ここから本文です

<情報公開法>割れる開示・不開示 役所に都合よく

毎日新聞 10月10日(月)9時52分配信

 東京で外務省に情報公開請求したら不開示になった文書が、沖縄の裁判で防衛省によって証拠として提出されていたことが先月、明るみに出た。情報公開法は国の公文書の原則公開を定めているが、外交・防衛・治安に支障を及ぼすおそれがある情報は、省庁の裁量で不開示にできる規定がある。規定を役所が都合よく解釈して文書が隠されないか。開示と不開示に国の判断が分かれた今回のケースは、そうした懸念を浮かび上がらせている。

 ◇施行直後から

 情報公開法が施行された2001年、外務省が1957年に国の原子力委員会に提供した核燃料に関する文書の開示請求を市民がしたら、不開示になった。理由は「他国との信頼関係が損なわれるおそれがあるため」だった。この人が異議を申し立てたところ、文書が外務省外交史料館で既に公開されていたことが判明し、外務省は一転、全面開示した。

 毎日新聞が02年秋に「情報非?公開--法施行後の現実」という企画記事で指摘したものだ。一つの文書がこちらでは「開示」、あちらでは「不開示」に--。そんなことが14年後にも起きた。

 NPO法人・情報公開クリアリングハウス(東京都新宿区、三木由希子理事長)が昨年、日米安保条約と地位協定に基づいて60年に開かれた日米合同委員会の議事録の中の「両国の同意がない限り議事録を公開しない」と決めた文書を外務省に開示請求したが、不開示になった。やはり「日米間の信頼関係を損なうおそれがある」などが理由とされた。NPO法人は不開示の取り消しを求めて裁判を起こし、外務省は争っている。

 ところが国が昨年、米軍との道路共同使用に関する文書を沖縄県が開示した決定を取り消すよう求めた那覇地裁の訴訟で、防衛省沖縄防衛局は日米合同委の議事録の一部を提出していた。この中にNPO法人が開示請求した部分が含まれていた。

 日米合同委は米軍人や家族の法的地位などを扱い、犯罪に関係した米兵の引き渡しなども対象になる。日米双方の同意がない限り議事録を公開しないと取り決めており、公開していない。国会で公開を求める意見が出たことがある。

 外務省日米地位協定室長は7月、情報公開訴訟での陳述書で「開示請求を受け、外務省において、米国政府に対し、日米合同委の議事録公開について意見を求めたところ、米国政府から、公開に同意しない旨の立場が示されました」と記した。

 一方、沖縄防衛局は取材に「訴訟の立証の必要から、米国政府の同意を得て提出した。外務省への請求についてはコメントは差し控える」と答えた。

 ◇法改正論議は下火

 情報公開法が国の安全や外交、公共の安全に関して、省庁に開示・不開示を決める裁量を認めた規定を問題視する意見は以前から出ていた。

 民主党政権の10年、有識者を加えた政府の行政透明化検討チームは、この規定の見直しを議論した。同年7月に検討チームが開催したヒアリングでは、警察、防衛、外務の3省庁の担当者が異議を唱えた。

 議事録によると、警察庁の担当課長は「治安を預かる立場として、大変不安を感じている」と訴えた。さらに開示によって公共の安全と治安の維持に支障を及ぼすか否かの判断について「犯罪組織の実態等に関する知識・経験を踏まえて該当性を判断しなければならない性質の情報だ」として従来通り、警察側に判断を任せるよう主張した。

 防衛省も「高度の政策的判断や専門的・技術的判断を要するなどの特殊性が認められる。責任を持って適切に判断できるのは所管の行政機関の長だ」と文書で主張した。

 開示・不開示が裁判で争われたとき、裁判官が該当する文書を直接見て判断できる「インカメラ審理」についても、省庁からは機密情報を裁判所に持ち込むことに対して懸念の声が相次いだ。警察庁の課長は「アクセスできる人間(裁判所職員)の適格性の問題、保管・運搬のシステムをきちんと作っていただかないと安心して持ち込めない」と訴えた。さらに裁判官の守秘義務にも「現在では罰則がついていない。退職後の守秘義務の規定がない。制度をきちんと設計していただく必要がある」と注文を付けた。

 外務省も「裁判官・裁判所関係者の厳格な守秘義務の確保が必要」と文書で主張した。

 民主党の菅直人政権は翌11年、裁判官の「インカメラ審理」を導入することや、国の安全や外交の関係省庁の裁量にも一定の歯止めをかけることを内容とする情報公開法改正案を提出した。しかし審議にこぎつけることはできず、翌年の政権交代で廃案になった。

 その後の安倍晋三政権では法改正論議は下火になっている。【青島顕】

最終更新:10月10日(月)10時28分

毎日新聞

豊洲へなぜ市場移転 経緯と課題

築地から市場が移転される豊洲で、都が土壌汚染対策をしていなかったことが発覚。そもそもなぜ豊洲に移転するのか、経緯と課題を知る。
本文はここまでです このページの先頭へ

お得情報

その他のキャンペーン