米国の規制当局が、推定1000億ドル規模のプリペイドカード市場の取り締まりに動く。消費者保護団体には歓迎されているが、低所得世帯の資金へのアクセスを制限するため、業界からは強い反発が起こっている。
米消費者金融保護局(CFPB)による提案は、金融界でも特に成長著しい分野を規制する、米政府による最初の大規模な取り組みになる。
プリペイドカードは、口座開設が難しい消費者が買い物代金を払ったり、資金を管理したりするのを助ける。推定で米国人の11人に1人が利用している。
金融危機後に課された厳しい規制要件を受け、銀行は比較的リスクの高い顧客を切り捨てた。そこに残された空白にプリペイドカード業界がすぐに入り込んだ。2018年には約1120億ドルがプリペイドカードにチャージされると推計されている。CFPBによると、2012年の水準の2倍近くに上る。
新しい規則により、プリペイド口座を持つ顧客は、当座預金口座やクレジットカードの保有者が享受しているものに似た保護が与えられる。プリペイドカード業者は、資金盗難時やカード紛失時に顧客の損失を最大50ドルに抑え、ミスを調査・解決し、口座情報への自由なアクセスを顧客に与えることを義務付けられる。
消費者保護団体は長年、高額で予想外の手数料をはじめとした業界慣行と、法的な保護の欠如について苦言を呈してきた。プリペイドカードに関する懸念が一気に表面化したのは昨年。ヒップホップ興行主のラッセル・シモンズ氏が創業した「ラッシュカード」のカード保有者が、技術的な問題のせいで自分のお金を引き出せなくなったときのことだ。
今回の取り締まりから、CFPBがここになって力を誇示していることが読み取れる。同機関は前回の金融危機の後、消費者を保護するために創設された。先月は、大手銀行ウェルズ・ファーゴの従業員らが顧客の承諾を得ずに最大で200万件もの口座を開設したことから、CFPBは、創設から5年間で最大となる1億ドルの罰金を同行に科した。
批判的な向きからは行動に出るのが遅かったとの不満が上がったが、CFPBはウェルズ・ファーゴに対する措置によって大きな戦利品を獲得したと支持者らは話している。CFPBは、ペイデイローン(給与を担保とする短期の少額融資)やクレジットスコア(信用力を表す点数)などの分野でも行動を起こしている。
■お財布携帯や個人間の決済口座も対象
最新の規制は、従来のプリペイドカードのほか、お財布携帯、「パーソン・トゥー・パーソン」と呼ばれる個人間の決済商品、ペイロールカード(給与支払いのためのプリペイドカード)を含むその他のタイプの口座を網羅する。業者が義務付けられるのは、手数料と口座の条件について情報を提供し、カードを使ってお金を借りることを許された顧客が債務を返済できることを確認し、利息に上限を設けることだ。
CFPBのリチャード・コードレイ局長は、「この規則は抜け穴を塞ぎ、プリペイドの消費者を保護する」と述べた。
業界側は、CFPBの計画は銀行口座を持たない人や十分な銀行サービスを利用できない人に打撃を与えると話している。
業界団体ネットワーク・ブランデッド・プリペイドカード協会のブラッド・ファウス会長は「CFPBは我々が抱く多くの懸念を一蹴し、局が保護することを目指している当の消費者に害を与える規則を推し進めた」と述べた。
同氏はさらに、提案は「究極的に、生活に不可欠な主流の消費者向け金融商品へのアクセスを制限することになる。それは何百万人もの米国人がデジタル経済に参加し、資金を手ごろに管理し、お金を安全に保有するようにするものだ」と付け加えた。
By Alistair Gray in New York
(2016年10月6日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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