金メダリストリレートーク
2016年11月30日・中日劇場
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新貧乏物語第4部・子どもたちのSOS <特集>学びを守るために
貧困や格差と向き合う連載「新貧乏物語」は、五月に第4部「子どもたちのSOS」を掲載し、両親の離婚や突然の病気、ネグレクト(育児放棄)などに直面している小中学生の姿を取り上げた。義務教育は貧困の連鎖を断つために欠かせない「学び」の土台だが、それを支える「就学援助制度」の運用に自治体間で大きな格差が生じている。「子どもの貧困を放置すれば、社会全体が大きなつけを払うことになる」と警鐘を鳴らす識者もいる。 ◆就学援助基準、地域で格差小中学生の子どもを持ち、経済的に困窮している保護者に給食費や学用品費などを補助する「就学援助制度」。文部科学省による二〇一四年度の調査データを本紙が分析したところ、各市区町村の教育委員会が支給の認定基準にしている世帯当たりの年収に、最大約四倍の開きがあった。〇五年の国庫補助廃止が影響したとの見方があり、公的支援の地域格差の実態が明らかになった。 就学援助の受給者は、生活保護世帯が対象の「要保護」と、困窮の度合いが生活保護にほぼ匹敵するとみなされた「準要保護」の二通り。準要保護の認定は各市区町村が行っており、自治体によって要件にばらつきがある。 文科省の一四年度の調査では、夫婦と子ども二人の四人家族をモデルに、各自治体が準要保護の認定基準にしている年収を算出。このデータを基に全国千百八の自治体を比較したところ、額面収入を基準にしている自治体の中では島根県大田市の五百九十万円が最高で、最も低い新潟県津南町の百四十四万円とは四・一倍の開きがあった。 保険料控除などを引いた課税標準額が基準の自治体では、東京都中央区の四百五十六万円が最高。最も低いのは同じ東京都にある新島村の百四十万円で、中央区との差は三・三倍だった。 同じ都道府県内にありながら基準に大きな差が生じている自治体は、東京都以外にもある。三重県では、最高の南伊勢町の四百五十五万円と最低の木曽岬町の二百万円(いずれも課税標準額)との間に二・三倍の開きがあり、埼玉県、新潟県、佐賀県などでも自治体間の差が二倍を超えていた。 子どもの貧困率は親のリストラや離婚の増加などで年々上がっており、一二年に16・3%と過去最悪を更新した。十八歳未満の六人に一人が平均的所得の半分に満たない家庭で暮らしていることになり、経済協力開発機構(OECD)加盟三十四カ国平均の13・3%を上回っている。 子どもの貧困対策推進法などは自治体に実態調査を求めているが、全都道府県と政令指定都市の約九割が地域の貧困率の調査を実施せず、今後の予定もないことが本紙のアンケートで分かっている。 (中崎裕) ◆国の補助廃止影響 認定、自治体が絞る自治体が決める準要保護の認定基準に大きな差が生じるようになったのは、小泉政権時の三位一体改革で二〇〇五年に国庫補助が廃止され、使途を限定しない地方交付税に切り替わったためだ。税源移譲に伴う措置だが、交付税だけでは予算確保が難しく、認定基準を厳しくして対象者数を減らした自治体もある。 さいたま市は〇五年、準要保護の認定基準を見直した。以前は生活保護の受給基準となる年収の一・五倍以下で暮らす家庭が対象だったが、倍率を一・三倍に引き下げた結果、〇六年度の受給者が約三百人減少。同市教育委員会は「国庫補助がなくなり、従来の基準での制度維持が難しくなった」と説明する。 名古屋市も〇五年、一・三倍だった認定基準の年収を生活保護と同額の一・〇倍に引き下げ、受給者が約三千人減った。担当者は「基準を上げてほしいという市民の声はあまり聞かない」としながらも、「どれくらいの収入水準の人に支給するのが現実的なのか、厳密な線引きには難しい部分もある」と打ち明ける。 文部科学省には自治体から「国庫補助に戻してほしい」との要望があるというが、同省初等中等教育局は「あくまでも地方の実情に応じて運用してもらうしかない」との立場だ。準要保護の認定基準で自治体間に格差が生じている現状については「収入の基準を全国一律で設定すると支給対象が拡大し、自治体に追加の財政負担を生じさせる恐れがある。国による基準設定は考えていない」としている。 これに対し、跡見学園女子大マネジメント学部の鳫(がん)咲子准教授(公共政策)は「三位一体改革後に非正規雇用が拡大して就学援助のニーズが増えたのに、逆に認定基準を厳しくする自治体が相次いだ」と指摘。実際、全国の受給者数は〇五年度以降、リーマン・ショックの不況があったにもかかわらず伸び率が鈍化している。 子どもや若者の支援に取り組むNPO法人さいたまユースサポートネットの青砥恭(あおとやすし)代表理事は「学びの土台が公平に保障されているとは言いがたい。