【球界ここだけの話(692)】
ヤクルトから戦力外通告を受けた田中浩康内野手(34)が11日、東京・北青山の球団事務所で“退団会見”を行った。ベストナインを2度獲得し、2013年にはキャプテンも務めたベテラン。球団から2軍の打撃コーチ就任を打診され、重ねて慰留もされたが、本人の現役続行への意思は固く、退団の道を選んだ。
「スワローズファンのみなさんには、いいときも悪いときも温かい声援を送っていただいた。本当にうれしくて、励みになっていた。ありがとうございました」
34歳が目を赤くした会見は異例ずくめだった。まず、開催が決まったのが11日の当日。球団スタッフは準備に追われ、急なプレスリリースを受けた報道陣もバタバタと事務所に駆けつけた。もともとこの日は球団への挨拶のみが予定されていたそうで、田中浩も「30分前とか、そういうレベルで会見をやると連絡があった。サプライズ」と振り返った。
そもそも、戦力外通告を受けた選手が、球団のセッティングする正式な記者会見に臨むこと自体が異例だ。球団関係者は「こうした会見は2013年の宮本慎也以来。でもあの時は現役引退会見だったので、今回のようなケースは珍しい」と驚きを隠さない。球団幹部は「あれだけ長くやってきた功労者なのだから、ハイ終わり、というわけには行かない。最後に本人の口から話す機会があった方がいいということになった」と説明した。
理由はそれだけではなかった。球団首脳は打ち明ける。
「本人が記者会見でしゃべったことが、メディアによっていくらかでも記事にしてもらえる。それを見て、そこまで現役にこだわるならウチの球団も獲得を検討してみてもいいかなと、そういう目でより見てもらえるだろうという狙いがあった。本人にとってのアピールにもなるかな、と」