「空港を出た私たちは、その後、ジェシカたちの家族がいるバランガイ(フィリピン、カマリネス州 ティナンバッグ町)に行き、そこで彼女の父親と母親を含めて今後のことを話し合いました。
両親は2人とも、ロイが奇跡的に戻ってきたことを、声あげて、泣きながら喜びあっていました。
ただ、ジェシカとロイを借金のカタから取り戻すことは出来たのものの、依然としてその両親たちの生活は苦しく、驚くことに、彼らの住むそのバランガイ地区の一人当たりの平均月収とは、月額2千円にも満たないという事実を知りました。
度々襲ってくるハリケーンの大きな爪痕に疲労困憊した住民たちは、いくら頑張っても増えないその低所得に、他の場所に移りたくとも移ることも出来ず、それぞれが家族を養う為には、夫婦のどちらかが出稼ぎに出るか、子供達が出稼ぎに出ては仕送りをするしか方法がないとのことでした。
正直なところ、私は、そのバランガイを離れることを両親に提案しました。
しかし、両親たちは私が何と言おうと、首を縦に振ることはありませんでした。
ジェシカとロイを救出し、その農業で作った借金の肩代わりをした私に対して両親は、それ以上のことは望んではいけないと、ジェシカとロイにもキツくそう言っていたようでした。
私はジェシカに、金銭的なことは何も心配する必要ないと言いました。 両親が、あくまでもバランガイを離れたくないと言うなら、その以前にやっていた規模の農業を再開する為に必要な設備費用や、水牛の購入費用は、全て私が用意することも伝えました。
が、ジェシカとロイに、合わせて日本円換算で6千万以上のお金を使わせてしまったことを深く受け止めている両親は、彼らにとってはその天文学的数字とも思える金額に、更に、私にお金を出して貰うことを最後まで抵抗していましたね…。
そして、ちょうどそんな時のことでした。
その少し前にジェシカと一緒に滞在していたバリで購入していた不動産の売買のことで、私は急遽、バリに行かなくてはならなくなり、今後をどうするかと言う最中に、私はバランガイを数日間離れなくてはならなくなりました。
私はその時だけは、家族みんなで今後をどうするかを真剣に考えなさいと、ジェシカを連れては行きませんでした。
その後、バリでの用事を済ませ、私がバランガイに戻ったのは1週間後でした。
村に戻るとジェシカが、ロイが私に話があると言っていると言ってきました。
ロイは真剣な眼差しで、私にこう言いました。
『私に、マニラの不動産屋で働くチャンスを与えてください。 そして、私に、そんな会社に入れるような窓口を紹介してください。
今までの私たち家族にしてくださったことを、私は必ずあなたに、いつの日か数倍にしてお返しします。 だから私に、そのスタートラインに立つ為の、そのチャンスを与えてください』と…。
普通だったらですね、貧しい農村部で育ってきて、それまでに都市部の会社などに勤めたこともないような人にはですね、なかなかそういう夢を見ることは出来ないと思うんですよ…。
実際に、彼らの所得レベルってのは、そのバランガイにいるのであれば、年収にして数万円の世界ですよ?
その彼らの頭の中では、私が支払った6千万以上のお金っていうのは、ある意味、想像すら出来ない金額だと思うんですよね。
そして、それを数倍にして返してみせるなんてことは、普通はその発想すら浮かばないのにと、私はそのロイの口から出たその言葉には心から感心しましたね。
私はその後、私を最初にフィリピンに呼んでくれたカルロに連絡をしては、その経緯の説明をして、なんとかマニラでのそういう不動産会社の働き口はないかというのを探して貰ったんですね。
まぁ、ほとんど学歴も何もない、貧しい農村部出身の青年ですからね…。 就職先はなかなか決まらず難航したんですが、ある時、ある不動産会社から、賃貸のコンドミニアム(日本でいうマンション)の退去後の掃除の仕事なら雇ってもいいという話が来て、彼はそこで、清掃員として雇ってもらうことになったんですね。
その後、そこへ就職した彼は、全てを犠牲にするほどにその仕事に情熱を傾けては、もう、家にも帰らない程に、働きに働きまくっていったんですね。
後で聞いた話しですけど、その時の彼は、1日20時間近くを働いて、それを9ヶ月間、一度も休まずに続けたと言ってました。
そうするとですね、やはり、見ている人は見ているもので、彼はある時、その不動産会社の社長に呼び出されたんですね。
社長は、彼にこう尋ねたらしいんですよ。
『君という人間は私の理解を超えている。 君は何故そんなにも頑張ることが出来るんだ? 君の勤務状況の履歴を全て見させてもらったが、この9ヶ月間、1日も休まず、ほぼ20時間近く働いて、何故、君はそこまでやれるんだ? その原動力は何から来ているんだ?』と。
彼は社長にこう言ったそうです。
『私は過去に一度、奴隷として売られた人間なんです。 そして、私はそこで、この世の地獄を見てきました。
そして、私はそんな地獄から、ある時、ある日本人の方の善意によって助けだされました。
本当に今の私があるのはその方のおかげなんです。
私はいつかその方に、この命を救ってくださったことと、そして私の妹と、その家族を助けてくださったことの恩返しをしたいと、そう心に誓いました。
私はいつの日か、この命に代えても、必ずその目的をやり遂げてみせます。
ですから、今の仕事は不動産業の売買などの仕事ではないですけども、今は与えて頂いたこの仕事をとにかく全力でやるだけだと、私の全ては、ただそれだけの為にあります』と。
