元夫から、メールが来なくなっている。最後に会ったのは2週間前。
遊びに来れば必ずセックスをしているが、毎回外出しだった。ゴムは付けたことはない。外出しは、最後に体が離れてしまうのでなんだか寂しいと思った。なのに、また外出ししようとしていたので、尻たぶを両手で掴んで離さずにいたら、間に合わなかったみたいでそのまま一番奥のほうで中出しした。何か、かなり気まずい空気が流れたが、何事もなかったようにその場をやり過ごした。
そして朝が来たので、目玉焼きと味噌汁を作って、二人で食べて、じゃあまたねと別れたきり、メールが来なくなった。
このまま、こちらもメールしなければ、どうなるのか知りたくなった。今頃、恐怖を感じているのか……
付き合い始めて間もない頃に、楽しく過ごしていたはずなのに、いきなり隣で泣き始めるから、何なのかと思ったら、あのとき子供を堕ろさせた彼女に酷いことをしたと、自分を責め続けていたので、私はすぐ隣でそんな話を無理やり聞かされて、かなり気分が悪くなった。本人はどこかに懺悔したくてたまらなかった、そこにちょうど新しい彼女がいた、だから打ち明けたのかもしれないが、迷惑だった。
学生時代から付き合ってる彼女に、中出しして孕ませたけれど、堕ろさせたという情報しか入ってこないけど、誰がそんな残酷なことを命令したんだろう……当時、元夫は会社員ではなく、非正規雇用だったのだろうか、金がないから、そうさせたのだろうか。
何だか信用のおけないことをしていると思ったので、このことは結婚して間もなく、一応、母に相談してみたけど、あまり良い表情はしていなかった。だけど、いつまでも過去ではなく、今の○○さんを見てあげてと言ってきたので、そうだなと思った。無論、こんな話を潔癖な父にすれば、激怒するだろうから、黙っていることにした。
そんなある日、おもむろにアルバムを出してくるので何なのかと思ったら、その、子供を堕ろさせた彼女とキスをしたりコスプレをさせて抱き合う写真を私に見せてきたので、嗚呼、まだ消えていない、と思った。
それから何年経っても、子供は出来なくて、馬鹿げてると思うかもしれないけれど、もしかして、子供を堕ろさせた彼女の呪いが私に来てるんじゃないかって思うこともあった。
昼間、カーテンを閉めた真っ暗なリビングを、黒い影が這うように移動するのを見た。この家には何かが憑いていると思った。
鍵をかけた扉がとても不可解だった。結婚して5年余り、一度も開けるのを見たことがない。そのあと別居生活に入ったが、別れる前に喧嘩したときに、つい疑惑が口をついて出てしまった。
あの扉の中には、子供を堕ろさせた彼女との、子供が入っているんじゃないかという言葉を投げつけた。その瞬間、元夫の顔からサーッと血の気がひいて、ものすごく抑揚のない声で、もう、お前とは話は通じないと言われたような気がする。
子供を堕ろさせても平気だと思うような、反省もしない男なら、懲りずに別の女を孕ませるかもしれない。だけど、元夫は、出会ったときから、その罪の重さに全身がんじがらめにされて、ほとんど身動き出来ないような状態だった。
結婚すると、まるで共犯者のようだ。こちらまでその人の過去を背負わされているような違和感が、現実の不幸を呼び寄せる。
生きてる人間の恨みや怒りは、対象に向かって飛んでいる。
私は、彼女の黒い影と、子供を身ごもらせることにトラウマを持つ元夫の感情の間で翻弄されるままに、女としての年月を無為に過ごしてしまったのかもしれない。頭の片隅に焼き付いた彼女の顔が微笑んでいる気がした。