小学校の運動会 秋より春が多く 熱中症懸念か

小学校の運動会 秋より春が多く 熱中症懸念か
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ことしの運動会の開催時期について、NHKが全国のおよそ3700の小学校を対象に調べたところ、およそ66%の学校が秋ではなく春に行っていたことがわかりました。専門家は、地球温暖化などの影響で厳しい残暑が続く中、熱中症のリスクを避けようと、開催時期を秋から春に移す学校が増えていると分析しています。
NHKは、東京23区と全国20の政令指定都市にあるおよそ3700の公立小学校を対象に、各教育委員会を通じて、ことしの運動会の開催時期を調べました。その結果、全体のおよそ66%にあたる2400校余りが、5月から6月にかけての春の時期に運動会を行っていたことがわかりました。
このうち、東京23区では18の区で、全国20の政令指定都市では16の市で、運動会を春に行った小学校の数が秋に行う小学校の数を上回り、春の開催が主流となっている傾向が各地で見られました。
この理由について、各教育委員会は、修学旅行など秋に集中しやすい行事を分散させる目的があるとしたうえで、西日本の教育委員会を中心に、厳しい残暑で熱中症が懸念されることを挙げています。
体育史が専門で東京学芸大学の鈴木明哲教授は「学校の運動会が始まった明治以降、運動会は秋に行うイメージが長く定着してきたが、地球温暖化などの影響で厳しい残暑が続くようになったため、熱中症のリスクを避けようと、開催時期を春に移す学校が増えていると考えられる。引き続き秋に運動会を行う場合は、特に熱中症に注意してほしい」と話しています。

温暖化で秋に熱中症の危険

春に運動会を行う学校が多くなっている背景には、地球温暖化などの影響で秋に熱中症の危険が高まっていることがあります。
気象庁がこの100年あたりの気温の変化を季節ごとに推計したところ、9月から11月までの秋の時期は、日中の最高気温が、横浜市で2.4度、大阪市で2.1度、それに東京の都心と福岡市で1.7度、いずれも上昇していました。また、30度以上の真夏日の日数も各地で増える傾向にあり、気象庁は、地球温暖化や自動車から出る熱などによる「ヒートアイランド現象」が影響していると見ています。
国立環境研究所などによりますと、熱中症は日中の最高気温や湿度が高いほどリスクが高まるとされていて、気温が25度を超えると病院に搬送されるケースが出始め、31度を超えると搬送が急増する傾向にあるということです。
さらに、身長が低く地面からの照り返しなどの影響を受けやすい子どもの場合、大人よりも熱中症になりやすいとされていて、秋の運動会でも熱中症に注意が必要だとしています。

春の修学旅行と入れ替え

大阪・堺市の市立日置荘西小学校は、熱中症対策のため、比較的気温が低い5月下旬に運動会を行っています。
5年前までは9月下旬に行っていましたが、残暑が厳しい9月は熱中症のリスクが高いと判断し、春に行っていた修学旅行を秋に移し、入れ替える形で、運動会の開催を早めました。
また運動会の練習に充てていた秋の授業の時間は、音楽鑑賞会など、屋外に比べて熱中症の危険が少ない、風通しのよい室内での行事に充てています。
日置荘西小学校の間地洋介校長は「学校の教育活動は何よりも子どもの安全を確保したうえでのことなので、運動会の練習が安全を脅かすようになってはいけない。秋の風物詩だったが、1年間の学校行事の予定を考えたうえでも、春に行うほうがいいと考えている」と話しています。

秋の運動会 過去の搬送教訓に対策

秋に運動会を行っている学校の中には、過去に児童が練習中に熱中症と見られる症状で搬送されたことを教訓に、対策を強化しているところがあります。
大阪・豊中市の市立桜井谷小学校では、4年前の9月26日、3日後に迫った運動会の本番に向けて練習に参加していた児童37人が熱中症と見られる症状を訴え、病院に搬送されました。
学校では夏休み明けの9月初めから練習を行い、当日も開会式や徒競走の練習をしていたということで、こまめな休憩や水分補給の時間が足りなかったことが原因と見ています。
この教訓から、学校では、児童に水筒を持参してもらい、45分の練習時間の間に5分程度、水分補給の時間を確保したほか、日陰で休憩できるよう、日ざしを遮るネットを設置したり、体感温度を下げるために、水道の蛇口からミストを散布する装置を取り付けたりして、熱中症対策を強化しています。
さらに、運動会の開催時期も9月末から比較的気温が下がる10月中旬にずらすなどして、細心の注意を払っているといいます。
桜井谷小学校の北之防純子校長は「昔と比べて、地球温暖化で気候が変わってきていると感じている。以前に救急車で何人も運ばれ、地域の人や保護者に心配をかけてしまったので、そうしたことが二度とないよう、熱中症対策をしていきたい」と話しています。

「近年 秋に熱中症の危険高まる」

東京学芸大学の鈴木明哲教授によりますと、学校の運動会は19世紀の明治時代に始まりましたが、当時、子どもは農作業の貴重な労働力だったため、稲刈りなどの非常に忙しい時期が終わったあとの秋に運動会を開催する学校が多くなったということです。
さらに、昭和39年の東京オリンピックの開会式が行われた10月10日が「体育の日」に定められたことから、「スポーツの秋」にちなんで、運動会は秋に行うというイメージが定着したということです。

運動会の最近の開催時期について、鈴木教授は「近年、9月と10月の残暑が厳しくなり、運動会の開催や練習をするのが非常に厳しい環境になってきた」と述べ、地球温暖化などの影響で、秋に暑い日が続くようになる中、運動会の開催時期を春に移す学校が増えてきていると分析しています。
さらに、「夏休み中に自宅や塾など冷房の効いた室内で過ごす子どもが多く、夏休み明けの厳しい残暑の中でいきなり運動会の練習をするとなると、リスクが高まる」と述べ、近年、特に秋の熱中症の危険が高まっていると指摘しています。
このため、引き続き秋に運動会を開催する場合には、練習の際にこまめに水分をとるなど十分な熱中症対策をするとともに、徐々に外で練習する機会を増やすなど、子どもたちが暑さに慣れるまでは急な練習をしないよう呼びかけています。
ただ、「春の開催でも、大型連休のあと梅雨に入るまでの間はかなり暑くなる日がある。まだ体が暑さに慣れていない時期で、熱中症のリスクがあるので、体を慣らすなどの対策をとってほしい」と述べ、春に運動会を開催する場合にも熱中症に注意が必要だとしています。