その社長は、ロイからその後、その一部始終の話を聞いては、私に連絡をしてきたんですね。
社長は私に深々と頭を下げてこう言いました。
『私の母国、このフィリピンの若者の尊い命と、その彼の人生を、よくぞ救ってくださいました。
彼から全ての話を聞きました。 何の見返りもなく、日本人のあなたが、フィリピン人の1人の青年と、少女と、その家族の為にそこまでのことが出来るなんて、私は心からの感銘を受けました。
今後は彼、ロイは、私が責任を持って一人前に育て上げます。
そして、あなたにも、あなたがそれを望もうが望むまいが、私が全力で、彼に代わっての恩返しをさせて頂きます』
その社長はですね、そう言いながら、涙を流していたんですね…。
ロイはその後、その掃除の仕事を外されては、本社に呼ばれ、その社長の直の指導の元、あっという間に社長の側近となっていきました。
まぁ、何処の世界でもそうなんですけどね、正直に言うと、政界に繋がりを持っていると、そういう繋がりで情報が流れてきては、次はどういう政策が出てどうなっていく、あそこの地域に何が出来る、ここにはこういう計画があるなんてことが先に分かる訳ですよ。
そうするとですね、何かの建物が出来るにしても、どんな施設が作られるにしても、そこには不動産屋や建築屋ってのは必ず食い込んできては、儲かる話が拾えていくんですね。
特に外国ってのは、日本より顕著にワイロが横行しているので、情報がある特定の人や業者に片寄って流れるのは当たり前なんです。
その不動産会社の社長も、親族に政界関係者が沢山いて、そういう方面にとても強い力を持っている人でしたね。
私にはある時を境に、ロイ経由で、ここを買ったほうがいい、あそこを今、押さておきましょう、などという話が頻繁に来始めたんですね。
基本、私たち外国人は、フィリピンでは土地を取得することは出来ないので、普通であればそういう土地売買で儲けていくには法人を設立しないと難しいんですけど、なにせ名義は全部、ロイ、もしくは向こうの社長、またはその会社名義ですからね、
私はただ説明を受けた所に、必要なだけの資金を投入すれば、後は全てをロイたちがその後の取引や手続きをやってくれるんですよ。
彼らは私に、マニラやマカティ、カビテなんかの土地売買では、毎年数億単位での利益を出させてくれましたし、
極め付けは、マニラ市のコンドミニアムの話においては、もう、こんなに儲けていいのかと言うほどに資産を増やしてくれましたね…。
もう日本は、そう意味での元気が無くなってしまいましたけど、フィリピンっていうところは現在でもそうですけど、人口増加に伴い、国自体の成長も著しく、特に都市部の成長のスピードや、発展の仕方は凄まじいものがあるんですよ。
コンドミニアムなんて、建設されて売り出せば即完売し、また、貸し出せば利回りは経費削除後で15%以上で運用出来るなんてのは、当たり前の話しだったんですよね…。
そういうコンドミニアムには、通常その1棟当たりに、外国人名義で所有出来る購買枠っていうものがあるんですけど、私にはそういうのは、彼らの名義で購入するので全く関係がなくて、彼らは完成前に既に大半を抑えている訳ですからね、
私の当時持っていた資産は9億程だったんですが、そこからそのジェシカやロイたちに使った6千万ちょいを差し引いたり、バリに買ったヴィラなどを差し引くと、8億を切るぐらいになっていたものが、僅か7年で65億にまでになっていったんですよ…。
黙っていても、どんどんとお金が湧いてくるように増えていく、
まさにそんな状況がずっと続いていきましたね。
正直なところ、私の力や実力なんてのは全く関係のない、そんなところとは全く違うところから、私の資産は爆発的に増えていったんですよね。
その後、ロイはですね、今ではその不動産会社の副社長になっているんですね。
僅か15年前。 貧しい農村部の農夫で、父親の借金のかたに奴隷として人身売買をされ、中東の地でこの世の地獄を見た男が、私に、恩返しをしたいと、ただそれだけを願って、ひたすらに頑張ってきたその成果は、今や売上高800億を超える不動産会社の副社長ですからね…。
まさに地獄を見た男の信念でしょうね。
正直、恩返しどごろの話しじゃないですよね?
この莫大な資産を作ってくれた彼には今度は私のほうが頭が上がらない状態になった気がしましたね…。
でも、彼は、まだこれでも僕の想いの全てが果たせた訳ではないって、そんなことを言うんですよ。
私は、もういいよって、もう十分すぎる程のことをして貰ったから、今からは自分のことを一番に考えなさいって言うんですけどね、
彼はですね、私がそんなことを言うと、決まってこう言うんですよ。
『もっともっと多くの富を手にしてください。 そして、もしよければ、以前に僕たちを救ってくれたみたいに、この国の恵まれない人々に、僅かでも手を差し伸べてくだされば、それ以上に僕が望むことはありません』って…。
僅か15年の月日がですね、彼を偉大な1人の男に成長させていったんですね…。
ね? 凄い男でしょ?
ロイはですね、今や私の唯一無二の親友の1人なんですよ!」
マイ・リアルロールプレイング 70(回想 地獄を見た男の信念)終わり。
次回 71 に続く。
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