し訳ありません。
Yu Gothic UI
以前2ちゃんねるのスレを読んでた際に「Yu Gothic UI 爆誕」という表現で登場していて、しっくりときた表現に思わず共感してしまいました。なぜUIフォントが誕生するんだ――!
デザイン
6年の時を経て、再び横幅2/3のUI用フォントが誕生。懲りないなぁ。
和文
基になったフォントは文字通り游ゴシックです。游ゴシック自体は凄く美しいフォントなのですが、UI用にしたのが裏目に出ています。
<裏目1>
メイリオはモダンゴシック体です。そこから派生したMeiryo UIもモダンゴシック体であるため、微妙な曲線は排除されたすっきりとしたデザインになっています。画面上でにも非常に見やすいです。一方のYu Gothic UIは基のフォントを游ゴシックなんかにしちゃったもだから妙な曲線が残されており、画面で見た時にジャギーが目立つ気がします。
<裏目2>
游ゴシックが持つ微妙なエレメントの突起なども省略されている点が非常に残念です。あの角の丸みも全てカットされています。これはUIフォントの宿命とも言えるため仕方が無いのですが――でもそこはClearTypeで何とかしてくださいよ――(-_-;)
メリット
残念だとはいえども、年々進化してきてはいるUIフォント。MS UI Gothicに比べると何十倍もマシです。
用途別フォントの選び方
ここまでは各フォントの特徴についてお送りしました。
ここからは「あの用途にはどんなフォントが合うの?」という疑問に勝手にお答えしていきます。
7以前の機種とやり取りがしたい
7以前に搭載される和文フォントはMS書体、メイリオ、MS UI Gothic、Meiryo UIの5種類です。
MS UI GothicとMeiryo UIは論外にするとして、残される書体は3書体。正直微妙なところでは有りますが、
あたりがベストです。
イカすフォントが使いたい
Windows 8.1以降の環境をお使いならばMS書体・UI用書体は外し、游書体を選択するのがベターではないでしょうか。
Officeを導入している場合はゴシックMB101(モリサワ)をパクった HG創英角ゴシックUBやリュウミン(モリサワ) をパクった HG明朝Bなどを使うのも有りですね。
フリーフォントでは源ノ角ゴシック *14や、ニタラゴルイカがお薦めです。
*1:漢字とかなで別の書体を使用するためのかな書体。
*2:1pxが赤・緑・青のサブピクセルで構成される点に着目し、それぞれのサブピクセルを個別に発色させることで横方向の解像度を擬似的に3倍に拡張し、精細な文字表示を可能とする技術。
*3:1993年に発売されたWindows。CUIで操作するOSであるMS-DOSの進化版。
*4:かつては書体も制作していたが、2012年をもって販売終了。制作された書体の権利はタイプバンクに譲渡された。ナウなどのフォントが代表的であり、平成明朝を開発したのもこのメーカー。
*5:写真技術を応用した組版方法の一。DTP(パソコンを用いた組版)が普及したことで写植は徐々に衰退した。
*6:文字の幅が一定なフォント。和文はともかく、ベタ組みを想定していない欧文部分は悲惨。
*7:異体字をUnicode上で区別するための仕組み。例えば葛西
*8:長体(横を縮めること)を掛けた時、可読性を失わないようにデザインされた書体。フォント自体に長体がかかっているものと、ソフトウェア(InDesignやIllustrator)で長体を掛けるものがある。MS UI Gothicは前者
*9:それぞれの画に囲まれた内側の空間。懐が広いと現代的な印象に、懐を絞ると引き締まった雰囲気になる。懐が広い書体にはのナール、ゴナ(中村征宏氏)、など。逆に懐を絞った書体には筑紫書体(藤田重信氏)などがある。
*10:和文書体用に設計された欧文のこと。和文とのバランスを考えて設計されているため、欧文用書体に比べるとオマケ感は否めない。
*11:かつてはモリサワフォントにもHelvetica等が使用されていたが、OpenTypeに移行する際、独自の従属欧文に変更された
*12:鈴木
*13:人々を適切に誘導するために設置された案内標識のこと。JR東日本では新ゴ(モリサワ)が使用されている。
*14:AdobeとGoogleが共同開発した多言語用フォント。ゴシック体。Adobeの西塚