上手な上司からの愛されかた 作:はごろもんフース
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気に入らないので、明日大幅に修正します。
それまでは、消さないでおくことにしました。
五話:裸の付き合い ※明日修正しますそれまでは、消さないでおくことにしました。
「……上手いですね、才能があるのかも知れません」
「いや……才能あるといわれても」
こちらに手を差し出しながら褒める風に、九十九は顔を顰めて答える。
二人の居る場所は、山にある小屋の中。
そこは四角い木の板で区切られており、小屋を通り抜ければ湯気が充満している、天然温泉だ。
天然に沸く温泉があると聞きそれを知った華琳が小屋と塀を作らせた。
作らせたからと言って独り占めするわけもなく、温泉を常に開放している。
開放していると言っても山の奥で大変危なく、人も殆ど来ない為、もっぱら傷病兵の療養所となっているのだが。
そんな場所で九十九は腰にタオルを巻き、風は裸で互いに向かい合う。
風が椅子に座り手を差し伸ばせば、九十九が優しく手で支え、もう片方の手に持っていたタオルで拭いていく。丁寧に垢を擦り終われば、もう片方の手、足、背中に頭と場所を変えて行なった。
「冗談で洗ってくれと言った風も風ですが」
「……冗談だったんですか?」
「はい、まさか本当に洗われるとは」
数日前に華琳より、袁紹討伐の準備をするように言われた。
九十九と正礼の読みは当たっており、その際の軍師は風と稟に決まる。
軍師も決まり、戦の準備をして早十日。
桂花の態度に疑問に思いつつも日々を送っていれば、風から温泉に行かないかと誘われた。
現代と違い気軽に入れないお風呂に惹かれ、九十九は軽く承諾する。
『ちなみにここの温泉は混浴ですけどね』
『……』
風の言葉に、頭を抱えた。あとで入ろうと思うもそうすると風達を待たせることとなる。結局、頭を抱えつつも、お風呂に入ることにした。
五日ぶりの湯の張った湯船の魅力が、恥ずかしさを超えたのだ。
「あぁー……気持ちいいですね」
「それは何より」
「……それにしても手馴れてません?」
「手馴れてるかもしれません」
風の後ろから九十九は、頭と髪の毛を丁寧に洗っていく。
その際に九十九の手馴れた動きに疑問を抱いたのだろう。
風が、眠たげな目をしつつ首を傾げた。
「誰か洗ってたんですか?」
「……級友に、病弱を盾にして動かない奴が居まして」
「その子のお世話を?」
「しないとお風呂にすら入らなかったので……」
風の問いかけに九十九は、昔を思い出し苦笑する。
「近場に温泉があったので、仲が良かった人達とよく入ってました」
「へー……それで風の裸を見ても動揺しないのですね」
「やっぱり、わざとでしたか」
手拭いの一枚も持たなかった風を疑問に思っていたのだが、からかわれていたらしく、風は手を口に当ておしとやかに笑う。
「冗談でしたが、頑張っている九十九さんへのご褒美でもありました」
「……無闇に見せるものでは」
「他の人には見せませんよ。それでどうでしたか? 風の裸は」
「お綺麗でした」
九十九は軽く溜息を付きつつも素直に答えた。
既に恥ずかしさは峠を越えてしまい、達観の域に達している。
「……」
「風様?」
素直に答えれば、風が黙り込む。
簡素な答えすぎて機嫌を悪くしてしまったのだろうかと、九十九は不安になった。
「ふふふ……素直に褒められると照れますね」
「裸見せといて、これで照れるって」
「いえいえ、凄く嬉しいものだなと思ったのです」
「……そうですか」
「……はい」
風の言葉に九十九は、言葉が出ず黙り込む。
風もまた、同じなのかそれ以降は喋らず口を開かない。
暫くの間、温泉の流れる音と髪を洗う音だけが二人の間に流れた。
「……終わりましたよ」
「ありがとうございます。髪の毛が長いですからね」
「これだけ長ければ、大変ですよね」
「はい、なのでこれからは九十九さんにお願いしようかと」
「素直に侍女に頼んで下さい。お城のお風呂でやって、曹操様や荀彧様が入ってきたら首が飛びます」
「くふふ、確かに」
髪を洗い終わり、他に持ってきたタオルで風の髪を纏め上げ、湯に付かないように結ぶ。
