「世界は才能があっても根気のない人間だらけ」副大統領のスピーチライターが“執念”の大切さを説く
かつてアル・ゴア副大統領のスピーチライターを務めたこともある、作家のダニエル・ピンク氏による、ミネアポリス・カレッジ・オブ・アート&デザインの卒業式スピーチ。これまでのピンク氏の人生を通じて学んだ、人生に必要な3つのことについて語りました。
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卒業式スピーチ > ミネアポリス・カレッジ・オブ・アート&デザイン 卒業式 2008 ダニエル・ピンク 2008年7月12日のログ
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- 作家 Daniel Pink(ダニエル・ピンク) 氏
よいスピーチのための3つの要素
ダニエル・ピンク氏 ご紹介にあずかりまして、ありがとうございます。ここにいらっしゃるすべての方たちに感謝申し上げます。そして2008年度ご卒業のみなさん、おめでとうございます。 先ほど紹介のなかでキーフ学長もおっしゃっておられましたが、私はビジネス書籍を執筆するというなんとも“高尚な”仕事につく前、政治家のためにスピーチ原稿を書くという負けずと劣らない大変“高尚な”仕事をしておりまして…… 政治家のスピーチライターという仕事柄、実に多くの人に聞かれるんです。「ダン! いいスピーチを書く秘訣を教えてくれ!」。 この質問について何年も考え続けてきた結果、私なりに次の結論に至りました。スピーチ全般、とくに卒業スピーチがいいものとなるためには、次の3つの要素が鍵となります。 時と場所に関わらず、重要なのはこの3つです。 「簡潔であること」「堅すぎないこと」「要点を繰り返すこと」。 繰り返します。 (会場笑) 「簡潔であること」「堅すぎないこと」「要点を繰り返すこと」。 ですからこのスピーチも、なるべく短く、まじめになりすぎずに、大事なところは何度も何度も何度も何度も何度も繰り返しますね。 140名あまりの卒業生のみなさん、あなたがこのステージ上で私たちと誇らしげに握手を交わしていた時、ご両親はあなたのことを本当に誇り高く思っていたはずです。写真もたくさん撮って、なかには涙を流す父兄の方々もいらっしゃいました。 そして今、この瞬間、感動から少しさめて、ご父兄の方々の頭をかすめている思いはただ1つです。「我が家の貴重な財産を学費につぎこんでおきながら、よくまあアニメーションだの、彫刻だの、マンガだのといった分野で学位を取れたもんだ。私の育て方が間違っていたのか!?」。 そう思わずとも、愛する我が子を見つめながらこう考えていることは間違いないでしょう。「この子はこの先どうやって生きていくのだろう?」。 ご父兄のみなさま、はっきりと申し上げます。心配はいりません! 少なくとも“あまり”心配はいりません! (会場笑)
これからの時代に必要とされるのは芸術を専攻した人間
お子さんがこれから飛び込もうとしている世界において、この大学で培ったことは大きな意味をなすでしょう。お子さんはきっと立派にやっていくはずです。 というのも、かつて職場でもっとも重宝されたのは、左脳を使える人間でした。ロジカルで直線的で、融通のきかないルールに基づく能力です。会計士やコンピュータープログラマーに必要とされるような能力です。もちろん、今でも左脳的能力は必要です。必要不可欠ですが、それだけで十分という時代はもう過ぎ去りました。 ちょっと考えればわかるはずです。 会計士の競合相手は、TurboTax(アメリカで納税申告をする際に、その必要手続きをオンラインで簡単に済ませてくれるソフトウェア)ですよ? たった29ドルのソフトウェアが会計士と同じ仕事をするようになってしまったのです。 コンピュータープログラマーと同じスキルと知識をもった人間はもはや世界中に溢れかえっていて、時給数ドルで喜んで仕事を引き受けます。これからの時代を生き抜いていくのは、アウトソースできない仕事、自動化できない仕事、そしてモノが溢れかえったこの時代に新しいニーズを生み出す仕事ができる人間です。 これはつまり、右脳が必要だということです。芸術性、共感力、創造性、全体像をつかむ力……こういった能力が必要とされるのです。これをMCADスキル(MCADはこの大学、ミネアポリス・カレッジ・オブ・アート&デザインの略称)と呼ぼうではありませんか。 (会場笑) 私たちの未来が誰の手に握られているかわかりますか? ありきたりで平凡な製品やサービスを、斬新なデザイン、スタイル、ストーリー、モーションなどと融合して新しいものを生み出せる人たちです。 コールセンターやオンラインダウンロードでは実現不可能な、他者に共感したり、人とつながったりすることができる人間です。アーティストが得意とすることをできる人間が、世界が気付きもしない新しいニーズを創り出していくのです。 将来、パターン化された知識や労働力はどんどんモノに置き換えられていきます。そのようなビジネスの世界において、今後もっとも必要とされるのは、芸術を専攻した人間だと私は本気で考えています。もちろんみなさんの多くが、そんなことは意識せずにこの大学で学ぶことを選択したとは思いますが。幸運な選択をしたと思ってください。 とにかくご父兄、ご友人のみなさん、心配はいりません。彼らは失敗どころか、これからの時代に必要不可欠な“物事をとらえる目”をこの大学で培ってきたのです。学生諸君、今のでちょっとは気分が晴れましたか? (会場笑) これからの時代に必要不可欠な“物事をとらえる目”……しびれる1行です。もしかしたら今夜、気分をよくしたご両親がとびきり豪華なディナーに連れて行ってくれるかもしれませんよ。 (会場笑)