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【私説・論説室から】

沖縄の「かくれ念仏」東京へ

 小さな仏が百体、ガマ(洞窟)の中に並んでいる。沖縄の彫刻家、金城実さん(77)がセメントとしっくいの泥をこね、東京の民家の庭で作っているのは「かくれ念仏」の像だ。

 沖縄戦をはじめ、思想犯として処刑された社会主義者、日本の加害責任を伝える朝鮮人の強制連行など、金城さんは反戦や権力への抵抗をモチーフにした作品で知られる。新たな念仏像もまた、沖縄で実際にあった宗教弾圧の史実に光を当てるものだ。

 一六〇〇年代以降、沖縄で一向宗(浄土真宗)は侵攻した薩摩藩によって弾圧された。キリスト者に対する弾圧はよく知られているが、為政者は不都合な仏教者にもまた激しい弾圧を加えたのだ。念仏者はそのまま、今日の沖縄の姿ではないだろうか。

 政府は名護市辺野古の米軍新基地に続いて今夏、沖縄本島北部のやんばるの森でヘリパッド建設を再開した。全国の機動隊と警察車両を大動員し、工事に反対する市民を排除する。「人々が警官の暴力に痛めつけられ、憲法が保障する人権も、表現の自由も無視。これが弾圧でなくて何なのか」。自然破壊もすさまじい。沖縄への差別に鈍感どころか、牙をむき出しにする政府に金城さんは怒りしかない。

 念仏は沖縄の祭りエイサーの原型となった。弾圧に屈せず信仰を守り抜いた念仏者たち。そのつよく自由な精神は東京の人たちをも奮い立たせるだろう。 (佐藤直子)

 

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