それが終われば、冗談めいた表情で風が笑い、一度体を流し湯船へ入る。
「さてと――」
風も洗い終わり、ようやく湯船に入れると九十九は腰を上げる。
既に洗った後だったので寒くてしょうがなかった。
「とぉ!」
「……」
楽しみにしていた湯船に入れると思っていた矢先だ。
立ち上がった九十九の腰に何者かが抱きついてくる。
その何者の強襲に九十九は現実逃避したくなった。
「……何の真似だ」
「ウチも洗ってほしいっす!」
何度目か分からぬため息を付き、九十九は腰へと視線を送る。
送れば、そこには一人の少女が金髪を揺らし抱き付いていた。
金髪といえば風なのだが、その少女は風ではない。
風よりも身長が高く、揺れる金髪は風よりも短い。
本来であれば、その金髪は髑髏の髪飾りにより、横に結ばれている。
しかし、温泉と言う事でその髪の毛も真っ直ぐになっており、新鮮であった。
「ここまで護衛したっすから、その分のご褒美を!」
「……本音は?」
「体洗うのめんどうっす! あと、構えー!」
少女の言葉に九十九は黙り、素直に座りなおす。
座りなおせば、腰に抱きついていた少女は嬉しそうに九十九の前へと座った。
「華侖、手を……」
「兄ぃ、お願いするっす」
九十九は満面の笑みで手を差し出す少女に苦笑しつつも、素直に風同様に洗っていく。
この少女の名前は、姓を曹 、名を仁 、字を子考 、真名を華侖 という。
華琳の従妹であり、魏の若き将であった。
そんな少女が何故ここに居るのかと言うと、華侖が言うとおり護衛役だ。
ここの温泉は山の中にあり、熊や猪が出没することもある。
風は勿論、九十九も熊に勝てるほど強くなく、出会ったら大怪我確実だ。
それ故にここまで護衛してくれる人が必要となった。
その護衛役として二人が選んだのが華侖である。
華侖と風は仲が良い。お昼寝が好きな者同士で気があっているのだ。
「えへへー」
「華侖ちゃんは九十九さんが好きですねー」
「そうっすね。安心出来て好きっす。一日一回頭を撫でて欲しいっすけど……中々してくれなくて」
「変な所でケチですからね」
「ケチっすねー」
二人揃えば何とやら、風と華侖は本人を前に散々なことを言い合う。
「終わったぞ」
「わはー! ありがとうっす! 兄ぃに!」
「抱きつかなくていいから……お風呂に入ってくれ、本当」
「兄ぃは入らないんすか?」
「……体を洗いなおしてから入る」
そんな二人に会話に入ることもせず、九十九は華侖を洗い終わる。
洗い終わり、華侖を湯船へと送り九十九はその場に留まった。
先ほどまで直ぐにでも入りたかった湯船。
しかし、誘う風を洗い、無防備な華侖を洗い、既に我慢の限界を超えている。
九十九は、立ち上がることが出来なかった。
「ふふふ……立派なものをお持ちで」
「……」
「兄ぃ、何か持ってるっすか?」
「それはそれは、立派な――」
「……風様」
テンションが上がってるのか、普段通りか。
九十九の状態に気付いた風がからかってくる。
二人なら別段流す程度のものであったが、ここには其方の知識に疎い華侖がいるのだ。
ここでの話を華琳にでも話せば、何を言われるか怖いので抑えるように名を呼ぶ。
「からかいすぎましたね」
「はぁ……」
「お詫びに風が抜きましょうか?」
「反省した言葉じゃない!?」
目を細め、軽く睨むようにして風を見れば、風は謝罪する。
しかし、その謝罪も何処へやら、手を口に当て楽しそうにそう言い放った。
「まったく……」
「気を紛らわせたつもりだったのですが」
「何処がですか」
「何かあったっすか?」
「……何でもないよ、華侖」
そんなやり取りをしていたお蔭か、ようやく立ち上がれる。
立ち上がり湯船へと浸かり、九十九はようやく気が抜けた。
九十九が湯船へと浸かれば、両隣に二人が寄ってくる。
風は隣に座り、華侖は湯船の縁に腕を乗せ足を無防備に伸ばす。
そんな二人を見て九十九は、何でこの組み合わせて来たのだろうかと軽く後悔した。
お風呂が、にごり湯である事だけが救いだ。
「そういえば――」
「うん?」
「九十九さんが言っていた病弱な級友ってどんな子だったんですか?」
「あぁ……鈴廻 のことですか」
「真名を受け取ってるんですねー」
「級友の中でも特に親しかった四人に関しては受け取っております」
