医療・健康・食
元国立がんセンター病院長の本音「確かにダメな外科医が多すぎます」
日本の医療はどこが歪んでいるのか?

年に10回しか手術しない医者が「がんの専門医」に認定される。そんな医者の技術が信用できるはずがない。

薬漬けの医療にあいつぐ手術の事故。日本の病院はどこに「歪み」があるのか? がん手術の大家・土屋了介氏と医療経済の専門家・松山幸弘氏がホンネで語り合った。

医者をチェックする仕組みがない

松山 医療費の膨張が止まるところを知りません。9月13日に厚生労働省が発表した'15年度の日本の医療費は41・5兆円。前年度比3・8%増で、13年連続過去最高を記録しています。

土屋 高齢化や医療技術の高度化で医療費が高くなっていくのは、ある程度、仕方がないことです。しかし、なかには「週刊現代」がくり返し指摘しているように、無駄な医療があることも確かでしょう。

もちろん、医療というものは本来有益なものです。しかし、現代の日本ではそれが必ずしもうまく機能していない側面もあり、無駄も多い。

松山 何が有益で何が無駄な医療であるかを判断するのは、非常に難しい問題です。

土屋 とりわけ日本ではそうです。「この手術や薬は科学的に効果があると認められるべきかどうか」という医療の線引きが曖昧だからです。

本来そのような線引きは、専門知識を持つ医者たちが科学的見地から行うべきですが、日本では中医協(中央社会保険医療協議会、健康保険制度や診療報酬改定などの審議を行う厚労省の諮問機関)や先進医療会議などで、官僚や一般民間人、経済学者も交じって行うのです。科学的な線引きが「素人目線」で行われているのです。

 

松山 医療の現場でも日本では「評価」が行われていません。患者が受けた治療が良いものだったかどうかを判断するのは、日本の場合は主治医一人に任されてしまいがちです。客観的な視点が欠けている。

土屋 私が理事を務めているがん研究会有明病院では、「チーム医療」を積極的に進めていますが、アメリカに比べるとまだ十分ではありません。そもそも日本全体では、このようなチーム医療を行っているところはほとんどない。

複数の医者とともに看護師や薬剤師、技師が一緒に判断し、治療を行うのがチーム医療の本質です。しかし、日本は医者に比べて他の職種の権限が弱く、チェック機能が働かないのです。

とりわけ大学病院はそうです。腹腔鏡手術の失敗で、多数の死者が出た群馬大学医学部がその典型でしょう。

〔PHOTO〕gettyimages

大学病院が抱える大問題

松山 大学病院のシステムは本当にひどいですよ。私も殺されかけたことがあります。

30年ほど前、当時勤めていた会社の診療所の所長に言われて、しぶしぶ大学病院で胃カメラの検査を受けました。「異状なし」と言われて、家に帰ったその夜、全身痙攣を起こしたんです。膵液が逆流し、急性膵炎になってしまって。

言葉に表せないほどの激痛でした。若い医者でしたが、私の内臓を胃カメラの練習台にしていたんですよ。

土屋 おそらく膵管のところをいじってしまったんですね。

松山 結局、救急車で運ばれて3日間も昏睡状態でした。あとで会社の診療所長に文句を言ったら、「大学病院は危ないところだから、担当医にちゃんと胃カメラの経験が豊富なのか確かめなかったお前が悪い」と逆に怒られました。