なんとも嘆かわしい光景である。次の米大統領の座を競う2人が握手もせずに政策論争を始め、論議は一向に深まらないまま、常に相手の人格攻撃へと横すべりする。米メディアが「史上最も醜い討論会」と呼んだのも当然だが、何をおいても共和党候補トランプ氏の資質を改めて問うべきだろう。
今回の大統領候補討論会(9日)の直前、米紙は同氏のみだらな発言を収めたビデオの内容を報じた。これを受けて共和党の重鎮も同氏への支持を撤回、または選挙戦からの撤退を求める異常事態となっている。
このビデオについてトランプ氏は討論会で短く謝罪した上で「更衣室の会話」の類いだと語った。強弁だろう。有名人には何でも許されるといった、女性を軽んじる発言は同氏にとって今回が初めてではない。
先月の第1回討論会では、対抗馬のクリントン前国務長官(民主党)が、ミス・ユニバースで優勝したベネズエラ代表の女性について、トランプ氏が「ミス子豚」と呼んで侮辱したことを明らかにした。
確定申告書の公開を拒む同氏に関して、1990年代に巨額の損失を計上し所得税の支払いを最大18年間免れていた可能性も報じられた。クリントン氏とトランプ氏の支持率が開き続けているのも当然だ。
第2回討論会はトランプ氏の巻き返しの好機だった。だが、問題のビデオに関する質問なのに過激派組織「イスラム国」(IS)の話を唐突に始めたり、ビル・クリントン元大統領の女性スキャンダルを持ち出したり、はぐらかす姿勢が目立った。
討論会の直前には、クリントン元大統領の被害者とされる女性らと記者会見し、討論会にも彼女らを招くなどクリントン陣営をけん制したが、夫の女性スキャンダルに関して夫人のクリントン候補を非難するのは筋違いとしか映らない。
トランプ氏は泥仕合や盤外戦に活路を見いだしているようだ。当選したらクリントン氏のメール問題に専従する特別検察官を設けるとも語った。同検察官は元大統領の女性問題でも設置されただけに、クリントン陣営に忌まわしく響くことを計算に入れた発言だろう。
そんな「トランプ流」にクリントン氏も惑わされたようで、時に冷静さを欠いたことが討論をさらに不毛にした。米CNNは今回もクリントン氏の勝利と報じたが、1回目の討論より両者の差が縮まったのはそのためだろう。
とはいえトランプ氏の政策や大統領としての資質に重大な疑問があるのは明らかだ。そんな同氏を候補に据えた共和党の責任もさることながら、ここまで米大統領選の品位を落とした同氏の罪は重い。