会話の流れを変えるためだろうか、九十九を気遣ってだろうか、風が先ほどの病弱という級友について尋ねた。
その問いに九十九は、懐かしいとばかりに微笑む。
「鈴廻は、司馬家の司馬仲達 です」
「司馬家の麒麟児ですか」
「はい。よく倒れたり、寝込んだりとしてますが」
「……華琳様の仕官を断るのも頷けるほど弱いですね」
「やはり誘いましたか」
昔の級友を思い出し、九十九は微笑む。
「華琳様は、諦めてないですし……そのうち九十九さんに話が行くかも知れません」
「可能性はありますね」
「風から進言しますか?」
風の言葉に九十九は少し黙り込み考える。
病弱である鈴廻を仕官させるべきか、させないべきかと。
『熱が出たと聞いたのだけど……』
『面白い本が送られてきてな。読みたいから、仮病じゃ』
『倒れたけど大丈夫か?』
『寝るの忘れとった』
『どうした?』
『ぐふっ……もう無理じゃ。歩けん』
『ほれ、背中に乗れ』
『はぁ……歩かなくて楽』
『……』
次々に思い出す鈴廻との思い出。
それらを思い出し、九十九は一つの結論を導き出す。
「……ただのニートだ、これ」
「似萎人?」
「病弱ではありますが、命に関わるほどではなかった筈です。無理をさせなければ、問題ないでしょう」
だんだんと思い出し呆れる。
病弱と言うよりも、面倒臭がり屋の面が際立つ。
今回のことも面倒になり、華琳の誘いを断ったのだろうと判断した。
むしろ、これからの事を考えたら働かせた方が本人のためになるだろう。
「そうですか、なら風は特に言いません」
「はい、お気遣いありがとうございます」
「いえいえ、いつも気遣われてますからね。これぐらいでしたら……」
先ほどの騒ぎは何処へやら、気付けば和やかな空気が二人を包む。
「それじゃ、お話も終わったので……華侖ちゃんのお世話でもしますか」
「……静かだと思ったら」
「う~ん……」
「熱がりですからね」
風の言葉に隣に居る筈の華侖へと視線を移す。
移せば華侖は、顔を真っ赤にさせ目を回している。
「上がればよかったのに……」
「戦がありますからね。暫く会えなくなるので、なるべく傍に居たかったのでしょう」
「……」
「ちなみに風もですよ?」
「……戦が始まるまでなるべく、機会を持ちますよ」
「期待してますね」
そんな約束を取り付け、華侖の世話をしつつのんびりと温泉を堪能した。
「いや……才能あるといわれても」
こちらに手を差し出しながら褒める風に、九十九は顔を顰めて答える。
二人の居る場所は、山にある小屋の中。
そこは四角い木の板で区切られており、小屋を通り抜ければ湯気が充満している、天然温泉だ。
天然に沸く温泉があると聞きそれを知った華琳が小屋と塀を作らせた。
作らせたからと言って独り占めするわけもなく、温泉を常に開放している。
開放していると言っても山の奥で大変危なく、人も殆ど来ない為、もっぱら傷病兵の療養所となっているのだが。
そんな場所で九十九は腰にタオルを巻き、風は裸で互いに向かい合う。
風が椅子に座り手を差し伸ばせば、九十九が優しく手で支え、もう片方の手に持っていたタオルで拭いていく。丁寧に垢を擦り終われば、もう片方の手、足、背中に頭と場所を変えて行なった。
「冗談で洗ってくれと言った風も風ですが」
「……冗談だったんですか?」
「はい、まさか本当に洗われるとは」
数日前に華琳より、袁紹討伐の準備をするように言われた。
九十九と正礼の読みは当たっており、その際の軍師は風と稟に決まる。
軍師も決まり、戦の準備をして早十日。
桂花の態度に疑問に思いつつも日々を送っていれば、風から温泉に行かないかと誘われた。
現代と違い気軽に入れないお風呂に惹かれ、九十九は軽く承諾する。
『ちなみにここの温泉は混浴ですけどね』
『……』
風の言葉に、頭を抱えた。あとで入ろうと思うもそうすると風達を待たせることとなる。結局、頭を抱えつつも、お風呂に入ることにした。
五日ぶりの湯の張った湯船の魅力が、恥ずかしさを超えたのだ。
「あぁー……気持ちいいですね」
「それは何より」
「……それにしても手馴れてません?」
「手馴れてるかもしれません」
風の後ろから九十九は、頭と髪の毛を丁寧に洗っていく。
その際に九十九の手馴れた動きに疑問を抱いたのだろう。
