ミシェル・テメル氏はブラジル大統領として最初の重大な試練に直面している。ブラジル史上最も不人気な政策となるかもしれない緊縮改革に乗り出そうとしているのだ。
ブラジル議会は今週、財政赤字の拡大を食い止めるために歳出を実質ベースで今後20年間凍結するという法案を採決する。その後には、ブラジルの手厚い年金制度を改革する法案が控えている。
国家会計の不正操作に関わったとして罷免されたジルマ・ルセフ氏の後任として8月に大統領に就任したテメル氏は、底知れないブラジル政界にあって根回しのうまさで知られ、扱いの難しい議会で改革法案を通す手腕を期待されている。
問題の焦点は、形式ばらないことを重んじる国でドライな憲法学者として知られるテメル氏に、公共サービスの予算制限を有権者に納得させるだけのカリスマ性があるかどうかだ。ブラジルの病院や学校は、ただでさえ質の低さが定評をなしている。
「すでに失業の広がりで人々が苦しい状況にあり、スキャンダル続出で大部分の政治家の信頼が損なわれたなかで、犠牲を受け入れる必要性を国民に説得できるかどうかだ」と、有力シンクタンクFGV(ジェトゥリオ・バルガス財団)の公共政策分析担当ディレクター、マルコ・アウレーリオ氏は言う。
歳出に上限を設定して年金支出も抑えるというテメル氏の改革計画は、投資家には歓迎されている。財政赤字を縮小に転じさせ、過去1世紀余りで最悪の景気後退の中にある経済に成長を取り戻すには不可欠な措置、というのが市場の受け止めだ。
問題は、多くの有権者からテメル氏とその中道政党「ブラジル民主運動党(PMDB)」も、国営石油会社ペトロブラスをめぐる大規模な汚職疑惑で捜査を受けた政治支配層の一部と見なされていることだ。
ペトロブラスのスキャンダルは、ルセフ氏とその与党・労働者党(PT)の転落の一因にもなった。PMDBとテメル氏もスキャンダルに巻き込まれたが、不正行為はなかったと否定している。
■支持広がらず
大手世論調査会社IBOPEによると、テメル政権について「良い」または「素晴らしい」と答えた有権者は14%にとどまっている。大統領罷免前の数字は13%だった。一方、「悪い」または「ひどい」と答えた有権者は39%で、罷免前から横ばいだ。
改革を売り込む必要があることを意識したのだろう。テメル氏は一連のラジオインタビューで政策について自ら説明した。
テメル政権はまた、有力各紙に「ブラジルを赤から救い上げ、再び成長へ」とうたった広告も出している。その「赤」は赤字の意味だが、ルセフ氏の労働者党のシンボルカラーにも引っかけている。
テメル氏にとって頼みの綱は、景気を緩やかに改善させ世論の支持をつなぎ留めることだ。歳出上限法案を今年可決できれば、それが投資の呼び水となり、その後の社会保障改革への道も整うかもしれない。
実際、有権者はテメル政権を好んでいないとしてもブラジルの問題の深刻さを認識し、テメル氏に改革のチャンスを与えようとしている兆候はみえている。
「彼は少しドライだけれど、だからといって、いい大統領になれないわけではない」と、サンパウロで秘書として働くアナ・マリア・ペスターナ・プポさんは言う。「まだ判断するには早すぎる。あと何カ月かしたら、もう一度聞きに来て」
By Joe Leahy
(2016年10月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.