批判や反発、抵抗を覚悟のうえで、日本弁護士連合会が大きな一歩を踏みだした。

 福井市で開いた人権擁護大会で「2020年までに死刑制度の廃止をめざすべきだ」とする宣言を賛成多数で採択した。

 究極の刑罰に対し、日弁連はこれまで一貫して慎重な姿勢をとってきた。5年前の同じ大会では、「死刑のない社会が望ましい」としたうえで、廃止について広く議論を始めることを呼びかけている。

 そして今回、はじめて制度の廃止を正面に掲げた。20年には刑事司法の専門家が集う国連の会議が日本で開かれる。それを見すえ、具体的な目標時期まで打ちだしたのが特徴だ。

 会内で積みあげてきた協議と成果を社会で共有し、この道筋を確かなものにしたい。

 死刑は執行したら取り返しがつかない刑罰だ。だが人が裁く以上、間違いは必ず起きる。

 2年前、死刑囚の袴田巌さんの裁判をやり直すとの決定が出たのは記憶に新しい。それ以前にも4人の死刑囚の再審無罪が確定している。一方で、国内外の研究によっても、死刑に犯罪を抑止する効果があるとの仮説は立証されていない。

 国際社会では死刑廃止の潮流が定着し、140カ国が制度上あるいは事実上取りやめた。OECD(経済協力開発機構)加盟35カ国で続けているのは日本と米国の一部の州だけだ。国連の委員会からはくり返し是正勧告を受け、日本に注がれる視線は厳しさを増している。

 この問題を考えるとき、何より心を致さねばならないのは、最愛の人を亡くした遺族の存在だ。今回の動きに対し、犯罪被害者の支援にとり組む弁護士らが抗議の声をあげている。宣言は個々の弁護士の思想や行動をしばるものではない。存続を訴える活動は当然あっていい。

 そのうえで望みたいのは、宣言をただ批判するのではなく、被害者に寄り添い歩んできた経験をふまえ、いまの支援策に何が欠けているのか、死刑廃止をめざすのであれば、どんな手当てが必要なのかを提起し、議論を深める力になることだ。

 宣言には、刑務所での労働を強いる懲役刑や執行猶予制度の改革も盛りこまれている。かつて政府内でも検討された案で、受刑者らに最も適した処遇をするために、刑の選択の幅を広げようという提言である。

 刑罰のあり方も状況に応じて見直されてしかるべきだ。いまの姿に縛られ思考をとめてしまっては、時代の変化からも、世界の流れからも取り残される。