自分が海外SF短編のオールタイムベストNo.1に推すテッド・チャンの「あなたの人生の物語」が映画化されると聞いて最初はたまげた。かなり複雑な概念を扱っているうえに物語の構造そのものに大きな仕掛けを埋め込んである作品をどうやって映像化するのだ、全然違う話にするしかないんじゃないの、と。

しかし予想はいい方向に裏切られたらしい。出来上がった映画「メッセージ」(英題:Arrival)は批評家から絶賛の嵐であるという。しかも原作読者からも高く評価されているとのことで、これは楽しみだ。おそらく映画公開に合わせて、原作の短編集(短編と同題の『あなたの人生の物語』)も新装版で出るだろうしより多くの人にこの小説の面白さを味わってもらうにはどうすればいいのだろう、とつらつら考えているうちに、「あなたの人生の物語」にとどまらず、いまいち知名度のない短編SF全般について広く紹介していきたいな、という気持ちが芽生えてきた。

長編がどうしてもキャラクターで物語をドライブするものになるのに比して、短編はよりアイデアそのものの切れ味や語り口、描写力で勝負するものになる。そしてそこにはSFの魅力である「ワンダー」がより純粋な形で詰まっているんじゃないかと思っている(さいきん大長編を読み通す気力がなくなっているからかもしれないが)。
10篇ばかり挙げればいいか、と選考を始めてみたが、しかし、結局好きな作品、印象に残る作品はとても10篇では収まらなかった。どんどん膨らんでいくリストを見ているうちに、えーいどうせならキリのよい数字まで増やしてしまおう、最終的にベスト50となり、twitterで紹介を始めたが、それだけ数があるのならブログ記事にした方がいいという指摘をいただいたのでこちらにアップすることになったわけである。

選考の基準はほぼ自分のフィーリングであるが多少は作品の傾向的にバランスは取ったつもりである。また同一作者からは3作品を限度とした(共作も1作品として数えた)。収録書籍については現在最も手に入れやすいであろうものを挙げている。