すべて自治体任せというのは、制度運用上、危ういのではないか」と話している。 (中崎裕) ◆将来負担1・1兆円増 保護や支援、まず相談を義務教育は憲法で「無償」と定められているが、実際は文具や制服の購入、給食、部活動など、授業以外の部分でお金がかかる。文部科学省の二〇一四年度の調査によると、学校生活に必要な支出は、公立の小学校で一人当たり年間約十万二千円、中学校は約十六万七千円に上る。 では、経済的に困窮している家庭には、どのような支援があるのだろう。 公的支援で最も一般的なのが生活保護だ。家族構成や居住地ごとに国が定めている最低生活費に満たない収入で暮らす世帯が対象。保護費の中には「教育扶助」があり、市町村の役場への申請で受給できる。最低生活費の目安は、夫婦と子一人の三人家族の場合、月に約十七万三千〜二十二万九千円となっている。 「人に迷惑を掛けたくない」「後ろめたい」−などの理由のほか、受給資格の周知や理解が不十分なことから申請をためらう人が少なくない。例えば、「働いていると受給できない」と思っているケース。給料や年金などによる収入があっても最低生活費を下回る場合は、その差額が保護費として支給される。 「マイカーを持っていると受給できない」と誤解している人も多い。受給者は原則、売却しなければならないが、障害があって通院に必要な場合や、車以外に通勤手段がない場合などは持ち続けることができる。預貯金は資産としては保有できず、すべて生活費に回さなければならない。 最終的に支給対象として認められるかどうかは、各世帯の収入などの審査後に決まる。厚生労働省社会・援護局の担当者は「一律の基準を出すのが難しくケースバイケースなので、まずは居住地の市役所や町村役場に相談してほしい」と話している。 生活保護の受給世帯でなくても「準要保護」と認定された場合は就学援助の対象になるほか、ひとり親家庭向けの「児童扶養手当」、障害がある子どもが対象の「特別児童扶養手当」などがある。 民間支援では、食事が十分に取れない子どもたちに無料や低料金で料理を提供する「子ども食堂」が全国的に広がっている。こども食堂ネットワーク(東京)によると、二〇一二年八月に東京都大田区で始まったのが最初で、現在はNPO法人などが全国百カ所以上で運営しているという。 (戸川祐馬) ◆「かわいそう」では済まない 日本財団・花岡さん今のままでは十五歳の貧困層の生涯所得が二・九兆円減り、国の負担は逆に一・一兆円膨らむ−。日本財団などは昨年十二月、「子どもの貧困の社会的損失推計」をまとめ、子どもの貧困問題を放置した場合に社会全体が負うリスクの大きさを提示した。推計をまとめた同財団の花岡隼人さん(30)=写真=は「子どもの貧困を単にかわいそうと見るのではなく、経済問題として国民全体で考えてほしい」と話す。 推計は同財団と三菱UFJリサーチ&コンサルティングが実施。二〇一三年に十五歳だった全国約百二十万人のうち、ひとり親や生活保護世帯、児童養護施設で暮らす約十八万人を貧困状態と仮定して、国や自治体が進学支援などの新たな対策を講じた場合と、講じない場合との差を試算した。 その結果、貧困世帯の十五歳の高校進学率や中退率、大学進学率などが一般世帯並みに改善されれば、卒業後の正社員の増加などで六十四歳までの生涯所得が二二・六兆円から二五・五兆円に増大。同時に、納税額や社会保険料が増えて生活保護給付などが減り、国の財政負担は六・八兆円から五・七兆円に抑えられると推計された。 花岡さんは「推計モデルとした十五歳の一年分だけでこの額になった。これをゼロ歳から十八歳までに当てはめると、生涯所得の損失だけで五十兆円程度の規模になる」と指摘。「政府などが早い段階で対策をとれば、貧困の子どもが大人になった後の財政負担よりも支出は少なくて済む。進学率や中退率を改善するには、児童扶養手当の充実や給付型奨学金の導入など、手段はたくさんある」と国などに訴えた。 また、数字に表れない部分でも所得と消費の増加が経済成長を促すほか、貧困を原因とした犯罪の減少などが期待できるという。 同財団によると、子どもの貧困と所得損失などの推計は、米国など他の先進国では以前からあったが、日本では今回の調査が実質的に初めて。 花岡さんは「日本では貧困を家庭や自己の責任ととらえる風潮が根強いが、問題を放置すれば国全体の力の低下につながる。誰もが自分自身の問題として向き合う姿勢が必要だ」と話している。 (杉藤貴浩) <就学援助> 義務教育で保護者が負担する費用を補助する制度。要保護者と準要保護者を合わせた受給者は過去20年で倍増し、2013年度は全国で151万人。児童生徒全体の15・4%が受給している。年間支給額の全国平均は1人当たり7万3000円。 PR情報
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