(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年10月7日付)
米ミズーリ州セントルイスで米大統領選の第2回テレビ討論会に臨む民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官と、共和党候補のドナルド・トランプ氏(2016年10月9日撮影)。(c)AFP/Robyn Beck〔AFPBB News〕
今年の米国の選挙では特異な現象が数多く生じている。そこへ、また1つ新しいものが加わった。サイバーセキュリティー会社のカーボン・ブラックが、ハッカーが電子投票機に侵入することは「ありそうだ」と考える有権者が全体の58%にのぼるという世論調査の結果を発表したのだ。
実際、人々の懸念は非常に強く、1500万人の有権者がそれを理由に投票を拒む可能性もあると同社は話しており、「米国に最大のリスクを呈するのは、米国内の危険人物(28%)、ロシア(17%)、選挙の候補者本人(15%)だと有権者は考えている」と指摘する。
こんな話はこの会社のマーケティング活動だとか、世間の政治熱が高まっているだけだと受け流してしまいたくなるかもしれない。だが、この「58%」という数字を割り引いて考えるのは大きな間違いだろう。その理由の1つに、口にこそ出さないが同じ懸念を抱いている米国政府当局者が少なくないことが挙げられる。
無理もない。すでにアリゾナ州とイリノイ州では、選挙人名簿データベースのセキュリティーが小規模ながら破られる事件が起きている。
また、いくつかの州の選挙システム、特に票の集計に「直接記録電子投票機」を使用するペンシルベニア州などのシステムは、サイバー攻撃に弱いと考えられている。「今度の選挙で重要な戦場になるとの見方が多いペンシルベニアは、こと電子投票機について言うなら最大の懸念材料かもしれない」とカーボン・ブラックは示唆している。
たとえ杞憂に終わるとしても、選挙をめぐる懸念はもっと大きな問題の存在を教えてくれる。サイバー戦争で新たな戦線が開かれつつある、という問題だ。政治の専門家と企業経営者の両方にとって、これは大きな意味を持つ。