風が、眠たげな目をしつつ首を傾げた。
「誰か洗ってたんですか?」
「……級友に、病弱を盾にして動かない奴が居まして」
「その子のお世話を?」
「しないとお風呂にすら入らなかったので……」
風の問いかけに九十九は、昔を思い出し苦笑する。
「近場に温泉があったので、仲が良かった人達とよく入ってました」
「へー……それで風の裸を見ても動揺しないのですね」
「やっぱり、わざとでしたか」
手拭いの一枚も持たなかった風を疑問に思っていたのだが、からかわれていたらしく、風は手を口に当ておしとやかに笑う。
「冗談でしたが、頑張っている九十九さんへのご褒美でもありました」
「……無闇に見せるものでは」
「他の人には見せませんよ。それでどうでしたか? 風の裸は」
「お綺麗でした」
九十九は軽く溜息を付きつつも素直に答えた。
既に恥ずかしさは峠を越えてしまい、達観の域に達している。
「……」
「風様?」
素直に答えれば、風が黙り込む。
簡素な答えすぎて機嫌を悪くしてしまったのだろうかと、九十九は不安になった。
「ふふふ……素直に褒められると照れますね」
「裸見せといて、これで照れるって」
「いえいえ、凄く嬉しいものだなと思ったのです」
「……そうですか」
「……はい」
風の言葉に九十九は、言葉が出ず黙り込む。
風もまた、同じなのかそれ以降は喋らず口を開かない。
暫くの間、温泉の流れる音と髪を洗う音だけが二人の間に流れた。
「……終わりましたよ」
「ありがとうございます。髪の毛が長いですからね」
「これだけ長ければ、大変ですよね」
「はい、なのでこれからは九十九さんにお願いしようかと」
「素直に侍女に頼んで下さい。お城のお風呂でやって、曹操様や荀彧様が入ってきたら首が飛びます」
「くふふ、確かに」
髪を洗い終わり、他に持ってきたタオルで風の髪を纏め上げ、湯に付かないように結ぶ。
それが終われば、冗談めいた表情で風が笑い、一度体を流し湯船へ入る。
「さてと――」
風も洗い終わり、ようやく湯船に入れると九十九は腰を上げる。
既に洗った後だったので寒くてしょうがなかった。
「とぉ!」
「……」
楽しみにしていた湯船に入れると思っていた矢先だ。
立ち上がった九十九の腰に何者かが抱きついてくる。
その何者の強襲に九十九は現実逃避したくなった。
「……何の真似だ」
「ウチも洗ってほしいっす!」
何度目か分からぬため息を付き、九十九は腰へと視線を送る。
送れば、そこには一人の少女が金髪を揺らし抱き付いていた。
金髪といえば風なのだが、その少女は風ではない。
風よりも身長が高く、揺れる金髪は風よりも短い。
本来であれば、その金髪は髑髏の髪飾りにより、横に結ばれている。
しかし、温泉と言う事でその髪の毛も真っ直ぐになっており、新鮮であった。
「ここまで護衛したっすから、その分のご褒美を!」
「……本音は?」
「体洗うのめんどうっす! あと、構えー!」
少女の言葉に九十九は黙り、素直に座りなおす。
座りなおせば、腰に抱きついていた少女は嬉しそうに九十九の前へと座った。
「華侖、手を……」
「兄ぃ、お願いするっす」
九十九は満面の笑みで手を差し出す少女に苦笑しつつも、素直に風同様に洗っていく。
この少女の名前は、姓を
華琳の従妹であり、魏の若き将であった。
そんな少女が何故ここに居るのかと言うと、華侖が言うとおり護衛役だ。
ここの温泉は山の中にあり、熊や猪が出没することもある。
風は勿論、九十九も熊に勝てるほど強くなく、出会ったら大怪我確実だ。
それ故にここまで護衛してくれる人が必要となった。
その護衛役として二人が選んだのが華侖である。
華侖と風は仲が良い。お昼寝が好きな者同士で気があっているのだ。
「えへへー」
「華侖ちゃんは九十九さんが好きですねー」
「そうっすね。安心出来て好きっす。一日一回頭を撫でて欲しいっすけど……中々してくれなくて」
「変な所でケチですからね」
「ケチっすねー」
二人揃えば何とやら、風と華侖は本人を前に散々なことを言い合う。
「終わったぞ」
「わはー! ありがとうっす! 兄ぃに!」
「抱きつかなくていいから……お風呂に入ってくれ、本当」
「兄ぃは入らないんすか?」