※リストは著者の五十音順である。順位ではない。

翻訳短編SFベスト50リスト


1.アイザック・アシモフ 「信念」 Belief   創元SF文庫「変化の風」
2.グレッグ・イーガン「闇の中へ」 Into Darkness  ハヤカワ文庫SF『しあわせの理由』
3.グレッグ・イーガン「ルミナス」 Luminous ハヤカワ文庫SF『ひとりっ子』
4.ジョン・ヴァーリイ「カンザスの幽霊」 The Phantom of Kansas 創元推理文庫『〈八世界〉全短編1 汝、コンピューターの夢』
5.ジョン・ヴァーリイ「さようなら、ロビンソン・クルーソー」 Good-bye, Robinson Crusoe ハヤカワ文庫SF『逆行の夏 ジョン・ヴァーリイ傑作選』
6. コニー・ウィリス「クリアリー家からの手紙」 A Letter from the Clearlys   ハヤカワ文庫SF『空襲警報』
7.コニー・ウィリス「魂はみずからの社会を選ぶ-侵略と撃退 エミリー・ディキンスンの詩二篇の執筆年代再考−ウェルズ的視点」 The Soul Selects Her Own Society : Invasion and Repulsion : A Chronological Reinterpretation of Two of Emily Dickinson's Poems : A Wellsian Perspective  ハヤカワ文庫SF『混沌ホテル』
8.コニー・ウィリス「混沌ホテル」 At the Rialto ハヤカワ文庫SF『混沌ホテル』
9.ロバート・チャールズ・ウィルスン「無限による分割」 Divided by Infinity  創元SF文庫『ペルセウス座流星群 ファインダーズ古書店より』
10.ジョージ・アレック・エフィンジャー「シュレーディンガーの子猫」  Schrodinger's Kitten ハヤカワ文庫SF『80年代SF傑作選』
11.ウィリアム・ギブスン「ニュー・ローズ・ホテル」 New Rose Hotel ハヤカワ文庫SF『クローム襲撃』
12.ウィリアム・ギブスン&マイクル・スワンウィック「ドッグファイト」 Dogfight ハヤカワ文庫SF『クローム襲撃』
13.アーサー・C・クラーク「メデューサとの出会い」 A Meeting with Medusa ハヤカワ文庫SF『ザ・ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク3 メデューサとの出会い』
14.ジョン・クロウリー「時の偉業」 Great Work of Time  早川書房『ナイチンゲールは夜に歌う』
15.チャールズ・シェフィールド「わが心のジョージア」 Georgia on My Mind  SFマガジン1995年1月号
16.ダン・シモンズ「ケリー・ダールを探して」 Looking for Kelly Dahl ハヤカワ文庫SF『へリックスの孤児』
17.アレン・スティール「キャプテン・フューチャーの死」 The Death of Captain Future SFマガジン1997年1月号
18.チャールズ・ストロス「ミサイル・ギャップ」 Missile Gap SFマガジン2010年1月号
19.コードウェイナー・スミス「スキャナーに生きがいはない」 Scanners Live in Vain ハヤカワ文庫SF『スキャナーに生きがいはない 人類補完機構全短編1』
20.マイクル・スワンウィック「ティラノサウルスのスケルツォ」 Scherzo with Tyrannosaur ハヤカワ文庫SF『グリュフォンの卵』
21.ロバート・J・ソウヤー「配られたカード」 The Hand You're Dealt SFマガジン1998年1月号
22.ロバート・J・ソウヤー「ホームズ、最後の事件ふたたび」 You See But You Do Not Observe ハヤカワ文庫SF『90年代SF傑作選』
23.テッド・チャン「あなたの人生の物語」 Story of Your Life ハヤカワ文庫SF『あなたの人生の物語』
24.テッド・チャン「商人と錬金術師の門」 A Merchant and the Alchemist's Gate ハヤカワ文庫SF『時間SF傑作選 ここがウィネトカなら、きみはジュディ』
25.テッド・チャン「息吹」 Exhalation ハヤカワ文庫SF『SFマガジン700〈海外編〉 創刊700号記念アンソロジー』
26.アヴラム・デイヴィッドスン「さもなくば海は牡蠣でいっぱいに」 Or All the Seas with Oysters 河出文庫『どんがらがん』
27.ポール・ディ・フィリポ「系統発生」 Pylogenesis ハヤカワ文庫SF『90年代SF傑作選』
28.ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「愛はさだめ、さだめは死」 Love is the Plan The Plan is Death ハヤカワ文庫SF『愛はさだめ、さだめは死』
29.ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「一瞬のいのちの味わい」 A Momentary Taste of Being ハヤカワ文庫SF『老いたる霊長類の星への賛歌』
30.コリイ・ドクトロウ「クラップハウンド」 Craphound SFマガジン2001年8月号
31.ウィリアム・バートン「サターン時代」 In Saturn Time ハヤカワ文庫SF『宇宙開発SF傑作選 ワイオミング生まれの宇宙飛行士』
32.スティーヴン・バクスター「軍用機」 War Birds 河出文庫『20世紀SF6 1990年代 遺伝子戦争』
33.スティーヴン・バクスター「ゼムリャー」 Zemlya SFマガジン1997年10月号
34.テリー・ビッスン「平ら山を越えて」 Over Flat Mountain 河出書房『奇想コレクション 平ら山を越えて』
35.デイヴィッド・ブリン「水晶球」 Crystal Sphere SFマガジン1998年1月号
36.グレッグ・ベア「凍月」 Heads ハヤカワ文庫SF『凍月』
37.イアン・マクドナルド「耳を澄まして」 Listen ハヤカワ文庫SF『SFマガジン700〈海外編〉 創刊700号記念アンソロジー』
38.イアン・マクドナルド「フローティング・ドッグズ」 Floating Dogs ハヤカワ文庫SF『90年代SF傑作選』
39.イアン・マクドナルド「キリマンジャロへ」 Toward Kilimanjaro 河出文庫『20世紀SF6 1990年代 遺伝子戦争』
40.イアン・R・マクラウド「夏の涯ての島」 Summer Isles 早川書房『夏の涯ての島』
41.ポール・J・マコーリイ「遺伝子戦争」 Gene Wars 河出文庫『20世紀SF6 1990年代 遺伝子戦争』
42.デイヴィッド・I・マッスン「旅人の憩い」 Traveller's Rest ハヤカワ文庫SF『時間SF傑作選 ここがウィネトカなら、きみはジュディ』
43.フリッツ・ライバー「バケツ一杯の空気」 A Pail of Air SFマガジン1998年1月号
44.マイク・レズニック「空にふれた少女」 For I Have Touched the Sky ハヤカワ文庫SF『キリンヤガ』
45.マイク・レズニック「四角いリングのムワリム」 Mwalimu in the Squared Circle SFマガジン1996年3月号
46.アレステア・レナルズ「ウェザー」 Weather ハヤカワ文庫SF『火星の長城』
47.スタニスワフ・レム「事故」 Wypadek  ハヤカワ文庫SF『宇宙飛行士ピルクス物語 Vol.2』
48.ローレンス・ワット=エヴァンズ「ぼくがハリーズ・バーガーショップをやめたいきさつ」 Why I Left Harry's All-Night Hamburgers ハヤカワ文庫SF『80年代SF傑作選』
49.イアン・ワトスン「アミールの時計」 Emir's Clock ハヤカワ文庫SF『アザー・エデン』
50.イアン・ワトスン「世界の広さ」 The Width of the World  河出文庫『20世紀SF5 1980年代 冬のマーケット』

これから不定期に作品内容を紹介していく。