最近の企業では厳しい勤務環境となると、すぐに「ブラック」の誹りを受けがちだ。その風潮に真っ向から抗うように、古くからの「徒弟制度」を続けている企業がある。一流の職人を育てるその企業にライター・池田道大氏が迫った。
* * *
取材中、社長に促された「丁稚」が「職人心得」を暗唱した。
〈1、挨拶のできた人から現場に行かせてもらえます〉
〈2、連絡・報告・相談のできる人から現場に行かせてもらえます〉
神奈川県横浜市にある注文家具メーカーの秋山木工。独自の「徒弟制度」で一流の職人を育てる同社の社訓「職人心得30箇条」は、注釈を合わせると読了まで5分ほどかかる。キラキラと目を輝かせた丁稚は、そのすべてを空で覚えていた。
厳しい指導で知られる秋山木工の秋山利輝社長は、「最近は海外からの注目度が高い」と自信を見せる。
「社員1万人という中国企業の社長が、『カネは儲かるが従業員の育て方がわからない』と見学に来ます。ウチは日本一厳しい会社と言われるけど、僕は日本一優しいと思っている。自分は年に一日も休まず、弟子に付き添っていますよ。“ブラック企業”などと言いたい人は言えばいいけど、弟子をスターにしたい思いは、僕に勝てるはずがない」
秋山木工では、1年間の「丁稚見習いコース」を終えると丁稚として正式採用される。入社した丁稚を待つのは過酷な修業の日々だ。
全寮制で、朝5時に起床して朝食を作り、近所を1.5km走る。好き嫌い厳禁の朝食後は工場や近所を掃除し、8時の朝礼で冒頭の「職人心得30箇条」を全員で唱和して仕事が始まる。
丁稚の主な業務は荷物運びや工場の掃除だ。職人の手助けをしながら、仕事の段取りや技術を目で学ぶ。仕事が終わると夕食を作り、夕食後はレポート作成や自主練習に励み、23時にようやく就寝。休日はなく、修業から解放されるのは盆と正月の10日間のみだ。秋山社長は、「心が一流になれば、必ず技術も一流になる」と断言する。
読み込み中…