「……体を洗いなおしてから入る」
そんな二人に会話に入ることもせず、九十九は華侖を洗い終わる。
洗い終わり、華侖を湯船へと送り九十九はその場に留まった。
先ほどまで直ぐにでも入りたかった湯船。
しかし、誘う風を洗い、無防備な華侖を洗い、既に我慢の限界を超えている。
九十九は、立ち上がることが出来なかった。
「ふふふ……立派なものをお持ちで」
「……」
「兄ぃ、何か持ってるっすか?」
「それはそれは、立派な――」
「……風様」
テンションが上がってるのか、普段通りか。
九十九の状態に気付いた風がからかってくる。
二人なら別段流す程度のものであったが、ここには其方の知識に疎い華侖がいるのだ。
ここでの話を華琳にでも話せば、何を言われるか怖いので抑えるように名を呼ぶ。
「からかいすぎましたね」
「はぁ……」
「お詫びに風が抜きましょうか?」
「反省した言葉じゃない!?」
目を細め、軽く睨むようにして風を見れば、風は謝罪する。
しかし、その謝罪も何処へやら、手を口に当て楽しそうにそう言い放った。
「まったく……」
「気を紛らわせたつもりだったのですが」
「何処がですか」
「何かあったっすか?」
「……何でもないよ、華侖」
そんなやり取りをしていたお蔭か、ようやく立ち上がれる。
立ち上がり湯船へと浸かり、九十九はようやく気が抜けた。
九十九が湯船へと浸かれば、両隣に二人が寄ってくる。
風は隣に座り、華侖は湯船の縁に腕を乗せ足を無防備に伸ばす。
そんな二人を見て九十九は、何でこの組み合わせて来たのだろうかと軽く後悔した。
お風呂が、にごり湯である事だけが救いだ。
「そういえば――」
「うん?」
「九十九さんが言っていた病弱な級友ってどんな子だったんですか?」
「あぁ……
「真名を受け取ってるんですねー」
「級友の中でも特に親しかった四人に関しては受け取っております」
会話の流れを変えるためだろうか、九十九を気遣ってだろうか、風が先ほどの病弱という級友について尋ねた。
その問いに九十九は、懐かしいとばかりに微笑む。
「鈴廻は、司馬家の
「司馬家の麒麟児ですか」
「はい。よく倒れたり、寝込んだりとしてますが」
「……華琳様の仕官を断るのも頷けるほど弱いですね」
「やはり誘いましたか」
昔の級友を思い出し、九十九は微笑む。
「華琳様は、諦めてないですし……そのうち九十九さんに話が行くかも知れません」
「可能性はありますね」
「風から進言しますか?」
風の言葉に九十九は少し黙り込み考える。
病弱である鈴廻を仕官させるべきか、させないべきかと。
『熱が出たと聞いたのだけど……』
『面白い本が送られてきてな。読みたいから、仮病じゃ』
『倒れたけど大丈夫か?』
『寝るの忘れとった』
『どうした?』
『ぐふっ……もう無理じゃ。歩けん』
『ほれ、背中に乗れ』
『はぁ……歩かなくて楽』
『……』
次々に思い出す鈴廻との思い出。
それらを思い出し、九十九は一つの結論を導き出す。
「……ただのニートだ、これ」
「似萎人?」
「病弱ではありますが、命に関わるほどではなかった筈です。無理をさせなければ、問題ないでしょう」
だんだんと思い出し呆れる。
病弱と言うよりも、面倒臭がり屋の面が際立つ。
今回のことも面倒になり、華琳の誘いを断ったのだろうと判断した。
むしろ、これからの事を考えたら働かせた方が本人のためになるだろう。
「そうですか、なら風は特に言いません」
「はい、お気遣いありがとうございます」
「いえいえ、いつも気遣われてますからね。これぐらいでしたら……」
先ほどの騒ぎは何処へやら、気付けば和やかな空気が二人を包む。
「それじゃ、お話も終わったので……華侖ちゃんのお世話でもしますか」
「……静かだと思ったら」
「う~ん……」
「熱がりですからね」
風の言葉に隣に居る筈の華侖へと視線を移す。
移せば華侖は、顔を真っ赤にさせ目を回している。
「上がればよかったのに……」
「戦がありますからね。暫く会えなくなるので、なるべく傍に居たかったのでしょう」
「……」
「ちなみに風もですよ?」
「……戦が始まるまでなるべく、機会を持ちますよ」
「期待してますね」
そんな約束を取り付け、華侖の世話をしつつのんびりと温泉を堪能した。
黒髪長髪病弱ロリばばぁ