公開日付:2016.10.11
2016年3月期決算における主要100信用金庫の「総資金利ざや」の中央値は0.13%だった。前年同期より0.1ポイント低下し、調査を開始した2011年3月期決算以降、地域に密着した信用金庫でも「総資金利ざや」の縮小に歯止めがかかっていないことがわかった。
主要100信金のうち55信金で「総資金利ざや」が前年同期より縮小し、「逆ざや」は4信金になった。金利低下が続く中、金融機関の貸出競争もあって本業で収益を上げにくい状況が続いている。
- ※本調査は、2011年3月期決算から連続データが入手できた主要100信用金庫を対象に、2016年3月期決算での「総資金利ざや」を調査した。「総資金利ざや」は、「資金運用利回り-資金調達原価率」で算出した。資料は各信用金庫のディスクロージャー誌から抽出した。
資金全体の収益力を示す「総資金利ざや」
信用金庫の「総資金利ざや」は、貸出金や余裕金等の運用収益力を表す「資金運用利回り」から、預金などの資金調達コストを示す「資金調達原価率」を差し引いた数値。幅広い運用・調達全体の状況を利回りの差で表したもので、経営効率や全体の収益力をみる指標の一つ。
この数値がプラスだと資金運用で収益を上げ、マイナスは「逆ざや」で貸出や運用で利益が出ていないことを示す。
主要信金の約6割で「総資金利ざや」が縮小
主要100信用金庫の2016年3月期決算で、「総資金利ざや」が前年同期より縮小したのは、55信金(構成比55.0%、前年同期75信金)になった。さらに、前年同期と同率の7信金を含めると、前年同期の「総資金利ざや」を上回らない信用金庫は62信金(構成比62.0%)にのぼった。
一方、前年同期より「総資金利ざや」が拡大したのは38信金。個別では、鹿児島信用金庫の0.09ポイント拡大(0.32→0.41%)、東京信用金庫の0.08ポイント拡大(0.26→0.34%)、高鍋信用金庫0.08ポイント拡大(0.25→0.33%)、城南信用金庫0.07ポイント拡大(0.01→0.08%)など。
総資金利ざや「0.0%以上0.1%未満」の信金が5年前より2.6倍増
主要100信用金庫の2016年3月期決算での「総資金利ざや」の分布では、「0.1%以上0.2%未満」が33信金で最も多かった。次いで、「0.0%以上0.1%未満」の32信金と続く。
3月期決算の推移をみると、「0.0%以上0.1%未満」は2011年が12信金だったが、14年が約2倍増の22信金に達し、16年は2.6倍増の32信金に拡大した。
このように、主要信用金庫では、金利低下や金融機関間の貸出競争により、銀行と同様に本業収益が低迷している現状が浮き彫りになった。
9割の信金で「資金運用利回り」が低下
主要100信用金庫の貸出金や余裕金等の運用収益力を表す「資金運用利回り」は、2016年3月期では93信金(構成比93.0%)で前年同期より低下した。
「資金運用利回り」の分布をみると、2016年3月期決算は「1.3%未満」が64信金で最も多かった。次いで、「1.3%以上1.4%未満」が20信金と続く。
3月期決算の推移では、2011年には「1.5%以上2.0%未満」が74信金と最も多かったが、その後は12年に56信金、13年が32信金、14年が18信金、15年が8信金と減少が著しい。
これに対し、2011年に「1.3%未満」はゼロだったが、15年には49信金に増え、16年は64信金まで拡大し、信金の資金運用がさらに難しくなっていることを裏付けている。
信用金庫の資金調達は定期預金が多く、低金利下でも資金調達コストが下がりづらいとされる。また、営業地域が限定される中で、地元の地銀や同業との金利競争や経営のホームグラウンドである地域経済の疲弊が経営の厳しさに追い打ちをかけている。
こうしたなか、2016年3月期決算では主要100信金の約6割で「総資金利ざや」が縮小したが、「逆ざや」は4信金だけだった。先に東京商工リサーチが銀行114行を対象にした2016年3月期決算調査では「逆ざや」が12行だったのと比べて3分の1にとどまった。これは、信金の系統中央機関である信金中央金庫に、資金を預ければ利回りを確保できる運用ツールを信金が持っていることも影響したとみられる。実際、今年2月に日銀がマイナス金利政策を導入し、銀行が預金金利の引き下げに動く中で、一部信金では逆に預金金利を引き上げシェア拡大を図るところもあった。マイナス金利の導入以降、さらに貸出金利回りの低下が見込まれている。この厳しい環境下で各信金は銀行との差別化を図るため、地域密着を強化し事業性評価による貸出先の経営課題の解決に努め、利ざやの厚い貸出資産を確保していくことが重要になっている。
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